映画ナタリー Power Push - ハマ・オカモトとオカモトレイジが語る「シング・ストリート 未来へのうた」
ミュージシャンもしびれる青春音楽映画
監督のチャレンジ精神に感動した(ハマ)
──ちなみにお二人は、ジョン・カーニー監督の過去作もご覧になりました?
ハマ 僕は「シング・ストリート」のあと、前作の「はじまりのうた」を観ました。それまでもいろいろな人、それも音楽をやっている人たちから散々オススメされていたのですが、人から「絶対好きだと思うよ」と言われたものをすぐ観たり、食べに行ったりするのが性格的に苦手なんです(笑)。
レイジ ハマくんはそうだよね(笑)。
ハマ でも、「シング・ストリート」でぶっ飛ばされて「はじまりのうた」を観てみたら、もう最高でした。それこそ始まって10分でボロ泣きという感じ。
レイジ 本当に? 俺、まだ観てないんだよね。
ハマ 絶対に観たほうがいいよ(笑)。すごいから。「シング・ストリート」は少し監督の自伝風というか、リアリティベースの話じゃない? 「はじまりのうた」は落ち目のプロデューサーと無名シンガーの話で。僕なんかが見ても納得できる業界の裏話だったり、そこで生きている人の生活をきちんと描きつつ、根本のところはもっとファンタジック。そのバランスというか、案配がものすごくうまい。
レイジ なるほど。
ハマ さらにすごいと思ったことは、2013年にそんなすごい映画を作って、世界中で評価されて。その3年後には「シング・ストリート」を、今度はまた違う手法で作っていて。僕の場合、たまたま観る順番が逆になってしまったけど、そのチャレンジ精神にも感動しました。
──2006年の「ONCE ダブリンの街角で」はより素朴というか、どこかドキュメンタリーっぽい手触りで、また違った味わいがありました。ただ「音楽が生まれてくる瞬間の奇跡をしっかり演出する」という姿勢は3作品とも共通しています。
ハマ そうなんです! 「はじまりのうた」もまさにそうですが、観ている人がそこに感情移入し、奇跡を自然に受け入れられるだけの手順を、2時間という映画の時間の中できっちり踏んでくれる。それは一番難しいことだと思うんです。
レイジ 「シング・ストリート」なんて106分しかないもんね。本当にすごい。
丁寧に作ってあるのにバランスよくダサい(レイジ)
──音楽演出のうまさでいうと、劇中バンドのシング・ストリートが演奏するオリジナル楽曲の絶妙な80年代テイストもハマっていましたね。
レイジ あの再現性はすさまじいレベルだと思います。サントラ盤CDだと3曲目にさっき話した「リドル・オブ・ザ・モデル」、その次にデュラン・デュランの「リオ」が入っていますが、聴くたびに「あれ? どっちがデュラン・デュランだっけ?」と一瞬わからなくなります(笑)。
ハマ どの曲も本当によすぎて、「アナログの12インチシングル切ってよ」と本気で思いました。
レイジ アレンジもすごくいい。ネオアコっぽい曲調の「ア・ビューティフル・シー」だと、Aメロの1回目だけ手拍子が“チャチャ!”って入る。オシャレだなと思いました。
ハマ あとはやっぱり音像だよね。本当に80年代の質感になっているというか、映画の世界観とオリジナル楽曲のサウンドと、観る人の中にある当時のイメージが完璧にマッチしてる。僕らなんてその頃まだ生まれてすらいないのに、これを聴くと「ああ、80年代そのものだな」と思いますし。
レイジ すごく丁寧に作ってあるのに、バランスよくダサいというか(笑)。
ハマ 人によっては「ちょっと薄っぺらいな」と感じるかもしれないですし、逆に「とにかくお金があって元気そう」と思うかもしれない。あと、「いかにもMTVでヘビロテされてそうな音だな」という感じ方もあるかもしれない。そういう質感が全部入っているように聴こえるんです。体育館で演奏する「ドライヴ・イット・ライク・ユー・ストール・イット」もそう。ただ単に作曲家がスコアを書いて、ミュージシャンが演奏すればあの音になるかというと、そんなことは絶対になくて。
レイジ まさに。
ハマ 僕らのように日々、楽曲を作ってレコーディングしている人間からすると、いかに最適なマイクを選び、それをスタジオのどの位置にどうセッティングして、どんな楽器とアンプ機材を使うかを1つひとつ考えていかないと、やっぱりこの空気感を音に出せない。イントロの特徴的なシンセにしても、もしかしたらヴィンテージで当時の機材を探してきたのかなと。そう考えてしまうくらいの完成度があります。
レイジ この曲は、メロディもサウンドも本当に最強だよね。
ハマ 僕、正直、ボーカルの(オカモト)ショウに言いましたから。「ねえ、うちらにもこういう曲作って」って(笑)。80年代を感じさせるけど、それくらい時代を超越した普遍性のあるナンバーだと思います。
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ストーリー
1985年、不況下のアイルランド・ダブリン。14歳のコナーは、父親が失業したため公立のシング・ストリート校に転校させられる。学校では校長のバクスターと不良のバリーに目を付けられ、家では両親が夫婦喧嘩を繰り返す毎日。彼の救いはイギリスから発信される最新の音楽を聴くことだけだ。そんなある日、コナーはモデル志望の少女ラフィーナに恋をし、「僕のバンドのミュージックビデオに出ない?」と声を掛ける。あわててメンバーをかき集めたコナーは、兄ブレンダンの助言によりオリジナル曲とミュージックビデオの制作を開始。ラフィーナとの距離も徐々に近付いていくが……。
キャスト
コナー:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
ラフィーナ:ルーシー・ボイントン
ブレンダン:ジャック・レイナー
ダーレン:ベン・キャロラン
エイモン:マーク・マッケンナ
バリー:イアン・ケニー
スタッフ
監督・脚本:ジョン・カーニー
音楽:ゲイリー・クラーク、ジョン・カーニー
主題歌:アダム・レヴィーン「ゴー・ナウ」
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OKAMOTO'S(オカモトズ)
オカモトショウ(Vo)、オカモトコウキ(G)、ハマ・オカモト(B)、オカモトレイジ(Dr)の4人からなるロックバンド。バンド名およびメンバー名は、彼らが敬愛する岡本太郎とラモーンズに由来する。2010年5月に1stアルバム「10'S」でアリオラジャパンよりデビュー。2011年7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '11」に初出演を果たし、10月には初のアジアツアーを開催した。2014年は8月にRIP SLYME、奥田民生らを迎えてコラボレーションアルバム「VXV」をリリース。2015年6月には岸田繁(くるり)のプロデュース曲「Dance With Me」と、「カップヌードル」CMソングの「Dance With You」を収録した両A面シングルをリリースした。同年9月に6thアルバム「OPERA」を、11月にシングル「Beautiful Days」を発表。2016年6月にシングル「BROTHER」をリリースし、12月21日には配信限定で発表された「Burning Love」のほか4曲が収録されたアナログ盤「BL-EP」を発売した。