WOWOWオリジナル音楽レギュラー番組「INVITATION」|“夏バンド”TUBEが武部聡志、広瀬香美、和楽器バンドと“激アツ”コラボ 第4回収録現場レポート

今年1月にスタートしたWOWOWのオリジナル音楽レギュラー番組「INVITATION」。最新回となる第4回には、“夏バンド”ことTUBEが登場する。コラボ相手を務めるのは、武部聡志、広瀬香美、和楽器バンドという、まったくテイストの異なる3組だ。

TUBEは武部と「海のバラード」、広瀬とともに「おかげサマー」と「ゲレンデがとけるほど恋したい」の“夏冬メドレー”、そして和楽器バンドと「Paradiso ~愛の迷宮~」「あー夏休み」を披露。音楽ナタリーではその“激アツ”な収録現場をレポートする。特集の最後には収録を終えたゲスト、そして番組ナビゲーター古舘伊知郎からのコメントも掲載しているので、併せてチェックしてほしい。

取材・文 / 平山雄一 撮影 / 堀清英

デビュー以来36年。TUBEは一度もメンバーチェンジをすることなく、前田亘輝(Vo)、春畑道哉(G, key, Cho)、角野秀行(B, Cho)、松本玲二(Dr, Cho)の4人でここまで来た。愛情を込めて夏の代名詞のように呼ばれてきたバンド名のTUBEは、サーフィン用語で“筒状の波”のこと。最初の大ヒット「シーズン・イン・ザ・サン」以降、彼らは“夏バンド”の名前を欲しいままにしてきた。一方でその枠からジワリジワリとはみ出し、夏に縛られない名曲も数多く生み出している。今回の「INVITATION」はそんなTUBEのプロトタイプ=夏に焦点を当てながらも、コラボを通じて未知の魅力を探ろうというもの。コラボ相手は武部聡志、広瀬香美、和楽器バンドというテイストのまったく異なる3組だ。さて、どんな展開が待っているのだろうか。

「こんなにボリュームのある番組、ひさしぶりだよね(笑)。吉川晃司さんがゲストだった第1回の放送を観て『大変なんだろうな……』と思ってましたが、まさか3組とコラボするとは思わなかったし、曲を覚えるのも大変でした」と前田は語る。春畑は「ちょうどツアー中だったので、毎回、ライブの合間に『INVITATION』のリハをしてました」と準備万端。TUBEはアイデアてんこ盛りで収録に臨んだのだった。「シーズン・イン・ザ・サン」から最新曲「スマイルフラワー」まで、TUBEナンバーの収録は非常にスムーズに進む。さすがにベテランバンドだ。リズムセクションの繰り出す安定したグルーヴに、前田の声とメンバーのコーラスが乗ると、まぎれもないTUBEのサウンドとなる。

和楽器バンドとのコラボでは、「INVITATION」史上、最多のミュージシャンがステージに上がった。TUBEの4人に和楽器バンドの8人、サポート3人の合計15名がスタジオに勢ぞろい。迫力の光景だ。コラボ曲は「Paradiso ~愛の迷宮~」と「あー夏休み」で、ともにTUBEのナンバー。アレンジは和楽器バンドの町屋(G, Vo)が担当した。町屋はいつものエレキギターではなく、シタールギターを抱えての参戦だ。

「リズム隊が多い!! 太鼓、パーカッション、ドラム、ドラム、ベース、ベースで、これだけで6人ですから音圧がすごかった。それに箏は鳴ってるわ、尺八は鳴ってるわ、リズムはラテンだし、歌詞は日本語だし(笑)。『これはどこの国の音楽だ!?(笑)』っていうくらいの世界観で、すごく楽しかったです」と角野。実際、ラテンのリズムに和太鼓が入ると、いい意味での無国籍なムードが漂い出す。松本は「僕のベーシックなドラムに対して、ちょうどうまい具合に隙間を埋めてもらったっていう。和太鼓がどうなっちゃうのかなって思ってましたけど(笑)、味があるというか、すごくうまくミックスしてもらったんでよかったと思います」と笑う。「あー夏休み」では箏や三味線、尺八が目の覚めるようなソロを取り、これまでのTUBEにないエキゾチックな表情を与える。「僕は和太鼓の前にいたんで、後ろで叩かれると音圧がすごくて、自分が何を弾いてるのかわからないくらい(笑)。和太鼓の音に包まれてベースを弾いておりました。気持ちよかったです」と角野。このコラボでTUBEは大きな刺激を受けたのだった。

