WOWOWオリジナル音楽レギュラー番組「INVITATION」|東京スカパラダイスオーケストラが登場! ゲストの斉藤和義、ナビゲーターの古舘伊知郎とコラボ繰り広げた第2回収録現場レポート

今年1月、WOWOWがスタートさせた新オリジナル音楽レギュラー番組「INVITATION」は、放送後、視聴者から大きな反響を呼んだ。コロナ禍の中、ライブの楽しみを見失っていた音楽ファンを“最高のライブにご招待(INVITATION)する”というコンセプトが歓迎されたのだろう。第1回のアーティストは吉川晃司で、非常に充実した内容だった。「LA VIE EN ROSE」などのヒット曲や沢田研二の「カサブランカ・ダンディ」のカバー、奥田民生や大黒摩季とのコラボなど、豪華なセットリストを惜しげもなく披露して、新番組の誕生を鮮やかに祝った。またナビゲーターの古舘伊知郎がトークセッションで吉川のアーティスト性を見事に引き出し、まるでライブのMCのように吉川の存在を身近に感じさせてくれた。

第2回「INVITATION」のアーティストは東京スカパラダイスオーケストラ。コラボゲストには斉藤和義を迎える。日本のみならずワールドワイドで活躍する生粋のライブバンドが、「INVITATION」でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。第1回に続いて収録現場を密着取材してみた。

取材・文 / 平山雄一 撮影 / 田中聖太郎

東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)は、NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)、川上つよし(B)、沖祐市(Key)、大森はじめ(Perc)、茂木欣一(Dr)の9人編成。それぞれが強烈な個性を放っていて、この人数ならではの迫力あるライブを展開する。基本的にはインストゥルメンタルバンドで、管楽器の4人とギター、ベース、パーカッションがフロアを自在に動き回り、曲によってはGAMOや大森、谷中がマイクを持ってアジテーションをする。

「INVITATION」のライブ収録現場にメンバーが勢ぞろいすると、かなりの広さを誇る番組のステージセットにたちまち熱気が満ちあふれて狭く感じるほど。スカパラが得意とするインスト曲の収録は、とてもスムーズに進んでいく。「火の玉ジャイヴ」などライブで何百回も演奏されてきたナンバーを、メンバーは自由に表現する。それだけに、彼らを追うカメラは大変だ。毎回、異なる動きをするメンバーの決めポーズを逃さずに撮るのは至難のワザ。総合演出の小澤正彦(フジパシフィックミュージック)の指示する声が、だんだん大きくなっていく。スカパラとカメラマンの白熱したセッションは何度となく繰り返され、最後は全員の充実した笑顔で結ばれた。小澤は「INVITATION」の演出コンセプトをこう語る。「アーティストがその楽曲を通じて伝えたい楽しさや悲しさを、映像で表現することに全力を尽くしています。その出発点となるアーティストのパフォーマンスが素晴らしいので、編集しながら感動して泣いてます」。

「INVITATION」第2回のコラボゲストは、スカパラとは何度も一緒に演奏している仲の斉藤和義だ。今回はスカパラの「君と僕 2010」でコラボする。もともと「君と僕」はスカパラのデビューアルバムに収められていたインストナンバーで、20周年記念アルバム「WORLD SKA SYMPHONY」のリリースに際して谷中が歌詞を付けることになり、その大切な曲のボーカルとして斉藤に白羽の矢が立った。哀愁のあるメロディに斉藤の声がマッチして、ファンの間でも人気曲となっている。今回のコラボでもその魅力が十分に発揮され、貴重なライブテイクとなった。続いては斉藤のヒット曲「歩いて帰ろう」のバックをスカパラが務める。エネルギッシュなブラスサウンドに彩られて、名曲がその表情を変える。友情に裏打ちされた、楽しい仕上がりになった。

収録を終えて 斉藤和義コメント

WOWOW「INVITATION」第2回収録より、斉藤和義。(撮影:田中聖太郎)

今までスカパラと一緒にライブをやらせてもらう機会が何回もありましたけど、毎回すごく楽しいんですね。メンバー9人がみんな仲よくて、しかも俺と同い年の沖(祐市)くん、谷中(敦)くん、(川上)つよしくんがいて安心感もある。GAMOさんや加藤(隆志)くんは普通に飲み友達でもあるし。だから今回もすごく楽しかった。一昨年、俺がニューヨークに個人的に旅行に行ったとき、偶然にもスカパラがニューヨークのホールでワンマン(「Tokyo Ska Paradise Orchestra 30th anniversary Park Live in New York」)をやっていて、そのライブを見られたんですよ。お客さんは7割方が向こうの方で、曲が進むごとにどんどん盛り上がっていく。最後にはお客さんたちが踊り狂っていくさまをずっと客席で見ていて、本当に感動しました。“日本のサムライたち”って感じで、すごくいいもんが見られたなって。スカパラは大所帯のバンドで、一緒にやると左右から管楽器が聴こえてきて、その真ん中に立って歌うと「俺って歌手なんだな」って思う瞬間があります。その感じって、なかなかないよね。普段、自分のライブで管を入れることはないから、すごく新鮮です。もともと俺は管楽器が好きで、小4くらいのときに最初に始めた楽器がトランペットだった。そこから3年間、鼓笛隊でトランペットやってたんで、ここ3、4年、NARGOくんにいろいろ聞いたりしてトランペットをまたちょっと買い直してみたり。最近は子供がサックスを始めたんで、俺も貸してもらってちょっと吹いたりしてて、「管楽器っていいな」と思ってます。全然上達しないんだけど、だから好きですね(笑)。もしスカパラが俺をメンバーにしてくれるなら、ぜひトランペットをやりたいです。

