東京演劇道場「ワーク・イン・プログレス/Dojo WIP」稽古場レポート&8組の企画者メッセージ (2/2)

企画者が語る、東京演劇道場「ワーク・イン・プログレス/Dojo WIP」

ここでは8つのプロジェクトの企画者が、それぞれのプロジェクトに込めた思いを語る。

公演のスタートを華やかに彩りたい

手代木花野企画「開場前パフォーマンス『додзьо』」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

まず、とにかく演劇をやりたいなあと思って。道場には面白い人たちがたくさんいて、その人たちといろいろな関わり方をしてみたいと思ったから。

そして、最初のミーティングで、「“文化祭”とか“フェス”のような公演」というワードが出て、私はそういう“祭”というキーワードに血が騒ぐタイプなので。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

最初の質問でも言ったように“祭”というところから私は今回の公演をスタートしているので、祝祭的で、ちょっと不気味で、エネルギッシュで、生活に根差した習慣のようでもあって、そして人が集まる、とにかく賑やかな物をやりたかった。WIPと言うよりは、この公演のスタートを華やかに彩りたいと思っている。

手代木花野(写真右)。(撮影:熊井玲)

手代木花野(写真右)。(撮影:熊井玲)

プロフィール

手代木花野(テシロギハナノ)

宮城県出身。ダンサー、コンタクトインプロヴァイザー(CI)、俳優。東京演劇道場一期生。 CIを基盤にしたダンスユニットCI部副部長。CIcoにて国際フェスティバルの開催やインプロバイザーとのパフォーマンスなどを行う。野田秀樹、長塚圭史、小野寺修二、ウォーリー木下、松本雄吉、柴幸男、ジョン・ケアード、多田淳之介、ハラサオリ、小池博史などの演出家の作品に出演。都立総合芸術高校特別専門講師。

創作における稽古と稽古場とは何かを模索

藤井千帆 / 鈴木麻美企画「淋しいおさかな」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

もともと、藤井と鈴木で別役実さんの作品をどこかで上演してみたいという思いがありました。そんな中、東京演劇道場のワーク・イン・プログレス公演を打つことが決まり、せっかくの機会なので、道場のメンバーと別役実さんに触れながら、道場でしかできない表現の仕方を童話を通して模索してみようと思ったからです。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

まず、童話を劇にすることです。そして、道場メンバーの身体性と別役実さんの世界を掛け合わせた先に何が見えるのかを考えることです。野田さんのWSや、「わが町」でお世話になった柴幸男さんの稽古場で感じたことを生かし、創作における稽古と稽古場とは何かを模索しています。また、シアターイーストだからこそできる表現があるのではないかと出演者と日々意見を交わしています。

藤井千帆

藤井千帆

プロフィール

藤井千帆(フジイチホ)

1995年、神奈川県生まれ。2007年にNHK「天才てれびくんMAX」でデビューした後、俳優として活動を始める。近年の主な舞台出演作に、ブス会*「エーデルワイス」、ほろびて「コンとロール」、東京演劇道場第2回公演「わが町」などがあるほか、Netflix「『全裸監督』シーズン2」、Netflix「ヒヤマケンタロウの妊娠」など。また映画、テレビドラマ、広告にも出演。

鈴木麻美(スズキアサミ)

1990年、栃木県生まれ。早稲田大学演劇研究会出身。新国立劇場演劇研修所8期修了。にわか劇団けだものの界隈の旗揚げメンバー。近年の主な出演作に、松本雄吉×林慎一郎「PORTAL」、「野外劇 吾輩は猫である」、PARCO公開演劇「愛でる」、東京演劇道場第2回公演「わが町」、北九州芸術劇場クリエイション・シリーズ「イエ系」など。

2人の俳優がどこまで物語の世界を描けるか

高畑裕太 / 大野明香音企画「忘郷少女」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

野田さんの戯曲の言葉を扱いたいと思い、この企画を立ち上げました。この企画案になるまで紆余曲折しましたが「過去の野田作品を深掘りする」という、それまでの過程がより新たな刺激や発見を生み出して今の作品の創作意欲につながっています。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

高畑が一からオリジナル戯曲を書くというところからトライが始まっています。また、シアターイーストの素舞台上で2人の俳優が言葉と身体を通してどこまで物語の世界を描けるかも挑戦の1つです。

大野明香音(手前)と高畑裕太。(撮影:熊井玲)

大野明香音(手前)と高畑裕太。(撮影:熊井玲)

プロフィール

高畑裕太(タカハタユウタ)

