みあらしい表現を見つけられたかもしれない
──アルバムの収録曲のうち6曲の作詞をみあさんが手がけています。どういう経緯でここまでがっつりと作詞に携わることになったのでしょうか?
前回のアルバム「ガールズブルー・ハッピーサッド」のインタビューのときに、「もっと作詞はされないんですか?」と聞いてもらったと思うんですけど……。
──前作では1曲、「東京」の作詞を担当されていましたよね。
はい。実はそのときも、もっと作詞もできたらいいなという思いはあったんです。ただ、決まった譜割りの中で、自分らしいワードを選んで歌詞を紡いでいくのがすごく難しくて。なので「東京」の歌詞を1曲書くにしても、ものすごく時間をかけて悩みながら書いたんです。
──それで当時はまだ少し自信が足りなかったと。
そうだったんですけど……それでもやっぱりどこかで、自分が歌う楽曲を自分の言葉で歌ったらどういうふうに伝わるんだろうという興味はあって。じゃあ、みあらしい言葉ってなんだろう? みあらしいセンテンスってなんだろう?ということを思いながら小説を書いていく中で、去年の年末くらいに「これは自分らしい文章が書けたかもしれない」と思えた瞬間があったんです。
──去年の年末と言うと、「あの頃、飛べなかった天使は」(昨年12月にみあのTwitter公式アカウントで連載された小説)あたりですかね?
その頃ですね。それで年末にスタッフさんに「歌詞も書いてみたいです」と話をさせてもらったんです。ちょうどその頃にポカリスエットが協賛する「全日本高等学校・全日本中学校チアリーディング選手権大会」の応援CMソングの話をいただいて、「じゃあこの歌詞をみあが書いてみたら?」とスタッフさんが言ってくれたんです。それはすごくうれしかったんですけど、「ここでいいものを書かないともう書かせてもらえないかもしれない!」と思いながら(笑)。
──タイアップ曲なので余計にプレッシャーが。
というのはありつつ、でもあまり気負わずに、みあの書きたいものを書いてみようと思って書いてみたんです。そしたら以前よりも歌詞が書きやすくなってるような感じがして、自分の納得いく歌詞が書けたなと。それがアルバムに収録されている「醒めないで、青春」という曲です。スタッフさんにも「なかなかやるじゃないか」みたいな感じで言ってもらえて(笑)。
──自信がついたんですね。
うん、そうかもしれません。なので今年に入ってから制作した楽曲に関しては、すべてではないんですけど、ほとんど歌詞を書かせてもらっているんです。自分が歌うものを自分の言葉で伝えたいという気持ちがどんどん膨らんでいって、その気持ちをこのアルバムにも落とし込めたのかなと思います。
“ブルー”という単語は絶対に入れたかった
──前作「ガールズブルー・ハッピーサッド」は思春期の女の子の憂鬱な部分や感情のアンバランスさにスポットを当てたアルバムでしたが、今作ではそういう感情がよりポップな形で昇華されています。切ないけどポップ、ポップだからこそ切ないという音楽性はこれまでも三月のパンタシアが大切にしてきたところかと思いますが、今回「ブルーポップは鳴りやまない」というタイトルを掲げてそこに改めて向き合った理由は?
三パシはアルバムを作ることになったら、まず作品のテーマにもなるタイトルを決めるんです。前回のアルバムは女の子の青春の青さや憂鬱さといった三パシの“ブルー感”みたいなものをたくさんの人に知ってもらえた作品になったんじゃないかなと思っていて。今回はもっとそれを浸透させたいなという思いがあったので、そのブルー感を継承しつつ、さらに新しく進化させたアルバムにしたいなと。なので“ブルー”という単語は絶対にタイトルに入れたいなと考えていて。
──なるほど。
たとえば、三パシの音楽性をひとことで表すワードは何になるんだろうなと考えていたら、“ブルーポップ”という言葉が思い浮かんで。憂鬱な気分をポップな音楽に昇華していく、そしてその音楽がリスナーの心の中でずっと鳴り響きますようにという思いを込めて「ブルーポップは鳴りやまない」というタイトルを付けました。青の中でも水色に近いような明度の高い青みたいな楽曲もあれば、黒に近い青みたいなダークな曲もあって、青の中でもいろんな彩度の感情を描けたアルバムになっているんじゃないかなと思っています。
脇目もふらずに駆け出しちゃう恋
──リード曲の「サマーグラビティ」は7月にTwitterで公開されていた小説「サマースプリンター・ブルー」を元にした楽曲ですね。小説では高校生の片思いの心情がみずみずしく描かれていました。
2018年から夏と冬にTwitter上で小説を公開して、その物語を原案とした新曲をYouTubeで発表する「ガールズブルー」という企画をやってきて。そんな中で今年の夏も小説を書いて新曲を発表したいなと思い、3月ぐらいにどういう物語にしようかなと考えていたんですけど、その頃にちょうど新型コロナウイルスが……。
──世界中に広がっていった時期ですね。
全然収束せず、「この先どうなるんだろう?」という不安や薄暗い気持ちがなんとなく世の中に漂っていて。じゃあこういう状況の中で三月のパンタシアとして何ができるんだろう、何が届けられるんだろうと考えたときに、めちゃくちゃ前向きな物語を届けたいと思ったんです。夏に始まった恋に対してがむしゃらに突っ走る女の子、みたいな。その主人公の女の子に前向きな気持ちや明るさを託して、読んでくれた人にそれが届けばいいなと。
──みあさんは前回のインタビューで「『ガールズブルー』の主人公の女の子は、だいたいいつも普通な子が多い」とおっしゃっていましたが、「サマースプリンター・ブルー」の主人公・まどかちゃんはまさにごく普通の女の子ですよね。普通の女の子が全力で恋をする姿が、小説全体の明るくてみずみずしい雰囲気につながっているのかなと。
まさに今回は特に普通の女の子を書こうと意識しましたね。これまでの小説みたいに何か仕掛けがあったり大きな事件が起こったりするわけではなく、普通の女の子が普通に恋をするだけの話ではあるんですけど、これをいかに面白く書けるかというところにチャレンジしました。今回はとにかく明るいものを書いてみたいと思っていたので。例えばまどかちゃんが先生や先輩に勝手にあだ名を付けたりするシーンは自分の経験にもとづいています(笑)。
──(笑)。そして楽曲のほうは40mPさんが作詞作曲を担当しています。今回40mPさんにお願いしたのはどういう意図があったんでしょうか?
40mPさんはそういう普通の女の子の物語を、鮮やかな色彩のサウンドで紡ぐプロみたいな方だと私は思っていて。40mPさんの世界観とこの物語がきっとハマるんじゃないかなと思って、お願いさせていただきました。
──楽曲のイメージについてはどのようにお伝えしていたんですか?
好きという気持ちを言いたくてもなかなか言えない切なさというのは全編にありつつも、真夏に海に駆け出したくなるような疾走感を一番大切にしたいということはお伝えさせてもらいました。歌詞に関しても、脇目もふらずに駆け出しちゃうみたいな……。
──好きだからこそ止まらない感情が表現されていますね。
そうなんです。「恋は止まれない、私も止まれない」という小説のキャッチコピーもお渡しさせてもらったんですが、40mPさんは小説の物語をすごくきれいにすくい取って歌詞にしてくださって。どうしても止まれない気持ちや、相手から目が離せなくなっちゃう感じを「夏の重力」というワードで表現されているのが特に新鮮で、「こういうワードが出てくるんだ」と感動しました。
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たぶん青春してたんだろうな