WOWOWが総力を挙げて挑む新音楽番組「INVITATION」|第1弾は吉川晃司が登場!ゲストに奥田民生、大黒摩季ら迎えた初回収録現場に密着

WOWOWが新たなレギュラー音楽番組「INVITATION」をスタートさせる。これまで数々の伝説的ライブや深く掘り下げた音楽ドキュメンタリー番組を制作してきたWOWOWが満を持して立ち上げるのは、アーティストとその音楽を多角的に捉えた画期的な番組だ。

カバーやコラボ、マニアックな音楽分析など、今や音楽番組は多彩を極めている。音楽のジャンルの細分化、メディア・機材の進化が進む中で、音楽の楽しみ方も広がっているのだろう。WOWOWの「INVITATION」は、それらの要素をすべて備えたハイスペックな内容。王道のライブパフォーマンスはもちろん、カバーには意外性を求め、コラボでは可能性を追求し、音楽へのこだわりを体現してみせる。そのホットな現場に視聴者をINVITATION=招待するのが、番組のコンセプトだ。チーフプロデューサーの丸山明澄氏は、「視聴者の皆さんを“珠玉のライブ空間”にご招待するのと同時に、このコロナ禍にアーティストの方々を“思い切りパフォーマンスできるステージ”にご招待するという意味もあるんです」と語る。アーティストも視聴者も心から音楽を楽しめる番組が「INVITATION」というわけだ。

「INVITATION」の第1回に登場するのは、吉川晃司。そしてアーティストと視聴者をつなぐのは、ナビゲーターの古舘伊知郎。どんな切り口で楽しませてくれるのか。収録の最中に企画が次々とバージョンアップされていく、スリリングな番組制作の現場を追ってみた。

取材・文 / 平山雄一 撮影 / 平野タカシ

WOWOW「INVITATION」第1回収録より、吉川晃司。

WOWOWはこれまで吉川晃司のキャリアの節目節目となるライブや、心の内側まで踏み込んだドキュメンタリーを放送。それらの番組を通してWOWOWと吉川は信頼を深めてきたため、「INVITATION」のスタートを飾るのには、吉川以上にふさわしいアーティストはいない。吉川もこのオファーを喜んで受けたという。ライブ収録のスタジオには、番組のシンボルとなる巨大なリングをイメージしたセットが組まれた。それを中心にして照明の調整が行われ、音響チームは入念にサウンドチェックを進めている。まずは吉川といつもライブを共にしているバンドメンバー、生形真一(G)、ウエノコウジ(B)、湊雅史(Dr)、ホッピー神山(Key)がセットにスタンバイしたところに、吉川が登場して収録が始まる。「2曲ばかり歌ってみて、ようやくライブの感覚を思い出してきたよ」と吉川。昨年はコロナ禍でほとんどライブができなかったので、ひさびさのバンドとの生演奏を楽しんでいるようだ。収録では最大15台のカメラが縦横無尽に動き回る。ディレクターからは「カメラは感じるまま、自由に動いていいよ」と声がかかる。通常のテレビ番組だと事前にカメラワークが決められているが、どうやら「INVITATION」は違うようだ。吉川はそれに気付いて「昔の生の歌番組と同じだな。ぶつかって俺のマイクのコードが抜けちゃったりして、緊張感があった。“作りこまないよさ”っていうの? そのほうが観てるほうは面白い。こっちは命が縮むけどね(笑)」とコメント。雰囲気がリラックスしてきたところで、次は奥田民生とのコラボの収録へ。曲は「Dancing in the Street」。60年代ソウルの名曲で、デヴィッド・ボウイとミック・ジャガーがカバーしてヒットしたナンバーだ。

この曲ではうれしいサプライズがあった。別の曲でゲスト出演する大黒摩季が、なんと「Dancing in the Street」のコーラスを自ら志願して、飛び入り参加することになった。ソウルフルな歌唱を得意とする大黒の声が加わって、3人の豪華なボーカルサウンドがスタジオに響きわたる。また曲の後半で奥田がギターソロを取るのだが、その際、吉川から2人で背中合わせのパフォーマンスをしようという提案が飛び出した。実際にやってみると、背中が微妙にズレてしまい、「わし、もっと下にいかにゃあ」と苦笑い。共に広島出身で、同い歳でもある2人。この曲の収録では、吉川がずっと広島弁で指示を出していたのが面白かった。「『INVITATION』はすごい番組になるよ。でも第1回がうまくいったら、それはそれで大変でしょ」と、吉川はスタッフに笑顔でプレッシャーをかける。

