峯田と尾崎がエロサイトを立ち上げ?
峯田 エロと言えば僕、1日1時間はいろんなエロサイト回ってエロ画像を集めていて。
尾崎 1時間で何枚くらい集まるんですか?
峯田 ダメなときは全然釣れないんですよ。1日100枚写真観ても自分が保存したいと思えるエロい写真って100枚のうち1、2枚なんですよ。調子のいい日はもう見るもの見るもの全部がいいの。でもここ5年でいろんなサイトが閉鎖してて。
尾崎 そうなんですね。
峯田 ホント肩身が狭いんですよ。電車で向かい側に座ってる女の人を盗撮した写真とか。僕は実際に撮らないですよ。でもそういうのってすごくエロくてよくて。
尾崎 欲望を誰かが叶えてくれるんですね。
峯田 叶えてくれるんですよ。心霊スポットに実際行きたくないですけど、行った人の話は聞きたい、みたいな。だからそういう心理ですごい肩身が狭いですね。だんだん自分が好むタイプのサイトがなくなっていくので。
末井 コアマガジンにあった「ニャン2倶楽部」は学校の先生が生徒を撮った写真とかが載ってる雑誌だったけど、それももうなくなっちゃったしね。
峯田 そうそう。
尾崎 峯田さん、じゃあ一緒にサイトを運営しましょう。
峯田 いいね! 村井くんとは喫茶店。尾崎くんとはエロサイトだな。
末井と尾野が歌う「山の音」は不思議な歌
──劇中で末井さんは警察と、いかにそのギリギリのところで局部を隠すかみたいなイタチごっこを繰り返しますよね。どこまで踏み込めるかみたいなところって、ある意味ミュージシャンの方も共通する部分だと思うんですよ。お二人はそういうところを意識して歌詞を書いているんですか?
末井 歌詞は問題ないんじゃない?
峯田 そんなにないですね。
尾崎 放送禁止用語はありますけど、それを気にして書いたことはないし、指摘されたこともないですね。
──クリープハイプの「エロ」の歌詞ではあえて全部言わないようにしていますよね。
尾崎 はい。あれはわざとやっていて、わざと何もないところにモザイクをかけていて。想像させるためにそういうことをふざけてやっています。
──そうやってボカシが入ってることによって「これってアレについて歌ってるんだよなあ」って思わせるみたいな?
尾崎 そうですね。勝手に想像させて実はどっちでもないと言う。
末井 歌の場合はそういうこともできますよね。直接的な言葉よりはいろんな想像ができるほうがいろんな受け取り方ができていいなと思います。
尾崎 メロディがあるとまた意味が深くなりますよね。
末井 そうですね。映画のエンディングで菊地成孔さんが作ってくれた主題歌「山の音」が流れるんですけど、あの歌詞もすごくいいんですよ。やたら「おくすり」って言葉が出てくるんです。なんだか違うイメージで「おくすり」っていうのを感じてしまうところもあって。
──いろんな意味合いで捉えられると言うか。末井さんは「山の音」を母親役の尾野真千子さんとデュエットしましたが、この歌について峯田さんと尾崎さんはどう思いましたか?
尾崎 不思議な曲でしたね。
峯田 俺、エンディングで「末井さんが歌う」って聞いてなかったんですけど、試写室で聴いたときにすぐわかりましたよ。「これ末井さんの声だなあ」っていうのが。なんだか音楽やってる人からは出ない声ですよね。
尾崎 歌はそうですね。
峯田 すごいなって思います。
──歌ってみて、ご自身ではいかがでした?
末井 あのとき風邪を引いてて、けっこう大変だったんだよね。それで声もあんまりうまく出なくて「あんまり歌えないかなあ」なんて思って、うちの奥さんと一緒にレコーディングスタジオに行ったんだけど、ステージママみたいになっちゃって(笑)。菊地さんに奥さんが「末井は歌えるんですー!」とか言って。
一同 (笑)。
末井 奥さんが、「荒木経惟さんのとこのパーティで『宗右衛門町ブルース』を歌うんです!」なんて、菊地さんに一生懸命僕のことを伝えているから恥ずかしくて。これはカラオケ大会じゃないんだからみたいな(笑)。
尾崎 尾野真千子さんとは別で録っているんですか?
末井 同じ日ですけど、録りは別です。本当は尾野さんの前の日に録る予定だったんですけど、歌がダメで結局尾野さんと一緒になって。前の日に録ったサックスはOKだったんだけど(笑)。
周りを気にしていない映画を今観たい
──峯田さんは今作について「今の世に放たれるべくして放たれる映画」とおっしゃってましたけど、具体的にはどういう感じなんでしょう?
峯田 なんか自分自身が関わっていなくても、テレビ番組とかニュースを観ていて思うところがいろいろあるんですよ。不倫報道とかにしても、そこまで責め立てなくていいんじゃないかなと思っていて。そんな時代にこういう映画が出るっていうのはすごいなんか刺さるんじゃないかなあと思ったんです。こういう時代があったっていう見方もできるし、がんじがらめな中でも面白いことができるんじゃないかって希望を持てるなとも思えて。
──ルールギリギリのところで?