緊張感のある和楽器バンドとのコラボに対して、武部とのコラボは非常にリラックスしたものになった。TUBEのデビューシングルのアレンジを手がけた武部は、その後、TUBEのターニングポイントに何度か参加して彼らと強い信頼関係を結んでいる。今回はTUBEの魅力の1つであるバラードにアレンジャー兼ピアニストとして加わった。アレンジは至ってシンプル。最初のワンコーラスは武部のピアノだけで前田が歌う。つまりは、ピアノ次第で曲はどのようにもなる。この日、武部は早くからスタジオ入りして、ずっとピアノを弾いていた。「武部さんは僕たちのことをよくわかっていて、今回、初めて『海のバラード』を武部さんにプレイしてもらったら、『ピアニストでこんなに曲が変わるのか!』って感じでした。ゴスペルというか、違う世界に連れていってくれました」と春畑は驚く。変幻自在な武部のピアノに反応して、メンバーはそれぞれに演奏を楽しんでいた。3回撮ったのだが、質感はすべて違うものに。「3テイクともビビッと感じるところがあったし、どのテイクもよかったと思います。どれがオンエアされるのかな? それが楽しみ」と前田。セッションならではのマジックが起こったコラボとなった。

「夏のTUBE」に対して、広瀬香美は「冬の女王」。この好対照なコラボは、広瀬がTUBEに提供した「おかげサマー」と、広瀬の代表曲「ゲレンデがとけるほど恋したい」のメドレーという、これ以上ない選曲で実現したのだった。「香美さんは2015年の横浜アリーナでのライブのときにサプライズで出てくれて、それ以来の共演でした」と前田は「おかげサマー」を振り返る。ハイテンションな広瀬のパフォーマンスは、TUBEのカラーにぴったり合っていた。そして面白かったのは「ゲレンデがとけるほど恋したい」だった。広瀬と前田が交互に歌うと、まるでデュエットソングのようになる。スリルとユーモアが満載で、スタジオ中が笑顔になった。「今回は広瀬さんのキーで行ったので、とても危険でした(笑)。彼女の声は高いですからね。リハーサルのときにデュエットソングみたいに歌ってみたら、『意外と合うね』となって。振り分けは、男のセリフを僕が歌う。でも最初に決めたところ以外、『ここも歌ってよ』って変更になったり、『Bメロは高いから出ない』と言っても『適当にやってください』って言われて。まさしく闘いでした(笑)」と前田はうれしそうにボヤく。さらには2人で歌うために追加された歌詞が、最大の聴きどころになっている。「俺が歌う『ちょっと太った?』のあとに、『you and me』を追加した。そうすると香美さんが『ちょっと太った?』って俺に聞かれて、『そっちもね』と答える形になる。そのあとで香美さんが俺を指差して『性格変えた方がいいかもよ』って歌う(笑)。オリジナルの歌詞にないところで、お互いに楽しくやれたんじゃないかな」。

こうしてすべてのコラボは無事終了。冒頭で前田が言ったようにボリュームたっぷりの内容だったので、収録は一日がかりだった。それでも前田は言う。「大変でしたけど、こういう番組があってくれたほうが、音楽をやる人たちにとってはやり甲斐がある。和楽器バンドさんみたいな若いバンドと出会えるチャンスもなかっただろうし」。春畑は「めっちゃ楽しかった(笑)。町屋さんのギターも異次元のものでしたね」と続ける。そこで、和楽器バンドの町屋がこの収録のためにシタールギターを買ったことを伝えると、メンバー4人は「そうなの!?」とビックリしながらもうれしそうに笑った。それはこの日、全力を出し切ったTUBEのさわやかな笑顔だった。ライブ撮影のあとに行われたトークパートの収録も、古舘が「今日は少し同窓会モードに入ってしまいました」と反省するほど、和気あいあいとした充実の内容となっている。どちらもオンエアを楽しみに待っていてほしい。

