「いきなり本読み!」は俄然ライブ
──皆さん、それぞれにプロとしてのお仕事があり、WAREではその知見を生かして活動されているんですね。中でも「いきなり本読み!」は、ハイペースで展開している印象があります。「いきなり本読み!」には、平岩さん、石橋さん、安達さんも毎回参加していらっしゃるのでしょうか?
石橋 僕は、最初に配信の土台を作るところを麻子さん(新開)と汗をかきながらやりましたが、最近はできあがった映像を視聴者として観るだけです(笑)。
──回を重ねることで、ライブパフォーマンスとしてもさることながら、配信面で改善されたり、更新されていったことはありますか?
岩井 どうでしょうね。けっこう最初に考えたプラン通りにやっている感じはします。
新開 でも途中から撮り方を変えましたよね。第3回からはセリフを読んでる人も読んでない人も、固定で表情が映るようにして。
岩井 ああ、そうですね。出演者それぞれと、台本が常に画面に映るようにして。
平岩 第2回を観た石橋さんが「こうしたほうがいいよ」ってアドバイスをくれて、その意見をあだっちーが取り入れて変わったんですよね。
石橋 うん、すごく見え方が変わった!
──「いきなり本読み!」は実演と後日配信という2本立てで続けられていますが、企画的に配信と相性が良かったと感じる部分はありますか?
岩井 すごい漠然とですけど、お芝居を配信したときに損なわれてしまういわゆるライブ感が、「いきなり本読み!」の場合はあまり変わらない気がします。僕の仮説ですけど、「いきなり本読み!」は普通のお芝居より俄然ライブなんじゃないかなと思ってて。つまり俳優は、これから何をするかわからない状態で袖から舞台に出てくるわけですけど、それって普通の芝居ではあり得ないわけですよね。そこはどう考えてもドキュメントだから、演劇を配信にしたときにガターンと落ちるライブ感が、「いきなり本読み!」だと俳優のドキュメントが進行しているので削られにくいのかなとは思います。
マルチアングルで観る「いきなり本読み!」
──「いきなり本読み!」は「豊岡演劇祭2020 Toyooka Theater Festival」でも開催されました。KDDIからマルチアングル動画のプランを持ちかけられたとき、どんなふうに思われましたか?
岩井 最初は「向かないかな」って思ったのかな……。僕の中では、昔出てスッと消えた、DVDのマルチアングルからイメージが更新されてなかったので。でも試みとしては観てみたいし、コロナによって“家で観る”ことがすごい変化を遂げる中、ここで躊躇してはいかんと思って、不安がありつつもやることにしました。結果、「すみませんでした」って思いましたね。
一同 あははは!
岩井 今回のマルチアングル動画は、別の画面が選択肢として見えているので、“同時間感”が常にあるんですよ。しかも画面がパッと切り替わるんじゃなくて、ジニーエフェクトみたいな感じで、グーッと近づいて切り替わる。あのエフェクトもめちゃくちゃデカい感じがします。ただ、画面切り替えにオート機能があってもいいかなって思いました。
石橋 例えばみんなが切り替えるタイミングをデータとして記録しておいて、「1万人が見たおすすめのアングル切り替えはこれ!」っていう選択肢があってもいいですよね。
岩井 あれ、そんなこと無料で言っちゃっていいんですか?
一同 あははは!
安達 僕は(豊岡で撮影された動画を)配信用に編集していたので、みんながどう観たのかなってことが気になります。個人的には、それぞれの人の表情をもっと寄って観たいなとか、生で観たときに鳥肌が立った俳優さんの演技力を、映像でどうやって伝えたらいいのかなってことは感じます。
平岩 「いきなり本読み!」がほかの朗読劇と違う面白さって、岩井さんがどんどん配役を変えて読ませていくことだと思うんですね。だから最初にある役をやった俳優さんが、次に別の人がその役をやるとき、それをどんな顔で聴いてるかとか、緊張して水を飲む様子とかが気になる。普段現場で写真を撮るときも、水を飲んだり、手の動きだったりに緊張が現れるなって感じるので。そういう、それぞれの俳優さんの表情を同時に見られるワクワク感が、マルチアングルにはあるのかなと思います。ただ、今回の配信映像はスマホで見ることを前提にした丁寧な作りにしているので、それがいい部分と悪い部分があるなとも思いました。
石橋 例えば4つじゃなくてもっとたくさん画面の選択肢があって、そこから4つ、自分の好みでアングルが選べたら、もっと良いのかもしれない。
新開 アイドルグループだったら、メンバーの人数だけ画面が欲しいかもしれませんね。
テクノロジーによって、演劇を観る時代からやる時代へ
──コロナによって映像や配信に取り組み始めた作り手が増えています。新しいテクノロジーを演劇に持ち込むことについて、皆さんはどう感じていらっしゃいますか?
