ゴツプロ!の6人が語る「十二人の怒れる男」

父親殺しの容疑で起訴された少年。その裁判の陪審員として集められた、名前も素性もわからない12人の男たちは、少年が有罪か無罪かを巡って議論を繰り広げる──。1954年にアメリカのテレビドラマとして誕生し、その後映画化もされたレジナルド・ローズ作「十二人の怒れる男」は、個人と集団、建前と本音の間で揺れる人間の姿をリアルに描き出し、今なお観客の心をつかんで離さない。

今回ゴツプロ!は、この“アツすぎる男たち”の物語に挑む。ゴツプロ!メンバーの塚原大助、浜谷康幸、佐藤正和、泉知束、渡邊聡、44北川は、演出の西沢栄治と共に、本作をどのように立ち上げるのか。その思いを“アツく”語ってもらった。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 川野結李歌

ゴツプロ!なりの「十二人の怒れる男」を目指して

──ゴツプロ!第7回公演では、レジナルド・ローズの「十二人の怒れる男」に挑みます。“男たちが真剣にぶつかり合い、汗水垂らして認め合い、ギラギラに愛し合う”をモットーに掲げるゴツプロ!に、まさにぴったりな内容だと思いますが、過去6作が書き下ろしだったことを考えると、意外な作品選びだとも言えます。今回、なぜ「十二人の怒れる男」を選ばれたのでしょうか?

塚原大助 新型コロナウイルスの影響で、昨年は第6回公演「向こうの果て」が無観客配信になったり(参照:小泉今日子が“いくつもの顔”を持つ女を演じる、ゴツプロ!「向こうの果て」開幕)、新宿シアタートップスのオープニングシリーズとして上演予定だった52PROJECT vol.1「あっちにいく前に。」が中止になったり(参照:新宿シアタートップスのオープニングシリーズにゴツプロ!の新プロジェクト第1弾)とさんざんでした。そういう中でド演劇っていうか、真っ向から勝負できるような芝居がやりたいなと思ったんです。そのとき、椿組2016年夏・花園神社野外劇「贋・四谷怪談」(参照:椿組「贋・四谷怪談」が22年ぶり復活、松本紀保がお岩に)でご一緒した西沢栄治さんの顔がまず思い浮かんで。彼は古典の演出に定評がありますし、彼となら面白いものができるんじゃないかと思ったんです。

で、どの作品にしようかと考える中で、最初はシェイクスピアや寺山修司作品という案もあったのですが、ゴツプロ!のメンバーの中に「十二人の怒れる男」に出たことがある人や、ほかのカンパニーでの上演を観たことがある人がいて、「十二人の怒れる男」は面白いんじゃないかという話になって。コロナ禍で人と会う機会が少なくなり、密室で自分たちの意見をストレートにぶつけ合うということが少なくなっているので、確かにこの題材は適していると思い、またゴツプロ!としても翻訳劇に挑戦してみたい、と思っていたので、この作品に決めました。

──それを聞いて、皆さんはどのように思われましたか?

渡邊聡 「十二人の怒れる男」は以前にも出演したことがあり、大好きな作品だったので、大賛成でした。「こういう人いるな」と思うような存在が多数出てきますし、彼らが人権や命を一番に考えながらどうやってコミュニケーションを取って行くかを考えるのは、社会に対して演劇ができることの1つなんじゃないかなと。しかもゴツプロ!でやればすごく面白く、勢いがあるものになるんじゃないかと感じたんです。

浜谷康幸 僕は海外の戯曲をやるのが初めてなんですが、自分自身にとってもゴツプロ!にとっても新たなスタートになるんじゃないかと感じたので、挑戦してみたいと思いました。

佐藤正和 僕も海外戯曲は初めてです。海外の作品は登場人物の名前がわからなくなっちゃうんですよ(笑)。でも今回は海外戯曲でありながら1度も登場人物の名前が出てこないから、これならできるぞ!っていう(笑)。

一同 あははは!

泉知束 僕はゴツプロ!っぽいなという感じがすごくして、しっくりきました。

44北川 うん、そうだよね。

ゴツプロ!のメンバーたち。

ゴツプロ!のメンバーたち。

ピタリとハマった12人

──キャスティングについてはどう決まっていったのですか?

