東葛スポーツ・金山寿甲の小劇場用語裏辞典 Vol.11

東葛スポーツ・金山寿甲の小劇場用語裏辞典 Vol.11 [バックナンバー]

小劇場演劇の秋にこそ訪れたい、金山寿甲が愛した宿3選

索引「電話 / 逗留」

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辞典とは、言葉や漢字を集め、一定の順序に並べ、その読み方・意味・語源・用例などを解説した書(「広辞苑」より)。1960年代に小劇場と呼ばれる演劇シーンが立ち上がってから約半世紀超、小劇場を愛する演劇人や観客たちが独自の文化を形成してきた。「東葛スポーツ金山寿甲の小劇場用語裏辞典」では、小劇場で使用されるさまざまな演劇用語を、岸田國士戯曲賞受賞作家の東葛スポーツ金山寿甲が新たな角度で解釈する。

今回は、仕事の依頼手段の1つである「電話」にまつわる話、作家が集中して創作活動を行うために宿に滞在する「逗留」の話題を取り上げる。

まえがき

演劇には演劇用語がある。医学には医学用語があり、数学には数学用語があり、哲学には哲学用語があるのと同様である。そして、医学を怪しむためには医学用語を、数学をせんさくするためには数学用語を、哲学をもてあそぶためには哲学用語を知っておいた方がいいように、演劇とおつきあいするためには演劇用語を知っておいた方がいい。

……というまえがきから始まるのは2003年に出版された別役実著「うらよみ演劇用語辞典」です。小劇場には小劇場用語があります。小劇場とおつきあいするためには小劇場用語を知っておいた方がいいですし、知っておいていただくことで望まないおつきあいをしなくても済むのかと思います。

金山寿甲(撮影:田中大介)

金山寿甲(撮影:田中大介)

索引「電話 / 逗留」

・電話

皆さんは、携帯電話に知らない電話番号からの着信があった場合にどうなさいますか? 大事な用件であれば相手が留守電にメッセージを残すでしょうし、こんなご時世ですので面倒なことに巻き込まれないためにもスルーするのが得策でしょう。僕もそうしています。

演劇の公演をやっておりますと、お越し下さったお客さまから終演後にお名刺を頂いてご挨拶を交わすことがあります。このご縁からお仕事につながることもあるのですが、お仕事のご相談は出版系ですとメールで、テレビ関係ですとお電話で頂くというケースが多いように感じます。ですので、知らない電話番号から着信があるとつい、「テレビ関係者からの仕事の依頼かな?」と思って電話を受けてしまうのです。

10月12日に受けたお電話のお話です。僕が主宰する東葛スポーツの公演を10月9日に終え、家族サービスとして、息子と二人でINN THE PARK 沼津というグランピング施設を訪れておりました。朝食を済ませてコーヒーを飲んでいると、+80◯◯◯◯◯◯◯◯◯という見知らぬ電話番号から着信がありました。通常ならスルーするところですが、公演後間もないこともあり、「テレビ関係者からの仕事の依頼かな?」というスケベ心から電話を受けてしまいました。すると

相手「金山寿甲さんですか?」

僕「はい」

相手「兵庫県警捜査二課の◯◯と申しますが、いまご自宅にいらっしゃいますか?」

僕はこの質問に答えることなく電話を切りました。アポ電なのか何なのか、以前にも大阪府警の刑事を名乗った同様の電話がかかってきたことがあります。どちらの電話も僕の名前をちゃんと把握しており、このことからも僕の名簿が裏社会に出回っているんだということがうかがえます。と言いつつ、つい先日も性懲りもなく見知らぬ番号の着信を受けてしまったのですが、TBSの関係者からのお電話でお仕事に発展しそうなお話でした。何度かやり取りしている間に一切ご連絡を頂けなくなってしまったのですが、恐らく見限られたのだと思います。というわけで、詐欺師だろうが業界関係者だろうがどっちみちお仕事にはつながらなかったので、今後見知らぬ番号からの着信は一切お受け致しません。お仕事の依頼は、僕の心に直接語りかけて頂きますよう宜しくお願い申し上げます。

金山の携帯電話の着信画面。

金山の携帯電話の着信画面。

・逗留

川端康成は、湯河原にある湯本館という宿に長逗留し、「伊豆の踊り子」を執筆したそうです。僕も台本やラップ作りに行き詰まると、家事と育児を引き受けてくれる妻のご厚意に甘えつつホテルに逗留することがあります。僕はホテルや旅館を予約する際に“一休”というサイトを利用しています。そのサイトで“読書の秋にこそ訪れたい、文豪が愛した宿5選”という特集をやっていたので、それにならって今回は“小劇場演劇の秋にこそ訪れたい、金山が愛した宿3選”をお届けしようと思います。ちなみに、レギュラー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンドとある一休の会員ステージにおいて、6ヶ月間の利用金額30万円以上という最高峰のダイヤモンド会員に君臨する僕による3選ですので、それなりの母数の中から選出されているものとお考え下さい。

