ナタリー PowerPush - m-flo
5年ぶりオリジナルアルバム「SQUARE ONE」
小室哲哉、m-floを語る
このページでは、小室哲哉がm-floについて語る貴重なインタビューを掲載。ダンスミュージックのエッセンスを追求しつつ、ヒットチャートも賑わせる2組の関係を掘り下げる。
取材・文 / 唐木元・大山卓也 撮影 / 五十嵐絢也
globeよりm-floのほうが垢抜けてると思った
──まずは小室さんとm-floの関係について教えてください。
m-floとしての接点はほとんどなくて、まあ基本はVERBALですよね。僕やKEIKOのソロにフィーチャリングで入ってもらったり、あとは「songnation」で安室(奈美恵)さんと一緒にやってもらったり。VERBALが主催するパーティに僕が出て、サプライズでピアノを弾いたこともあります。
──VERBALさんに伺ったら、どこかのバーでお酒を飲んでるときに小室さんがピアノを弾いて、VERBALさんがその場でラップをしたこともあったとか。
そうですね。僕が弾いてるピアノの中にVERBALが顔突っ込んで、ずっと1曲聴いてたこともありました。「響きがたまんない!」とか言って(笑)。
──(笑)。じゃあ小室さんが初めてm-floの存在を意識したのはいつですか?
彼らが「EXPO EXPO」っていうアルバムを出した頃ですかね。僕も1991年にTMNで「EXPO」っていう、ハウスを基本にしたアルバムを出してて、そのコンセプトが結構似てるというか、僕もすごくSFが好きだったりするので。
──音を聴いた印象は?
そのとき自分はglobeをやってたから、自分のはちょっと野暮ったいな、彼らのほうが垢抜けてるな、って(笑)。
──ええ?
そういうふうに聞こえたのが、すごく印象に残ってますね。あとは曲の構成が当時としては斬新で、リズムにもその頃流行ってた2ステップっぽいとこがあったり、スネアがすごく前に出ていたりして、単純にオシャレだった。
──m-floのサウンドを当時から高く評価されていたわけですね。
確実にジェネレーションが変わってきたなっていう印象はありましたね。しかも宇多田ヒカルさんとかMISIAさんとか、その時代のエポックメイキングな人はほかにもいましたけど、m-floは大衆的にバーッと広がるんじゃなく、いつのまにか世間に浸透していて。この音を70万、80万人が買ってるんだっていうのはちょっとショックでした。
密室感と浮遊感
──小室さんがm-floをそれほど意識していたというのは、やはりどこかに音楽的な共通点があったからなんじゃないかと思うんですが。
そうですね。一番近いなと思ったのはスネアのタイム感。一般的にはグルーヴ感っていうのかな。自分が今ここで鳴ってほしいって思うタイミングでスネアが鳴るのがすごく気持ちよくて。あとスネアのピッチも、普通はもっと高い音なのにm-floは結構低めだったりとか。そのときの流行をそのまま真似するわけじゃなく、海外で流行ってる音を自分好み、日本人好みに“超訳”してる。そういうところもすごいなって。
──なるほど。
あと、初期のm-floはトラックに密室感と浮遊感がありましたね。細かいところまで作りこんでるんだけど、さらっと聴き流すこともできる。どこかから流れてきてるような音像が印象的でしたね。
──その印象は今も変わらない?
いや、いろいろ進化していく中で、あるとき音像がガラッと変わりましたよね。lovesの頃だと思うんですけど、明らかに音が全体的に前に出てくる感じになった。そこから新しいm-floになったのかなって感じたタイミングはありました。
ニューアルバムは歌を強調
──今回のアルバム「SQUARE ONE」はいかがでしたか?
僕は2曲目(「Perfect Place」)が一番好きなんですけど、とにかくメロディが強いなって思いました。トラックのコード進行は洋楽っぽいオシャレな感じなのに、歌のメロディには5音音階(ペンタトニックスケール)を多用していて、ちょっと和モノっぽい感じになってる。これ(中田)ヤスタカとかもよく使うんですけど。
──キャッチーだということですか?
