文楽とアニメがコラボする「BUNRAKU 1st SESSION」吉田玉助と吉田簑紫郎が見つめる“挑戦のもっと先”

「BUNRAKU 1st SESSION」が3月に有楽町よみうりホールにて上演される。これは、国立劇場による「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ! PROJECT」の第1弾で、いとうせいこうらがナビゲーターを務める解説「ブンラク・ワン・オー・ワン」と、文楽とアニメーションのコラボによる「『曾根崎心中』天神森の段」が披露される。本公演では、桐竹勘十郎が映像監修を担当し、「となりのトトロ」などを手掛けたアニメーション美術監督の男鹿和雄の画が、大道具の代わりに背景美術として使用される。この取り組みが軌道に乗れば、海外を視野に入れたより多くの地域で文楽が上演しやすくなる。

そんな大きな期待を背負って本作の舞台に立つのは、これまでも文楽の活動の幅を広げるような取り組みを多数行ってきた吉田玉助と吉田簑紫郎。2人に、2023年末に行われた試演会の手応えや役への思いを聞いた。また特集後半では本公演のプロデューサーである神田竜浩と、本公演の映像制作を担当する山田晋平に創作の裏側を語ってもらった。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 小川知子

吉田玉助と吉田簑紫郎が語る「文楽×アニメ」

文楽の世界観とアニメーションが、良いバランスで“なじんだ”

──このたび、国立劇場により「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ! PROJECT」が始動しました。その第1弾として「BUNRAKU 1st SESSION」のタイトルのもと、3月に「曾根崎心中」の最後の場面「天神森の段」が上演されます。心中を決心した男女が、最期の場所へ向かって歩みを進める“道行”と呼ばれる場面で、心中に向かう2人の姿が舞踊劇として描かれます。同公演では、吉田玉助さんが醤油問屋平野屋の手代・徳兵衛、吉田簑紫郎さんが大坂北新地天満屋の遊女・お初を遣われます。お二人は最初にこのプロジェクトについて知ったとき、どのような思いを持たれましたか?

吉田玉助 すごく面白い企画だと思いました。ただ「天神森」って30分程度しかないので、そのシーンだけでしっかり成立させないと、初めて文楽を観るお客さんには「何のこっちゃ」になってしまう。これは大変だなと思いました。

吉田簑紫郎 最初に聞いた情報が、アニメというより「スタジオジブリの画を描いている方の画とコラボする」ということだったので、正直なことを言いますと、「文楽の世界観と合うのかな?」と半信半疑でした。ただプロジェクトの進行とともに男鹿和雄さんの画が文楽寄りにブラッシュアップされていくのを拝見して、「これはすごく良いものが出来上がるんじゃないか」と期待が膨らみましたね。

左から吉田玉助、吉田簑紫郎。

左から吉田玉助、吉田簑紫郎。

──昨年末は試演会も行われました(参照:文楽とアニメがコラボ、桐竹勘十郎の監修と男鹿和雄の背景画で「曾根崎心中」)。お二人はご自身が出演した映像をご覧になりましたか?

玉助 見せてもらいました、なるほどな、と。

簑紫郎 画が、主張しすぎないのが良いですよね。

玉助 文楽って想像させる芸能ですから、背景がくどくてもダメなんですよね。その兼ね合いが、今回は良いバランスでできていると思いました。

簑紫郎 違和感がないです。言い方が悪いかもしれませんが、ちょっとでも噛み合わなかったら“サムい”ものになってしまう可能性があるけれど、まったく違和感がなかったので、男鹿さんの画と文楽人形と、綺麗なもの同士はなじみ合うんだなと思いました。

──確かに、試演会では文楽人形とアニメーションがとてもしっくりきていましたね。人形の動きに合わせて背景のアニメーションが動くので、実写アニメーションを見ているような感覚になる瞬間もあり、空間の広がりを強く感じました。また人形遣いの皆さんが黒衣姿ということもあり、人形の存在感がより生々しく感じられたのも印象的でした。