3位:ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル

宿泊データ:9月21日~1泊

横浜みなとみらいにある、ヨットの帆をイメージした外観が特徴のホテルです。みなとみらいですと、横浜ランドマークタワーにある横浜ロイヤルパークホテルのほうがランドマークプラザに直結していて食事をするにも何をするにも便利なのですが、執筆のためという目的を見失わないためにも、あえてインターコンチを選択しました。このホテルでは、10月に上演した「ドリームハウス」の劇中で行った「正三角関係」というラップを書き上げました。

2位:鳥羽国際ホテル

宿泊データ:10月12日~2泊

このホテルは公演後に行ったホテルで、1本目のコラムで出てきたINN THE PARK 沼津の翌日から宿泊しました。この旅行は車で行ったのですが、行程としてはこのようになっています。

1泊目:小学校から帰った息子を車に乗せ沼津へ、INN THE PARK 沼津に宿泊

2泊目:ナガシマスパーランドで遊んだのちクロムハーツに寄るためだけに名古屋へ、三重県鳥羽市に移動し鳥羽国際ホテルに宿泊

3泊目:伊勢神宮と鳥羽の離島巡り、鳥羽国際ホテルに宿泊

鳥羽国際ホテルはとにかく景色が素晴らしいです。ホテルのテラスから海を眺めていると、いま我が家に税務調査が入っているんだという現実を忘れてしまうほど穏やかな気持ちになりました。鳥羽は真珠が名産らしく、真珠パックといういかにも妻が喜びそうな物が売っていて、お土産選びに悩まなくて済むのもありがたかったです。帰りの日は連休最終日ということもあり、大渋滞に巻き込まれながら鳥羽から葛飾区までおよそ12時間の長旅だったのですが、意外と楽しみながらドライブすることができ、もし税務署に有り金の全部を持っていかれたとしたら、車の運転に携わる仕事をしようと心に決めました。

お土産として購入したフェイスマスク。

お土産として購入したフェイスマスク。

1位:ホテル ルミエールグランデ流山おおたかの森

宿泊データ:9月29日~1泊、10月1日~2泊

「ドリームハウス」の公演の際に最も利用したのがこのホテルです。この公演の小屋入りは10月1日でした。宿泊データをご覧頂きたいのですが、小屋入り直前はもとより、小屋入りしてもなおラップ制作に追い込まれていたということがおわかり頂けるかと思います。劇場がある北千住から高速道路で30分もあれば到着できるのと、慣れ親しんだ流山にあるホテルということで、追い込まれた中にも少しでも気持ちの余裕を持ちたいと今回初めて利用しました。

結論からすると現状僕のお気に入りホテルのナンバー1がホテル ルミエールグランデ流山おおたかの森です。まず大浴場完備というのがありがたいです。「ラップのあと1行がどうしても書けない!」というとき、大浴場の湯船に浸かると湯気の中からゆらゆらとパンチラインが降りてきたりします。それが欲しくて宿泊中に何度も大浴場に行っては入浴を繰り返すのですが、そうするとタオル問題というのが出てきます。ビジネスシーンでも使えるホテルで大浴場を完備しているホテルは結構ありますが、タオルは自室のものを持っていって使用するといったシステムを取るホテルも少なくありません。その点ルミエールグランデは大浴場にタオルが大量に備えてあり、僕のように何度もお風呂に入らざるを得ない状況の者にとって、タオルが足りなくなるという心配もないのです。

また、朝に集中して書きたいタイプの僕は、指定される朝食の時間に縛られたくないので素泊まりのプランを予約します。とはいえ、朝はコーヒーも飲みたいですし小腹も減ります。そんなときホテルの近くにコンビニがあるとありがたいのですが、ご心配には及びません。ルミエールグランデの目の前にはローソンとセブンイレブンがあるのです。ローソンでマチカフェのラテを、セブンイレブンではお店で揚げたドーナツ(メープル)を、なんていう最善のチョイスもこのロケーションなら叶えられるのです。

そんなルミエールグランデに宿泊しながら僕は、「決算」「タンス」「自己紹介ラップ」を書き上げました。そして最後の最後、板橋駿谷さんの自己紹介ラップが完成したのが10月4日の朝でした。10月4日といえば「ドリームハウス」の初日です。板橋さんをはじめ、出演者の皆さんがラップをミスってしまったとしても、それは全て僕の書くのが遅いせいです。逆に、1日2日であのラップをやれている出演者の皆さんの凄さをお客さまにも知って頂けたら幸いです。いつか、出演者の皆さんやお世話になっている皆さんに慰安旅行を企画できたらなと思います。そのときは、登別の第一滝本館に。

この旅館については、また機会がありましたら。

10月に上演された、東葛スポーツ公演「ドリームハウス」のビジュアル。

10月に上演された、東葛スポーツ公演「ドリームハウス」のビジュアル。

金山寿甲 プロフィール

脚本家・演出家。演劇ユニット・東葛スポーツ主宰。ラップやサンプリングなどヒップホップからの影響と、俳優が本人役で出演するなどリアルとフィクションが交錯する作風が特徴。2023年、「パチンコ(上)」で第67回岸田國士戯曲賞を受賞した。アメリカ・ニューヨークのオフブロードウェイを拠点に活動する俳優・劇作家アシル・リーとの新作ワークインプログレス公演を12月上旬に控えている。

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