過去の自分とは戦わない、背負わずに逃げ切ります!という覚悟
──松本さんや北川さん、アヴちゃん(女王蜂)といったアーティストと組んだ楽曲が総合格闘技的な新たなバリエーションだとしたら、おなじみのPABLO(Pay money To my Pain)さんとタッグを組んだ1曲目の「RUNAWAY」はこれまで培ってきた立ち技の実力を存分に見せつけているような感じがあって。
「RUNAWAY」はわりと最後のほうに作った曲で……というのも、私は不安症なので(笑)、しっかりバランスをとらないとうまく振る舞えないんですよ。そのバランスをとる意味でも、ほかの楽曲が柱としてとても強い分、自由に動ける場が欲しいなと。もともと私はPTPが好きだし、ロックやハードコアが少なからず自分の血に入っていたので、PABLOさんが作るものが嫌いなわけがなくて、PABLOさんの作るサウンドが合わないわけがない。この10周年の節目の作品で自分のやりたいことを自由に表現する部分を担ってもらうにはPABLOさんしかいないだろうと。それでPABLOさんに声をかけたら、最初に「このリフどう?」ってリフを持ってきてくれたんですね。それで「これは曲にするしかない!」と思って、そこから私がメロディを付けたんです。
──あ、「RUNAWAY」の作詞作曲はLiSAさんですけど、元はこのリフありきなんですね。
そうなんです。ライブでパフォーマンスしている自分とこの現状を、自分の曲だからこそ自由に表現できたというのはあると思います。
──歌詞としては、LiSAさんなりのコロナ禍ソングというか、2020~21年を反映したような内容になっていますよね。
それもありますし、なんというか……「私、背負わないけどね」っていう宣言でもあって(笑)。私は過去の自分とは戦わないし、いろんなものを背負わずに逃げ切ります!という覚悟ですね。
J-POPにハードロックを持ち込んだB'z松本孝弘が
LiSAと邂逅したら
──そんな痛快なオープニングを経ての2曲目「Another Great Day!!」がもう、イントロからちょっと笑っちゃうぐらいにTAK MATSUMOTOが全開で。このサウンドと噛み合ってるLiSAさんすごいな!と別の意味で痛快でした。
いやもう最高ですよ。サウンドの基盤はハードロックなんですけど、ハードロックをきちんとJ-POPに落とし込んだのが松本さんでありB'zさんであると私は思っていて。食べやすくするために、ハードロックだけではないサウンドを、稲葉(浩志)さんの歌や言葉遊びがさらに親しみやすくしてくれる。最高のハードロックであり、J-POPなんです。曲を聴いたときは私も同じように、思わず笑っちゃうくらい「うわ、松本さんだ!」と思いました。キーの話をしたときも松本さんご自身が「LiSAさんだったらこのキーがいい」とご指定をいただいたり、私のことを受け止めたうえで誠実に対峙してくださったことがうれしかったですし、こうやって歌い手からのインスピレーションを受けて作られるんだなって。
──やりとりの中でB'z、TAK MATSUMOTOサウンドの秘密の一端に触れられたと。この曲はバカリズム脚本の映画「地獄の花園」の主題歌で、LiSAさんが書いた歌詞についてはもちろん映画を意識した内容だとは思うのですが、言葉遊びのユーモア的な部分に稲葉さんと似たニュアンスを感じたんですよね。
おこがましいですけど、B'zの音楽を好きな方にも「LiSA、B'zのことが好きだったんだな」と伝わる歌詞にしたいなという気持ちがありました。映画の雰囲気と松本さんのサウンドもドンピシャだったので、そこに自分自身が飛び込むような気持ちで。
──「流行りの意見をありがとう あなたはそちらに」みたいな辛辣なことをさらっと、しかも高らかに歌っているのがB'zっぽいんですよね。
そうそう。「ロックンロールだぜ ハートを焦がそうか」と言ってもOKだな、みたいな気持ちで書きました(笑)。
アニメソングとは違う、実写映画の主題歌に必要なもの
──「サプライズ」も映画「夏への扉 ―キミのいる未来へ―」の主題歌ですが、こちらは非常にドラマチックなバラードですね。これはLiSAさんが「バラードの名手」であるという評価あってのオーダーだと思うんです。
公開の順序としては逆になりましたが、実はこちらが先にオファーをいただいていて。私にとっては初めて手がける実写映画の主題歌だったんです。アニメ作品の主題歌はデビューの頃から何度も歌わせてもらいましたけど、初めて生身の人間が動く映像作品は、自分の中でちょっと勝手が違っていて。観る人が、人と人との感情と一緒に受け取るものだということを踏まえて作っていきました。
──作品に寄り添った曲作りは何度もやってきたものの、違う感覚があった?
そうですね。感覚的な話ですけど、魔法が出てきたりもするアニメーションはあくまでファンタジーの世界なので、その中で現実味を感じるのは感情だけだと思うんです。現実に鬼が出てくることはないし(笑)、悪魔や吸血鬼が出てくることも、自分が魔法を使えることもない。その中で共感できるものは感情で、だからいつもアニメの曲を作るときは感情の部分にフォーカスして自分の気持ちを落とし込んでいくんです。でも実写の場合はもう少し現実味のあるものというか、肌感、温度感のあるものが描けたらいいなと思っていました。実体験の中で“あなた”と“私”が触れ合っている温度感というか。
──なるほど、その違いは面白いですね。ではその温度感を表現するため、具体的にはどう考えました?
映画の舞台として1990年代が描かれているので、自分がストレートに感じてきた……なんと言うんでしょう、ロックの入り口みたいなもの? 思い返せば中学生のとき、自分がロックだと思ってコピーしていたのはEvery Little Thingの「jump」(2001年発売)とか、椎名林檎さんとかEGO-WRAPPIN'とか、ちゃんとJ-POPに落とし込まれているロックを聴いてコピーしていたんです。そういうJ-POPが持つ力がこの映画には必要だと感じたというか、自分が担う役割として正しいんじゃないかなって。
──すごく映画のムードにぴったりな楽曲になりましたよね。予告映像での使われ方もJ-POPのド王道というか、Bメロがセリフに合わせて途中でカットされて、よいシーンでサビがドン!と来るという。
よかったです。映画はお先に観させてもらいましたけど、すごく素敵でした。
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アヴちゃんの力を借りて“LiSA”を壊す