玉助 そう、「俺、ジブリの世界に入っちゃうの?」って気持ちになりました(笑)。

簑紫郎 でも決してファンタジーではないですよね。そこが素晴らしいなと思いました。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」試演の様子。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」試演の様子。

初心に帰って徳兵衛とお初を演じる

──今回上演される「曾根崎心中」は、元禄16(1703)年に大坂で起きたとある心中事件をもとに描かれた、近松門左衛門の代表作の1つです。この世で結ばれることのない徳兵衛とお初が、互いを愛するが故に心中という悲劇的な結末を選んでしまう姿は、時代を超え、多くの頬を濡らしてきました。お二人は、徳兵衛とお初をどんなお役と捉えていますか?

玉助 「曾根崎心中」は、初演はもちろん文楽ですが、二代目中村鴈治郎さんと中村扇雀(四代目坂田藤十郎)さんが1953年に歌舞伎として上演しその後も上演が重ねられました。今回は、「初心に帰ってやってください」と言われているので、“昔はどんな気持ちで、どんなことを考えながらやっていたのかな”と考えながら臨んでいます。またそもそも踊りって、ただ振りを踊っているわけではなく全部意味があるので、僕は舞踊を踊りではなくお芝居と思ってやっているんです。今回は、1955年の復活上演のときに、初代吉田玉男師匠が作られた徳兵衛を踏襲しつつ、僕なりに解釈してできたらと思います。特に「道行」は、“お初のことが本当に大好きで、だから一緒に死ぬんだ”という感じを出しながら、バタッと死ぬのではなく、「はあああ……好きや……」と倒れていくのが難しい。よく(吉田)簑助師匠が、立役の人形を受けるときに、「その男性のことが好きだー!」という思いを全身で表していらっしゃって、それが本当に素晴らしいので、見るたびふわーっとしていたんですが(笑)、僕らも最後、そのような感じで演じられたら良いなと思いますね。

吉田玉助

吉田玉助

簑紫郎 実はこういう質問をされたら一番困るなと思っていたのですが……(笑)。というのも、お初はちょっと特別で、動きの面でも足も左も本当に難しいんです。勘十郎さんの左遣いをやらせてもらっているときにそれを感じたのですが、一体感がないとできないというか、少しでもタイミングが違ったりすると薄いガラスのように壊れてしまうような、繊細なところがあります。だから「お初はほかの役とは違う」とは言えるんですけど、具体的にその違いを説明することは難しいです。もちろん、人形遣いとしては「曾根崎心中」のお初をやれるというのは、とにかくうれしいことです。

──心中ものの魅力については、どう感じていますか?

玉助 今の時代はこういう古典ってなかなか食いついてもらいにくいですし、世話物は時代物と違って型がほとんどないので、「本当に好きだー!」という気持ちが出ないと、型通りやっても役の思いが見えてこない。もちろん技術も大事ですが、徳兵衛の場合はそれ以上に、お初が本当に愛おしいという気持ちでやらないといけないなと思います。さらに心中をする2人の関係性はもちろん、太夫・三味線・人形の三業が気持ちを一つにしないといいものができないと思っています。

簑紫郎 以前ヨーロッパで公演したとき、心中ものの美しさにすごく感動してもらえたんです。究極の愛の形の1つというか、「これほど悲しくてこれほどつらくて、最後に死ぬしかない」という、その概念は海外でも一緒なのかなと感じました。

──追い詰められ、互いしか見えなくなった徳兵衛とお初の心境を表すように、クライマックスでは映像が消え、2人だけに光が当ります。闇の中に浮かびあがる人形の顔の白さが、怖いほど美しく見えました。