1993年、東京都生まれ。俳優、劇作家、演出家、ダンサー。2012年にNHK「あっこと僕らが生きた夏」で俳優デビュー。2021年にハイワイヤを旗揚げし、主宰を務める。近年の主な作品にハイワイヤ「トラ」(作・演出)、劇団かもめんたる「S.ストーリーズvol.2」(出演)など。

大野明香音(オオノアカネ)

2000年、静岡県生まれ。5歳より新体操を始め、高校時代には全国大会優勝。高校卒業後に上京し、身体能力の高さを生かして芝居の勉強を始める。近年の出演作に、東京演劇道場第2回公演「わが町」、テレビドラマ「今度生まれたら」、森良太「Cold Love」MVなど。

リーディング公演として、どこまで幅を広げられるか

上村聡企画「御社のチャラ男」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

かねてより絲山秋子さんの「御社のチャラ男」を舞台化したいと考えていました。東京演劇道場にはさまざまな俳優が出入りしていて、いつか一緒に仕事をしたいと思っていて、いい機会なのではないかと。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

原作の面白さを損なわずに、読書とは違う形で小説の魅力を伝えられるかどうか。リーディング公演としながらどこまでその幅を拡げられるか。日替わりで演目を変えていく見せ方の工夫、など。

上村聡(撮影:熊井玲)

上村聡(撮影:熊井玲)

プロフィール

上村聡(カミムラサトシ)

1977年、神奈川県生まれ。高校卒業後、北京へ語学留学し現地で中国武術を学ぶ。20歳から芝居を始め、2005年、オーディションをきっかけに「遊園地再生事業団」の作品に関わり始める。また、鈴木謙一と鈴木将一朗とラストソングスを結成するほか2021年よりかみむら文庫名義で活動をスタート。これまでにミクニヤナイハラプロジェクト、はえぎわ、ジエン社、劇団あはひ、NODA・MAPなどに出演している。

日本の演劇界にジブリッシュ演劇がもっと浸透してほしい!

扇田拓也企画「ジブリッシュ『恋人たち』『職人たち』」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

僕はジブリッシュという、デタラメ言葉で創作する演劇が、もっと日本の演劇界に浸透してほしいという強い想いがあります。ジブリッシュ演劇は、言葉の内容で物語を紡ぐことが出来ない代わりに、その分フィジカルで、大人も子供も楽しめて、お客さんの想像力をより一層かきたてられる、とっても豊かな手法だと思うのです。なので今回は僕にとって、ジブリッシュ演劇の布教活動の一環、とも言えます(笑)。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

今回、シェイクスピア作品「夏の夜の夢」に登場する「4人の恋人たち」「6人の職人たち」をそれぞれ主人公にして、2本の短編作品として仕上げます。「夏の夜の夢」をご存知の方はもちろん、知らない方にも、その面白さがジブリッシュ演劇で果たして伝わるのか、というチャレンジです。またどちらの作品も“仮面劇”の要素を取り入れているので、そこもお楽しみいただきたいと思っています。

扇田拓也

扇田拓也

プロフィール

扇田拓也(センダタクヤ)

1976年、東京都生まれ。演出家、俳優。1996年にヒンドゥー五千回を旗揚げし、全作品の構成・演出を担当。2018年の最終公演と同時に空 観(くうがん)に改称し、活動スタート。てがみ座、名取事務所、趣向、日生劇場ファミリーフェスティヴァルなどの公演で演出を担当。俳優座研究所の講師、演劇系大学での非常勤講師や市民劇、沖縄での滞在制作を積極的に行っている。

私が思う考えを、どのように作品として提示できるかに挑戦したい

黒瀧保士企画「石の夢 -Rêves d'objets-」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

このたびの企画に参加したいと思った一番の理由は、発表する作品が試作でもよいという点です。

自分が何を考え、何をし、どう提示したいのかを作品を通して考える機会を与えていただけたことは本当にありがたいことですし、感謝しかございません。

このたびの企画が、今後どのように発展していくのかはわかりませんが、試作として発表する新作を大切に育み、本公演として発表することが、本企画に対しての個人的な答えであると思います。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

新作に向けた試作は、4つの話から構成いたします。それぞれの作家が、作品を通して未来に投げかけてくれた思いを、私はどう受け止め、私が思う考えをどのように作品として提示できるのかが、今回の企画に限らず私が挑戦していきたいことであります。

私も未来に向けて思いを投げかけますが、常に誰かの思いは、過去からやってくるもので、その過去をひも解いていくことにより、本質というものが立ち現れてくるなと常々感じています。

黒瀧保士(撮影:熊井玲)

