吉川晃司のワンマンライブ「吉川晃司 Premium Night "Guys and Dolls" presented by WOWOW『INVITATION』」の模様が、7月17日(日)にWOWOWライブ / WOWOWオンデマンドで放送・配信される。この番組はWOWOWのレギュラープログラム「INVITATION」と吉川がコラボしたもので、ライブの模様に加えて番組ナビゲーター・古舘伊知郎とのトークセッションがオンエアされる。音楽ナタリーでは、同番組のオンエアに向けて、同公演のライブレポート、そして吉川と古舘のコメントをお届けする。
取材・文 / 平山雄一撮影 / 平野タカシ
※WOWOWの確認漏れにより一部事実と異なる記述がありました。記事初出時より本文該当箇所を変更しております。
2021年1月にスタートしたWOWOWオリジナル音楽番組「INVITATION」は、回を重ねて音楽ファンにすっかり定着してきた感がある。その記念すべき第1回に登場したのが吉川晃司だった(参照:WOWOW「INVITATION/吉川晃司」特集)。出演オファーを受けたときのことを、吉川はこう振り返っている。
「コロナ禍で通常のライブができなくなったとき、僕は配信ライブというものに疑問を持っていた。観客数も演出も100%ではなかったら、それはエンタテインメントじゃないので、やるべきではない。ただライブのやり方が完全にはもとに戻らないとしたら、いろいろトライしておかないと。そんなことを考えていたとき、『INVITATION』からオファーが来たので、WOWOWの素晴らしい決断に応えることにした」
コロナ禍の真っ只中に新番組をスタートさせたWOWOWと、コロナ後のライブシーンを見据える吉川との出会いが、「INVITATION」のスタートを成功へと導いたのだった。そして2022年、ようやくライブシーンが活気を取り戻しつつある初夏、吉川は豪華ミュージシャンを従えたツアー「吉川晃司 Premium Night "Guys and Dolls" presented by WOWOW『INVITATION』」を敢行。再び「INVITATION」とコラボレーションすることになった。WOWOWでのオンエアは「INVITATION」のフォーマットを踏襲し、ライブと古舘伊知郎によるインタビューとで構成される。ライブ収録はLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で行われたのだった。
開演前からLINE CUBE SHIBUYAには異様な熱気が渦巻いていた。マスク着用と歓声なしというルールはまだあるものの、ひさしぶりのリアルライブを楽しみに来たオーディエンスたちは興奮を隠さない。まずは8人編成のスペシャルバンドがステージに登場。大黒摩季(Backing Vocal)と福原みほ(Backing Vocal)が会場に向かってウェルカムのポーズを取る。バンドメンバーも興奮を隠せないようだ。会場から大きな拍手が起こる中、吉川が現われると、拍手がひときわ大きくなった。ホッピー神山(Key)と矢代恒彦(Key)のダブルキーボードが奏でるシンセサウンドに乗せて、後藤次利(B)がいきなりベースでインプロビゼーションを開始。ピアノがリズムを刻み、そこに大黒と福原のコーラスが重なる。めくるめくイントロから吉川が歌い始めたのは「Dream On」だった。正統派の叙情的ナンバーをオープニングに持ってくるチョイスが、憎らしいほどキマっている。歌が始まると、ベースは後藤から小池ヒロミチ(B)にスイッチする。
続く「Virgin Moon」は山木秀夫(Dr)の鋭いドラムからスタート。今度は後藤がドライブの効いたベースを弾き、小池はなんとダンスとバッキングボーカルに専念する。対して、吉川が早くもボーカルのギアを一段上げて応じると、ギターの今剛(G)がアクロバティックなソロで観客を圧倒。3曲目の「心の闇(ハローダークネス)」では後藤と小池がダブルベースのパワー全開で攻め込んでくると、オーディエンス全員が立ち上がって踊り出した。豪華メンバーを生かすこのライブのコンセプトがたった3曲で伝わり、会場から爆発的な拍手が贈られたのだった。