玉助 本当に白って生きますよね。白さが綺麗に舞台に映えるんだと思います。

簑紫郎 実は僕、昨年、ピアニストとのコラボレーション作品をやったんですが(編集注:2023年にロームシアター京都で上演された「Out of Hands」。同作で簑紫郎はパリを拠点に活動する作曲家、ピアニストの中野公揮と協働。文楽の「関寺小町」をもとにした作品を披露した)、そのときは、光に向かうときと、闇を向いているときの見え方の違いを意識しながら動きました。「天神森」でもその点は意識しながらお客さんに観てもらえたらと思います。

「仮名手本忠臣蔵」より、早野勘平を遣う吉田玉助。

「仮名手本忠臣蔵」より、早野勘平を遣う吉田玉助。

「Out of Hands」より、吉田簑紫郎。©︎Yoshikazu Inoue-KYOTOPHONIE 2023

「Out of Hands」より、吉田簑紫郎。©︎Yoshikazu Inoue-KYOTOPHONIE 2023

100%以上の高みを目指し続ける

──お二人は今回の共演を通じて、お互いにどんな印象をお持ちですか?

玉助 実はこれまで、あまり共演したことがなかったんです。ただ、簑紫郎くんは華やかで、これから絶対に出てくる人。いろいろなことを経験して、二十代、三十代、四十代と全然変わってきていますからこれからが楽しみですよね。一方で、三十代から見た二十代、四十代から見た三十代って、その頃の自分は「すごくできている」と思っていてもまだ全然ということがあるので、驕らずこれからも高みを目指してほしいです。今回は、一緒に楽しくやりましょう、という感じですね。

──簑紫郎さんが遣うお初については、どんなふうに思われましたか?

玉助 今は未知数ですね。僕が知っている限りのこと、先輩から教えてもらったようなことは伝えたりしていますが、女性の人形はやっぱり華やかでないといけないし、立役を“下から受ける”のが基本。その根底さえあればいいものが出来ると思うので、今回は良い舞台になると思います。

簑紫郎 玉助さんがくださったアドバイスを受けて、僕のお初像をどう進化させていけるかというところだと思いますので、先輩と一緒にやらせてもらえるありがたみを感じながらお初に挑戦したいです。

──簑紫郎さんの、玉助さんに対する印象はいかがですか?

簑紫郎 先輩のことを評するのはとても難しいですが、玉助さんは“100%じゃあかん、120、150、200%出さないとあかん”と、いつもそこで勝負されている先輩だと感じます。人形遣いを30年以上やっているとなかなか人に意見してもらうことがないのですが、玉助さんは「こういうやり方もある」とアドバイスをくださるのがありがたいです。

吉田簑紫郎

吉田簑紫郎

文楽の可能性を広げてきた2人が挑む「BUNRAKU 1st SESSION」

──お二人は以前から新しいジャンルとのコラボレーションに積極的に取り組まれていました。玉助さんは「世界ボーカロイド大会」に出演し初音ミクの曲で人形を操ったり、現代美術作家・杉本博司が構成・演出・美術を手がけた「杉本文楽」にも参加したりと、現代の作り手とさまざまな挑戦を行ってきました。簑紫郎さんは必要最低限の荷物で文楽のアジアツアーを行った「バックパッカー文楽」や、先ほどお話に挙がったクラシックピアノのピアニストとのコラボレーションなど、文楽の可能性を拡張するような道を開拓されています。そのように、お二人が活動の範囲を広げていこうと思ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

玉助 私の場合は、本当に人と人とのつながりがきっかけです。週刊「アスキー」の元編集長が文楽好きで、その方が「『世界ボーカロイド大会』で『メルト』っていう企画があるんだけど、そこで踊ってくれない?」とおっしゃったので、「わかりました」と会場に行ってみたら、ドアを開けた瞬間に場違いだとわかり(笑)、帰ろうとしたんです。ただ、一応「メルトの舞」だけはやったところ、お客さんが「えー、やばい!」「すごい!」と言ってくださり、次に映像を撮ることになって……という流れなので、最初からめちゃくちゃ乗り気だったというわけではないです。でも初音ミクファンの方など、お客さんから刺激を受けたところはとてもありましたし、初音ミクを動かしている人たちは、結局人形遣いと一緒だな、と感じるところもあって、やっているうちに楽しくなりました。

