三月のパンタシア|変わらないまま進化し続けること”

どこまで落ちていっても大丈夫です

──そんな希望の見える終わり方から、曲順的にはアルバム随一の病み曲「不揃いな脈拍」が続きます(笑)。

あはは(笑)。

──前作に収録されていた「ビタースイート」もかなりの病み曲でしたが……。

1アルバム1病みは入れたいなと思って(笑)。そういう思いから小説を書き始めました。

──小説「情緒10/10」では、好きな人と一緒に過ごしているけれど相手の心には別の人がいるという虚ろな心境が描かれています。

自分には恋愛に関してそこまで病むような経験がないんですが、想像してみたんです。相手の心の奥には別の人がいるのがわかっているけど、好きだから離れられなくて一緒にいるとしたら、それってかなり切ない状況なんじゃないかなって。一緒にいることで不安も募っていく……みたいなところから物語を書いていきました。なので小説のほうは最後までずっと「なんで一緒にいるのにこんなに不安になっちゃうんだろう」という感じで(笑)。

──なかなか救いのない状態ですが、そんな物語をみきとPさんが楽曲にしています。

みきとさんは幅広いジャンルの楽曲を作られていますが、その中でも私は「小夜子」や「刹那プラス」のようなダークな世界観な曲がすごく好きで。この小説を引っさげてどういう方に楽曲をお願いするのがいいんだろうと考えたときに、みきとさんとご一緒できたら素敵な曲になりそうだなと思ったんです。

──作詞はみあさんとみきとPさんの共作ですね。歌詞の共作は初めてかと思うのですが、病み曲でチャレンジされたという(笑)。

(笑)。共作っていろんなやり方があると思うんですけど、今回は1番をみきとさんが書いて、2番を私が書いて。さらにその続きをみきとさんに書いてもらうという形で交互に書いていきました。みきとさんの歌詞の続きを書くのはすごく新鮮でしたね。

──共作するにあたって、みきとさんにはどういうことを伝えてたんですか?

最初の打ち合わせは「どうしようもない話ですよね」というところから始まって(笑)。でも、本当にそうなんですよね。虚ろな気持ちでいる女の子の、どうすることもできない恋愛の話なので。その切なさを楽曲にしたいと思っていたんですけど、ちょうど打ち合わせをしていた時期に三月のパンタシアは「ランデヴー」や「逆さまのLady」といった明るめの曲をYouTubeで続けて公開していて。

──今年の春頃ですよね。

それでみきとさんから「三月のパンタシアは最近明るい楽曲が多いですけど、今回どのくらい暗くして大丈夫ですか?」って言われて(笑)。「ポップな楽曲がたくさん収録されるアルバムですけど、この曲に関してはもう病み曲という位置付けとして、どこまで落ちていっても大丈夫です」とお伝えさせてもらいました。

──そしてどこまでも落ちていったと。

はい(笑)。この曲はジャズっぽいテイストになっているので、また新しい三月のパンタシアを見せられるんじゃないかなと思います。

──ジャジーな曲調にぴったりと合うような、艶のある歌い方をされていますね。

曲全体に虚ろな雰囲気が漂っているんですけど、サビは感情が爆発するようなイメージがあって。落ち着いていたかと思えば急に爆発する、そういう感情の波を歌声で表現するのが難しかったです。この曲が一番レコーディングに時間がかかりましたけど、苦労したぶん、すごくいい歌が録れたんじゃないかなと思っています。

どういう楽曲にしてくれるのかな

──新曲「透明色」はツユのぷすさんが提供されていますが、ぷすさんとは以前から親交があったんですか?

「透明色」イラスト

ぷすくんは三パシのライブを観に来てくれたことがあって。それからTwitterのDMとかでやり取りをしながら、「いつかご一緒できるといいですね」という話をしていたんです。そんな中でアルバムを制作することになったので、このタイミングでご一緒できたらいいなと思って。

──「透明色」は小説「水色の君」を原案にした楽曲ですが、アルバムの中でもこの小説の楽曲をぷすさんに依頼した理由はあったんでしょうか?