その後「何よりも笑顔で再会できたことがうれしい」という吉川の言葉に続けて、初期のナンバーが立て続けに演奏される。ループトラックが80年代の香りを漂わせる「No No サーキュレーション」や、少し切ないラブソング「ポラロイドの夏」など、ライトでポップなナンバーが耳をタイムトリップに誘う。かと思えば、次のシークエンスではディープな世界観を持つ曲が並んだ。例えば「RAIN-DANCEがきこえる」では山木のドラムと後藤のベースが、ヘヴィなリズムでボーカルをプッシュする。「ロスト チャイルド」のイントロでは、福原がミステリアスなボーカルで雰囲気を一変させる。ステージ上方に3基のシャンデリアが現れ、背後の真っ赤なカーテンが優雅なドレープを織りなすと、吉川の成熟したボーカルがオーディエンスを魅了したのだった。「in a sentimental mood」が終わると、吉川は一旦舞台から去った。ここで大黒がMCを担当。「皆さん、楽しんでいらっしゃいます? 私はこのステージに立てて、夢がかなってます。よく聴いていた曲ばっかりだから、聴いていた当時の彼氏を思い出したり、キュンキュンしっぱなし。私もそっちで聴きたいくらい(笑)」と満面の笑みで話した。
「サイケデリックHIP」では今剛のヘヴィなギターソロが口火を切ると、バンドのエネルギーが全開に。この曲は80年代の音楽シーンに吉川のオリジナリティの高さを示した記念すべきナンバーで、今聴いても新鮮に響く。特に後藤と山木のリズム隊のグルーヴが強烈で、いい意味で大人げない。会場の熱量がぐんと上昇すると、その熱に触発されたように、後藤、小池、山木、矢代、ホッピーたちが次々とソロを取ってバトルする。続く「The Gundogs」は強烈なロックナンバーで、ホッピーと小池のコーラスがサウンドの男くささを増幅させた。
中でも盛り上がったのは「HEART∞BREAKER」だ。大黒と吉川が組んだユニット“DaiKichi~大吉~”名義で12年前にリリースされたこの曲は、しばらくライブでもテレビでも披露されたことがなく、第1回の「INVITATION」が初パフォーマンスとなった。それをリアルライブで味わえるのだから、オーディエンスにとってはたまらない。衣装替えした大黒と吉川のデュエットはとてもスリリングで、会場がすっかり一体となる。吉川は途中、黒のレスポールでギターソロを取るなど、獅子奮迅の大活躍でライブは終盤になだれ込む。ラストナンバーは「BOY'S LIFE」。明るいロックナンバーに、大黒と福原のコーラスがよく似合う。「世界中の誰よりもきっと」というリフレインでは、オーディエンスの大合唱が聴こえてくるような気がした。吉川はアンコールのステージにブラックのTシャツで登場し、「ライブの途中で、脱水症状になったかと思ったよ。でもそういうときがいいんだよ。声はガラガラになっちゃったけど、思いは届いたでしょ」と語った。そして、余裕たっぷりの演奏で「LA VIE EN ROSE」をパフォーマンス。今の大人っぽいギターに大黒、福原、小池がコーラスを重ね、吉川がスイートボイスを聴かせると、会場の隅々にまで感動が広がる。とても大人な、そして大人げない、素晴らしいライブとなった。
「吉川晃司 Premium Night "Guys and Dolls" presented by WOWOW『INVITATION』」オンエア楽曲
- Dream On
- Virgin Moon
- 心の闇(ハローダークネス)
- No No サーキュレーション
- ポラロイドの夏
- 雨上がりの非常階段
- RAIN-DANCEがきこえる
- MISS COOL
- ロスト チャイルド
- Mis Fit
- in a sentimental mood
- サイケデリックHIP
- The Gundogs
- HEART∞BREAKER
- BOY'S LIFE
- LA VIE EN ROSE
古舘伊知郎コメント
今回のトークは、いつもの「INVITATION」と流れが違うのでやりやすかったです。僕と吉川さんが顔見知りでよくしゃべってくれるというのもありますけど、ライブの余韻があるから違和感がないんですよ。いつものフォーマットだとトークのあとにライブが流れるので、その曲のパフォーマンスの内容についてはネタバレになるから話せない。でも今回はライブを観た前提で話せるので、余韻に浸りながら話せたのが楽しかったです。
あの日のライブはすごくカッコよかった。ダブルベースを生で観たのは、今回が初めて。ドラムを中心に2人のキーボードと2人のベースがいて、天井から吊り下げられた大きなシャンデリアの脇に2つのシャンデリアがあって、両サイドがきれいなシンメトリーになっていた。あんなステージは見たことがない。その余韻の中でのインタビューは、名言の連続でした。例えば吉川さんがツアーの合間に、後藤次利さんをはじめとした先輩ミュージシャンたちに「あなたたちの演奏技術を未来に伝えるために、弟子を取らないんですか?」と質問したら、「弟子にしてくださいと言ってる時点でそのミュージシャンはダメでしょ。自分1人で自分のスタイルを作らないと」と答えたと語っていた。これは音楽の達人である彼らにしか言えない名言ですよ。それを聞いて、吉川さんが今回のツアーで達人たちから吸収したことを、僕に報告してくれた感じがした。「古舘さん、大先輩がこう教えてくれたんだけど、僕はこう思うんですよ」って。それが僕には「吉川晃司の人生訓」のように感じられて気持ちよかった。
