成井豊×溝口琢矢×清水由紀が語る「仮面山荘殺人事件」 / キャストが明かす“座組イチのミステリアスな人” (2/3)

カンパニー随一のミステリアスな人物は?

──本作は、山荘に集められた面々が徐々に素顔を明かしていくところがスリリングです。作品に絡めてお尋ねしますが、本作のスタッフ・キャストの中で、ミステリアスに感じているのはどなたですか?

溝口 今回のカンパニーで1人だけ共演したことがある人がいて、それが稲田ひかるさんです。「かがみの孤城」で共演したとき、稲田さんはめちゃくちゃ悩んでいて、悩みすぎて崩壊しかけるところまで行ったんですが(笑)、僕はそういう人が大好きなので、以来気になっています。

清水 ミステリアスとは違うかもしれませんが、私は成井さんを知りたいです。なぜ私を呼んでくださったんだろうとか、知りたいことがたくさんあるし、きっと正直な方なんだろうなと思うので……。

溝口琢矢

溝口琢矢

清水由紀

清水由紀

成井 素直ですよ!(笑) 僕は原口さんかな。原口さんとはだいぶ前に「光の帝国」(2017年)でご一緒して今回が2回目なんですけど、桟敷童子の作風があまりに僕の芝居と違うので、実は大丈夫かなと思っていたんです。でも演技力が抜群な方だから全然泥臭くない、知的なお医者さんの役をスカッとやってくれたんですね。今回演じていただくのも大金持ちの家のお父さん役。いつも桟敷童子で見慣れている原口さんとは違う、もしかすると本来の原口さんに近い姿が見られるんじゃないかと思っています。ただ、原口さんは寡黙な人で、僕もあまり普段は俳優さんとしゃべらないので実は前回全然仲良くはならなくて(笑)。それもあってミステリアスだなって。

溝口 確かに成井さん、しゃべらないですよね。

成井 ほとんど役者と私語を交わさないんです。

成井豊

成井豊

溝口 僕はめっちゃしゃべるほうなんですよ!(笑) だから「かがみの孤城」のときも、僕から成井さんにいろいろ話しかけていて。

清水 あえてしゃべりかけないんですか?

成井 避けているつもりはないんだけど、人と接触するのが面倒くさいんですよね。あ、でも駅のホームで会ったらやっぱり避けちゃうかな……。

一同 あははは!

“ちょっとしたこと”から明らかになる、人間の隠された顔や思い

──東野作品では、ふとしたことから事件が起こり、それによって運命が左右される人たちがたびたび描かれます。本作もそんな作品群の1つかと思いますが、2023年版を立ち上げる皆さんは、観客の方々に作品からどんなことを感じてほしいですか。

溝口 今お話しした通り、僕は基本的にしゃべるのが好きなんですけど、中学時代はあまり人とコミュニケーションを取らなかったんです。子供のころからこの仕事をさせていただいたこともあり、中学でちょっと浮いた存在になってしまって。ちょうどネットが普及し始めた頃で、ネットいじめなども話題になっていたタイミングでした。そのとき、人間ってめちゃくちゃ怖いなって思ったんです。ただその後、“信用してもらいたいなら自分が相手のことを信用しないといけない”という言葉に出会って、高校に行ったら誰とでもしゃべるようになったんですけど、そんな人間の怖さは、この作品にも如実に描かれていると思いました。作品を見てスカッとする部分もあるかもしれませんが、僕は人間の怖さをしっかり伝えたいと思います。

清水 私は反対に、人間の怖さも感じますが、だからこそ人って面白いなとも思っていて。例えば「なんで私、こんなひどいことをされるんだろう」と思うこともあるけど、一歩引いてみれば「ああ、あの人はこういうことがしたくて、それが強く出ちゃっただけなんじゃないかな。そう思うと面白いな」と感じるんです。年齢と経験を重ねて特にそう感じるようになってきたのかもしれませんが、この作品をご覧になった方が、そういった人間の面白さも最後に感じてくださったら。

成井 東野さんの作品は「仮面山荘殺人事件」に限らず、“ほんのちょっとしたこと”を描いているんじゃないかと思います。「容疑者Xの献身」でも殺人が起きてしまったのはたまたまだし、始まりって本当に些細なこと。東野さんの作品で、悪魔のような男が完全犯罪を起こそうとするというような作品はほとんどなく、普通の人間がたまたまやってしまったことをどう隠すか、ということが描かれていると思います。「仮面山荘殺人事件」はその際たるものじゃないでしょうか。そしてそんな東野作品の根本にあるのは愛情。東野圭吾さんはさまざまな愛の協奏曲を描く作家だと思いますし、だからこそ、こんなにも多くの人に支持されているのだと思います。

左から清水由紀、成井豊、溝口琢矢。

左から清水由紀、成井豊、溝口琢矢。

プロフィール

成井豊(ナルイユタカ)

1961年、埼玉県生まれ。劇作家・演出家、日本演出者協会理事、成井硝子店顧問。早稲田大学第一文学部卒業後、高校教師を経て、1985年に演劇集団キャラメルボックスを創立した。劇団では、脚本・演出を担当。オリジナル作品のほか、北村薫、東野圭吾、伊坂幸太郎、辻村深月といった作家の小説の舞台化を手がけている。

溝口琢矢(ミゾグチタクヤ)

1995年、東京都生まれ。2007年に12歳でデビューし、「劇場版 仮面ライダー電王 俺、誕生!」でライダーのミニ電王および小太郎を演じ話題を呼ぶ。以降、映画、テレビドラマ、舞台で幅広く活動。近年の主な舞台出演作に「ワールドトリガー the Stage」「オルレアンの少女-ジャンヌ・ダルク-」「あいつが上手で下手が僕で」など。

清水由紀(シミズユキ)

1986年、愛知県生まれ。2002年の第8回全日本国民的美少女コンテストをきっかけに芸能界活動をスタート。テレビドラマ「渡る世間は鬼ばかり」で小島(大井)貴子役を演じ注目を集める。近年の舞台に「りぼん,うまれかわる」など。