2024年に第1回が実施され、好評を博した「かながわパフォーミングアーツアワード」が、今年も開催される。前身となる「かながわ短編演劇アワード」に比べ、より身体性の高い舞台芸術作品を対象に行われる本アワードでは、演劇やダンスといった“ジャンル”にとらわれない新たな表現が求められる。ステージナタリーでは、出場団体を選出した一次審査委員である、趣向のオノマリコ、同アワードのプロデューサーである楫屋一之、シアターワークショップの立石和浩、世田谷美術館の塚田美紀、そしてファイナル審査の会場となるKAAT神奈川芸術劇場のプロデューサー・林美佐にインタビューを実施。バックグラウンドが異なる5名に、3月15・16日にKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで行われるファイナル審査に向けた注目ポイントを聞いた。
取材・文 / 熊井玲撮影 / 藤記美帆
多様なキャリア、視点を持つ審査員たち
──「かながわパフォーミングアーツアワード」は、前身の「かながわ短編演劇アワード」から昨年大きくリニューアルし、演劇に限らず、身体性を伴う舞台作品を広く対象とするようになりました。まずは、本アワードのプロデューサーで神奈川県文化スポーツ観光局舞台芸術プロデューサーの楫屋さんに、リニューアルの手応えを伺いたいです。
楫屋一之 私の中では、“パフォーミングアーツアワード”という形にしたこと自体にはなんら違和感がないというか、これまで考えていたことを具体化しただけという気持ちです。1980年代に僕たちがやっていたことは、「演劇でもダンスでもない、なんだかわからないもの」と評価されました。ただ、そういう評価に対して特に何かを思っていたわけでもなく、自分がやりたいことをやっているだけ、という感覚でいたんです。その後、劇場運営に携わるようになってからは、その時代の一番新しい身体表現が観たいという思いを常に持ってきました。世田谷パブリックシアターにいた17年間は主にコンテンポラリーダンスの制作をしていたのですが、それは、そのときコンテンポラリーダンスが一番面白いと思ったからです。その後、神奈川県で仕事をすることになり、「短編演劇アワード」の枠で今一番面白いと思われるものをやってみようと思って、演劇でもダンスでもない、“パフォーミングアーツ”のアワードを始めることになったんです。昨年の実感としては、ダンスや演劇などどちらにも属さないことをやっている人たちが応募しやすいアワードになったのではないかなと思います。
──「かながわパフォーミングアーツアワード」では、公募で集められた応募作品から、一次審査である程度の件数に絞り込まれ、ファイナルでグランプリが決定されます。本日はその一次審査委員の皆さんにお集まりいただきました。まずは自己紹介からお願いします。
立石和浩 私は、最初はPARCO劇場やSPACE PART3で制作を担当していました。その後マガジンハウスでの雑誌編集を経て、東京芸術劇場で再び舞台制作に復帰し、現在はシアターワークショップという、劇場・文化施設のコンサルタント会社に勤務しています。舞台制作者時代から編集者時代を通して常にさまざまな文化状況に関わって来たわけですが、自分自身、シアターゴアーとも言えます。また以前に楫屋さんからのお声がけで「トヨタ コレオグラフィーアワード」の審査委員をさせていただき、それを契機に「横浜ダンスコレクション」の審査にも参加しました。そのようなこれまでの自分の知見を「かながわパフォーミングアーツアワード」の審査に生かすことができればと思っています。
塚田美紀 私は劇場関係者ではなく、世田谷美術館の学芸員です。世田谷美術館は来年40周年なんですけれども、内井昭蔵という建築家が、美術だけでなくいろいろなアートに開かれている場として機能するように建ててくれた、ちょっと変わった美術館なんです。例えば展示室の中はもちろん、美術館のエントランスホールでも演劇やダンスができるようになっていますし、緑のある庭も含めて、展示でもパフォーマンスでもなんでもできるような空間になっています。なので、開館当初から美術家も演劇人もダンサーも音楽家も出入りするような環境で、例えば如月小春さんの「NIPPON CHA! CHA! CHA!」の初演(1988年)はうちの美術館の野外スペースで行われました。
私自身が美術館に入ったのは2000年で、景気も良くないし、“美術館冬の時代”なんて言葉も飛び交う時期だったので大掛かりなことはできなかったのですが、それでもちょっとしたパフォーマンスをやっていました。その1つがトランス / エントランス(編集注:2005年にスタートし、世田谷美術館のエントランスホールで行われた実験的なパフォーマンスシリーズ。笠井瑞丈、島地保武、神村恵、岩渕貞太、鈴木ユキオなど多彩なパフォーマーが出演した)という、ダジャレのようなシリーズです(笑)。
一同 あははは!
