みあ(三月のパンタシア)×イラストレーター・ダイスケリチャード|イラストから見る“三パシの世界”

みあ×イラストレーター・ダイスケリチャード対談

合っててよかったな(笑)

──ダイスケさんは2018年の「青春なんていらないわ」から三月のパンタシアのキービジュアルやリリックビデオなどビジュアルを手がけています。そもそもどういう経緯でダイスケさんにイラストをお願いすることになったんですか?

「青春なんていらないわ」リリックビデオより。

みあ 1stアルバム「あのときの歌が聴こえる」(2017年3月発表)をリリースしたあと、これからどういうふうに活動していこうかということを考えていて。私は学生時代から日本のロックバンドをよく聴いていたので、バンド色が強くにじむような楽曲も今後発表してみたいという思いがあったんです。そういうふうにサウンド感を変えていこうとしたタイミングで、ビジュアルでも新しい表現ができるんじゃないかなと思って。どなたにお願いしようかなといろんな方のTwitterアカウントを見ている中で、ダイスケさんのイラストを発見したんです。

──もともと知り合いというわけではなかったんですね。

みあ そうなんです。ダイスケさんが描くちょっと気だるげな雰囲気をまとう女の子が三パシの物語とマッチするんじゃないかなと思って、お声がけさせていただきました。

ダイスケ 当時ちょうど前職を辞めて、イラストレーター1本でやっていこうかなと思っていたタイミングだったんですよ。地元で友達とボーッと釣りをしていたら、いきなりソニーの人からメールが届いて(笑)。

みあ あはは(笑)。

ダイスケ それで打ち合わせのために東京に帰ってきたんです。

みあ 私は最初の打ち合わせには同席していなかったので、そこではお会いできなくて。ここ最近は積極的にいろんな人とお話しているんですけど、活動初期の頃はあんまり人前に出ていなかったんです。

ダイスケ ちょうど2年くらい前の配信トークライブで初めてお会いしましたよね。イラストを描いたあとにご本人に会ったので、僕にとっては答え合わせのような瞬間でした。

──ダイスケさんがイラストを手がけるようになってから、三パシのキービジュアル、リリックビデオに登場する主人公はすべてみあさんで統一されていますが、ご本人の姿を見ないままビジュアルを描いていたんですね。

ダイスケ でも、打ち合わせのときにスタッフさんが軽く写真を見せてくれたんですよ。「こういう方ですよ」って。

みあ ええっ!?

ダイスケ ただ、お顔がちゃんと写っている写真じゃなくて、髪型だけわかるような感じでした。「今はこれくらいの長さなので、イラストに合わせてこれよりは短くできます」という髪の参考みたいな感じで。

みあ 初期の頃はロングヘアだったんですけど、個人的には短い髪のほうが好きだったので、三パシのビジュアルが変わるこのタイミングで髪を切りたいなと思っていたんです。みあ=ショートボブみたいな印象が定着していったらいいなと。だからダイスケさんにはずっと同じみあのビジュアルを描き続けてもらっています。

──会ったことのない人のビジュアルを、どういうイメージで考えていったんですか?

ダイスケ 多分似せても似ないと思ったので、自分の好きなように描かせてもらいました。のちのちお会いしてみたら、イメージが合っててよかったなって(笑)。

──ファンの皆さんの間では、みあさんはこのビジュアルで浸透していますよね。

みあ ああ、そういう意図はありました。それまでは毎回違うイラストレーターさんに、みあじゃなくて各楽曲の主人公となるキャラクターを描いていただいていて。それはそれでいろんな物語の女の子がビジュアル化されるという面白さはあったと思うんですけど、みあ自身の匿名性が守られているぶん、ビジュアルイメージのばらつきが生じてしまうなという懸念点があって。今後はビジュアルを統一させたほうが三月のパンタシアのイメージが定着しやすくなるんじゃないかなというところで、ずっとみあを描いてもらっています。

ダイスケ 僕としてはここまで続けて描かせてもらえると思っていなかったので、ありがたい話ですね。

印象深いイラスト

──イラストには小説に登場するアイテムが詰め込まれていますが、どういうふうに打ち合わせてイラストを作っていっているんでしょうか?

