ナタリー PowerPush - m-flo
5年ぶりオリジナルアルバム「SQUARE ONE」
VERBALと音楽をやっているのが何よりも楽しい
──☆Takuさんにとって、VERBALさんはどういう存在ですか?
僕にとって彼は世界一のラッパーです。中学の頃からラップを始めていることを考えるともう20年以上ラップをしていますが、まだまだ成長できる才能を持っていると思います。小学生の頃から知り合いで中学後半から一緒に音楽をやっているのですが、彼と出会っていなかったら今の僕の音楽のキャリアはなかったと思っています。また、最近の彼はファッションアイコンでもあるし、ビジネスマンでもあります。僕はやれることはなんでもチャレンジするべきだと思います。しかもそういった面でも彼には才能がある。これはとても素晴らしいことだと思いますし応援もしています。ただ、これは本人にも言っていますが、そんな中でも僕はラップに集中している彼が一番好きです。一緒にビジネスをするのも楽しいですが、一緒に音楽をやっているのが何よりも一番楽しいです。
──わかりました。では今後のm-floについて現状考えていること、決まっていることを教えてください。
5年間m-floの活動をしていなかったんで、アイデアはいっぱいあります。まぁ、これは僕1人で進めることではないんで、次はいつ出せるかVERBALと相談しようと思っているところです。ライブでは、今の日本ではありえない形を見せていければなと思っています。
──ナタリー読者へのメッセージをお願いいたします。
このアルバムを聴いてくれた皆さん、ありがとうございます。
スタッフが語る、「SQUARE ONE」までの5年間
ここでは、m-floの所属レコード会社ディレクターの「キヌカワ」と「ナカニシ」が、2012年までの5年間に焦点を当てて解説。☆TakuとVERBALがソロでどんな活動をしてきたのか、どんな思いでm-flo再始動に臨んだのか、客観的な視点からコメントをもらった。
──m-floにとって、2007年から2012年までの5年間はどんな期間だったと思いますか?
キヌカワ この5年間は各々の個性と特技が磨かれ、現場での実践によって立ち位置が確立されていった期間だと思います。m-floの2人をシェフに例えると、彼らは幼少時代から食を愛し、13年前に独自のレシピを元にレストランを開いたシェフたち。LISAという看板娘が入り、一躍行列のできるお店になったけど、そんなタイミングで看板娘が独立して店をあとにすることになって。
ナカニシ でも、その後も“m-floの味”を求めるお客さんがあとを絶たなかった。看板娘はいなくなったけど、そのレシピと独特なお店の雰囲気を愛してくれるユニークな常連さんたちが、シェフたちと数々のオリジナルメニューを共同で作ることによって、m-floは“客との共作オリジナルメニューが美味しい店”として有名になっていきました。つまりlovesプロジェクトの成功ですね。そしてお店が忙しい最中、シェフの1人・☆Takuが突然武者修行に出てしまい、もう1人のシェフ・VERBALが厨房だけでなく、接客から経営まで1人で店を仕切ることになり、その他の副業でも忙しくなっていきました。5年後、武者修行していたシェフが戻る決意をし、新メニューでレストラン「m-flo」は新たな幕を明けました。
──☆Takuさんは武者修行中にどんなことがあったんでしょう?
キヌカワ 武者修行に出たシェフ☆Takuは、あえてm-floというグループ名は伏せてDJ ☆Taku Takahashiとして活動しました。それまでm-floとしても追い続けていたクラブサウンドに磨きをかけるべく、数々の現場でDJに没頭していきました。最初はお客さんが少ないという過酷な状況にも屈せず、もがきながら前進していたと思います。国内外のクラブやフェスに出演していき、結果DJとして良い地位を確立しました。
──ほかのアーティストのプロデュースやソロプロジェクトも積極的に行っていましたよね。
キヌカワ m-floではなく☆Taku Takahashiとして多くのアーティストの楽曲を手がけたり、ravexというプロジェクトで大沢伸一氏とFPMこと田中知之氏と組んだり、アニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサントラをプロデュースしたり。m-floとして活動をしなかったこの5年間に、クラブの現場で培った経験から「人を踊らせる選曲」と、「人を踊らせる楽曲制作」のスキルが上がったことで、結果彼が日本のトップDJの1人と言われるようになったのだと思います。また、2010年にはajapai「Incoming... TAKU Remix」で、世界最大の音楽配信サイトであるbeatportのドラムンベースチャート年間1位を獲得するという世界的にすごい結果を残したこと、さらにはblock.fmの開局を皮切りに、彼が理想としているクラブサウンドの追求と普及活動は加速しましたね。
──一方、その間VERBALさんは?
