2010年、テレビアニメ「Angel Beats!」の劇中バンド・Girls Dead Monsterの歌唱パートを担当したことで一躍脚光を浴びたLiSAは、2011年の4月20日にミニアルバム「Letters to U」でソロデビューを果たした。アニメソングシーンを拠点に活躍を重ねた彼女は2019年、テレビアニメ「鬼滅の刃」のオープニングテーマ「紅蓮華」の大ヒットを受けて同年末の「第70回NHK紅白歌合戦」に初出場。デビュー10年目となった2020年には、2年連続の紅白出場を果たしたのみならず、映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の主題歌「炎(ほむら)」でついにTBS「第62回輝く!日本レコード大賞」にて「日本レコード大賞」の栄冠に輝いた。
“国民的歌手”と呼べる存在となったLiSAがソロデビュー10周年を記念してリリースする新作ミニアルバム「LADYBAG」には、松本孝弘(B'z)、アヴちゃん(女王蜂)、北川悠仁(ゆず)、MAH(SiM)、PABLO a.k.a. WTF!?(Pay money To my Pain)、下村亮介(the chef cooks me)ら多彩なアーティストが参加。10年の活動を経た先の新たな方向性を示唆するかのような新機軸のナンバーがずらりと並んでいる。節目のタイミングで彼女は何を表現したかったのか。また、彼女はこの大ブレイクと言える状況をどのようにとらえているのか。じっくりと話を聞いた。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 森好弘
“国民的歌手”になったLiSA
──LiSAさんはこの2年で、「NHK紅白歌合戦」出場と「日本レコード大賞」受賞という、日本の音楽界における2つの栄誉を獲得されました。正式に売れた、というと言い方は変ですが……。
ありがとうございます。
──それ以前から国内にとどまらない支持を集めていましたけど、日本の誰もが知る“国民的歌手”では指標がちょっと違うというか。「紅蓮華」や「炎」がものまねタレントのレパートリーとして定着していることはけっこう象徴的で、ものまねはお茶の間が知ってる前提というか、知らない歌手の知らない曲を歌われても「似てる」とはならないと思うんです。
ああ、なるほど。確かに。
──LiSAさんの熱心なファン“LiSAッ子”のみならず、「最近テレビでよく観る、鬼滅の歌を歌っている赤い髪の子」が好きだという人も含めた広い範囲に向けて自分の音楽を届ける必要が生まれた。音楽番組やバラエティに出ているLiSAさんを観ていると、その役割をしっかり自覚しているように見えるんです。実際のところはどうですか?
まずは「これってすごくうれしいことなんだ」という発見がありました。
──紅白やレコ大は栄誉なことですけど、そこを目標にしていたわけではないですよね。
目指してやってきたわけではないけれど、自分が好きになったアーティスト……SPEEDさんとか、子供の頃に音楽に触れるきっかけになった人たちは、思い返せばみんなそういう場所にいて。同じところに立ってみて初めて「あれ? 今私すごい場所にいない?」という気持ちになった。お母さんやおばあちゃんに喜んでほしくて音楽をやっていたわけではないけど、やっぱり紅白やレコ大で一般の人たちに観てもらえたことで、これまで私が貫いてきたことを見守ってくれていた周りの人も一緒に評価されたというか、みんなで堂々と「せやろ?」と言えることがすごくありがたくて。そういう意味では、私はずっとこの状況を求めていたんだと思います。
──不特定多数の人に届けなければいけない状況に窮屈さやプレッシャーはない?
私の場合、不特定多数の人に届ける=テレビで歌うことだと思うんですけど、その意識は「Catch the Moment」(2017年2月発売の11thシングル。「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」主題歌)のあたりから持ってました。主題歌になった作品に紐付いて好きになってくれた人、ライブに来て楽しんでくれる人たち以外に、1分半くらいのパフォーマンスだけで好きになってもらうための作戦を意識的に考えていたので。「テレビの中の自分」を意図的に作ってきたところはありますね。
──パフォーマンスがテレビ尺に削られることにまず抵抗があるアーティストもいると思うんです。バラエティ番組ではバラエティ的なふるまいを求められたりすると思いますが、そこも含めて楽しめている?
そこは1つ、私はタレントではないというある種の無責任さがあるので(笑)。最初にLiSAとして活動を始めたとき、自分で行きたい、叶えたいと思ったのが日本武道館だったんですが、2014年にそれを叶えてしまって(参照:LiSA「LiVE is Smile Always ~今日もいい日だっ~ in 日本武道館」インタビュー)、そこから先の夢って……みんなが「武道館の次は横浜アリーナかな?」とコソコソ噂しているのを嗅ぎつけて「なるほど、次の目的地は横アリですね」みたいな(笑)。そうやって噂してくれる場所が広がっていったような感覚で、それで言うとテレビも同じ。みんなが広げてくれた道筋の先にそれがあって、そのチャンスを与えてもらったこと、新しい表現ができることがうれしかったから「じゃあ私、そこに全力注ぎます!」と向かって行けた。だから「1分半じゃ私の歌は伝わらない!」ではなく「1分半で届けないといけない。じゃあ私には何ができるだろうか」という思考回路になるんです。
ワクワクを作る天才と、楽しむ天才と
──ただ一方で、お茶の間にまで浸透できたにもかかわらず、新たに獲得したリスナーを連れてくるライブの場がないという非常にもったいないタイミングでもあって……。“デート”(ライブ)の空間が消失してしまった世界に対して思うところはたくさんあると思うのですが。
はい……。
──2月のアコースティックライブはひさびさの有観客ワンマンでしたけど(参照:LiSAデビュー10周年に向けて発進!1年越しに叶ったライブで手応え「希望が見えました」)、ソーシャルディスタンス対応で密状態ではないフロアの景色はいかがでしたか?
