WOWOW「INVITATION」特集|氷川きよしが歌手活動の休養を前に多彩なパフォーマンスをお届け

12月17日に放送されるWOWOWのオリジナル音楽レギュラー番組「INVITATION」に氷川きよしが登場する。番組では、年内いっぱいで歌手活動を休養する氷川が、プライベートでも親交のある木根尚登(TM NETWORK)、平原綾香とのコラボパフォーマンスなどを披露。音楽ナタリーでは収録の模様を、氷川や番組ナビゲーター古舘伊知郎のコメントとともに紹介する。

取材・文 / 平山雄一撮影 / 平野タカシ

スタジオライブレポート

今年いっぱいで歌手活動を休養することを宣言した氷川きよし。演歌界に彗星のごとく現われ、J-POP全盛の音楽シーンに演歌の健在ぶりをアピールした異才が、自分の生き方のすべてをさらけ出して次のステップ=Kiinaに移行する。今回の「INVITATION」は、そんな氷川きよしの決定的瞬間を捉えた貴重なパフォーマンスをお届けする。

氷川きよし

氷川きよし

このところ「INVITATION」は吉川晃司や甲斐よしひろなど、実際のライブ現場での収録が続いたので、ひさびさのスタジオでの番組収録となる。いつものステージセットにドラム、ベース、ギター、キーボードがスタンバイしているところに氷川きよしが入ってきて、ピリリとした爽快な緊張感が走る。最初に収録するのは「きよしこの夜」だ。この曲はKIYOSHI名義で2001年に発表された、氷川にとって3枚目のシングルで、河村隆一がプロデュースを担当して話題を呼んだ。原曲は元Original Loveの宮田繁男のアレンジによる、洗練されたR&Bテイスト。この日もバンドのアダルトオリエンテッドなグルーヴが心地よい。そこに氷川のボーカルが乗ると、クリスマスの香りがスタジオに充満する。

氷川きよし 演歌はソウルミュージックやブルースと似てますよ。魂の歌というか、自分たちを鼓舞させるための音楽ですよね。

氷川きよし

氷川きよし

バンドセットはそのままに、収録は「一剣」「白雲の城」の演歌メドレーに進む。ソウルと演歌は似ている部分があるとはいえ、バンドメンバーは恐ろしく幅広い音楽性を要求される。果たしてどうなるのかドキドキしていると、着物に着替え、髪を後ろで1本に束ねた氷川がスタジオに帰ってきた。キリリと引き締まった表情がいい。セリフ入りの時代劇仕立ての楽曲を、まっすぐ前を見据えて歌う氷川に目を奪われる。バンドもドラマチックな演奏で、「きよしこの夜」とは打って変わったサウンドを繰り出す。さすがと言うべきだろう。

氷川きよし

氷川きよし

さらに氷川は、2017年にリリースされ、活動の転換点となった「限界突破×サバイバー」を披露し、表現の振り幅の大きさを提示する。白黒のストライプ模様の衣装が、70年代前半のデヴィッド・ボウイを彷彿とさせるアバンギャルドな雰囲気を醸し出す。スタッフも気迫十分のパフォーマンスに応えて、多彩な照明を当てる。ポップなロックで、氷川の歌とアクションが躍動。収録はスリリングなシーンの連続で、充実した番組になるという期待が膨らむ。さらにグラマラスなロックを全面的に展開したのは、Queen「Bohemian Rhapsody」の日本語詞カバーだった。訳詞を担当したのは、Queenと独自のパイプを持つ湯川れい子。氷川の生き方に共感する湯川は、「Bohemian Rhapsody」の邦訳を快く引き受けた。原詞を忠実に再現した歌詞を氷川が熱唱する。歌詞ばかりでなく、メロディも非常に難しい曲なのだが、氷川は見事に歌ってのけた。