そして、サプライズが起こった。第1回でも大黒摩季がコーラスを志願するというサプライズがあったが、今回はなんとナビゲーターの古舘がスカパラの代表曲「Paradise Has No Border」の演奏に“参加”することになったのだ。「最初はイントロで曲紹介をやるのかなと思ってたんですよ。そうしたら『演奏の実況をしてくれ』って流れになって。『俺、できませんよ。音楽の世界の人間じゃないんだから』って言ったんですけど、『一度、やってみましょうよ』って言われてしまって……。やりたいけど、そんなことやって盛り上がるのかな?と半信半疑でした」と古舘。まさに前代未聞。演奏するバンドの真っ只中にいて、その様子を実況しようというのだ。1970年代から1980年代にかけて新日本プロレスの実況番組に出演し、巧みな話術とその熱量で日本中のプロレスファンの心を掴んできた古舘。古舘をリスペクトするスカパラのメンバーは、かつて自分たちを夢中にさせた古舘の実況を、じかに体験したいと望んだのだ。

おそらく世界初のトライに、ステージセットの中はてんやわんや。メンバー紹介を兼ねたソロ回しの1人ひとりに古舘が実況をつけるのだが、時間が足りずに途中で次のメンバーに移らなければいけないこともしばしばあった。古舘は「演奏中にGAMOさんの指図に従ってメンバーのところに行って、その人を紹介しながら演奏の実況をする。これからってときに次のメンバーに行けって言われて、間に合わないから全部尻切れトンボで終わる(笑)。でも、逆にその快感ってあるんですよ。予想外なところでウケる。まさにそれがライブ。『これは楽しい!』と思いましたね」と語る。特に反応が見事だった古舘ファンの沖は、古舘の実況に応えてキーボードに肘を振り下ろす。プロレス技のエルボードロップだ。収録以前には誰も思い描かなかったシーンが次々に生まれる。「自分の世界観でアジテーションしているときは、まだいいんですよ。だけど『しゃべり終わったら“どうだ!”みたいなポーズを作って、あとはノリノリで最後までいてくれ』って言われてもね、どうしていいかわからない(笑)。メンバーの皆さんがお仕事してるのに、俺だけ偉そうな態度を取るって……。しゃべってるときは強気なのに、いきなり心許なくなって」と古舘。

予想をはるかに超えた盛り上がりの本番が終わると、スタジオにいたスタッフたちから大きな拍手が巻き起こったのだった。パフォーマンスを終えた古舘は「なんか狐につままれたようにやってみたら、スカパラのメンバーの方々が喜んでくれた。ということは、ライブとしてオッケーなんだなって。それがすべてですよ。僕もやってて楽しかった」と率直な感想を口にする。アーティストのパフォーマンスと並んで「INVITATION」の柱である古舘のトークが、思わぬ形で番組にパワーを与えた瞬間だった。果たして奇跡のコラボは、この先もあり得るのだろうか。「いや、もうないと思います(笑)。ライブの実況を頼もうっていうアーティストは、誰もいないと思う。スカパラさんならではと思うんですよね。スカパラの、あのなんでもありのワンダーランド状態だから、しゅっと『やろうよ』となったと思う。ただ今回のスピンアウトはすっごい楽しかった(笑)。予想だにしなかったです」。

このあと、スカパラのメンバー変遷や音楽性などについて語られたディープなトークセッションを経て、収録は無事終了。スカパラと斉藤との友情、古舘との相互リスペクトがスパイスとなって、ライブ感あふれる音と映像が撮れたのだった。ライブの宅配番組「INVITATION」の第2回のオンエアが本当に待ち遠しくなった。

東京スカパラダイスオーケストラ(茂木欣一 / 谷中敦 / 沖祐市)収録直後のインタビュー

──今日はどうでしたか?

