「それ無茶だろっていうギリギリの線を突きたい」倉持裕が自身の演出で挑む2021年版「イロアセル」 (3/3)

スタッフが語る「イロアセル」

「イロアセル」のスタッフには、これまでも倉持作品に携わった経験を持つメンバーが多い。ここでは、美術の中根聡子、照明の杉本公亮、映像の石田肇、音楽の田中馨、衣裳の太田雅公に、「Q1.台本や演出家とのやり取りの中でヒントになったこと」、「Q2.作品世界を立ち上げるにあたって、抽象化 / 具象化のバランスについてどのように考えているか?(音楽の田中には、作曲にあたって“色”を意識したか?)」について尋ねた。

中根聡子(美術)

「どの表現であっても観客の想像力に」

Q1.台本や演出家とのやり取りの中でヒントになったこと

セット自体は色がついていくのを見えやすくする色である必要があること。檻のシーンで囚人が檻の柵越しでなく見るときもほしい。面会人と囚人との位置関係にバリエーションができるといい。

Q2.作品世界を立ち上げるにあたって、抽象化 / 具象化のバランスについてどのように考えているか?

具象と抽象とどちらの表現も想定していますが、どの表現方法を取ったとしてもお客さんの想像力にはなるかと思います。

杉本公亮(照明)

「照明担当にとってはかなりの難題です!」

Q1.台本や演出家とのやり取りの中でヒントになったこと

「色のない言葉には意味なんてない」「色付きの言葉にこそ意味なんてない」。
発した言葉が常に視覚化される環境で、感情を自由に言葉にできない抑圧を表現したセリフです。クリエーションのヒントとは少しニュアンスが違いますが、この作品の世界観を象徴するセリフのような気がして、強い印象を受けました。

Q2.作品世界を立ち上げるにあたって、抽象化 / 具象化のバランスについてどのように考えているか?

照明担当にとってはかなりの難題ですが、最終的に、観客に、色のついた言葉を知覚できていると錯覚させる“とっかかり”としての役割が大きいのかなと感じています。具体的な表現を導入として、見えないものを見せる方向に誘導していくという感じでしょうか。光と物の色という関係は常に光の波長と対象物の反射率という関係なので、基本に忠実に、装置、煙、人物など、対象物に状況に応じて適切かつ大胆に対応することで解決していけると確信しています。但し、白い対象物に対する色の表現をするときに、濁色を表現できないという根本的な問題があるので、ここをどういう手段でクリアしていくかはいまだに悩んでいます。

石田肇(映像)

「いかに違和感と共存できるか」

Q1.台本や演出家とのやり取りの中でヒントになったこと

倉持さんの台本を読むと、まるで小説を読んでいるかのような感覚に陥ることがあります。本作品は特にそうで、作中に出てくる固有名詞や技術、競技などどのような物なのか説明がないので読み手の想像力に左右される部分もあります。
一方、僕の担当する“映像”というジャンルは、視覚から情報を伝えるのでどうしても具体的になってしまい、視聴者の想像を制限するような表現になってしまいがちです。
倉持さんからは物語の序盤と終盤で“色”の表現を変えたいとのリクエストをいただきました。どのような表現が出来るのか今から楽しみです。

Q2.作品世界を立ち上げるにあたって、抽象化 / 具象化のバランスについてどのように考えているか?

本作品では映像を単なる“映写”と考えずに“光”として使用する場面があります。これも倉持さんのアイデアなのですが、“光”である以上それを遮る“影”も使用できることとなります。普通の映像表現ではあまりできなかった表現方法を模索しています。映像以外にも照明効果やさまざまなギミックで“色”の表現を行うので、いかに違和感なく共存できるかが難しくも楽しい作業となりそうです。

田中馨(音楽)

「作品を通じて感じたのは、むしろ“単色”」

Q1.台本や演出家とのやり取りの中でヒントになったこと

昨年末、新国立劇場のバックヤードで、ばったり倉持さんと再会しました。慣れない場所で、コロナ禍という慣れない状況での再会でした。少しだけふっくらしたかな、という印象の倉持さんは、ボソリと「また何かで一緒にやりたいなあ」と言ってくれました。そのときの倉持さんのお仕事が「イロアセル」のフルオーディションでした。
演劇の音楽に携わるようになったのは、間違いなく倉持さんのおかげです。決して慣れることなく、作品に向き合いたいと思っています。

Q2.作曲にあたって“色”を意識したか?

“色”を意識はしましたが、この作品を通して感じたことは、むしろ単色でした。例えるならバイツのような見えるか見えないか、でもちゃんと存在しているような色です(編集注:バイツは「イロアセル」の登場人物の1人。島の町議会議員で、言葉の色が薄い)。相対するものとしてカラフルが際立ってきました。音楽も単色のようなシンプルなものを考えていましたが、倉持さんとお話ししたら、けっこうたくさん音楽がありそうなので、「ちょっと違ったかな」と、思っています。自分の感じたことを踏まえて、投げ続けながら正解にたどり着けたらと思っています。

太田雅公(衣裳)

「違和感を衣裳に」

Q1.台本や演出家とのやり取りの中でヒントになったこと

想像を掻き立てられる色の扱い方と、現代の風刺的な人間関係の絡みの中の違和感のようなものが、私の中に残っていました。打ち合わせのとき、「違和感を衣裳に提案しても良いですか」と話しましたところ、倉持さんは「良いですよ」と。また「役の持つ色は衣裳に反映しなくても良いですよ」とお話しされました。

Q2.作品世界を立ち上げるにあたって、抽象化 / 具象化のバランスについてどのように考えているか?

デザインは、まず、台本を読み役柄、職業と具象化してみました。それとは別に抽象化をして何が残るのかを探しました。形や色を分解したり、混じり合うものは何か、寄り添うものや反発するものは何かという流れで、そして、具象化されたデザインの中に抽象化したものをコラージュするように描いていきました。
出来たデザインを倉持さんとディスカッションを交わしながら最終的にまとめたものが目の前の衣裳になります。