簑紫郎 僕は三十代に入ってからです。13歳で文楽の世界に入り、その頃先輩たちが何をしていたかはよく覚えているので、焦りがありました。僕は人間国宝の先輩であろうとライバルだと思っているので(笑)、環境云々のせいにせずに、動かないといけないと思い、案を膨らませていった中で、文楽人形と最小限のものだけでアジアを巡る「バックパッカー文楽」が実現しました。文楽を広めたいという思いも大事ですが、とりあえず自分が楽しくないと、という思いが第一にあったので、その思いを原動力にしたんです。ちなみにその「バックパッカー文楽」の経験から、私もプロジェクターを用いた見せ方に関してはずっと温めていた案があって、舞台美術の代わりに、趣味でやっている写真や映像を生かせないかと考えていました。

──そうだったんですね。お二人のお話を伺っていると、今回のプロジェクトにお二人はまさに適任だなと感じました。モビリティ、アクセシビリティ、サスティナビリティなどの目線は、舞台芸術界の未来を考えるうえで今後一層大切になってくると思いますが、「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ! PROJECT」は、その問題に対する大きな挑戦になるのではないかと思います。その期待の高さは、1月末まで行われていたクラウドファンディングで、目標金額を大きく上回る支援が集まったことからも感じられます。

玉助 今、歌舞伎もテレビドラマもマンガが原作の作品に次々と挑戦していますが、今回のアニメーションとのコラボは、それとは少し違った意味で、画期的なことだと思っています。そしてこういった試みを個人でやる、ということはよくありますが、国立劇場がやるということはなかなかないことですよね。もちろん、中にはこういう試みに批判的な意見をお持ちの方もいらっしゃるとは思いますが、挑戦だけで終わるのではなく、お客様に次は古典も観てもらいたいですし、文楽の面白さを見つけて、ぜひファンになってもらえるとうれしいです。

簑紫郎 本当にそうですね。ただ奇抜なことをやればいいということではなく、こういった試みをすることでお客さんに、古典や文楽そのものにも興味を持ってもらいたいです。今後、文楽人形の可能性は、お芝居はもちろん、現代アートの面でも広がっていくんじゃないかと思いますが、僕がやるのはあくまで基本通り、文楽の芯を動かさず、文楽の美味しいところをセンスよくギュッと詰め込んでパフォーマンスするだけ。その点はぶれずに、大切に勤めます。

玉助 これは挑戦です。だからこそ、お客さんがどのように見て、どんなふうに感じてくださるのか、私自身、とても楽しみです。

左から吉田簑紫郎、吉田玉助。

左から吉田簑紫郎、吉田玉助。

プロフィール

吉田玉助(ヨシダタマスケ)

1966年、大阪府生まれ。1980年に吉田玉幸に入門、吉田幸助と名乗る。1981年に初舞台、2018年に五代目吉田玉助を襲名。

吉田簑紫郎(ヨシダミノシロウ)

1975年、京都府生まれ。1988年に吉田簑助に入門。1991年に吉田簑紫郎と名乗り初舞台。

プロデューサー・神田竜浩が語る「文楽×アニメ」

面白いものになるという予感が確信に

──本企画はどのような思いから立ち上がったのでしょうか?