収録を終えて

武部聡志

WOWOW「INVITATION」第4回収録より、武部聡志。

「INVITATION」のTUBEの回で、僕にお声がけいただいて非常に光栄に思ってます。TUBEとは36年前のデビューのときからの付き合いなんですけど、デビューシングルのアレンジはしたものの、大ブレイクしていく過程では時間をともにしていなかった。だけどどこかで「自分がデビューを手がけたグループ」として応援している気持ちやエールを送る気持ちをいつも持っていて、「よかったな。売れたなー」とうれしく見ていたんですよ。だいぶ経ってから「またアルバムのプロデュースをしてくれないか」って話が春畑くんからあって、そのレコーディングがすごく楽しかった。プロデューサーとバンドという関係よりも、キーボードとしてバンドの一員に混ぜてもらった気分というか。そこで一気に距離が縮まったと思うんですよね。その後、2017年のアリーナツアーで僕が音楽監督をやって、離れていた時間を一気に取り戻した。そして今回は僕のピアノをフィーチャリングしていただいたんで、すごくうれしかったです。ゴスペルタッチのピアノになりました。リズムはあんなに跳ねちゃいけないんだけど、前田くんと2人でワンコーラスやるっていうことを考えたら、やっぱり歌心があるピアノにしたいなと思って。単純に伴奏するようなピアノじゃなくて、僕のピアノと前田くんのボーカルとが会話してるようなプレイをしたいなと思ってたら、自然と跳ねてしまった(笑)。

今までTUBEは夏の代名詞みたいに言われてきたのが、これだけ大人になってくると、夏のキラキラした海だけじゃなく、秋の海や冬の海の情景をしみじみと歌えるようなグループになっていってほしいと思います。今日の「海のバラード」はそういう味があったと思います。それとTUBEはあの4人じゃないと出せない、ちょっとやんちゃな雰囲気があるじゃないですか。今の若いロックバンドって必死になって音楽をやってるんだけど、TUBEにはちょっとふざけたり、コミックバンドとまではいかないけれど、ステージ上でもおちゃらけられる匂いがある。だからTUBEはエンタテイナーとしてまだまだ遊べる余地があるなと思っていて。恥ずかしいこともできちゃう、笑われても平気みたいな。そこがTUBEの魅力でもあると思うんで、それを忘れないで今まで以上におちゃらけてやってほしいなって思ってます。

広瀬香美

WOWOW「INVITATION」第4回収録より、広瀬香美。

ひさびさの共演に興奮しました。私は普段ソロ活動ですので、「バンドっていいなぁ~」と思いました。「おかげサマー」は、TUBEさんのために書いた作品ですが、当初から自分でも歌いたいと思えるような作品にしようと思って書いたので、今回、歌えてうれしかったです。また「ゲレンデがとけるほど恋したい」を前田さんが歌ってくださるということで、私と違う世界観が繰り広げられ、カッコいい出来になったと思います。ですが、終始キーが高い曲なので前田さんには申し訳なかったです。本番はバッチリ決めてくださり、「さすが!」って思いました。TUBEさんとは私もデュエットをしたいと思っていたので楽しかったです。真意は聞いていませんが、前田さんも同じことを考えられていたのではないでしょうか。でも大手を振って前田さんを指差して「性格変えた方がいいかもよ」なんて、普通は言えないセリフですから(笑)。歌の中だからできる、言えることなので面白かったです。しかも「歌ってほしいの」って歌ったあとに、春畑さんのギターソロが始まる。私、春畑さんのギターのファンなんです。伸びがあって優しくて、春畑さんの気持ちそのままの音色がギターに現れています。春畑さんと一緒にユニット組みたいくらいです。気持ちよく歌わせてくださり、感謝しています。

和楽器バンド

──「Paradiso ~愛の迷宮~」と「あー夏休み」のメドレーのアレンジは町屋さんが担当しましたね。

町屋(G, Vo) はい。最初の段階から春畑さんとやり取りしながらすり合わせて、僕がアレンジしました。ドラムが2人、パーカス、和太鼓、ベースが2人いる。楽器編成が多すぎるので「これ、どうしようかな?」って(笑)。で、TUBEさんにはスタンダードに原曲を演奏してもらって、和楽器バンドはそれとは違うフィールで仕掛けをしながらも、それでいてお互いが同時に鳴らしたときに、どちらも殺さずにサウンドが響き合うようにしました。

──「あー夏休み」では箏や三味線が、短いながらカッコいいソロを取ってました。

町屋 和楽器バンドのそれぞれの楽器の音色にTUBEさんがすごく興味を持ってくださっていて。「遠慮せずにいろいろ入れてほしい」と言っていただいたんで、それぞれがソロを取ったり目立つポイントをピックアップして、我々の要素をキュッと圧縮してこのメドレーに詰め込めたかなと思います。

──リハは大変でした?

