ナタリー PowerPush - m-flo
5年ぶりオリジナルアルバム「SQUARE ONE」
僕らが夢見ていた2012年は訪れなかった
──☆Takuさん、話が脱線してますよ(笑)。インタールードの話に戻ってください。
そうですね(笑)。僕らがイメージしていた2012年はもっとテクノロジーが進化していて、宇宙旅行やサイコミュ(脳とコンピュータをつなぐデバイス)的なものが実用化されているものでした。そして今年2012年になりましたが、人類は月に基地すらないし、東京で普通の万博すら行われていません(笑)。僕らが予想していた2012年、僕らが夢見ていた2012年は訪れなかったんです。
──確かに技術はどんどん発展しているものの、20世紀当時のSFみたいな感じにはなっていませんね。
要は「Planet Shining」と「EXPO EXPO」で僕らが言っていたことが“マボロシ”になってしまいました。今回のインタールードはその「本来、起こるべきことが起こらず、マボロシになってしまった理由」。これをストーリーにしています。そう、タイムパラドックスの話なんです。
──タイムパラドックス?
はい。簡単に言うと、本来起こるべきだった歴史が変えられてしまうことをこの場合は指しています。アルバムを聴いた人もいらっしゃると思いますし、ナタリーは字数制限がないので、細かいところまで特別に説明させてください(笑)。インタールードの中には“Planet Shining計画”というものがあって、これは全世界のグローバライゼーションと共にテクノロジーの進化を推進していくものでした。そのプロジェクトの中に宇宙旅行や、脳内万博が入っていました。そして宇宙旅行でキャビンアテンダントを育成するのは莫大な費用がかかるので、そこで生まれたのがm-floファンにはお馴染み、アンドロイドの「Lori」です。ちなみに架空ではなく本物のLoriさんはCOLDFEETというグループのボーカリストで、とても素晴らしい作品を作っているのでぜひチェックしてください。
──「Planet Shining」と「EXPO EXPO」で描いた2012年は、そんな未来になるはずだった。
そう。そしてこの“Planet Shining計画”は陰謀によって防がれてしまいます。その陰謀を遂行している1人が、もうひとつの世界の「パターン捜査官」。逆に本来の起こるべきはずだった未来に戻そうとしているのが、もうひとつの世界の「ブリンク捜査官」です。このへんのストーリー構成は佐藤大さんと彼のチームStoryRidersが作ってくれて、やっぱりスゴイな、と感じました。
──「パターン捜査官」? 男の人はそんな名前だったんですね。
そうなんです。このへんの細かいストーリーはこれからどんどん明かされていきます。
──差し支えなければ教えていただけますか?
いや、まだ、ここは教えられないんですよ。ごめんなさい。ひとつ付け加えると、このインタールードは今の日本の音楽シーンとオーバーラップしてるんじゃないかなって僕個人は感じています。2012年には、もっと日本の音楽もグローバライズしてると予想していましたから。
m-floとは自分を表現する場所であり、日本を変える何か
──実際2012年になり、m-floとして5年ぶりに新作を発表した今、☆Takuさんにとって、m-floとはなんですか?
これは僕がm-floを5年間やらなかった理由にもなるかもしれません。僕にとってm-floは自分が一番愛するグループでもあり、日本や自分の周りをもっと面白くするための手段でもあります。m-floを5年間沈黙させていたのは一度自分を見つめ直す時間が欲しかったのと、武者修行がしたかったんです(笑)。
──武者修行とは?
自分のソングライティングスキル、DJスキル、音楽や曲の知識、全てをもう一度いちから勉強して、個人のレベルを上げたかった。DJギグのときに僕のクレジットが「☆Taku Takahshi」のみで「(m-flo)」を外していたのもこれが理由のひとつです。m-floの☆Taku Takahshiではなく、固定概念抜きで☆Taku Takahshiとして裸で勝負したかったし、m-floとは違うものを提示していくことにしていました。当然オーソドックスなm-flo的要素を求めている人たちはクラブに遊びにきてくれなくなったし、当時の僕にはクラブを純粋に好きなファンってあまりいなかったと思います。それで何が起こるかと言うと、お客さんがが如実に減りました。
──それはいつごろの話ですか?
んーっと4、5年前くらいですね。そもそも、名前から「(m-flo)」を外したのにはもうひとつ理由があって。僕のパーティで「Tachytelic Night」というものがあったんですが、そのとき、ありがたいことにいつも満員御礼でm-floのファンの人たちが集まってきてくれました。ただひとつ気がかりなことがあって。
──なんでしょう?