塚原 ゴツプロ!のメンバーが6人なので、陪審員役にあと6人必要だということで、まずはどなたに客演していただけるかを考えました。客演の方で最初に決まったのが、台本上で“おだやかな老人”と書かれている9号の小林勝也さん。ぜひ出演していただきたいとお願いに行ったら快く引き受けてくださいました。そして“非常に逞しく、迫力があり、自分の意見に確信を持っており、時には残酷になることを楽しんでいるふしも見える”3号役として山本亨さんにも出演していただけることが決まりました。“怒りっぽい不愉快な男で、出会う人間すべてを敵に回してしまう”10号には、演出の西沢さんの推薦もあってWAHAHA本舗の佐藤正宏さん。“頭がよく、調子も良い広告マン。人間を事業上の数字としてとらえており、人間に対する真の理解はまったく持っていない”12号役の三津谷亮くんと、“おとなしく、あやふやで、自分自身の意見をほとんど持っていない”2号役の佐藤達さんは、お芝居を観て良いなあと思っていたのでお声がけしました。また、“単純で、気の弱い青年”5号役には、ゴツプロ!とつながりが深い関口アナンにお願いしました。……というように、まずは客演の方の役が決まっていき、ゴツプロ!メンバーは残った役の中で考えていくことにしたのですが、渡邊聡の1号は不動でしたね(笑)。

一同 あははは!

塚原 まず本人が「1号をやりたい!」って言ったんですよ。で、台本を読んでみると確かにぴったりだなと(笑)。1号は“小柄な小心の男。特に聡明ではないが、固い決意の持ち主”。陪審員長でもあります。

左から渡邊聡、佐藤正和、泉知束、浜谷康幸、塚原大助、44北川。

左から渡邊聡、佐藤正和、泉知束、浜谷康幸、塚原大助、44北川。

浜谷 1号って、すごく誠実で理知的で、物事をきちんと捉えてやろうとするんだけど、時にすごく感情的になったりするんですよね。

佐藤 そこが似てる(笑)。1号には「自分をこう見せたい」という思いがあって、でもそこから大きくズレることがあって、その面白さが、僕から見ても渡邊聡にぴったり。

渡邊 (笑)。以前は8号をやらせていただいて、それも自分に合うなと感じたんです。でも1号がすごく必死にまとめようとしたり、必死になりすぎて途中でキレ出したり、そういうところは面白いなと思って。

左から渡邊聡、佐藤正和、泉知束。

左から渡邊聡、佐藤正和、泉知束。

塚原 普段の渡邊さんのままで、全然成立すると思います!

一同 あははは!

塚原 そのほかのゴツプロ!メンバーには、僕も含め、意外とこれまでゴツプロ!で演じてきた役とは違う役が振れたんじゃないかと思います。

44 僕個人としては、ゴツプロ!でやれば何をやっても面白くなるはずだと思うので、正直どの役でも良くて、それよりは登場人物のキャラクターとか時代背景とか、稽古でこのセリフを発するまでの過程をみんなで作っていくのが楽しみ。その点では、書き下ろしだとギリギリまで作品の背景がわかりませんが、既存の戯曲なら時代設定などがわかっているのであらかじめ想像しながら考えられる部分があるなと思っています。僕が演じる6号は、台本上では“誠実だが鈍い男で、自分の決断はゆっくりと、慎重に構築していく”とあって、ここから自分なりに6号の歴史やキャラクターを考える楽しみがあります。

浜谷 僕は、“ヨーロッパの戦乱を逃れてアメリカに来た男”11号を演じます。役と自分が近いなと感じたのは、例えばこういう話し合いの場で、そのことを単純に一生懸命考えるところですね。11号は1回「こう」と思ったら、たとえ途中で考えが変わったとしても、最初の考えを貫くことを考えていくようなこだわりと誠実さがあります。そこが、バックボーンは違いますけど自分と似ているんじゃないかなと思いますが……。

佐藤 僕が演じるのは、“すぐに怒りを表に出すし、それに全くなんの知識もないことに関してもすぐさま意見をまとめる”7号。確かにそもそも裁判に興味がなさそうで、でも陪審員に任命されれば、それなりに熱を持ってやろうとはする人だ、という気がします。

浜谷 7号ほどではないけど、確かにアビ(佐藤)さんって興味がないものには一切関わらないという意味で、近いところもあるかもしれない。

佐藤 うん、興味がないものは「早く終わらないかなー」って思ってしまうことがあるね(笑)。

塚原 僕、昨年アビさんが木村伝兵衛役で出演した「熱海殺人事件」を見て、7号は面白いんじゃないかと思ったんです。すごく色っぽくてカッコ良いなって。場を乱すようなことを言ってもトゲトゲしさだけではなくて、そこにその人なりの魅力があるというか。

佐藤 へえ、そうなんだ!