黒瀧保士(撮影:熊井玲)

プロフィール

黒瀧保士(クロタキヤスシ)

1986年、東京都出身。俳優、舞踊家、振付家。日本マイム研究所の佐々木博康所長にマイムを師事し、並行してクラシカルバレエを学ぶ。その後、勅使川原三郎のダンスメソッドを学び、2019年より自身の創作活動を再開。NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」では演出助手を務めた。近年は国内外のダンスフェスティバルに出演している。

演劇でしか伝えられない言葉を信じています

サヘル・ローズ / 石村みか / 小幡貴史企画「   」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

混沌とした世界情勢が遠くに感じていませんか? だけど、地球上のどこにいても「明日が来る」とは保証されていない。今を生きている私達が何を残せるか。私は物作りが大好きですが、今、戦下にいる人々には演劇は無力かもしれない。ですが、演劇・エンタテイメントでしか伝えられない言葉を私は信じています。そう、演劇は無力じゃない(サヘル・ローズ)。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

「   」にこめた想いこそが挑みたい内容そのもの。公演後でも空白に見えるのか? もしくはそこに浮かび上がるコトバがあるのか? 今回は挑むのは実験公演。お客様と作り上げたコトバを握りしめ、来年には長編へつなげたい。この企画に参加してくださった素晴らしい先輩たち全員が企画者だと思っています。1人でも欠けたら、出会っていなかったら、出来ていないです。また、この機会をくださった野田さん、東京芸術劇場の皆様に深く感謝を申し上げます(サヘル・ローズ)。

小幡貴史(左から3番目)。

小幡貴史(左から3番目)。

プロフィール

サヘル・ローズ

イランで生まれ、イラン・イラク戦争の最中、孤児になり孤児院で幼少期を過ごす。7歳で養子縁組をし、養母と共に日本へ。高校生から俳優としてのキャリアを積み重ね、さまざまな映画祭で最優秀女優賞を受賞。近年は舞台の演出や映画監督なども行う。また芸能活動以外に難民キャンプや孤児院、ストリートチルドレンなど子どもたちへの支援活動を行っており、2020年にはアメリカで人権活動家賞を受賞した。

石村みか(イシムラミカ)

1973年、東京都生まれ。てがみ座劇団員、東京演劇道場メンバー。1995年、青山劇場10周年記念に白井晃演出の「銀河鉄道の夜」にカンパネルラ役で出演。以降、多くのプロデュース公演に参加。近年の舞台出演作に杉原邦生演出「グリークス」、栗山民也演出「ゲルニカ」、丹野郁弓演出「レストラン『ドイツ亭』」など。

小幡貴史(オバタタカフミ)

1992年、群馬県生まれ。15歳で海上自衛隊に入隊。広島県にある江田島で青春時代を過ごす。イージス艦の大砲やミサイル発射装置の整備員として25歳まで勤務した後、都内のイベント制作会社に入社。その後俳優として活動をスタートした。

東京演劇道場の人たちに「再生」と出会ってほしかった

李そじん企画「再生」

──今回の企画をやりたいと思ったポイントは?

東京演劇道場の人たちに、「再生」と出会ってみてほしかったから!

今年1月の東京演劇道場「わが町」に出演した際、ひとえに道場といっても、今までやってきたことや、普段の活動の仕方や、お芝居の質まで、それぞれ全く違う俳優が集まっているのが面白いなと感じました。

その直後、東京デスロック「再生」を観劇する機会があり(出たことはありましたが、観るのは初めてでした)、道場のメンバーで「再生」がやれたら面白そうだなーとぼんやり思っていたところに、ちょうど道場WIPの話が持ち上がって、これは!!と思ったのでした。

──今公演でトライしたいと思っていることは?

1つは、俳優が演じる役の設定を具体的に作り稽古に取り組むことで、よりドラマ性の高い、役の生きざま / 俳優の演じざまの解像度が高く見えるものにしたいということ。

もう1つは、本来90分程の作品である「再生」を、30分の作品として、面白いものに作り替えたいということ。単なる短縮版にならぬように、という思いです。

李そじん

李そじん

プロフィール

李そじん(リソジン)

1990年、東京都生まれ。俳優。青年団、東京デスロック所属。近年の主な出演作に、玉田企画「영(ヨン)」、範宙遊泳「ディグ・ディグ・フレイミング!~私はロボットではありません~」、NODA・MAP「兎、波を走る」など。11月29日から12月10日にKAAT×東京デスロック×第12言語演劇スタジオ「外地の三人姉妹」に出演する。