成井豊×溝口琢矢×清水由紀が語る「仮面山荘殺人事件」 / キャストが明かす“座組イチのミステリアスな人”

成井豊が脚本・演出を手がける舞台「仮面山荘殺人事件」が、4年ぶりに上演される。「仮面山荘殺人事件」はベストセラー作家・東野圭吾の初期の人気作で、婚約者を事故で失った樫間高之を軸に、山荘で巻き起こるミステリー。「容疑者Xの献身」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」とこれまでも東野作品の舞台化を手掛けてきた成井が、今回はNAPPOS PRODUCEにより、新たな顔ぶれで作品を立ち上げる。主人公・樫間高之を溝口琢矢、彼の婚約者・森崎朋美を清水由紀が演じる。稽古スタートを目前に控えた8月中旬、成井と溝口、清水に人気作再演に挑む思いを聞いた。さらに特集後半では、本作のキャストに自身が演じる役の印象と、“座組イチ”のミステリアスな人物を教えてもらった。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 藤田亜弓

成井豊×溝口琢矢×清水由紀 座談会

これはミステリーであると同時に、演技論の話

──「仮面山荘殺人事件」は1990年に発表された東野圭吾の長編ミステリーです。NAPPOS PRODUCEとして2019年に初演され、その後、成井さんの脚本、韓国の演出家、キャストで韓国でも上演されました。成井さんにとっては「容疑者Xの献身」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」に続く、3作目の東野作品舞台化となった作品ですが、どのような点に惹かれたのでしょうか?

成井豊 実はタイトルが怖いから、読むのをずっと避けていたんですよ(笑)。

溝口琢矢清水由紀 ええっ!?(笑)

成井 東野さんの作品は70冊以上読んでいるんだけど初期の何作かを読んでいなくて、しらみつぶしに読み始めたものの、ホラーが苦手なので、不気味なタイトルだなあと思って(笑)。でも読んでみたらあまりに面白くてびっくりして、プロデューサーの仲村和生に「これ、舞台化したい!」とすぐ連絡しました。

──成井さんは以前、「このシーンが作りたい」と思うと、舞台化のイメージが湧くとおっしゃっていましたが、本作では?

成井 作品にもよりますが、「仮面山荘殺人事件」はまず山荘に仮面がかかっているというところが面白いなと。しかも本来なら犯人だけが仮面を被っているところ、本作では登場人物それぞれが仮面をかぶっている。仮面を被るって演じるということだから、これはミステリーであると同時に演技論の話だなと思い、そこに惹かれました。

左から清水由紀、成井豊、溝口琢矢。

左から清水由紀、成井豊、溝口琢矢。

──初演の評判が非常に高かった作品です。再演にあたり溝口さん、清水さんをキャスティングされたのは?

成井 清水さんとは一緒に芝居を作ったことはないんだけど、だいぶ前から知り合いですよね?

清水 そうですね(笑)。

成井 清水さんはキャラメルボックスのもう1人の脚本家である真柴あずきが脚本・演出を手がけた「彼の背中の小さな翼」(2013年)に出演されていて、実はその芝居のタイトルをつけたのは僕なんですけど(笑)。

清水 え、そうだったんですか!

成井 そう(笑)。だから一緒に芝居はやってないんだけど、稽古場や客席で観ていて、やっと念願が叶いました。

清水 私もです! 前回キャラメルボックスさんに出演させていただいたのが10年前ですが、それ以前からキャラメルボックスさんの大ファンだったので、「彼の背中の小さな翼」のオファーをいただいたとき、そんな大好きな劇団さんのお世話になれる!とすごく楽しみにしていたんです。ただそのときは成井さんの作品ではなくて……。今回10年越しに成井さんの演出を受ける機会をいただけたことがとても嬉しいです。

成井 溝口くんは「かがみの孤城」の初演(2020年)に出演してもらい、すごく助けられたんですよ。年齢的にもキャリアにも差はあるけど、初演を一緒に作る仲間として頼もしい男で(笑)。そのときの“頼れるやつだ”という記憶があったので、またいつか一緒にやりたいなと思っていました。役柄的には、樫間高之に対して溝口くんはちょっと若いのですが、演技力のある人なのできっとやってくれるんじゃないかなと。

成井豊

成井豊

溝口 今おっしゃっていただいたような記憶は僕にはなくて、稽古場でもただ静かに過ごしていたつもりでいたんですが……(笑)。ただ「かがみの孤城」は、みんなで一緒に作り上げていかなきゃいけない作品ではありましたよね。まさかそんなに期待してくださっていたとは、今知って、驚いています。

成井 そりゃあその場では言わないですよ、照れくさいもん。

一同 あははは!

成井 でもお世辞で言っているのではなく、本当にそう思っていました。

溝口 ありがとうございます(笑)。今回も、再演と言いながら多分大きく変わるんだろうなと思っています。成井さんは韓国版をご覧になって感化され、もう1回やりたいと思われたそうですが、僕も初演の映像を観て闘志が燃えました。初演は確かに素晴らしいけれど、さらにどんどん新しい魅力を引き出したいなと。今、自分自身にプレッシャーをかけています!

誠実な高之、芯がある朋美

──成井さんは東野圭吾ファンを公言されていますが、溝口さんと清水さんは、東野さんの作品についてどんな印象をお持ちでしたか?

