「新春浅草歌舞伎」特集|花形7人が見どころ解説!ビジュアル撮影の密着レポートも

七人七様、「新春浅草歌舞伎」での挑戦

──「新春浅草歌舞伎」の見どころ紹介からすでにチームワークを発揮いただき、ありがとうございます! 今回演じる主な演目 / 役についても教えてください。まずは松也さん。毎年大役を果敢にこなし、メンバーをまとめあげ、浅草では素晴らしいリーダーぶりを見せてくださいます。近年は先輩たちとの大一座でも存在感を示し、先日は「新感線☆RS『メタルマクベス』disc2」でシェイクスピアの世界を“傾きモノ”らしく劇烈に分厚く魅せ、よい声と大きな身体を生かした迫力ある舞台姿にファンも魅了されています。今回は「義賢最期」の義賢に初めて挑みますね(ほかの出演演目は「芋掘長者」魁兵馬、「対面」曽我五郎時政、「乗合船」通人)。

尾上松也

尾上松也

松也 前回の「御浜御殿」に続いて片岡仁左衛門さんにご指導いただけることが決まり、大変うれしく思っております。全員が一緒にそろう「乗合船」も楽しみですね。今回、出演者が決まった時点でメンバー全員が集まって会議をしたのですが、その中で「みんなが出る演目をやりたい」というアイデアが出たんです。その思いが通ったときは本当にうれしかったです。いつも以上に全員野球をしようと、5年目に向けて気持ちを1つに、新しい思いで取り組みます。

──次に、中村吉右衛門率いる播磨屋一門、期待の花形である歌昇さん。1つひとつの役に真摯に取り組む姿勢にはアツさがみなぎっていらっしゃって、(弟の)種之助さんと始めた勉強会「双蝶の会」は今年で4回目、そこで演じたスケールの大きな「関の扉」関兵衛は歌舞伎ファンの間で話題となりました。口跡よく力強い演技は、歌舞伎見巧者の期待を背負っていらっしゃいます。舞踊「戻駕」にご出演されるのは2度目ですね(ほかの出演演目は「対面」曽我十郎祐成、「芋掘長者」の菟原左内、「乗合船」若旦那)。

中村歌昇

中村歌昇

歌昇 今回の「戻駕」では浪花の次郎作を演じます。昨年の5月、大阪松竹座では相方の与四郎を演じたのですが、そのときの次郎作が中村勘九郎のお兄さんで、ものすごくステキで……。自分が演じさせていただけることに緊張し、同時にワクワクしています。隣りで感じたあの魅力が、少しでも出せればと思っております。

──お次は巳之助さん。何と言っても今年は、新作歌舞伎「NARUTO―ナルト―」での活躍が印象深いです。原作へのリスペクトを感じさせる丁寧に作られたヒーロー・うずまきナルトは、明るさの奥に陰影をたたえ、それでいて正直に生きようとする、巳之助さんらしい忍びの者が誕生した気がします。今年の新春浅草歌舞伎「御浜御殿綱豊卿」の真っ直ぐな助右衛門も素晴らしかったです。笑いのセンスもあり、コミカルな演技もお得意(ほかの出演演目は「対面」小林朝比奈、「乗合船」萬歳)。

坂東巳之助

坂東巳之助

巳之助 舞踊劇「芋掘長者」は父(十代目坂東三津五郎)と中村芝翫さんが演じてこられた演目。その息子同士である橋之助さんとやらせていただけることを大変うれしく思います。おかしくて楽しく、面白い舞踊劇なので、ここで新春初笑いをしていただければと思います!

──時代物、世話物の古典、新作まで幅広い作品に真摯に取り組む新悟さん。スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)「ワンピース」では個性の違う3役を鮮やかに演じ分け、その技術の確かさ、スキルの高さを見せつけました。楚々とした慎ましやかな風情、スラリとたおやかな様には色気もあり、期待の女方でいらっしゃいます。「義賢最期」の小万は初役ですね(ほかの出演演目は「芋掘長者」息女緑御前、「対面」大磯の虎、「乗合船」白酒売)。

新悟 「義賢最期」では以前、待宵姫をやらせていただいたことがありますが(11年の新橋演舞場「芸術祭十月花形歌舞伎」)、そのときから、義賢の切ない最期を見届ける小万という役に憧れ、「いつかやってみたい」と強く思っていました。義賢の壮絶な死に際、その思いを受け止めることで切なさを引き立たせられるよう、心して勤めたいと思います。

──舞台に出てくるとうれしくなるようなチャームが光る役者さんとしてご活躍、立役から女方まで、どんな役も生き生きと、歌舞伎らしい空気をしっかりとまといながら演じる種之助さんの浅草でのご活躍、楽しみです。舞踊が大変お得意でいらっしゃるので、「戻駕」「乗合船」に期待を高めている方も多いかと思います(出演演目は「戻駕」吾妻の与四郎、「義賢最期」矢走兵内、「番町皿屋敷」腰元お菊、「乗合船」才造)。

坂東新悟

坂東新悟

種之助 19年はまったく違う4役を勤めさせていただきます。「なんでもやる」と「なんでもできる」は違うと思いますので、お客様には「それぞれにヨカッタ!」と言っていただけるようがんばります。