岩井 僕はあまり、演劇を守りながらどこまでテクノロジーを受け入れるか、みたいなことは考えないですね。むしろ、劇場を使って配信するなら、据え置きのカメラでやるんじゃなくて楽屋とかセリを使ってみるとか、違う発想をしないのかなって思うほうで。
安達 僕は演劇とアーカイブ映像は全然別物だと思ってるんですけど、コロナになってから観る人の意識がガラッと変わったのはチャンスだなって思ってて。例えば僕は数年前から配信をやってましたけど、家で配信を観ることの常識が変わってきて、観てくれる人が増えた。となればこちらもいろいろ試せるし、面白い時代になってくるんじゃないかなと。また時間的、物理的な距離があっても技術によって伝わるものが増えれば、演劇や音楽に対する“感じ方の当たり前”も変わってくるんじゃないかと思います。
岩井 僕もそれは思いましたね。でももうちょっと変わると思ったけど、そこまでは変わらなかったな。
石橋 僕は2つ思い付いたことがあって。1つはそんなに先の話じゃないんですけど、VRゴーグルがどんどん発達してそのうちメガネくらいのサイズ感になったら、もっと作品の中に入り込むような感覚で演劇を観られるようになるんじゃないかなって。そうなれば、作家さんは道具の制限が少なくなって、わーっと作品が生まれてくる可能性はありますよね。
岩井 って考えるとゲームって強いですよね。参加者の参加動機を持ち上げる仕組みが完成してるから。
石橋 2つ目に僕が言いたかったことはそれ! 誰かが作った劇の世界を享受したり、誰かすごい人の演技を見て感動したりするんじゃなくて、音楽の世界にカラオケがあるように、「カラオケしようぜ」じゃないけど「演劇しようぜ」って人が集まって演劇するような、自分が物語を作っていく楽しみ方があったら面白いだろうなって。
岩井 “エンゲキ館”みたいなところがあるわけですね。
一同 あははは!
石橋 テーブルトークRPGっていうのがあって……。
岩井 実は僕、ずっとそれを演劇にしようと思ってるんです! ゲームマスターが地図を作って世界を設定して、キャラクター設定は参加者それぞれに任せるっていう。
石橋 ストーリーを紡ぐのはマスターなんだけど、ある場所にたどり着いてどうするかは、それぞれが決めるんです。
平岩 それってまさに“エンゲキ館”ですね。近所の家族と集まったとき、よく人狼をやるんですけど、あれも一種の演劇ですよね。
岩井 そうそう。人狼も実際、演劇になってますからね。
──そう考えると、テクノロジーによって演劇の在り方が、今後変化していく可能性はありますね。
岩井 演劇のもともとの良さも再発見されるし、演劇の手法を使った何かが出てくる感じがしますよね。
平岩 10月に岩井さんが会社を起こしてから岩井さんの変化を見てて思うのは、「いきなり本読み!」の展開のスピードにしろ、配信への取り組みにしろ、岩井さん本人が想定してるよりも、世の中の岩井さんを求める力が、どんどん早くなってるんじゃないかってこと。そこにホップステップで近付いていったのが2020年だとすると、2021年以降は例えば東京ドームで「いきなり本読み!」をやる……とか?
岩井 うーん、俳優、全然見えないな!
一同 あははは!
- 「豊岡演劇祭2020 スペシャル配信」
- 配信中 ※2021年1月28日(木)まで
- 岩井秀人(WARE)「いきなり本読み!in 豊岡」
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企画・演出・進行:岩井秀人
出演:古舘寛治、藤谷理子、猪股俊明
音楽:種石幸也
2020年9月12日収録 / 上演時間2時間12分
- 青年団「眠れない夜なんてない」
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作・演出:平田オリザ
出演:猪股俊明、羽場睦子 / 山内健司、松田弘子、たむらみずほ、秋山建一、渡辺香奈、小林智、島田曜蔵、能島瑞穂、井上三奈子、村田牧子、井上みなみ、岩井由紀子、吉田庸
2020年9月17日収録 / 上演時間1時間58分
- Q「バッコスの信女─ホルスタインの雌」
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作・演出:市原佐都子
出演:川村美紀子、中川絢音、永山由里恵、兵藤公美 ほか
2020年10月12日収録 / 上演時間2時間28分
※マルチアングル動画の視聴には、「auスマートパスプレミアム」への加入とアプリのインストールが必要(auユーザー以外も加入可能)。