このパーティにはほかのDJやアーティストのライブもあったんですが、僕がすごく良いなと思ったテクノ系の人たちのライブのとき、最前列のお客さんがボーッと棒立ちだったんですよね。すごく良い内容で、もっと盛り上がって良かったと思うんです。ただ、最前列の人たちは僕待ち、またはm-flo的なものを求めているお客さん。彼らは決して悪くなくて、むしろ感謝している存在ですよ。単純にどうやってノッたらいいかわからなかったり、お目当ての人ではなかったり。ただ、これは決して僕が作りたいクラブの空間ではなかったんですよね。そこで、これじゃあいけないなって。
──そこでm-floの肩書きを取ったと。
はい。まず今までのファンの方に、僕が武者修行に入るタイミングで「今までのm-flo的なものではない」というのを明確に示すこと。そして、クラブ好きの人たちに真っ向から勝負できる自分を作り上げていくこと。この2つが目的だったんです。そして最初のほうは案の定お客さんの数が減っていって、ときには20人くらいしかいないところで回したりしました。見た目は寂しかったりもしたけど、これは僕にとって宝のような体験です。いちDJとして鍛え直すことができた。そして本当の意味で、僕がm-floで目指していきたいものを理解してくれている濃いエッセンスの人たちが集まってくれた。
──そういう意味でも、ソロ活動はm-floの活動につながっている?
そうなんです。僕的には皆さんにm-floをどう楽しんでもらってもいい。というかむしろ聴いてくれるだけでうれしいんです。ただ、そこで売れたらハッピーとかではなく、日本に僕の大好きなダンス音楽を知ってもらうきっかけを作って、いろいろな楽しい体験をしてもらいたいんです。それをするには単純にオーバーグラウンドというところから何かを発信するだけでなく、アンダーグラウンドと呼ばれているところでもしっかりと自分が勝負できるようにならないと言えないと思ったんです。そしてそれを積み重ねていって、いろいろな人たちとも出会い、濃いエッセンスの人たちが増えていったり、クラブ的なものが好きな人たちも現場に来てくれるようになり、またお客さんが集まるようになってきました。去年の代官山AIRでのTachytelicは全6回のうち5回は満員御礼。そして武者修行が終わり、また☆Taku Takahashiとm-floが同じ軸に戻った感じです。
──なるほど。☆Takuさんは常にオーバーグラウンドとアンダーグラウンドを行き来しているんですね。
ダンスミュージックとは、アンダーグラウンドなシーンで実験的なものを作っていって、その実験されたものが消化されてメジャーシーンに行く。これが西洋のポップカルチャーの気持ちの良い循環です。今の日本にはそれがないんです。それを実現するためにm-floでできることは何か?と常に模索しています。そしてこの5年間はm-flo的に空白の期間とも呼ばれていますが、この中のことが今のm-floにつながっているんです。僕にとってm-floとは自分を表現する場所でもありつつ、日本を変える何かにしたいんです。
CD収録曲
- □ [sayonara_2012]
- Perfect Place
- ALIVE
- □ [frozen_space_project]
- Never Needed You
- Oh Baby
- □ [square1_scene_1_
murder_he_wrote] - Don't Stop Me Now
- All I Want Is You
- Acid 02
- Call Me
- □ [ok_i_called]
- Sure Shot Ricky
- RUN
- □ [square1_scene_2_
don't_blink] - So Mama I'd Love To Catch Up, OK?
- She's So (Outta Control)
- Yesterday
- □ [to_be_continued...]
DVD収録内容(※CD+DVD盤のみ)
- She's So (Outta Control) [4'38"]
- All I Want Is You [5'13"]
- ALIVE [4'49"]
- Live at “m-flo presents BŌNENKAI 2011”(TCY Snippet Edit) [18'53"]
m-flo(えむふろう)
MCのVERBALとDJの☆Takuからなるプロデュースユニット。1998年、インディーズを経てrhythm zoneからメジャーデビュー。当時は紅一点のメインボーカル・LISAを含むトリオ編成だったが、2002年にソロ転向を理由にLISAが脱退。2003年以降は各曲ごとにゲストシンガーを招く“loves”プロジェクトをスタートさせ、Crystal Kay、坂本龍一、BoA、安室奈美恵など計41組のアーティストをフィーチャーして、後のコラボブームの先駆けとなった。2009年にはデビュー10周年を記念し、ベストアルバム「MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-」やトリビュートアルバム「m-flo TRIBUTE ~maison de m-flo~」をリリースしたほか、国立代々木競技場第一体育館にてスペシャルライブを開催。その後しばらくソロ活動が中心となり、2012年3月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」をリリースした。
2012年4月16日更新