私はこの非常事態の状況下で1年近くライブができていなくて。ワンマンライブとなると1年半くらいやっていなかったので、改めてお客さんがいてくれることのありがたさを感じました。が、やっぱり今までとは全然違うので、この状況だからこそできること、この状況だからこその新しい幸せの探し方をしなくちゃいけないなとは思いましたね。
──今までライブで感じていた幸せと同じものは当面作り得ない、ということですよね。いろんなアーティストに話を聞いていると、ロックバンドの人は特に顕著で、それこそ作る楽曲すら根本から考え直さなくてはいけなくなっていたりしているようで。ライブで発露することありきの曲作りができなくなっているというか。
そうですね。私はまだバンド編成でのライブをこの状況下では体験していないので、想像することしかできないですけど……ただ、あまりマイナスには考えていなくて。なぜなら「うちのお客さん、すごいからなあ」っていう(笑)。
──この状況でもなんとかしてくれそうだな、LiSAッ子たちは、と。「逆境だけど、いっちょやったろうか!」という団結力が生まれそうですよね。
そうそう(笑)。私はワクワクを作る天才だけど、みんなは楽しむ天才だから「せっかくだから楽しんでやろうぜ」という気持ちがすごく強い。きっとこの困った状況も楽しんでくれるんじゃないかという期待があります。
環境と状況が作らせた意欲作「LADYBUG」
──コロナ禍でライブが思うようにできない一方で、LiSAさんはコンスタントに楽曲リリースを重ねていますよね。これまでとは違う状況下でミュージシャンシップはどのように保っていたのでしょう。
テレビ歌唱する機会が多かったというのはある意味強みで、ライブができなくても、歌を歌うことに神経を注いだパフォーマンスをする場をいただけることはすごく力になっていました。やっぱり私は、先ほどお話していたロックバンドの状況に近いものを感じていて。これまで私にとってのゴールはライブだったので、「ライブでどういう景色を作ってやろうか」というのを踏まえて音楽制作をしていたんです。自分の曲を聴き返したとき、今のライブがない状況下で、私の曲を聴くのはどんなときなんだろう?と考えると、走っているときなんですよ(笑)。
──確かに家でじっとしているときではない感じがしますね(笑)。
トレーニングで走っているときとか、車に乗っているとき、気合いを入れてアドレナリンが出ているときに聴く楽曲のほうが自分の持ち合わせ的には多い気がして。だから、そうじゃない場面での楽しみ方ができる音楽にも意識的に目を向けるようになっていて、去年出したアルバム「LEO-NiNE」(2020年10月発売)にはおのずとそれが反映されているかなと思います。
──新作「LADYBUG」ではそれがさらに顕著になっているというか、新しい扉を開けることが主目的とも言える内容ですよね。LiSAさんのミニアルバムといえば、デビュー1年目の「Letters to U」(2011年4月発売)と、そのちょうど5年後にリリースされた「LUCKY Hi FiVE!」があり、今回はその5年後で10周年と、折々の節目を飾る作品になっています。
そうですね。
──「LUCKY Hi FiVE!」発売時には「この5年間でポップとかロックとかいろんな道筋を立ててきましたけど、そのすべての筋道のマックスを見せることで『デビューから5年経った今のLiSAはこういう人です』という新しい名刺を作ったような感じ」と表現されていました(参照:LiSA「LUCKY Hi FiVE!」インタビュー)。今回もそれに近い部分を感じますけど、道筋を拡張しすぎでは?と思うほどで。
(笑)。10年間LiSAとして活動を重ねてきて、その時々の状況や感情を思い切りぶつけて音楽を作ってきましたけど、この10年という節目のタイミングでは同じ道をなぞることはしたくないな、という感覚が強くて。30歳になることを恐れていた自分が30代に突入して、この先どうやって歩んでいこうかと考えながら、テレビというフィールドで歌える楽曲を作っていくことを目指したりとか、活動の幅を広げつつ自分の今いる場所と自分の立場や身体とすごく向き合った中で……環境と状況が作らせたというか。
──LiSAさんの中にはやはりロックバンドで音楽の道を志したというアイデンティティがあって、それを根幹にアニメソングのシーンで自分らしさを獲得したのがLiSAさんのこの10年間だと思うんですね。今作ではそのアイデンティティすら取り払って拡張しているというか、立ち技を10年極めてきた格闘家が総合格闘技に参戦したら寝技・極め技にもしっかり対応できていた、みたいなポテンシャルを感じたんです。10年の下地はハンパないなという。
あはは(笑)。10年歩んできて、まさかB'zの松本(孝弘)さんが楽曲を提供してくださる日が来るとは思わなかったし、ゆずの北川(悠仁)さんが私を認識してくださる日が来るとも思ってなかったですからね。B’zやゆずの音楽も自分の血の中にあったはずなんだけど、より濃い血を流しながら作ってきたのがこの10年だとしたら、私の中にはあるはずなんだけどやらなかった、行けないと思っていた方向の先にいる人たちとも出会うことができたのは、この何年かで自分の中に起きていた変化と今の環境があったからこそだと思うんです。
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過去の自分とは戦わない、背負わずに逃げ切ります!という覚悟