ナタリー PowerPush - m-flo
5年ぶりオリジナルアルバム「SQUARE ONE」
VERBALインタビュー
ナタリーが贈るm-flo特集、最初のインタビューはVERBALが登場。新作リリースのなかったこの5年のことや、アルバム「SQUARE ONE」の制作意図はもちろん、相方☆Takuへの思いや、m-flo結成当時からのエピソードを大いに語ってもらった。
取材・文 / 鳴田麻未 撮影 / 平沼久奈
めまぐるしくいろんなものが変化した5年間
──まず、新作が出るまでになぜ5年空いたのかについて聞かせてください。
僕と☆Takuって元々、何年かm-floとして集中して作品を出したあと、各々ソロ活動をして、またm-floとして集まって……っていうパターンでやってるんですけど、この5年は各々でやる期間だったっていうことです。僕はジュエリーブランドを経営したり、エージェンシーを立ち上げたりしていて、☆Takuもレーベルや自分が主体となってインターネットラジオを開設したりと、忙しく過ごしていて。で、自分たちも周りも「そろそろアルバム出さないとねー」みたいな気分になって、「SQUARE ONE」の制作が始まったって感じですね。
──2007年から2012年までの5年間は、VERBALさんにとってどんな期間でしたか?
新しいジャンルの音楽が生まれたり、面白いムーブメントがあったすごく貴重な時期だったと思うんです。どういうことかっていうと、例えばヒップホップDJはヒップホップの曲しかかけないっていう固定概念を覆すような、ジャンルをごちゃ混ぜにしてプレイする人が出てきたり、ファッションもジャンルで区別できないものが出現したり。とにかくカルチャーミックスがエキサイティングなときだった。そんなときに僕はDJ活動を始めたんですけど、カニエ・ウェストだったりLADY GAGAだったり世界各国の有名な人が東京のクラブに遊びにきたりして、世界が一気に狭く感じた時代でしたね。同時に、インターネットで音源が聴けることも当たり前になって、音楽業界もすごく変わったと思います。そうやってめまぐるしくいろんなものが変化する、僕にとってはあっという間の5年間でした。
──その間、m-floのことは考えていましたか?
m-floっていうのは僕も☆Takuも常に念頭にある“母体”なので、アイデアさえあればいつでもやりたいとは思っていました。ただ、lovesというあれだけの大風呂敷を広げて終わらせたあとに出す作品だけに、ちょっとやそっとのことじゃお客さんも乗ってくれないじゃないですか。自分で言うのもアレですけど、日本でフィーチャリングを定着させるような大きな企画をしたから、それを超えるものってなんだろうってちょっと悩んだりもしました。
ボーカリストを隠すことで本来の聴き方に戻す
──では「SQUARE ONE」の制作で真っ先に考えたのは、コンセプトのことですか?
そうですね。どうしたらlovesを超えられるかっていうところから話し始めたと思います。lovesプロジェクトを始めたときもそうだったんですけど、僕たちっていつも、みんなが意図してないこと、トレンドにアンチなことをするほうが自分たちもやっていて面白いし、周りにもウケるんですよ。だからlovesの逆を考えたんです。前にあれだけ「lovesやってます!」とドッカーンって宣伝したから、今回は「何も言わないのどう?」って案を出したんです。
──その意図とは?
本来だったらボーカリストの名前でバリューを付けるところを、逆に言わないっていう手法を採ることによって、先入観なしに声として楽しむっていう本来の聴き方に戻すことを狙ったんです。たとえ隠しても、今はネット社会だし、聴いた人同士がどこかで勝手に意見交換して突き止めてくれるだろうと。そういうわけで「今回ボーカリストの情報は一切明かしませんっていう感じにしよう」「それ面白いね」なんて話して決まったんです。
──「本来の聴き方に戻す」という部分を、もう少し詳しく教えていただけますか。
例えばクラブでいい音楽をかけたDJに「この曲なんですか?」と訊くのって、単純にその曲がカッコいいからですよね。DJも誰の曲かはどうでもよくて、ただカッコいいから、盛り上がるから、オーディエンスの心に刺さるからかけるわけじゃないですか。それって音楽の正しい聴き方であって、先入観がないからこそ心にスコーンと入ってくるんだろうなと思ったんです。すごく冒険的なやり方ではあるけど、面白いと思って。
──そういった冒険的な試みに、不安や戸惑いはありませんでしたか?
今、かなり省略して自信満々に説明してますけど、やっぱりそこに至るまでは「大丈夫かな?」って心配でしたよ。プロモーションしづらいっていう現実的な問題もあるし(笑)。けど実際にアルバムリリースを発表したら、もちろんボーカリストも大事だけど、m-floがカムバックしたこと自体にみんな喜んでくれてる印象があって、すごくうれしかったです。
──なるほど。ところでボーカリストとして参加してもらうアーティストはどのように決めていったんですか?