左から塚原大助、44北川。

左から塚原大助、44北川。

塚原 僕は“金にも地位にも恵まれている人物に見える”4号。“演説が巧みで、いつも自分を良き人間として表現する”性格で、「感情的にはならずにジェントルにいきましょう」って態度を取るんですけど、だから僕、「僕で大丈夫かな?」と思っていて……。

44 基本、感情優先だから(笑)。

塚原 そう(笑)。4号のように冷静に分析しながら発言するところは、自分の中にはあまりない部分かなと思います。

浜谷 でも最近は感情やパッションだけじゃなくて、それこそ4号のように、冷静に分析して決断することも多くなったんじゃない?

塚原 だったら自信になるなあ(笑)。

──泉さん演じる8号は、“物静かで思慮深く、おだやかな男。どの疑問もあらゆる角度から検討し、常に真実を追求する”ところがあり、劇中では有罪 / 無罪を決める最初の投票で1人だけ無罪に投票し、「議論しよう」と食い下がります。

 大変な役ですね。なかなか手強いなと思っています。

佐藤 いつもはめちゃくちゃセリフ覚えが早いけど、「今回はセリフが1個も入ってこない」って言ってたよね?

 やっぱり翻訳ものって日本とは価値観が違うからか、日本の戯曲だと日本人の理性でだいたい覚えられるんだけど、読みながらノッキングを起こしちゃうんですね。しかも8号ってすごく粘り強くて、全員の中で1人だけ反対意見を押し通す、相当な勇気とエネルギーが必要だと思います。ちょっと演出家みたいなところがあるのかな。自分からわざと焚き付けて人が変わっていく様をじっと観ているようなところもあるのかなって。

左から佐藤正和、泉知束、浜谷康幸。

左から佐藤正和、泉知束、浜谷康幸。

佐藤 最後の最後で、「本当はこの人、有罪と思いながら無罪と言ってたのかな」って感じるところもあるんだよね。そこがこの作品の芯のところだと思う。

塚原 僕は、8号を聖人君子のようにやってしまうと面白くないんじゃないかなって思ってて。8号も個人的な悩みを抱えてて、策士的なところもあると思うんですよね。映画版の8号を演じたヘンリー・フォンダはヒーロー的存在に見えるんだけど、テレビドラマ版の8号は割と普通の人で。どちらも面白いなと思いました。だから今回、知束くんがどういう8号を演じるのか楽しみです。

──演出の西沢さんとは、すでに何かお話をされていますか?

塚原 西沢さんも、役者たちが板の上でどうやって生き様をぶつけ合うかを見せたいとおっしゃってました。

佐藤 (チラシのビジュアルを見ながら)今回のキャスティング、怖いですよね。立ち向かっていく感じがすごくあるというか。

 ビジュアル撮影のときも先輩方の威圧感がすごくて(笑)。

──作品自体のファンも多い作品だと思います。

塚原 けっこういらっしゃいますよね。「十二人の怒れる男」っていろいろなカンパニーで毎年のようにやられているので、今回はゴツプロ!なりの面白さを見せたい。そういった点で、まずはキャスティングがうまくいったんじゃないかなと思っています。

佐藤 それと、守衛役で今回、椿組の木下藤次郎さんに出演していただくんです。

塚原 守衛は出番としてはあまり多くはないんですが、演出の西沢さんが「ここはしっかりした役者さんに頼んだほうが面白くなる」と、木下さんを推薦してくださいました。それでおそれ多くもオファーしたところ「うん、いいよー」と(笑)。

 藤次郎さんが守衛をやってくださることで、この作品がまた全然違うものになりそうな気がします。

佐藤 確かに守衛役を藤次郎さんが演じてくださるところが、ゴツプロ!らしいキャスティングだねと言われているポイントの1つかなと思います!