次はベースの後藤次利とギターの菊地英昭というゲストミュージシャンとのセッションだ。注目は“リズム”。曲ごとに変化するグルーヴは、吉川の音楽の変遷をそのまま表している。最初に収録する「サイケデリックHIP」は1986年に発表された曲で、強烈なダンスビートが当時の音楽ファンを驚かせた。今で言う“クラブ”並みの過激なグルーヴを全面に押し出していたからだった。今では信じられない話だが、80年代の日本では大都市にしかクラブがなく、地方の若者たちは大音量でダンスする機会がなかった。ということで吉川のライブツアーには、絶好のチャンスとばかりにダンス好きのファンが多く押し寄せた。90年代に入ると全国にクラブができるが、吉川は80年代の日本のダンスミュージックを牽引した1人でもあったのだ。「サイケデリックHIP」のもともとのアレンジは後藤が手がけた。その後藤本人が今回、ベーシストとして演奏に参加。オリジナルのグルーヴを再現しようというわけだ。それに応えて吉川は昔の映像を見直し、当時の体の動きを思い出そうとしたという。この曲でのパフォーマンスは当時のライブのハイライトとなっていたから、ファン必見のシーンになりそうだ。吉川のダンスチューンに欠かせないギタリストとして、菊地が加わって貴重なセッションとなった。

続いては吉川と大黒のコラボだ。11年前、大黒と吉川が組んだユニット・DaiKichi~大吉~としてリリースされた「HEART∞BREAKER」を2人で歌う。実はこの曲、これまでライブでもテレビでもまったく披露されたことがなく、「INVITATION」が初生演奏&歌唱となる。「ハンドマイクで歌う? それともスタンドマイクのほうがいい?」と吉川は大黒がやりやすいようにセッティングを進める。スタジオのフロアの中で自由に動けるスペースを探して、「このへんで歌うといいよ」と気遣う。生で初披露となることもあって、2人は歌の入り方に慣れておらず、収録は爆笑の連続。「HEART∞BREAKER」での共演をずっと楽しみにしてきた2人の歓びが爆発して、ハッピーなテイクとなった。そのあと、バンドは生形、ウエノ、湊、ホッピー神山のいつものメンバーに戻り、「LA VIE EN ROSE」や「アクセル」など収録が進む。また吉川は歌と同様に自ら弾くギターを大切にしているが、それをしっかり見せようというカメラワークに「INVITATION」の音楽番組としてのこだわりが感じられた。

全楽曲の収録完了後、ライブと並んで「INVITATION」のもう1つの柱となるトークセッションが行われた。都会的で上質なイメージのセットに、古舘と吉川がスタンバイする。ひさびさの再会となる両者のトークは、最初は静かにスタートしたものの、すぐにヒートアップしていく。2人が初めて出会ったのは1985年から1990年まで古舘が司会をしていたフジテレビ系列の音楽番組「夜のヒットスタジオ」だった。古舘が当時の様子を「暴れまわってくれました(笑)」と話すと、吉川は「ツッパってましたからね。あの頃は自分のために歌ってましたけど、今はみんなを喜ばせたい」と率直に語る。そのほか、作詞や作曲のこと、ゲストの奥田や大黒とのつながりなど、テーマは多岐にわたった。中でも圧巻は吉川の独特のボディアクションについての話だった。古舘が筋肉や関節の使い方について切り込むと、吉川は実際に腕を伸ばしたり、指をくねらせたりして体をフルに動かして応じる。こうした話題から派生して話は横道にそれたり、裏道に迷い込んだり、縦横無尽に展開。途中、古舘が「話を戻せなくなってしまいました」と苦笑いするシーンもあった。まさに「INVITATION」ならではの3時間半にもおよんだ“言葉のセッション”がどんなふうに番組を彩るのか期待は膨らむばかりだ。

古舘伊知郎&吉川晃司インタビュー

吉川晃司

──「INVITATION」から第1回のアーティストとしてオファーを受けたとき、どう思いましたか?

WOWOW「INVITATION」第1回収録より、吉川晃司。

その前にライブのことを話しておきたいんだけど、配信は「ひさしぶり、元気か?」って顔を合わせてお互いに鼓舞し合う意味で、1回目は有意義かもしれないけど、ずっとはありえない。特に僕の場合は、ただ歌を聴かせるためだけにコンサートをやってるんじゃなくて、見せる部分やコール&レスポンスがあって成り立ってるから、観客がいないライブは考えにくいね。

──実際、吉川さんのライブは生々しいところが魅力です。

そう。でも、今、どうしたらいいか考えてもわからない。だったら「鳴かず飛ばず」じゃないけど……。

──「鳴かず飛ばず」って?