氷川きよし

氷川きよし

氷川きよし

氷川きよし

氷川 「Bohemian Rhapsody」は1年間、ずっとツアーで歌ってきました。自分の中ではフレディ・マーキュリーに対する供養だと思ってます。彼は45歳の若さで亡くなったので、自分が45歳になるときに歌いたいと思ったんですよ。フレディの気持ちをわかってあげたかった。彼は表では華やかな人気者だったけど、本当の幸せを実感できないまま亡くなられたんだと思います。彼は何も悪いことをしてないのに、いろいろ責められたり自分のことを否定したりしながら生きた。でも、それぞれ持って生まれてきた個性というものを、お互いが理解して受け入れていくところに平和というのは生まれるわけであって。それを伝えていくことが大切かなって。彼の気持ちを代弁したいと思ったとき、日本語で歌うべきだなって思いました。

氷川ばかりでなく、バンドもこの難曲を熱演。ソウル、演歌から複雑なプログレッシブロックまで、さまざまなジャンルの演奏をこなすメンバーの努力には敬服する。氷川のバンドに対する信頼は、この努力から発しているのだろう。

コラボもまた多彩だった。まずは“ポップスの氷川”には欠かせない作曲家・木根尚登(TM NETWORK)が登場。黒のレザージャケットとレザーブーツといういでたちで、氷川と2人で作り上げた「You are you」にアコースティックギターとハーモニーボーカルで参加した。

左から木根尚登、氷川きよし。

左から木根尚登、氷川きよし。

左から木根尚登、氷川きよし。

左から木根尚登、氷川きよし。

氷川 横で木根さんがいつもと違うお洋服で歌ってくださったので、気持ちよかったです。レコーディングや打ち合わせのときはパーカーで来られるので、最初は木根さんだと気付かなくて(笑)。黒のレザーで本格的に決めてくださっていて、やっぱりカッコいいなと思いました。木根さんとは家族的につながっている感覚があるので、こっちも飾らなくていいし、安心しますね。コロナ禍で誰にも会わない時期に精神的に追い詰められて、「You are you」の歌詞を書いて深夜に木根さんに送ったら、曲を作ってくださった。聴いたときは本当に感動して、「こんなに素敵な曲になるんだ」と思いました。

氷川の言うように、木根の声が加わるとサウンドに温もりが生じる。ありのままの自分を肯定したこの曲は、多くのリスナーを励ますに違いない。ラストの「You are you」というリフレインでの氷川の低音ボイスは、エレガントでとても素敵だった。

もう1人のコラボ相手である平原綾香は、「あーや」「Kiina」と呼び合う仲。本来なら氷川が1人で歌う「生まれてきたら愛すればいい」を、2人で分かち合う。作曲は木根で、作詞は「テルマエ・ロマエ」で知られるマンガ家のヤマザキマリ。2番の歌い出しを1オクターブ上で歌うという斬新な平原のアイデアがぴったりとハマって、原曲にはない感動が生まれた。おそらくこれは「INVITATION」だけのスペシャルバージョンになるので、音楽ファンは必見だ。

左から平原綾香、氷川きよし。

左から平原綾香、氷川きよし。

左から平原綾香、氷川きよし。

左から平原綾香、氷川きよし。

氷川 あーやはもう、一緒にいるだけでホッとします。木根さんはお兄さんみたいな感覚でホッとするんですけど、あーやは女子友みたいでなんでも話せちゃう。あーやも天然だしこっちも天然だから、すごく楽です(笑)。28歳のときに知り合って、今も連絡が途絶えないっていうのは、やっぱり気が合うからなのかな。この曲のリハーサルのとき、「こういう感じでまとめてくるんだ」と思ってありがたかったですね。2番のアイデアにはびっくりしました。あーやは普通の人が出せないような高い声で歌えるし、下は男の人と同じくらい低い声が出る。すごいですね。せっかくマリさんに歌詞を書いてもらったのに、テレビで歌う機会がなかったから、今回はちょうどハマってよかったです。しかも最高の形になりました。

シャンソンのような温かさをたたえた「生まれてきたら愛すればいい」で、スタジオがリラックスした空気に包まれる。氷川の依頼で初めて作詞したというヤマザキも、きっと満足するに違いない。

