どんな状況でも創作は続ける、その“免疫”が体内に芽生えた 西沢栄治が立ち上げる「あーぶくたった、にいたった」 (2/2)

3rdを経て、4th Trialの気持ちで

──「こつこつプロジェクト」第1期から「あーぶくたった、にいたった」のみが本公演として上演されることになり、西沢さんのモチベーションは上がったのでしょうか、それとも「もう1回やり直さなければならないのか」という気持ちになったのでしょうか?

両方あるんですよ。3rd Trialを終えたところで、僕の中で「こつこつプロジェクト」は終了って思った部分がありましたから、うれしいんですけど、そこにまた再チャレンジするのかという思いと、でも僕は、お客さんと対面して初めて芝居が完成すると思うから、その過程を経ていないという点ではやりたいという思いもあって。自分としては3rdの次の4th Trialという感じなのかな。

──これまでの延長線上にある本公演、という感じなのですね。

そうですね。新しく作り直すということではなくて、でもこれまでの過程に縛られすぎず、今の僕に見えているものを世界に向けて作れば良いんだってことはシンプルに考えているつもりです。

──ただ本公演となり、舞台美術なども入ってきて、新たに見えてくるものもあるのではないでしょうか。

そうですね。幸いなことに音響・照明などはこれまでの“こつこつ”に一緒に伴走してくれたスタッフがそのままついてくれているのですが、美術スタッフが入ってくれたことで、僕には見えていなかった風景が見えてきて楽しいですね。

「あーぶくたった、にいたった」稽古の様子。(撮影:田中亜紀)

「あーぶくたった、にいたった」稽古の様子。(撮影:田中亜紀)

「あーぶくたった、にいたった」稽古の様子。(撮影:田中亜紀)

「あーぶくたった、にいたった」稽古の様子。(撮影:田中亜紀)

“こつこつ気質”が体内に芽生えた

──「こつこつプロジェクト」は、最終的に作品として上演されるかどうかわからない状態で稽古を続けることに葛藤があったとお話しくださいました。一方で、この1年半、多くの舞台がコロナによって実際に上演できるかどうかわからないまま稽古を重ねる状況にあり、それによる不安や葛藤が作り手たちにさまざまな影響を与えたと聞きます。そのような状況に鑑みると、「こつこつプロジェクト」の意味はさらに重要になってくるのではないでしょうか。

だから僕、免疫ありましたよ(笑)。コロナの状況次第で公演日程が決められないとか、実際に上演できないとか、僕としては受け入れられたというか。もちろん公演ができるかわからないのは不幸な時間ではあるけど、この経験によって「作品作りをやめるわけじゃなく、それでも稽古はし続けるんだ」という免疫が、みんなもついたのではないかと思いますね。

それと、ゴールがない稽古という点では、僕らも大学を出てしばらくウロウロしていた売れない二十代の頃、仕事はないけど時間はあるってときに、“劇場も取ってないしお金もないから公演はできないけど稽古だけしてる”という時間があったんですよ。今のように職業として演劇をやるようになってからそういう時間を失ってしまったところがあるんですけど、かつては目的のない稽古をゴールを目指さずにやっていたなということを思い出しましたね。

──「こつこつプロジェクト」に参加したことで、西沢さんの創作が今後影響を受けそうなことはありますか?

現実的には、こんなに恵まれた創作環境ばかりではないので、どの作品にも時間をかけられるかというとそれは難しいかなと思います。でも、何でも一瞬でパッと燃え上がる良さもあるし、長く付き合っていく良さもあると思うんですよね。それと先ほどお話しした通り、かつて図書館で戯曲を見つけてきて、公演日や企画も決まっていないのに稽古をやっていた、その頃のことを思い出せたのは良かったと思います。そういう意味で、僕の体内で“こつこつ気質”がちょっとだけ芽生えたというか。その点は「こつこつプロジェクト」に更生してもらったのかなって思います(笑)。

西沢栄治

西沢栄治

プロフィール

西沢栄治(ニシザワエイジ)

1971年、東京都生まれ。2000年、プロデュース形式のJAMSESSIONにて演出を始める。2004年、日本演出家協会主催の「若手演出家コンクール2003」にて最優秀賞を受賞。これまでの演出作に「フランドン農学校の豚」「シャケと軍手」「楽屋」「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」「ヴェニスの商人」「喜劇昭和の世界」3部作シリーズ、「女の平和」「四谷怪談」「牡丹灯籠」「天保十二年のシェイクスピア」「わが町」「夏の夜の夢」など。