ナタリー PowerPush - m-flo
5年ぶりオリジナルアルバム「SQUARE ONE」
☆Takuインタビュー
m-flo特集のラストを飾るのは☆Takuのオンラインインタビュー。当初はシンプルなメールインタビューの予定だったが、☆Takuの音楽に対する熱い思いがあふれ出し、オンラインでのやり取りを数度重ねて1万字におよぶ濃厚なテキストが完成した。
m-floサウンドの首謀者が明かす、「SQUARE ONE」の制作背景やクラブミュージック、そしてm-floへの思いとは。あわせてこの特集の小室哲哉、かしゆか(Perfume)インタビューへの感想も聞いた。
「SQUARE ONE」はある意味メッセージが一番多い
──「SQUARE ONE」はどんな作品に仕上がったと思いますか?
現状のベストを出せたと思います。音的に今、自分が一番好きな音を作っていくことができましたし、今まで作った中で一番自分がビジュアライズしたものを具現化できた作品だと思っています。それと同時に自分が今、日本の音楽シーンに対してどう思っているかを表現できたと思います。アルバムをトータルで見ると今までの作品の中である意味一番メッセージが多く入った作品になったんじゃないかな、と感じています。
──フロアライクなクラブサウンドと、J-POP的な要素のバランスはどの程度考えられましたか? そして、サウンド面の特徴や、特にこだわったところ、意識したところを教えてください。
良い質問ですね。これはm-flo発足の頃から出てきてるテーマ。当時からバランスを考えるというより、少しでも多くの人にどうやってクラブサウンドアレルギーをなくしてもらうか、もしくはクラブサウンドとファーストコンタクトする人たちにどうやってフロアライクなものを食べていただくか。そういうきっかけになれればと僕はm-floを始めました。これは今回も変わっていません。専門的なことを言うと、トラックの音数は前回のm-floのアルバムに比べて明らかに少ないと思います。
──トラックの音数を少なくした?
はい、日本の作品の多くが華やかに聴こえさせるためにいっぱい楽器を重ねていくんです。僕にはそれがtoo muchに聴こえてしまって。
──その変化には、クラブでDJをする機会が多くなったことが関係していますか?
そう言われてみるとそうかもしれませんね(笑)。でもメロディアスな部分はサビで出ていると思います。例えば、「All I Want is You」や「Yesterday」「Never Needed You」などのサビはとてもメロディアスに仕上がっています。でもビートが入るところやVERBALがラップするところはベースがブリブリいってたり。
──2つの傾向が混在していると。
そうですね。しかも融合というよりそれぞれ生きる、共存するというアプローチとでも言いましょうか。今までのm-floでいうと「come again」みたいに、音数が多い華やかな部分と、音数を減らした部分のそれぞれが際立つようなアプローチが多かったと思います。逆に皆さんにお尋ねしたいのですが、J-POP的な要素とはいったいなんなのでしょう?
──確かにJ-POPを定義化するのは、とても難しいことかもしれませんね。それぞれのJ-POP観などもあると思いますし。
正直な話、「J-POP」というジャンルや傾向で括るという考え方があまり好きではありません。本来POPS(ポップス)というものはジャンルではなく、POPULAR(ポピュラー)、すなわち大衆に好かれる音楽の状況です。そこで、他のアーティストや音楽関係者が「最も効率的に売れる方法は何か? それは大衆的に好かれているものを模範してリリースしていくことだ」と考えて同じ傾向のものをリリースしていき、大衆に愛されている状況から、ひとつのジャンルになってしまいました。これを一概に悪いこととは思いませんが、不景気な時代だとタチが悪い。どこの国でもそうですが、同じようなものが連発されてしまいます。音楽で暮らしているのだから仕方がないことかもしれませんが、僕にとってはそれはちっとも面白くありません。m-floは「J-POP」と呼ばれているシーンに「何か違うものがあるんだよ。良かったら聴いてみて」って提示できる存在にしたいなと僕は思っています。
──m-floはオルタナティブな存在、すなわち別の選択肢でありたいと。
そうなんです。そういった中、今回のアルバムがiTunesチャート1位、オリコンチャート10位に入ったのはとても素敵なことだと思います。明らかに「SQUARE ONE」はオリコンチャートの傾向と違うサウンドのもので、それがトップ10にランクインした。素晴らしいことだと思いますし、皆さんに感謝したいです。ただ、僕個人的にはこれで満足ではないんです。m-floのアルバムを聴いたことがきっかけで、ぜひクラブへ足を運んでほしいです。ダンス / エレクトロニック音楽を作っているアーティストやDJを知ってもらうきっかけになってほしいです。ダンス音楽はとても楽しいものであって、それを楽しむのに一番の場所がクラブです。
インタールードの脚本は佐藤大さん
──m-floのアルバムでは毎回、インタールードで架空のストーリーが展開されますが、今回はどんな物語なのか解説をお願いします。
まず今回のアルバムのインタールードに、僕の大好きなアニメ「エウレカセブン」を手がけた佐藤大さんが脚本を書いてくれたことに非常に興奮しています。彼はほかにも「カウボーイビバップ」や「サムライチャンプルー」の脚本を書いたり、世界観を設定している方です。しかも声優陣も僕の大好きな役をやられていた人たちが参加しています。ボーカリスト同様、これは誰か明かせないのですが……。
──声優陣も内緒なんですね。ヒントはないんですか?