「たべてあげる」イラスト
小豆島で取材をして制作した「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」イラスト

ダイスケ まずはデモ音源と小説、三パシさん側からの「こういうアイテムを入れてほしい」というリストがセットで僕のところに届くんです。

みあ 確かに最初にお伝えすることが多いですね。

──例えば「たべてあげる」のリリックビデオのイラストにはパンやコーヒーが描かれています。これは楽曲と連動する小説に出てくるアイテムですね。

みあ 人をダメにするクッションみたいな感じのパンがあったらかわいいんじゃないかなと思って(笑)。あとはダイスケさんが普段描いているイラストによく目玉焼きが出てくる印象があるので、それもお願いしました。

ダイスケ パンは何回か描き直しましたけどね。パンが固そうだという話になって(笑)。

みあ あはは(笑)。

ダイスケ 僕はアルバムの収録曲の中だと、このイラストが印象に残っていますね(「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」のイラストを指差す)。

みあ このときは三パシチームとダイスケさんで香川の小豆島に取材に行ったんですよ。そこでイメージを共有できるものがたくさんあったぶん「これも書いてほしい、あれも書いてほしい」と思って、白い風車だったりオリーブだったり、めちゃくちゃ描き込んでいただきました。確かに印象深いです。

ダイスケ このイラストは一番時間をかけてがっつりと描きましたね。

日常から1本だけ線が外れたところ

──ダイスケさんが三月のパンタシアの世界観をイラストで表現するにあたって、特に意識していることやこだわりはありますか?

ダイスケ 三パシさんは世界観が魅力的だと言われていますが、世界観は世界観でもドーンとした壮大なものじゃなくて、日常の延長線上にあるものを表現していることが多いと思うんですよ。過剰になりすぎていないというか、普通の人生から1本だけ線が外れたところを歩いている人の物語を描いている感じがして。だからイラストも過剰になりすぎないように意識しています。

みあ 確かに“日常的”というのは、三パシが大切にしていることかもしれないです。小説に関しても、あまり特別な物語を書いていないというか。誰しもが抱いたことがあるんじゃないかなという感情を、自分の感性で新しい形で描くことができたらいいなと思いながら書いています。でもダイスケさんのイラストは日常の中にいる女の子を描いていながら、どこか非日常感が漂っているのがすごく素敵ですよね。背中に羽が生えていたり、パンダと一緒に飛んでいたり、みあがパンに沈んでいって目玉焼きが飛んでいたり。三パシ関連以外のダイスケさんが描かれているイラストも、キャラクターの頭に何かが刺さっていたり、変な生き物が飛んでいたりしていて、その世界観が好きなんですよ。ダイスケさんがさっきおっしゃっていた通り、日常からちょっとだけ逸れているような……。

ダイスケ イラストやアニメーションの表現ってありえないことを描こうと思えばいくらでも描けると思うんですけど、僕は少しのところで押さえるようにしていますね。日常から遠くなりすぎない感じ。

みあ わかります。日常とファンタジーのバランス感の話ですよね。

ダイスケ 偏りすぎないように、日常とファンタジーをどっちも含みつつ、一番納得のいくラインを攻めたいというところはあります。

みあ ダイスケさんはそのバランス感、センスがすごいんですよ。今回のアルバムのキービジュアルもめちゃくちゃよくて。みあがアンプにつながれていて、みあからブルーポップな音楽が拡散されていくという。

アルバム「ブルーポップは鳴りやまない」キービジュアル

ダイスケ イラストを描く前に直接打ち合わせをしましたよね。キービジュ会議。

みあ 確か楽器かアンプをアイテムとして入れてほしいという話をして。それらのアイテムをみあとどういうふうに組み合わせるのかということを考えていったんですけど、ダイスケさんから「頭から拡声器を生えさせるのはどうか?」というアイデアが出てきて。

ダイスケ そうそう。拡声器をリーゼントみたいに生やしたいって。

みあ みあとアンプをつなぐ発想も面白いなと思いました。ほかにもこのイラストのみあには線が差さっていますよね?

ダイスケ これは……さっきの話にも通ずるんですけど、みあさんは日常にあるものからインプットを受けて作品を作ることが多いのかなと思っていて。なので体に直接入ってくるものが音になって流れていくというイメージで描いた覚えがあります。