氷川きよし

氷川きよし

氷川きよし

氷川きよし

そしてこの日を締めくくったのは、氷川がKiinaとして作詞を、木根が作曲を手がけた新曲「魔法にかけられた少女」だった。先月公開されたミュージックビデオはショッキングな映像とアグレッシブなサウンドで注目を浴びた。まさに氷川からKiinaへの変化を象徴する1曲だ。ブラックのレースをあしらった赤いドレス姿のKiinaが、歌はもちろん、眼、眉、指、つま先まで、全身を使ってこれまでの人生を表現する。

氷川 この曲は自分史を描きたいと思って歌詞を書きました。“歌”っていうひと筋の光があったからこうやって生きてられるんだなってすごく実感しますね。歌詞に「布団」とか「押し入れ」が出てくる。周りからは「クローゼット」にしたらとかって言われましたが、そんなしゃれたもんじゃなかったんですよ。そこは演歌チックだった(笑)。

緊迫した収録がすべて終わった。Kiinaは音楽性と人間性の両方の集大成のようなセットリストを、この時点でのベストな形でパフォーマンスしてみせた。それでも「もっと入れたい曲があったんですけど、だいぶ長くなるだろうと思って」と語る稀代のボーカリストに向けて、スタジオにいたすべての人々が大きな拍手を贈ったのだった。

左から木根尚登、氷川きよし。

左から木根尚登、氷川きよし。

出演者コメント

木根尚登

木根尚登

きーちゃん(氷川きよし)とは、まだ彼が20代で、僕が40代くらいのときに出会いました。知人を通して仲よくなって、きーちゃんの家に遊びに行ったときに、「木根さん! ASAYAN観てました」って言いながら僕の「REMEMbER ME?」というソロシングルのCDを持ってきてくれて、そこから仲よくなったんです。仕事で絡むことは一切なかったけど、一緒にごはんを食べたりとかしてました。そうしたら5、6年前に、ファンクラブのイベントで好きにポップスを歌ってもいいって事務所からのお許しが出たらしく、そこで平和の歌を歌いたいから「CDにはならないんだけど、木根さん、曲を作ってくれませんか?」と言われて。詞はもうできていて、それに曲を付けさせていただいたのが最初のコラボです。

その後、「2枚目のポップスアルバムを作りたいんですけど、力を貸してもらえませんか?」と頼まれて。「いやいや、俺は小室じゃないからプロデュースはできない。だけど友達としてのアドバイスでよければやるよ」と。そうしたらLINEできーちゃんの書いた詞がどんどん僕のところに送られてきて(笑)、それに僕がメロディを付けるところから曲が生まれていった。「You are you」がまさにそれです。それからも立て続けに10曲分くらい詞が送られてきてますけど、そんなに書けないですよ。「きーちゃん、ちょっと待っててね」って(笑)。ご存じの通り、今いろんな思いがあふれていらっしゃるから、歌詞に込められた情感がどんどん強くなってきている。最初に出会ったときとは全然違うきーちゃんがいるわけですよ。「ここまで言って大丈夫かな?」と思ったりはするんだけど(笑)、僕はプロデューサーじゃないので詞には一切口出しせず、そのままメロディを付けてます。

きーちゃんとはいい意味で距離感を保ててます。彼が僕のことを気遣ってくれるし、僕もきーちゃんをリスペクトしているから、馴れ合いではなく、長い付き合いになっている。休みの期間は好きなことをしてほしいなって思う。自由に休むのもいいし、海外に行くのもいいし。今までできなかったことを、のびのびと好き勝手にやってほしい。“大切な家族”という思いが強いですね。

平原綾香

平原綾香

とにかく楽しかったです。「生まれてきたら愛すればいい」を一緒に歌っていて、Kiinaがすごく楽しんでいるのが伝わってきたんですよね。だから私も自由に歌えました。今までいろんな方とデュエットしてきたんですけど、それとは違う新しいデュエットができました。2番の歌い出しは、あえて1オクターブ上げて歌いたかったんです。それは「開かれた窓 果てない空 偽りのない 透明な世界」という歌詞に、Kiinaの本当の姿を見たからです。この歌を初めて聴いたとき、Kiinaがもう1人の本当の自分に語りかけているような景色が浮かびました。その部分をオクターブ上で歌うことでKiinaの少女性を表現したかった。それを伝えたらKiinaがすごく喜んでくれました。とてもいい曲と歌詞で、私は自分の人生にも当てはめてこの曲を歌っていましたが、今回新しいデュエットだと感じた理由は、私は氷川きよしという人生の物語を歌う語り部のような役を担う気持ちで歌っていたからなのかもしれません。こんなふうに、デュエット相手の人生を必死で表現しようと思ったことは今回が初めてのことでした。