そうですね。メロディと歌詞に力を入れていて、乱暴な言い方をすれば後ろのトラックは気にしてないというか。あと音数も少ないですよね。初期と比べたらトラックのチャンネル数は多分極端に減ってると思うんです。これは憶測ですけど、「トラックよりも歌を聴いて」っていうことなんじゃないかな。
──トラックを重視しなくなった?
というよりは、今回歌を聴かせたいっていう狙いがはっきりしてる。きっとすぐクラブミックスみたいなもので遊び始めるとは思うんですけど「まずは歌が耳に残らなきゃ」って思ってるんじゃないですかね。ボーカルの音量も今のほうが大きいというか、センターに立ってる感じがする。
──全体的にボーカル中心の音作りをしていると。
ええ。トラックメイキングで言えば、浮遊感みたいなものをわざと避けてる印象があります。左右に飛ばしてないし、ディレイとかリバーブも深くない。デッドな(残響が少ない)音になってますよね。
──その音作りの変化は、どういう狙いによるものなんでしょうか?
まあ、これはm-floに限った話じゃなくて、世界的な傾向として確実に音数は減ってきてるし、デッドになってきてますよね。あと昔はコード進行とか気にしてなかった人たちも、今はちゃんと循環コードを使うようになってたり。だからm-floもなんとなくこうなったわけじゃない。それは確かですね。彼らは今回、歌をすごく考えてトラックを作ってると思います。
CD収録曲
- □ [sayonara_2012]
- Perfect Place
- ALIVE
- □ [frozen_space_project]
- Never Needed You
- Oh Baby
- □ [square1_scene_1_
murder_he_wrote] - Don't Stop Me Now
- All I Want Is You
- Acid 02
- Call Me
- □ [ok_i_called]
- Sure Shot Ricky
- RUN
- □ [square1_scene_2_
don't_blink] - So Mama I'd Love To Catch Up, OK?
- She's So (Outta Control)
- Yesterday
- □ [to_be_continued...]
DVD収録内容(※CD+DVD盤のみ)
- She's So (Outta Control) [4'38"]
- All I Want Is You [5'13"]
- ALIVE [4'49"]
- Live at “m-flo presents BŌNENKAI 2011”(TCY Snippet Edit) [18'53"]
m-flo(えむふろう)
MCのVERBALとDJの☆Takuからなるプロデュースユニット。1998年、インディーズを経てrhythm zoneからメジャーデビュー。当時は紅一点のメインボーカル・LISAを含むトリオ編成だったが、2002年にソロ転向を理由にLISAが脱退。2003年以降は各曲ごとにゲストシンガーを招く“loves”プロジェクトをスタートさせ、Crystal Kay、坂本龍一、BoA、安室奈美恵など計41組のアーティストをフィーチャーして、後のコラボブームの先駆けとなった。2009年にはデビュー10周年を記念し、ベストアルバム「MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-」やトリビュートアルバム「m-flo TRIBUTE ~maison de m-flo~」をリリースしたほか、国立代々木競技場第一体育館にてスペシャルライブを開催。その後しばらくソロ活動が中心となり、2012年3月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」をリリースした。
小室哲哉(こむろてつや)
1958年東京都生まれ。宇都宮隆、木根尚登とTM NETWORKを結成し、1984年にシングル「金曜日のライオン」でデビュー。1990年代にはtrf、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With tなどのプロデュースを手がけ、音楽プロデューサーとして成功を収める。数多くのミリオンヒットを連発し、KEIKO、マーク・パンサーと結成した自身のユニットglobeも、1996年発売のアルバム「globe」が400万枚を超えるヒットを記録するなど、「小室ブーム」と呼ばれる社会現象を作り出した。
2012年3月にはソロとして「Digitalian is remixing」「TETSUYA KOMURO Special Live @DOMMUNE」「Far Eastern Wind」「小室哲哉 meets VOCALOID」の4作品を発表。4月にはTM NETWORKとして久々の新曲「I am」もリリースする。
2012年4月16日更新