溝口 声を大にして言いますが、僕は“にわか”ですね。もともと本は好きで、小さい頃からよく読んではいるのですが、作家さんの名前で選んで読むということがなくて、だから東野圭吾さんの作品を意識して探して読んだことがなかったんですが、実際に読んだら非常に面白くて! しかも「仮面山荘殺人事件」が文庫化された1995年は僕が生まれた年なんです。自分が生まれたとき既にこんな面白い本があったとは……と、非常に新鮮な気持ちで楽しく読みました。

溝口琢矢

溝口琢矢

清水 有名どころの作品はけっこう知っているのですが、「仮面山荘殺人事件」はなかなかコアな作品だと思うので、私も存じ上げませんでした。でも読み進めていくとやっぱり東野さんだなって。ミステリーを解いていく感じがすごく楽しかったので、今回その世界観に参戦できるのが楽しみです。

──キャストには畑中智行さん、三浦剛さん、岡田さつきさん、森めぐみさんとキャラメルボックスの劇団員も多数名を連ねています。

成井 基本的には役に合うか合わないかで決めていきました。タグという役は一眼見て怖い役じゃないといけないので三浦にしようとか、ジンは日本で一番畑中が似合うから(初演から)動かせないな、とか。

清水 そんなふうに言われるのは、ちょっと羨ましいですね(笑)。

成井 あとは、初演から4年と割とスパンが短いので、全体的にキャストを入れ替えたほうが新鮮になるんじゃないかと考えました。

──溝口さん演じる高之、清水さん演じる朋美という役については、どんな人物だと捉えていらっしゃいますか?

成井 高之には、僕はすごく親しみを感じました。自分が彼の立場だったら同じような行動を取るんじゃないかなって思うし、すごく感情移入してしまいましたね。東野さんの作品の中でも、「容疑者Xの献身」の石神同様、1・2位を争って感情移入してしまう役です。ただ石神はモテないところが自分に近いと思って感情移入しちゃうんだけど、高之の場合は男前のようだから、そこは違うのかな(笑)。でも誠実に誠実に生きようと思っている人だと思うので、そこに共感します。

溝口 今の成井さんのお話を聞いてなるほどと思ったんですが、僕としては高之って、言葉は悪いですが「クズだな」って思うんですよ……というのも基本的に僕、イケメンが嫌いで。

一同 あははは!

溝口 僕はずっとイモだと言われてきて、どうしたら良いのかを考えた末に、お芝居をとにかく真面目にやるしかないと思ってやってきたので、外見的にカッコいい人、モテる人の感覚がよくわからなくて。高之のことも実はそう感じてしまったんですよね。ただ今の成井さんのお話を伺って、「確かに高之は自分で会社を興して、1つひとつ誠実に取り組もうとしているから、やっぱり真面目な人なのかもしれないな」と思い直しました。

成井 おそらく真面目は真面目、なんだと思いますね。

──「仮面山荘殺人事件」は魅力的な女性が何人も登場しますが、朋美の印象はいかがですか?

清水 朋美は、ちょっと不憫だなと思うところがありますが、彼女が通したかった筋、核があったんだろうなと思います。それをあえてみんなに見せないところも彼女の強さで、一貫した思いを持ち続けているところが素敵だなと思います。今回はそんな朋美の“芯”を大事に演じたいなと。

清水由紀

清水由紀

成井 朋美、好きなんですよー! ピュアで健気なところが好きですね。しかも物語が始まったときには既に亡くなっている。愛おしてくてたまらない存在ですよね。先ほど高之に感情移入するとお話ししましたが、ヒロインとしての素敵さは朋美が随一なんじゃないかな。

刺激を受けた韓国版「仮面山荘殺人事件」

──高之と朋美をはじめ、登場人物それぞれにさまざまな物語があります。ミステリーを演じるうえでの醍醐味をどんなところに感じていますか?

溝口 ミステリーだからといって特に意識してはいませんが、今回は特に個人プレーではなく、みんなで作品世界を作っていかないといけないんだろうなとは感じています。

清水 私も、これまでにミステリーを演じた経験がないので、気負わずに臨みたいのですが、実は朋美ってほかの登場人物たちとは別の世界で生きている人なので(笑)。ある意味、異質感を際立たせて、しっかりと存在感を出していけたら良いなと思います。

成井 ミステリー劇という点については、私も人生経験が長いのでいろいろなミステリー劇を観ているものの、実はあまり面白いと思ったことがありません。ラストまで真相を隠し続けながら演じているから、役者たちの演技に固さがあるんですね。でも演劇にとって一番大切なのはキャスト。脚本は役者が輝くためのジャンピングボード、というのが僕の考え方です。だから本作でもあまり俳優が脚本に奉仕せず、生き生きと演じてほしいなと思います。

左から清水由紀、溝口琢矢、成井豊。

左から清水由紀、溝口琢矢、成井豊。

──本作は韓国にて、韓国の演出家と韓国人キャストにより上演されました。成井さんは現地でご覧になったそうですが、どんな公演だったのでしょうか?

成井 抜群に面白かったんですよ。その面白さの3分の1は、ゴージャスさによるものなんですけど(笑)、サンシャイン劇場より2回りくらい大きな劇場で、豪華な美術で、俳優訓練をしっかり受けているからか、役者がみんな美男美女のうえに演技が上手い。演出についてもいろいろと参考になることが多かったので、「ここはそうやる手もあるんだな」とか「俺はこうしようかな」という発見も多くて。1つだけ違っていたのは、阿川という役の描き方で、それは小説版とも日本初演版とも違っていました。でもそれ以外はほぼそのままでしたね。なので、韓国版を観て感じたのはとにかく悔しいってこと。決して初演が負けたとは思わないけど、「あんなに面白くやられちゃうと悔しいな、負けるもんか! 俺のも観ろよ!」と思って再演をすることにしました(笑)。

一同 あははは!