ナカニシ m-floのフロントマンであり広告塔であるVERBALは、数々のフィーチャリングやプロデュースワークをこなしながらも、常に母体であるm-floが、いつ再始動しても大丈夫なように、ときには裏方に徹して屋台骨を支えていたと思います。事実、母体の制作 / プロモーションのために、自らの人脈を生かしタイアップを取ったり、☆Takuとは逆にVERBAL(m-flo)と名乗ってメディアに出ていくことで、動きのなかったm-floの存在を示すことに努めていました。「フロントマン」と「裏方」の2足の草鞋を履きこなしてきた数少ないアーティストだと思います。
──さらにVERBALさんは、この5年でデザイナー、ビジネスマンとしても開花しましたよね。
ナカニシ 彼のジュエリーブランド「AMBUSH」は、近年リアーナやカニエ・ウェスト、そしてLADY GAGAといった海外のアーティストが身に付けるまでになりました。この5年でビジネスマンとしての一面も開花し、ジュエリーブランドを軸とした会社を設立したり、フランスの企業と組んでいち早く3Dマッピング技術を持つ会社を設立したり、音楽エージェンシーを設立したりと。これはあまり知られていないと思いますが、JAY-Zがそうであるように、VERBALもレコード会社と個人契約を結び「VEXABOX」というニュービジネスに取り組む組織を作り出しています。
──そして、ついに2人が再び厨房に戻ると。
キヌカワ 例えるなら、5年間VERBALが温めた「m-flo」という名の器に、先鋭の技術で作り上げられた☆Taku印のハンバーグが盛り付けられ、長年継ぎ足されてきた秘伝のソースをたっぷりかけた、行列のできるレストランの看板メニューが復活です。☆Takuはm-floから離れることでm-floのパワーに気付き、ある意味独り立ちし始めていたVERBALも☆Takuと組むことでさらなる結果を出せるというイメージを描いたんでしょうね。
──アルバム「SQUARE ONE」を完成させた今のm-floは、スタッフのお2人からどのように見えますか?
キヌカワ 5年というブランクはありましたが、彼らは音楽で強力なチームワークを見せつけてくれました。正直なところ不安だったスタッフも、彼らの新しい音楽を聴いて、完全にノックアウトされましたからね。
ナカニシ やはり重要なのは、そのグループが集まって作った音楽のクオリティだと思います。彼らが今回掲げた「ボーカリストを明かさない」というコンセプトがまさにそれを示しています。クレジットなどの見た目が重要なのではなく、音が重要なんだという。情報過多な時代だからこそ、ユーザーが求めているのはその本質である音楽としてのクオリティの高さだということを証明してくれたと思います。
──最後にm-floへメッセージをお願いします。
キヌカワ・ナカニシ おかえりなさい。また、日本の音楽を進化させるために戻ってきてくれてありがとう。
CD収録曲
- □ [sayonara_2012]
- Perfect Place
- ALIVE
- □ [frozen_space_project]
- Never Needed You
- Oh Baby
- □ [square1_scene_1_
murder_he_wrote] - Don't Stop Me Now
- All I Want Is You
- Acid 02
- Call Me
- □ [ok_i_called]
- Sure Shot Ricky
- RUN
- □ [square1_scene_2_
don't_blink] - So Mama I'd Love To Catch Up, OK?
- She's So (Outta Control)
- Yesterday
- □ [to_be_continued...]
DVD収録内容(※CD+DVD盤のみ)
- She's So (Outta Control) [4'38"]
- All I Want Is You [5'13"]
- ALIVE [4'49"]
- Live at “m-flo presents BŌNENKAI 2011”(TCY Snippet Edit) [18'53"]
m-flo(えむふろう)
MCのVERBALとDJの☆Takuからなるプロデュースユニット。1998年、インディーズを経てrhythm zoneからメジャーデビュー。当時は紅一点のメインボーカル・LISAを含むトリオ編成だったが、2002年にソロ転向を理由にLISAが脱退。2003年以降は各曲ごとにゲストシンガーを招く“loves”プロジェクトをスタートさせ、Crystal Kay、坂本龍一、BoA、安室奈美恵など計41組のアーティストをフィーチャーして、後のコラボブームの先駆けとなった。2009年にはデビュー10周年を記念し、ベストアルバム「MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-」やトリビュートアルバム「m-flo TRIBUTE ~maison de m-flo~」をリリースしたほか、国立代々木競技場第一体育館にてスペシャルライブを開催。その後しばらくソロ活動が中心となり、2012年3月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」をリリースした。
2012年4月16日更新