古舘伊知郎

古舘伊知郎

非常に興味深かったですね。自分では決め付けていないつもりで柔軟に氷川さんの本音を聞こうと思っているのに、やっぱり自分の決め込んだことを言ってしまう。でもそれが逆に功を奏して、人生の在り方の一端を氷川さんから教えてもらったと思います。氷川さんに「あなたはあなたの生き方でいいんだよ」と言ってもらったような気がしてます。トークの後半に、本音が出てきた。いろんな苦難や偏見に満ちた世界を生きてきて、抑圧されて、今、解放されようとしている。そういう人が、「私は私のまんまだから、なんでも答えますよ」と言ってくれたとき、ハッとしましたよ。あれだけ正直に言われると。

「音楽ってなんだろう?」ということも感じました。こういう思いの人間が、喉という自分の楽器を鳴らすことによって、胸のうちを伝えることが音楽なんだって。演歌について本人はいろんな思いがあったって言ってましたけど、僕は前から「ズンドコ節」も含めて氷川さんの歌声が好きなんですよね。一方で氷川さんにはポップスを歌いたい気持ちがある。だから余計に「実家の親を邪険にする」じゃないけど、「いいじゃん、たまには帰るからさ」っていう思いがあるんじゃないかな。今後きっと演歌に対する“望郷の念”が発動されるんじゃないですかね。番組の後半では、演歌とはまったく違う志向で歌い上げていく曲を聴かせてもらったので、今日は氷川さんのパフォーマンスの幅広さを非常に堪能しました。

Kiinaになったことをうらやましく思います。今までの苦労はあったにせよ、「私はKiinaだ」と言えるっていうね。新しい自分を発見した人への羨望の眼差しすらありますよ。僕は本当の自分を見つけられずに死んでいくんじゃないかって、ちょっと思ったりして。本人のご苦労を棚上げにして悪いけど、横にいて気持ちがいいんですよ。きっと迷いがなくなって、氷川さんという人間の存在がすっきりしているからですね。

氷川きよし

氷川きよし

左から氷川きよし、古舘伊知郎。

左から氷川きよし、古舘伊知郎。

番組情報

WOWOWプライム / WOWOWオンデマンド
「INVITATION / 氷川きよし」

2022年12月17日(土)21:00~

WOWOWライブ / WOWOWオンデマンド
「INVITATION / 氷川きよし」再放送

2023年1月3日(火)11:45~

<出演者>
氷川きよし
番組ナビゲーター:古舘伊知郎
コラボゲストアーティスト:木根尚登(TM NETWORK) / 平原綾香

※古舘伊知郎の舘は舎に官が正式表記。


氷川きよし 関連番組

WOWOW ライブ / WOWOW オンデマンド
「氷川きよし特別公演」

第1部 ケイト・シモンの舞踏会~時間旅行でボンジュール~
第2部 氷川きよし コンサート 2022 in 明治座
2023年1月3日(火)20:00~

氷川きよしスペシャルコンサート 2022 ~きよしこの夜 Vol.22

2023年2月放送・配信予定

プロフィール

氷川きよし(ヒカワキヨシ)

9月6日生まれ、福岡県出身。2000年に日本コロムビア創立90周年記念アーティストとして「箱根八里の半次郎」でデビュー。「大井追っかけ音次郎」「きよしのズンドコ節」「一剣」「ときめきのルンバ」など数々のヒット曲を発表し、デビュー年から連続23回にわたって「NHK紅白歌合戦」に出演している。2017年にアニメ「ドラゴンボール超」のオープニングテーマ「限界突破×サバイバー」発表後は演歌以外の音楽ジャンルも本格的に手がけ、2020年6月には自身初のポップスアルバム「Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソディ-」をリリースした。2022年1月に、同年12月31日をもって歌手活動を休養することを発表した。