WOWOW「INVITATION」第4回収録より、左から鈴華ゆう子(Vo)、町屋(G, Vo)。

町屋 最初からけっこうまとまってたよね。

鈴華ゆう子(Vo) うん。「どうしよう」とかはまったくなく、最初から「わ、なんかすごいねー!」って(笑)。ただ、バンド感とごちゃごちゃ感は和楽器バンドで慣れてますが、前田さんは大先輩なので歌はどうしようかと考えていたら、前田さんが「気にしないで歌っていいよ」と最初に言ってくださって。ハモリだからといって遠慮することなく気持ちよく歌わせていただきました。それと「あしらい」が楽しいって。

──「あしらい」って何ですか?

町屋 「Paradiso ~愛の迷宮~」のラストはテンポを決めずに阿吽の呼吸で合わせるんですが、そういう日本人ならではの間のつなぎ方のことを「あしらい」って言うんです。

鈴華 皆さん、「それ、あしらいっていうんだ! うちのバンドでも使おう」って喜んでくださって(笑)。

──この曲で町屋さんはシタールギターを弾いてましたが。

町屋 春畑さんがガットギターだったので、僕がエレキで入るのもちょっと違うなと思ったときに、エキゾチックな曲なのでインドの楽器のシタールかなって。あのシタールギターはこのコラボのために買いました。

──すごい!(笑)

町屋 そんなこんなでTUBEさんが何もかもきっちりやってくださったので、リハーサルは非常にやりやすかったです。

──大先輩TUBEとのコラボで得たものは?

町屋 個人的にはギターの音作りがめちゃくちゃ勉強になりました。全体としては「あー夏休み」のBメロでキラキラしたキーボードが入ってきたり、そういうのをうちのバンドで別の楽器に置き換えて構築していったりできるんじゃないかなと、いろいろ想像が膨らみました。

鈴華 変わらない声量で長年歌い続けている先輩の声を直接聞くことができたことが非常にうれしかったです。私も前田さんのように長く歌い続けていきたいので、すごく刺激をいただきました。

古舘伊知郎

WOWOW「INVITATION」第4回収録より、古舘伊知郎。

TUBEさんとは古くからの知り合いなので、懐かしさがこみ上げちゃって、今日は少し同窓会モードに入ってしまいました。仕事だからいけないんですけどね(笑)。TUBEがデビューした1985年はまさにバブル突入のときですから、日本が一番浮かれていたときに波に乗ってTUBEが出てきたんですよ。自分もその頃フリーになって、それまでのスポーツ実況アナから歌番組司会に大転換してるんで、興奮状態にあったと思うんですね。テンション高い状態で知り合った仲なので、今日は年甲斐もなくはしゃいじゃいました。もうこれ、ナビゲーター失格ですよ(笑)。同窓会モードじゃない場合は、いい意味でも悪い意味でも緊張感があるから、番組の骨格である音楽の部分をしっかり深掘りできる。なので、今日はいけない部分といい部分の両方が出たのかもしれない(笑)。楽しい方向ばっかりになりすぎずに、本格的に音楽的な見識を持ってアーティストに挑んでいくのが大事。本格的な音楽番組なんだってことを腹に据えた上で、風に揺らぐようなことができると、ナビゲーターとして最高だと思うんですけどね。そこの高みを、今後も目指したいと思います。

収録を終えてみて「楽しかった」「疲れた」「夢みたい」の全部の感情が入ってます。心の高気圧が出張ってましたね。特に武部さんがアレンジしてピアノを弾いた「海のバラード」がよかった。僕は音楽のことはよくわからないんだけど「いいなー!」って思いました。それを生で聴けたお得感が今日はひしひしとありました。自分がライブに観客として来たあとみたいに、ちょっと興奮しながらTUBEにインタビューしている感じがあったんじゃないかと思います。


2021年9月13日更新