WOWOW「INVITATION」第2回収録より、茂木欣一(Dr)。(撮影:田中聖太郎) WOWOW「INVITATION」第2回収録より、谷中敦(Baritone Sax)。(撮影:渡邊玲奈 / 田中聖太郎写真事務所)

茂木欣一(Dr) この番組、最高ですよ。「INVITATION」っていうタイトルは、番組は僕らを招待して、僕らはお客さんを僕らの音楽の世界にご招待するみたいなことかなと思って収録に臨んだんですけど、まさにそういうことでした。家でステイホームしてる皆さんにどれだけ笑顔になってもらえるものを出せるかっていうのは、スカパラの使命だと思う。人の気持ちを少しでもワクワクさせることがスカパラには絶対できると思ってるから。本当はこの番組のあとにお客さんをそのままライブに“INVITATION”できればいいんですけど、なかなかそれが難しい時代になってるから、より気合いが入るというか、めちゃめちゃ全力でやりましたね。

谷中敦(Baritone Sax) とてもいい番組だと思います。1回目のアーティストの吉川さんからお正月に「スカパラも『INVITATION』に出るんでしょ? このご時世にありがたいよね」ってメールをいただいて、僕もまさに同感でした。こういう形でお客さんと“会わせてもらえる”ってことなので。僕はステイホーム中ほとんどマスクしていて、あんまり人と目を合わせないように、みたいな生活をしていたんですね。そうしたらマスクに甘えて自分が“マスク顔”になってた。マインドまでマスクを被ってるみたいな。これはまずいって思ったので、テレビに出るときは外向きにしようっていう気持ちで今日は招待してもらいました。

沖祐市(Key) 音楽の力って、本当はライブでお客さんと一緒に体験しなければ手に入れられないものなんだけど、音楽番組はそれをなんとかして録画録音して形に残そうというものだと思うんですね。今日はその手応えがあった。上っ面で演奏しましたっていうんじゃなくて、限りなくライブに近いことができました。

──斉藤和義さんとのコラボは?

WOWOW「INVITATION」第2回収録より、斉藤和義。(撮影:田中聖太郎)

茂木 あんなにカッコいいルックスで、ああいう歌声を出されたらね(笑)。僕はドラマーなので、フィーチャリングボーカリストが来ると必ず正面にその人の背中を見ることができるわけです。斉藤さんはあのギターを持った立ち姿が、めちゃめちゃカッコいいんですよね。絵に描いたような感じで、うっとり見てました。

谷中 斉藤くんとコラボした「君と僕 2010」は、スカパラの20周年のときに、デビュー当時のインスト曲に20年越しで歌詞をつけさせてもらったものです。この曲はもともとの口笛のインストバージョンが、スカパラにとってもスカパラのファンにとっても大事な曲なので、冒涜なのかなって緊張しながら歌詞を付けたんです。今回のバージョンは歌と歌の間に沖の口笛ソロがあって、そのあと、「あれから随分時間が過ぎ」って歌が始まるんですよ。口笛バージョンから20年が経ってるってことを考えながら書かせてもらったんですけど、その歌詞を斉藤くんがしっかりストーリーテラーとして、スカパラのことを思いながら歌ってくれているような気持ちになって、すごく感動しました。

──口笛のパートを担当されたご本人としては?

WOWOW「INVITATION」第2回収録より、沖祐市(Key)。(撮影:田中聖太郎)

 「君と僕」の歌詞って「長い時を経て再び会って、僕らはどのくらい歩いてきたのかな。もしかしたら同じところに立っていたりして」みたいな内容で、斉藤くんの「歩いて帰ろう」も自分と社会の距離感のちょっとしたズレを描いた歌なのかなと思っていて。斉藤くんとはいつも一緒にやってるわけじゃないので、本番のライブ中に「また会ったね」って思う。今日も何年かぶりにあの曲を一緒にやって、歌詞の中で斉藤くんと「本当にまた会えたね」って思えたライブでした。

──古舘さんについては?

茂木 トークのとき、スカパラの歴史が全部頭に入っていて、よどみなく頭の中の引き出しから出てくるっていう。僕らのことを好きじゃないと、あそこまで踏み込んでくれないんじゃないかな。今日は古舘さんから、キャッチコピーをいっぱいいただきました。アルバム5枚分の帯の言葉をもらっちゃったかな(笑)。

谷中 とっても愛情と好奇心のある人。「エンタメが面白いってことはどういうことなんだろう」っていう興味を、それこそ子供みたいに持った方なんだなって思いました。そしてその部分に労力を割いてる。尊敬できますね。

 それこそ自分は子供の頃から古舘さんの言葉の力で育ってきたんだなって、改めて確認しました。言葉を発明する人って時代を作ってる人なんだってことをひしひしと感じることができて、その中でスカパラが「NO BORDER」を言葉そのもので実現した。また新たなハードルを音楽の力で越えることができました。いま体温がグッと上がっている状態です。

──古舘さんにアジテーションされて、肘でキーボードを弾いてましたね(笑)。

 やっぱり「おーっと!」って言葉を発明した人じゃないですか。それが自分の中にあるからこそ、プロレスみたいな弾き方ができるっていうか、思わずやっちゃいました(笑)。

WOWOW「INVITATION」第2回収録より、東京スカパラダイスオーケストラと古舘伊知郎。(撮影:田中聖太郎)

2021年9月13日更新