「水色の君」はミュージシャンを目指しているギター少年と、世界が違う人だなと思いながら彼と付き合っている女の子の話で。ぷすくん自身もギターを弾いてツユとして活動されているというのもあって、ぷすくんの目線でこの小説を読んだときにどういう楽曲にしてくれるのかなということに興味があったんですよね。歌詞では女の子側の気持ちを書いてもらっているんですけど、女の子の感情をこういうふうにすくい取ってくれたんだなとすごく面白かったです。

──曲調はぷすさんにお任せしたんですか?

そうですね。個人的にツユの楽曲が好きだったので、自由に作ってもらいたいなと思っていました。ただ、ギターロックが得意なんだろうなとは思っていたので、そういう楽曲の方向性だけはお伝えしていましたね。

──小説のタイトルが「水色の君」、そして楽曲にも「透明色」「秀麗な青」という色にまつわるフレーズが印象的に使われていますね。

小説の中でも「ソーダの水色は君に似ている」とか「水色の膜で包まれたみたいな歌声」というような、水色という言葉を象徴的に使っているんです。ぷすくんはこの水色を「透明色」と「秀麗な青」に分解して歌詞にしているのかなと。「透明色」という透明な光を生み出す色と、「秀麗な青」が歌詞の中で混ざり合っていく中で、水色という色彩になっていく……すごく面白くて、クリエイティブな発想だなと思いました。

一緒に歩んできた物語

──アルバムのラストナンバー「ランデヴー」は、みあさん作詞によるファンの方へのストレートなメッセージソングになっています。3月8日の“三パシの日”にYouTubeで公開された楽曲ですね。

もともとはライブでお客さんとコール&レスポンスをしながら一緒に盛り上がれる楽曲を作りたかったんです。それでどういう歌詞を書こうかなと考えたときに、みあとファンの1対1の物語を書いてみたいなと思って。

──この曲に関しては小説もなく。

いつもは小説を元に歌詞を書いていくことが多いんですけど、私とファンの方の関係性、その中に物語があるんじゃないかなと思ったというか。これまで一緒に歩んできた物語があるから、ここからさらに創作して小説を書くのはなんだか野暮な気がしたんですよね。だから「ランデヴー」に関しては自分のこれまでの活動を振り返りながら「こういうところで助けられてきたな」とか、「こういう笑顔を見れたのがうれしかったな」という自分の記憶の中の物語から歌詞を書いていきました。

「ランデヴー」イラスト

──「空っぽな私に あなたは居場所をくれたね」という歌詞がありますが、みあさんは去年ライブでも「私に居場所をくれてありがとう」とお客さんにおっしゃっていました。リスナーの方が自分の居場所を作ってくれたという感覚は強いんでしょうか?

そうですね……私はもともと自分に自信がなくて。三月のパンタシアの活動を始める前から自信が持てていなかったし、あまり明るい将来を描けていなかったというか。リスナーの方がいてくれるから自分は歌えている、そしてこんなに楽しい場所を与えてもらっているというのをライブでは特に実感します。去年のライブでも特に言葉にするつもりはなかったんですけど、気付いたら言ってました(笑)。

──三月のパンタシアは今年の8月に活動5周年を迎えましたが、「ランデヴー」は「物語はまだまだ続いていく」という6年目以降に向けての言葉で締めくくられています。

このフレーズでアルバムを終わらせたいなという思いがあったので、曲順を決めるときもまず「ランデヴー」を最後に置くところから決めていきました。

──これもライブでのMCの話にはなりますが、以前みあさんは「変わらないまま変わっていきたい」とおっしゃっていました。みあさんが多く作詞を手がけていたりエレクトロポップやバラードにも挑戦していたり、三月のパンタシアが変わっていきながらも、“ブルーポップ”という芯のようなところに向き合っている本作は、まさに“変わらないまま変わっていく”アルバムだなという印象を受けました。

前に進んで新しい場所に行くことって、変わっていくことでもあると私は思っているんです。でも三パシの根底にある「終わりと始まりの物語を空想する」というテーマ、そして伝えたくても伝えられない切なさやもどかしさ、葛藤をすくい取って音楽で表現するという部分はやっぱり変えちゃいけないし、変えたくない。その変えたくない部分を守るために変わり続けています。このテーマを引っさげて、三パシがこれからどういうふうに歩んで行くのかというところには注目してもらえたらうれしいなと思います。