文楽公演を国立劇場・国立文楽劇場以外の場所で上演する際にネックとなるのが大道具です。現地までの運搬費とそれに伴う人件費でかなり高額になってしまい、これが地方や海外での上演の際に非常に厳しいということがあり、スクリーンとプロジェクターで簡便化することで、外での公演のハードルを下げることができないかと考え、映像を使った文楽公演へと思い至りました。道具帳という文楽の大道具の画を用いてもよかったのですが、文楽人形が映える映像を新たに制作することにしました。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」試演の様子。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」試演の様子。

──現段階での手応えを教えてください。

アニメの仕組みがわからず、どのように分業されていてアニメ作品ができているのかアニメ背景美術製作会社のでほぎゃらりーの方に教えていただき、どのようなオーダーをしなければならないのか、映像に仕上げるためにどういう役割をする人が必要なのかそこから勉強しながらのスタートで、映像ディレクターの山田さん、背景美術の男鹿さんなどそれぞれの役割を担う人を集めることが一番大変だったと思います。

──これからご覧になる方々にメッセージを教えてください。

実際の「曾根崎心中」の舞台を観ていただいて、映像テストを重ね、男鹿さんには天神森の下画を何度も書き直していただきました。そのたびに画がよくなっていき、文楽の人形と映像が自然と重なりあい、面白いものになるかもしれないという予感が、面白いものができるという確信に変わりつつあります。解説と「曾根崎心中」の天神森の段の上演という60分で見られる文楽入門公演です。この機会に多くの方に文楽に触れていただければと思います。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」稽古の様子。桐竹勘十郎(左)。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」稽古の様子。桐竹勘十郎(左)。

映像制作・山田晋平が語る「文楽×アニメ」

映像という光の現象だからこそ作れる空間性や時間感覚を

──どのような思いから本企画に参加されましたか?

最初は、文楽にもアニメーションにも門外漢である私に、この役割が務められるか不安でした。しかし、文楽も舞台芸術で、演劇やミュージカル、オペラのような音楽劇の一形態と考えることができるし、アニメーションも、広い意味では光とイメージと時間を扱う映像表現のひとつなので、いつも関わっている現代的な上演作品に取り組むときと同じように、それぞれの特性と魅力が共存できるスペースというか、余白がどのあたりにあるのか、丁寧に勉強しながら探ればいいのだなと、思うようになりました。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」稽古の様子。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」稽古の様子。

──現段階での手応えを教えてください。

頭の中にイメージがあるのですが、それを「絵」や「画像」で詳細に伝えすぎると、それが男鹿さんの背景の「下書き」になってしまうかもしれない。原作を読んだり上演を見たりすることで、男鹿さんの頭の中に浮かんでいるイメージがあるはずだから、それを見てみたい、という思いが強くて、あまり私のイメージをクリアに提示したくありませんでした。骨組みだけのラフな設計図だけを伝えて、なるべく男鹿さんのイメージが絵としてアウトプットされるようなやりとりを意識していきたつもりなのですが、最終的にどんな絵になるか……。やりとり自体には、時間をかけて一歩ずつ確認しながら、積み重ねてこられた実感が、あります。

──本作の映像制作を手掛けられるにあたって特に大切にしたこと、またこれからご覧になる方々に特に注目してほしいところを教えてください。

文楽は、時間をかけて洗練されてきた、素晴らしい表現様式です。その上演を「先端的な映像技術」を披露するための場として使わないこと。文楽独自の魅力が見えにくくなるようなアイデアは使わないこと。この2つが、自分に課した戒めです。とはいえ、大道具が映像のスクリーンに「代替」しただけでは、大道具が持つ豪華なボリューム感や物理的な迫力が失われるだけです。映像という光の現象だからこそ作れる空間性や時間感覚を、できるだけ地味にというか、ひっそり実現しようとしています。そういうところを見逃さずにご覧いただければうれしいです。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」稽古の様子。

「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」第1弾 文楽「曾根崎心中」稽古の様子。

プロフィール

山田晋平(ヤマダシンペイ)

1979年、愛知県生まれ。映像作家。演劇やコンテンポラリーダンスを中心に、オペラ、コンサートなど、さまざまな舞台芸術の上演内で使用される演出映像の製作を専門とする。これまでに参加した主な舞台作品に、チェルフィッチュ、維新派、白井剛、岡田利規との「映像演劇」シリーズの映像担当、ツアーパフォーマンス「Kawalala-rhapsody」(兵庫・城崎国際アートセンター)の監修など。