えーっと、佐藤大さんが脚本を書いてくれているというのが大きなヒントだと思います。ただ「ブリンク」ちゃん役の女の子は普段と違う演技なので意外とわからない人が多かったです。でも最近ネットやTwitterを見ていると当ててる人も増えてきていますね。
──そして今回のストーリーは?
今回のアルバムのインタールードを説明するには、1stアルバム「Planet Shining」、そして2ndアルバム「EXPO EXPO」の話をしないといけません。小さい頃の僕は20世紀という世界で生きていました。その頃は宇宙開発が盛んに行われ、テクノロジーがすごく進化した「夢の21世紀」が待ち構えていました。
──確かに20世紀後半までに作られたアニメやSFは、未来的な世界が多く描かれていました。そして20世紀の末に作られたのがm-floの1stアルバム「Planet Shining」です。
「Planet Shining」を作っていたタイミングは21世紀が間近だったのですが、全然自分が期待していた未来の香りがしませんでした。「鉄腕アトム」のようにみんなの自家用車が浮いていたり、ビルとビルの間がチューブでつながっているとまでは言いませんが(笑)、せめて一般人が宇宙旅行へ行ったり、テクノロジーがもっと進んでいるものを想像していたんです。なので2012年だったらもうちょっと自分がイメージする未来になってるはず、と、そのアルバムで2012年に一般惑星間旅行が行われている世界観をインタールードに入れました。
──そうだったんですね。
そして「EXPO EXPO」は同じく2012年に脳内バーチャルエキスポが行われるという設定でインタールードを作りました。エキスポとは万国博覧会のことで1970年に大阪、そして1985年に筑波で行われたんですが、どちらもとても明るい、テクノロジーに満ちたメッセージが詰まったものでした。それに感化されて大人になったとき、脳内万博をVERBALと考えつきました。ちなみにこのアイデアは、僕が大好きな浦沢直樹先生の「20世紀少年」より前に思いついたものです。浦沢先生はm-floを聴いたことがないと思いますが、偶然同じことを考えていたのはなんかうれしかったです(笑)。
CD収録曲
- □ [sayonara_2012]
- Perfect Place
- ALIVE
- □ [frozen_space_project]
- Never Needed You
- Oh Baby
- □ [square1_scene_1_
murder_he_wrote] - Don't Stop Me Now
- All I Want Is You
- Acid 02
- Call Me
- □ [ok_i_called]
- Sure Shot Ricky
- RUN
- □ [square1_scene_2_
don't_blink] - So Mama I'd Love To Catch Up, OK?
- She's So (Outta Control)
- Yesterday
- □ [to_be_continued...]
DVD収録内容(※CD+DVD盤のみ)
- She's So (Outta Control) [4'38"]
- All I Want Is You [5'13"]
- ALIVE [4'49"]
- Live at “m-flo presents BŌNENKAI 2011”(TCY Snippet Edit) [18'53"]
m-flo(えむふろう)
MCのVERBALとDJの☆Takuからなるプロデュースユニット。1998年、インディーズを経てrhythm zoneからメジャーデビュー。当時は紅一点のメインボーカル・LISAを含むトリオ編成だったが、2002年にソロ転向を理由にLISAが脱退。2003年以降は各曲ごとにゲストシンガーを招く“loves”プロジェクトをスタートさせ、Crystal Kay、坂本龍一、BoA、安室奈美恵など計41組のアーティストをフィーチャーして、後のコラボブームの先駆けとなった。2009年にはデビュー10周年を記念し、ベストアルバム「MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-」やトリビュートアルバム「m-flo TRIBUTE ~maison de m-flo~」をリリースしたほか、国立代々木競技場第一体育館にてスペシャルライブを開催。その後しばらくソロ活動が中心となり、2012年3月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」をリリースした。
2012年4月16日更新