中には、聴けば「あの人でしょ」ってすぐにわかる有名な方もいるし、新人さんもいるけど、どれも同じ基準で選びました。声がカッコいいから、曲に合いそうだから、めちゃくちゃキャッチーにしたいから、とか。聴いていただいたらその意味がわかると思います。
意図してない曲が売れた
──今作のサウンド面で、全体のテーマや特に意識したところがあれば教えてください。
トラックはいつものとおり☆Takuが全部作ってるんですけど、☆Takuも僕もクラブでのDJ活動が増えたことによってすごく感化されて、全体的にとてもフロアライクな仕上がりになったのがひとつ。あと、さっき言ったように良い意味で世界が近くなって、有名な人からアングラなアーティストまで国内外問わずやり取りができるようになったので、ワールドワイドな感触もあると思います。それから、CD市場が昔ほど潤っていないっていうのも、僕たちにとってはラッキーで。変にノルマやプライオリティを気にせず、自分たちが心から超カッコいいって思うことを表現できたり、そのときの気分でインスパイアされるがままに作ったりできるから。例えば歌詞も、前は「もうちょっと日本語入れないと」なんて気にしてたけど、今回は曲によって全部英語だったり、日本語が多かったり、縛りが緩くなりましたね。
──単純に言うと、売れ線じゃない曲も入れられたと。
実際僕ら、意図してない曲が売れたっていう結果があるんですよ。例えば新人のYOSHIKAをlovesした「let go」とか、melody.とRyoheiっていうみんながまだ知らないようなアーティストを呼んだ「miss you」がすごく売れたり。LISAと3人でデビューしたときも、ハーフのお姉さんと英語と日本語でラップする人とDJが集まって、最初は「何この人たち」って警戒されてたと思うんですよ。でも音を聴いてみんな好きになってくれた。だからやっぱり、“m-floらしさ”っていうのはそこにあるのかな。自分たちのやりたいようにやるのが本来あるべき形だし、今でもそのほうがリスナーに浸透しやすいのかなって思うんです。
m-floは不器用なアート集団
──ここからは、m-floの制作現場のことを聞かせてもらえますか。
大人になってやり方が円滑になったというだけで、基本概念は変わってないですよ。
──基本概念ってなんですか?
先程言ったように「良ければいいじゃん」って思っているところ。あとは元々日本でも海外でも生活しているので、両方の良さを盛り込んで制作を進めたり、アウトプットに反映させたいなって思ってるところです。
──お2人は日本と海外、どちらの良さも知っているんですね。
日本の良いところは、ディテールまでちゃんと作り込む職人気質なところですね。☆Takuもすごくそうで、完璧な音が鳴るまで1つひとつの音色を気を配って、こうじゃなきゃいけないっていうポリシーを持ってるんですよ。それに対して、外国の人ってあんまり細かくないんですね。良い意味でテキトーな、ノリ一発で作っちゃう良さは海外ならではですね。両方の良さをうまくミックスしていくのが、昔から僕らの理想なんです。
──理想ということは、まだそこにたどり着けていない?
僕たちは……すごく不器用なアート集団みたいな感じで。例えば、アート学校の学生でもないのに何かを青に染めようって思いついて、青にしたいけどわかんないから東急ハンズで青のスプレー買ってきて、違う! じゃあナスをすって染料を作る? あ、いい色出た出たーみたいな(笑)。要は、基礎がないんだけど頭と体で想像してるものがあって、そこに向かって試行錯誤しながらどうにかやってくっていう。システマティックな部分が大半ではありますけど、やっぱりそこにちょっとカオスな要素を入れる制作の仕方が好きですね。
CD収録曲
- □ [sayonara_2012]
- Perfect Place
- ALIVE
- □ [frozen_space_project]
- Never Needed You
- Oh Baby
- □ [square1_scene_1_
murder_he_wrote] - Don't Stop Me Now
- All I Want Is You
- Acid 02
- Call Me
- □ [ok_i_called]
- Sure Shot Ricky
- RUN
- □ [square1_scene_2_
don't_blink] - So Mama I'd Love To Catch Up, OK?
- She's So (Outta Control)
- Yesterday
- □ [to_be_continued...]
DVD収録内容(※CD+DVD盤のみ)
- She's So (Outta Control) [4'38"]
- All I Want Is You [5'13"]
- ALIVE [4'49"]
- Live at “m-flo presents BŌNENKAI 2011”(TCY Snippet Edit) [18'53"]
m-flo(えむふろう)
MCのVERBALとDJの☆Takuからなるプロデュースユニット。1998年、インディーズを経てrhythm zoneからメジャーデビュー。当時は紅一点のメインボーカル・LISAを含むトリオ編成だったが、2002年にソロ転向を理由にLISAが脱退。2003年以降は各曲ごとにゲストシンガーを招く“loves”プロジェクトをスタートさせ、Crystal Kay、坂本龍一、BoA、安室奈美恵など計41組のアーティストをフィーチャーして、後のコラボブームの先駆けとなった。2009年にはデビュー10周年を記念し、ベストアルバム「MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-」やトリビュートアルバム「m-flo TRIBUTE ~maison de m-flo~」をリリースしたほか、国立代々木競技場第一体育館にてスペシャルライブを開催。その後しばらくソロ活動が中心となり、2012年3月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」をリリースした。
2012年4月16日更新