これはもともと中国の言葉で、本来は「この鳥は鳴かず飛ばずにいるけれど、飛べば天まで昇り、鳴けば人を驚かすだろう」っていう意味。自分としては動き出すそのときまで、何も言わずに黙っておこうかと思ってた。でも、世界は元に戻らないかもしれないし、ライブも前と同じにできなくなるかもしれないと思うと、いろいろトライしていくべきでしょ。そんなとき、「INVITATION」からオファーが来た。WOWOWの素晴らしい決意ですよ。

──古舘さんとのトークはいかがでしたか?

WOWOW「INVITATION」第1回収録より、吉川晃司。

若い頃から歌番組でお世話になってますから、身構えずにフラットな気持ちで話せましたね。「夜のヒットスタジオ」の頃の僕は、ギラギラして暴れてました。でもそれは、どうしたらやりたいようにやれるのか暗中模索だったから。そんな話も素直にできましたよ。何しろ(TBS系列ドラマ)「下町ロケット」の仲間でもありますから。

──吉川さんのボディアクションに関連して、武道の話までしてましたね。

古舘さんはそういうことにも詳しいからね。番組に必要な話だけじゃ面白くない。でも話しすぎて、身ぐるみはがされました(笑)。

──最後に「INVITATION」に対して、ひと言お願いします。

自分のバンドで、今やりたい曲を選べて、コラボもあって、カバーもできて楽しいですよ。もちろん本当のコンサートとは違うんだけど、だからこそゆっくり長く続けていってほしい。ぜひ行けるところまで遠くに行ってほしいですね。

古舘伊知郎

──「INVITATION」からオファーを受けたとき、どう思いましたか?

WOWOW「INVITATION」第1回収録より、古舘伊知郎。

「レギュラー音楽番組の司会を」と言われただけで、どんな番組になるのか、まったくイメージが湧かなかったですね。ただ、このコロナ禍にあえて立ち上げることには感じるものがありました。多くの人がコンサートを観たいと思っているのに、観ることができない。3密になってしまうライブハウスは苦境に追い込まれている。でも打ち出される政策や補償が、文化や芸術に冷たい。それに対してWOWOWは、「INVITATION」という番組を通して、本気で1人のアーティストのライブを届けたいんだ、と。「そうか、これはライブコンサートのデリバリー。宅配サービスなんだ」と気付いて、視界が一気に開けましたね。……あ、今のは“司会”と“視界”を掛けてるんですけど(笑)。

──うまいですね!(笑)

「古舘さんの役割は、司会というよりナビゲーターです」とプロデューサーの方に言われて、さらにイメージがはっきりしました。登場するアーティストがこれまでどんな音楽をやってきたか、コロナ禍で何を考えているのか、今後はどんな方向に進もうとしているのか。僕はその針路をサポートするカーナビですよ。

──視聴者の方々に対しては、どんな役割を?

そうですね、映画字幕翻訳家の戸田奈津子さんみたいなものです。アーティストが話す音楽の専門用語を、噛みくだいて、皆さんにわかりやすく伝えることですね。

──第1回の吉川晃司さんとのトークはいかがでしたか?

WOWOW「INVITATION」第1回収録より、古舘伊知郎。

ひさびさに会って、80年代の「夜のヒットスタジオ」での暴れん坊ぶりを思い出しました(笑)。当時、好印象を持ってたんですよ。こういう人が引っ張っていく世界もいいなって。トップ・アスリートが歌にガムシャラに挑戦して、とんがっている。これはすごいことになるだろうなと思ってました。その後、彼はアーティストだから、もがき苦しんで自分の道を切り開いてきた。今日はじっくり話せて、その一端を引き出せた手応えがあります。

──ナビゲーターとしての役割を果たせたと?