塚田 コロナ禍を機にこのシリーズは終わってしまったのですが、楫屋さんとは世田谷パブリックシアターにいらっしゃる頃からつながりがあったので昨年、一次審査委員にと声をかけてくださったのではないかと思っています。
林美佐 KAAT神奈川芸術劇場の林美佐です。私はKAATが建つ前の準備室のころからKAATに携わっていて、今は企画調整課ですが、技術以外のさまざまな部署で働いてきました。KAAT以前は蜷川幸雄さんの海外公演の制作をずっとやってきて、そういう意味ではコテコテの演劇の世界にいたのですが、KAATではダンスを担当することも多く、最近はダンスに馴染みがあります。またKAATは県の劇場ですので、「かながわパフォーミングアーツアワード」は(神奈川県が主催し、KAAT神奈川芸術劇場が共催する)「かながわ短編演劇アワード」の頃からずっとKAATが会場になっていました。この数年は私が「かながわ短編演劇アワード」の劇場担当をさせていただいており、アワードも毎年観ていたのですが、一昨年ぐらいから“演劇祭”という割には、身体的な表現がすごく出てきたなと思っていて。そうしたら昨年、楫屋さんから「パフォーミングアーツアワードに変わる」というお話を聞き、まさにその通りだなと。同時に昨年、一次審査委員としてお声がけいただき、昨年は本当に多種多様な作品、団体が応募してくださったので、「うちの劇場の舞台でできるのかしら……」と物理的な心配をしながら(笑)、一生懸命審査に臨ませていただきました。
──楫屋さん、立石さん、塚田さん、林さんはプロデューサーという立場から舞台に携わられることが多いと思いますが、オノマさんは趣向を主宰されている劇作家で、立場が少し異なります。楫屋さんが、オノマさんに一次審査委員として期待されているところはどんなところですか?
楫屋 オノマさんは神奈川の人として県を盛り上げている方で、ジェンダーの視点でずっと戯曲を描かれています。一次審査委員にどなたか作家にも入っていただきたいと思ったとき、オノマさんにぜひ作家の視点から審査していただきたいと思って、それで一次審査委員をお願いしました。
オノマリコ ありがとうございます(笑)。私は普段、現代性を大事にしようと思って創作にあたっています。今、日本では時代が動いていると感じていて、この10年ぐらいの自分の戯曲を振り返っても、「今だったらこの表現は絶対に使わないな」と感じるものがたくさんあります。そういった部分はどんどんアップデートしつつ、時代の流れに抗うのではなく、今の時代のいいなと思うところを率先して取り入れながら作品を作っていきたいと思っています。
アワード2年目に感じた、応募作の変化
──2024年はリニューアル初年で、応募者も審査委員の皆さんも模索している部分が多かったと思います。2年目である今年は、もう少し全体の方向性が定まってきたのではないかと思いますが、今年の応募作にはどんな傾向を感じましたか?
楫屋 いつの時代も一番求められているのはその時代でしかできない表現で、審査委員側にはそういう思いがあるし、応募者にもその思いが浸透してきているんじゃないかな、と思いました。
塚田 昨年は本当にいろいろな方からの応募がありましたが、「かながわパフォーミングアーツアワード」で目指していることとはちょっと違うな、と思うものが多い印象でした。でも今年は、“よくわからないこと、名付けようがないことに対してがんばっている人”が明らかに増えた、という感じがします。また最近は、特に美術の領域ではミュージシャンやほかのダンサーなど他者とのコラボレーションに慣れている人もけっこう多いのですが、どんなジャンルであれ、コラボしただけではない必然性と言いますか、コラボにも切実さがなければいけないと思っていて。そういった切実さは、応募資料である5分以内の映像にも応募書類にも透けて見えるものだし、今年はそれを感じる作品が多かったと思います。
オノマ 塚田さんもおっしゃられたように、応募する側の方々にこのアワードの主旨が少し伝わったのかなと感じました。また、昨年はコロナの影響もあってかソロ作品が多かったのですが、今年は集団の作品が増えたと思います。
林 応募数という点では、昨年と今年、同数の57作品だったんですよね。しかもオノマさんがおっしゃったように、今年はソロより団体の作品が多かった。その点でも“文化芸術の魅力で人を引きつけ、地域のにぎわいをつくり出す”というアワードの主旨が応募者の方々にも伝わっているんじゃないかなと感じました。
──応募作品の焦点が定まってきたという点で、選考には苦労されたのでしょうか?
楫屋 いや、そんなに時間がかかった感じではなかったですね。
林 最初にあまり規制をかけず、皆さんが選んできたものを中心にワッと話し合ったのですが、皆さんがある程度バランス感覚を持っていらっしゃる方たちだからなのか、なんとなく演劇系とダンス系が半々になりました。
楫屋 ただ、規制は特にないんだけど、選考の基準みたいなものはやんわりと3つあって、第1は身体性、第2は実験性、第3は適時性。この3つをベースに審査していきました。ちなみにファイナリストは6団体ですが、「22世紀飛翔枠」として高校生2団体が2日間に分かれて出演します(編集注:神奈川県内の高校生を対象とした枠組みで、選出された2団体には「かながわパフォーミングアーツアワード」のファイナルでの上演権が与えられる)。今年は日々輝学園高等学校(横浜校演劇部)と心躍るさん(神奈川県立大和高等学校創作舞踊部)が選出されたんですが、日々輝学園高等学校(横浜校演劇部)は通信制の学校でそれぞれのキャラが非常に立っているチーム、心躍るさんは演劇的なものに挑戦しているダンス部と、こちらもタイプが分かれました。
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一次審査委員たちは、何を観ているか