──正統派二枚目、長身で華やかな容姿、平成世代の立役スターとして成長著しい隼人さん。巳之助さんと全力で取り組まれた新作歌舞伎「NARUTO―ナルト―」での影を背負った美しい横顔のサスケ役は新境地で、隼人さんの新たな魅力を知りました。「番町皿屋敷」青山播磨は新歌舞伎ですので、古典歌舞伎とは違う難しさがあるでしょうね(ほかの出演演目は「義賢最期」下部折平、「対面」鬼王新左衛門、「乗合船」大工)。

隼人 「番町皿屋敷」の播磨は、父(二代目中村錦之助)も何度も勤めた役です。岡本綺堂のお芝居は心理描写が難しいので、しっかり歌舞伎になるように演じたいですね。お殿様がプライドを傷付けられたあとの気持ちをきちんと表現したいと思っています。

中村種之助

中村種之助

──最後は橋之助さん。お父様のお名前を襲名して1年、「歌舞伎が大好き」という気持ちが舞台から伝わる勢い、きびきびとした凛々しい舞台姿に、無限の可能性を感じております。お父様が踊られてきた「芋掘長者」友達治六郎に挑まれます(ほかの出演演目は「義賢最期」進野次郎宗政、「番町皿屋敷」放駒四郎兵衛、「乗合船」女船頭)。

橋之助 巳之助のお兄さんと踊らせていただくのが楽しみですし、お兄さんの胸を借りて、息を合わせて踊りたいと思います。前に浅草に参加した際、打ち上げで松也のお兄さんが「橋之助になってまた帰ってきてね」と言ってくださりとてもうれしかったので、今回、橋之助として再び呼んでいただけるのがとてもうれしいです!

──最後に、舞台を共にする仲間だからこそ知るお互いの魅力、「他己紹介」をしていただけますでしょうか?。

松也 歌昇さんの魅力はですね、鍛えられた太い脚でしょうねー。

一同 (笑)。

歌昇 歌舞伎俳優は、みんな太いですから!(笑)

中村隼人

中村隼人

松也 (笑)。あと、とにかく真面目なところ。みんな真面目なのですが、歌昇さんの真面目さは頼もしいんですよ。お子さんも生まれて背中に責任感も漂ってきていますし、今後の活躍も楽しみな仲間です。

歌昇 お兄さん、ありがとうございます。巳之助さんは同い歳ということもあって、いいところも悪いところも、いろいろと知っていますが(笑)、とにかく周りに気を遣う細やかで繊細な方。持っている世界観が広くて「こんな発想するんだ!」と驚きますし、自分にない視野を与えてくれます。その斬新さは役作りにも生かされていて、本当にステキだと思います。こう話し始めると語りきれないですね、一晩中語れます(笑)。

巳之助 一晩中語ってくれるんだ……(笑)。橋之助くんの魅力はですね、うっとうしいぐらい情熱的なところです。しかも自分の考えを恐れずに口に出すことができる稀有な人。世の中には、それができる人とできない人がいるじゃないですか。僕が思うに、歌舞伎俳優に限らずこれができる人って、大概すごい人なんです。ぜひ将来は、無茶なことを言ってバンバン通していけるような“すごい人”になってもらいたい。

一同 (笑)。

巳之助 そんなふうに、橋之助くんは未来を感じさせる人です。

中村橋之助

中村橋之助

橋之助 うれしい、ありがとうございます。種之助さんは、大好きな先輩です。自分が出ていないときでもお芝居を観に行き、楽屋でお話をして、いつも勉強させていただいています。一緒の舞台でもたくさん引っ張ってくださいますし。この中では年齢が近く、勝手に身近なお手本にさせていただいている、とにかくカッコいい先輩です!

種之助 橋之助くん、ありがとうございます! 隼人さんは「きっとあの役はいいだろうな、合うだろうなー」という役柄がたくさんパッと思い付くし、どんどん本人の色というものが広がっていますよね。ご本人は一歩一歩、慎重に考えながらやっていらっしゃると思いますが、思い切りよく突き進んでいるように見えますし、迷いがないように見えるところがイイなと常々思っています。

隼人 (ちょっと照れたような表情で)新悟さんは優しい先輩です。芝居が本当にお好きで歌舞伎以外のお芝居もたくさんご存知。勉強熱心でいらして、僕も見習いたいです。いろいろな劇場に足を運ばれるからこそ、人と違うところまで見えていらして、独自のお芝居の視点をお持ちなんです。そして女方一本というまっすぐなところもステキです。

新悟 (背筋を伸ばして)僕が最後ですね。松也お兄さんは優しくて面倒見がよく、頭1つ抜けて年上なのに先輩風を吹かさないで、いつもフラットな話し合いの場を設けてくださいます。今回の「新春浅草歌舞伎」も出演者が決まった時点でお兄さんが連絡をくださって集まることができました。お兄さんは、いつも背中で引っ張ってくださる、素晴らしいリーダーです。

松也が「今度の浅草は全員野球」と語るそのまま、息の合った団結力と信頼関係を感じさせる座組の熱気が伝わっただろうか。19年の浅草は、いつにも増して盛り上がること必至。20日の第2部は着物で観劇すると記念品の進呈がある「着物で歌舞伎」、浅草の芸者衆が観客をお出迎えする毎年恒例「浅草総見」などもあり、ぜひ新春らしい華やぎも楽しんでほしい。