うーん、もっと明確にナビゲートしないとなと思ってます。僕は雑談好きなので、話がすぐ横道に逸れる。もちろん「今年の抱負は?」って聞くこともやらなければいけないんですが、横道も裏道も大事。そこにトークセッションの面白さがある。コンサートのMCも、そういうところがあるでしょ。もしかすると制作スタッフは横道をムダと思うかもしれないけど、そこは絶対に曲げたくないですね。

──確かにコンサートのMCも、横道に逸れたほうが面白いですからね。

それも含めて“コンサートの宅配番組”になれたらいいと思ってます。コンサートは生モノで、アーティストと観客、人と人とのカーニバルだから。それをテレビで伝えるのは至難のワザですが、なんとか届けたいです。

収録を終えて 奥田民生コメント

WOWOW「INVITATION」第1回収録より。左から奥田民生、吉川晃司。

広島の同い年のおっさんなんですが、吉川さんのほうがデビューが全然早いわけですから、業界の大先輩。そこはね、やっぱりキャリアが違います(笑)。一緒にやったことがないわけではないんだけれども、フェスでみんなでバーっと出るときくらいだったから、今回は新鮮で変な感じ。「こんなん一緒にやっちゃったりしとるわ」みたいな(笑)。吉川さんから「曲はこれかこれか、どれがええかのう?」みたいなメールが来て。メールもめちゃめちゃ広島弁なんですよ(笑)。で、「わし、どれでもええわ」みたいなことで。「Dancing in the Street」だからまあ、ミックとボウイですよ。そりゃ、全然違うけど(笑)。「デヴィッド・ボウイのほうがキー高いから、俺、そっちいってもいいよ」って言ったら、「いや! お前はゲストじゃけえ」みたいな。メインっぽいのを俺にやれって。今回は誘ってくれましたから、俺を立ててくれたんじゃないかな。バックにはウエノコウジも湊(雅史)もいるわけで、なんなら俺のバンドと被ってる人もいるから、親しみが湧きました。大黒さんとは、以前にも会ったことがあります。コーラス、素晴らしいですよ。後ろからスパーンと声が聴こえてくるし、あの曲にすごい合ってたしね。助けられた感じがします。(白地に紫模様のシャツを見せながら)今回の俺の衣装のイメージは牛です。だって丑年ですよ。今年はこれで攻めようかな(笑)。吉川さんはライブが延期になったままらしいんですけど、できることを祈ってます。健康状態とか体力的にはなんの問題もないでしょうから、そこを俺が心配してどうするって話もあると思うんですけど。俺のほうですか? まだ様子を見ながらなんですけど、MTR&Yのツアーもやりますし、やれることをその都度探してやろうと思ってます。お互い、長生きしましょう(笑)。

収録を終えて 大黒摩季コメント

WOWOW「INVITATION」第1回収録より、大黒摩季。

私、昔から吉川さんのファンでした。ちゃんとお会いしたのは殿(との)の20周年の武道館(2004年)。あ、私は吉川さんの織田信長役を見て以来、“殿”って呼んでるんですけど(笑)。そのコンサートでギタリストの原田喧太さんが紹介してくれた。彼は私のライブでも殿のライブでもギターを弾いてたんですよ。その後、映画「仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE」(2010年)の主題歌「HEART∞BREAKER」で「俺と組もうぜ」って殿が声をかけてくれて、DaiKichi~大吉~っていうユニットができた。でも私、そのとき病気だったんですよ。「HEART∞BREAKER」のMVを撮って、そのまま休養に入っちゃった。そしたら殿が心配してくれながらも「お前、それはないだろ。1回も一緒に歌ってない(笑)」って。で、今回やっと一緒にバンドで歌うことができました! もう11年がかりですよ(苦笑)。だから私一人だけ、超楽しんでました。殿は自分の特番だから全部を全力でがんばらなきゃいけないですからね(笑)。バックコーラスにも志願して、民生さんがいたり、EMMAさん(菊地英昭)や後藤次利さんがいたり、私にしてみたらドリームチームですよ。1人だけキャッキャしてました! すごく楽しかったです。私、50才過ぎてから絶賛成長期で、去年は3月から12月まで連続で毎月シングルを配信して、「PHOENIX」っていうアルバムを出して。今年は3月からブロードウェイ・ミュージカル「The PROM」にメリル・ストリープと同じ役で舞台に立ちます。それと指揮者の柳澤寿男さんと組んで、オーケストラとのツアー「billboard Classics」の準備が進んでます。若い頃の私に言ってあげたい、「50才過ぎてからがパラダイスよ」って(笑)。殿へのメッセージは……私の先をひたすら歩いてもらって、“トーテムポール”みたいな私の目印でいてほしい。クレイジーなのにアカデミックだったり、男性が持つべき魅力を全部持ってる人だから、歳を取ってもありのままでカッコいい。ただただ健康に気をつけて(笑)、いつも一歩先から「大黒、こっちだよ」って言ってほしいです。


2021年9月13日更新