峯田 そうです。かけなくていいところにかけたモザイクの面白さもあるなって。あとは「こういう周りを気にしていない映画を今観たい」っていう純粋な気持ちがあるんですよね。
末井 世間を相手にすると周りを気にしてものづくりをしないといけなくなりますからね。昔は僕らが気を付けないといけないのは警察だけだったんですよ。取り調べを受けて「これ以上やるとダメだよ」って怒られて帰ってくるってことの繰り返しだったんですけど、映画にもあるように、それがだんだん青少年の健全な育成を考える主婦から「おたくはどういう趣旨でああいう雑誌を出してるんですか?」っていう電話が入るようになっていって。そういう人たちって具体的なことを一切言わないんですよ。「ああいう雑誌を出されると困ります!」みたいなことしか言わない。そうすると僕は自主規制するしかない。それでね、「ああもうエロ本作りたくないな」って思ったんです、1980年代の終わりに。それで「パチンコ必勝ガイド」を作って。だからちょうどパチンコ雑誌に変わってよかったんです。そういう気持ちで時代の自然の流れに乗れてよかったなと思っていますよ。
──最後になりましたが、末井さんは自身の半生がこうやって映画化されてどんな気分ですか?
末井 気分ですか、わかんないですね(笑)。もう7年前に冨永(昌敬)監督から映画化の話をもらって「いいですよ。映画化してください」って言ったんだけど、それっきりだったので「たぶん映画は難しいな、お金かかるから」って思ってたんです。そしたらここ3年くらいの間で具体的になってきて、そのときはうれしかったですね。映画になるならやっぱりヒットしてほしいとか思うじゃないですか。まあヒットするしないは僕には関係ないんだけど、でもやっぱり映画館でお客さん3人くらいしかいなかったら寂しいなとか考えて、今度は心配するようになっちゃって。最近はうれしいのか悲しいのか心配なのかよくわかんなくて「大変だなあ」みたいな気持ち。お客さん来てくれたらもうハッピーエンドですけど、悲惨な結果になると困るなと思っています(笑)。
- 「素敵なダイナマイトスキャンダル」
- 2018年3月17日(土)公開
- ストーリー
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岡山の田舎町に生まれ育った末井昭は、7歳のときに母・富子が隣家の息子とダイナマイトで心中し、衝撃的な死に触れる。18歳で田舎を飛び出した末井は、工場勤務、キャバレーの看板描きやイラストレーターを経験し、エロ雑誌の世界へと足を踏み入れる。末井はさまざまな表現者や仲間たちに囲まれ編集者として日々奮闘し、妻や愛人の間を揺れ動きながら一時代を築いていく。
- スタッフ / キャスト
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- 監督・脚本:冨永昌敬
- 原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
- 出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか
- 音楽:菊地成孔、小田朋美
- 主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」
©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会
- 末井昭(スエイアキラ)
- 1948年6月14日、岡山県生まれ。編集者・エッセイスト。工員、キャバレーの看板描き、イラストレーターなどを経て、セルフ出版(現:白夜書房)設立に参加。「ウイークエンドスーパー」「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」など15誌ほどの雑誌を創刊した。2012年に白夜書房退社。以降は執筆活動を中心にフリーの立場で活動している。2014年には著書「自殺」が第30回講談社エッセイ賞を受賞。2018年3月に半自伝的な著書「素敵なダイナマイトスキャンダル」が、冨永昌敬監督により映画化される。またペーソスというバンドにTサックスで参加しており、サックス奏者の顔も持つ。3月1日に太田出版から最新著書「生きる」が発売された。
- 銀杏BOYZ(ギンナンボーイズ)
- 2003年1月、GOING STEADYを解散後に峯田和伸(Vo, G)が、ソロ名義で銀杏BOYZを始動させる。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時に発売する。続くツアーやフェス出演では骨折、延期など多くの事件を巻き起こした。その後も作品のリリースを重ねていたが、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年1月に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退しており、現在は峯田1人で活動を行っている。2016年6月に、サポートメンバーを従え8年半ぶりのツアー「世界平和祈願ツアー 2016」を開催。このツアーの追加公演として8月に初の東京・中野サンプラザホールにてワンマンライブ「東京の銀杏好きの集まり」を実施した。2017年7月から3カ月連続で「エンジェルベイビー」「骨」「恋は永遠」とシングルをリリース。10月には初の日本武道館単独公演「日本の銀杏好きの集まり」を成功に収めた。2018年は2月発売の東京スカパラダイスオーケストラのシングル「ちえのわ feat.峯田和伸」にフィーチャリングゲストとして参加し、俳優業では「素敵なダイナマイトスキャンダル」「猫は抱くもの」に出演することが決定している。また現在公開中の映画「ぼくの名前はズッキーニ」では、自身初の声優として主人公のズッキーニの吹替えを担当している。
- クリープハイプ
- 尾崎世界観(Vo, G)、長谷川カオナシ(B)、小川幸慈(G)、小泉拓(Dr)からなる4人組バンド。2001年に結成し、2009年に現メンバーで活動を開始する。2012年4月に1stアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」でメジャーデビュー。2013年7月に2ndアルバム「吹き零れる程のI、哀、愛」をリリースし、2014年12月には「寝癖」「エロ / 二十九、三十」「百八円の恋」といったシングル曲などを収めた3rdアルバム「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」を発表した。2015年は5月に映画「脳内ポイズンベリー」主題歌の「愛の点滅」をリリースしたほか、4カ月間におよんだ全国ツアーの総集編となる単独公演を東京・日比谷野外大音楽堂で実施。9月には明星「一平ちゃん 夜店の焼そば」のCMソングを収録したニューシングル「リバーシブルー」をリリースした。2016年には4枚目のアルバム「世界観」を発表。2017年4月には映画「帝一の國」の主題歌「イト」をシングルリリース。2018年は1月よりホールツアー「今からすごく話をしよう、懐かしい曲も歌うから」を行い、5月11日にはキャリア2度目の東京・日本武道館単独公演「クリープハイプのすべて」を開催する。また尾崎は半自伝的小説「祐介」やエッセイ「苦汁100%」を刊行し、作家としても評価されている。3月16日には2作目のエッセイ「苦汁200%」を刊行する。
2018年3月20日更新