一方で、「このご時世、いろんな意見があるだろうけど、あえてライブをやってやろうじゃないか」だったり、「去年手術をしたとき、自分の考えを整理した。人間、今しかないんだから、やりたいことをやるしかないです」だったり、吉川さんの短いセンテンスのフレーズが年齢差を超えてグッとくるんですよね。あのステージであれだけのことを先輩ミュージシャンたちとやってみせた人が言うから、余計に重みを感じて心地よかったですね。しかもあれほど完成度の高いライブをやったのに、吉川さんは「まだ実験です」と言い切った。そのカッコよさに感銘を受けました。これは吉川さんならではの名言ですよ。
僕は、自分がやらせてもらっているトークライブ「トーキングブルース」もそうですけど、ライブはお客さんが主役だといつも思ってます。自分が主役だという錯覚もあるんですけど、あるとき思い知らされるんですよ、「お客さんが主役」だということを。お客さんのノリひとつで話す内容も変わってきちゃうし、二度とない一期一会の空間をお客さんが主体となって作り出してくれてるところに、自分は乗っかってるだけなんだって本当に感じるんですよね。今回はそのアングルで、LINE CUBE SHIBUYAの2階席で観させてもらった。吉川さんがいて、そのステージを観ているお客さんという主役がいる祝祭空間。これに勝るものはないですよね。それを観ていて脳内に駆け巡るものは、スタジオライブよりも、ある意味幅が広いんですよ。主役たちがそこに集結しているわけですから。声援は送れないけど、拍手をしたりいろんなリアクションの仕方がある。MCをやってるときのウケどころも違いますしね。僕はステージも観ているけど、お客さんも観察させてもらってる。自分の目というカメラが、ステージから客席にパンしていく感じあります。リアルのライブでは群衆のうねりや、観客という“見えざる心理の集合体”が持つエネルギーを感じたいんですよね。
とは言え、いつもの「INVITATION」のスタジオライブもいいですよ。スタジオライブは、スタッフがお客さんになる。がらんとした天井の高いスタジオは、森閑としていてリアルのライブよりもさみし気なんだけど、「INVITATION」は多くのスタッフが暗がりでうごめいていて、それぞれの仕事を真剣に務めている。カメラマンさんの微細な動きとかそういうもののすべてが音楽に集中している。あるいはバンド全体にぐーっとエネルギーが集中していって、ライブの祝祭感に至るまでの動きを観察できる。スタジオだと一点勝負でみんながアーティストに向かっていくから、たとえば大阪・岸和田の「だんじり祭」で山車が街角をぶわーって曲がるところみたいな瞬間を切り取ることができる。あの集中力はスタジオライブ独特のもので、緊張感の糸がぴーんと張り詰めていて面白いですね。そういう違いも感じつつ、今回のスピンオフを楽しんでください。そして今後の「INVITATION」も楽しみにしていてください。
番組情報
- WOWOWライブ / WOWOWオンデマンド
「吉川晃司 Premium Night "Guys and Dolls" presented by WOWOW『INVITATION』」 -
2022年7月17日(日)19:00~
※放送同時配信および放送終了後~1カ月間アーカイブ配信あり。
※WOWOWオンデマンドの無料トライアル対象外です。 -
<出演者>
吉川晃司
参加ミュージシャン:今剛(G) / 後藤次利(B) / 小池ヒロミチ(B) / 山木秀夫(Dr) / ホッピー神山(Key) / 矢代恒彦(Key) / 大黒摩季(Backing Vocal) / 福原みほ(Backing Vocal)
番組ナビゲーター:古舘伊知郎※古舘伊知郎の舘は舎に官が正式表記。
- 吉川晃司(キッカワコウジ)
- 1965年広島県出身。1984年に映画「すかんぴんウォーク」の主役に抜擢。同時に主題歌「モニカ」で歌手デビューも果たし、楽曲のヒットとともに逆三角形の肉体とワイルドなキャラクターで人気を博す。その後もヒット曲を連発し、1988年には布袋寅泰とロックユニットCOMPLEXを結成。1990年にユニット活動を停止し、その後ソロとしての活動を再開する。2011年7月には、21年ぶりの復活となったCOMPLEXの東京ドーム公演を東日本大震災被災地復興支援のために開催した。近年は俳優としての活躍も目覚ましく、2015年・2018年に放送された「下町ロケット」、2022年放送の「DCU~手錠を持ったダイバー~」など多数の作品に出演する。
2022年7月9日更新
吉川晃司コメント
今回一緒にやってくれたメンバーは、僕の学生時代からの憧れのミュージシャンたちでした。ドラムの山木さんがいたマライアというバンドが大好きで、高校生時代によく聴いていたんです。そんなにメジャー展開したバンドではなかったんだけど、凄腕ミュージシャンの集まりで。その当時にやっていたバンドでマライアの曲をコピーしてました。ほかにもマライアのギタリスト・土方隆行さんの曲が、自分たちのバンドの得意曲だったりして。今回、その山木さんとライブができたので、うれしかったですよ。今剛さんがやってたバンド・パラシュートの曲もコピーしてましたし。後藤次利さんの「チョッパーズ・ブギ」は難しくてコピーできなかったけど(笑)。
デビュー当時に後藤さんや山木さんとレコーディングで会うと、「うわっ! 本物だ」と思うわけじゃないですか。でもプロデューサーが呼んでくれたわけで、自分の力で会ったわけではない。当時はなかなか近付きにくいオーラを出してる人たちで。その後、だんだんと個人的に話せるようになって、後藤さんにはアルバムのアレンジプロデュース(3rdアルバム「INNOCENT SKY」など)をしてもらったりしたんです。何年か前に後藤さんから「何か面白いことを企画するなら、早いうちにやってね」と言われたんですよ。僕もやれるときにやっておきたいなという思いはあって、今さんも山木さんも「面白いね」と言ってくれたんだけど、全員が忙しすぎてスケジュールが合わなかった。ところがこのコロナ禍で、みんなのいろいろな予定がずれたりしているうちに、スケジュールがスコーンって重なって。運がよかったです。
ホッピー(神山)さんは、以前に僕と同じ事務所にいたバンドPINKのメンバーで、僕と同じ84年にデビューしたんです。僕はPINKも好きでよく聴いてました。ホッピーさんは“飛び物”がうまい。シンセサイザーでSEみたいな変な音色を作って、音の隙間隙間に入れてくる。それを僕らは“飛び物”と呼んでいるんです(笑)。ギターサウンドの中に入ってあれだけ目立てるキーボーディストなんていないわけですよ。一方でヤッシー(矢代恒彦)はオルガンとピアノがうまいから、ホッピーさんとのバランスがいいんですよね。2人とも腕はしっかりしてるし、アイデアもすごい。バッキングボーカルは大黒摩季ちゃんに「本当にやってくれる?」と聞きながらお願いしたらすぐにオッケーをくれて、「もう1人は誰がいい?」と聞いたら福原さんを推薦してくれました。
今回は“ダブルベース”という今までにない編成にチャレンジしました。珍しい編成なんだけど、後藤さんと小池ヒロミチさんはベースの質が全然違うから、ケンカしないと思ったんです。テンポの速い曲や8ビートは小池さんが得意だし、後藤さんはハネモノ(跳ねるリズムの曲)が得意。メインは後藤さんにやってもらうから、その代わりに小池さんには歌も歌ってくれと言って。小池さんはもともと歌いながらベースを弾いていたから、コーラスもうまいんです。「ベースを弾いていないときは踊りもありだから」と言ったら、「えーっ!」って驚いていましたが、楽しそうに踊ってくれました(笑)。
このツアーはものすごく有意義で、いろいろ学ぶことがありました。今さんはあれだけ上手なのに、まだマニアックな部分にこだわりを持ってギターを弾いている。さすがだなと思いましたね。というか、そんなところにいまだにこだわるなんてと驚かされることも。みんな変わり者ですよね、もちろんいい意味ですけど。後藤さんの話を今さんとしているとき「つぐちゃん(後藤)って変わってるよな」と言うから、「いやいやいや、それはあなたもでしょ」と言いそうになりましたよ(笑)。こだわりが強い分、彼らの練習量は普通じゃないです。
今回の放送は、いつもの「INVITATION」とは少し違うし、かと言って普通のライブ番組でもない。じゃあなんなんだって、説明するのは難しい。でも、古舘さんのインタビューを聞いてもらってもう一度ライブを観てもらうと、楽しさや面白さが違ってきたりするかもね。とにかくミュージシャンみんなが、本気でやってくれたのは間違いない。ライブでそれがお客さんに伝わってよかったと思う。番組ではそこを見てほしいですね。