アリ・アスター×小出祐介 / 園子温|世界が注目する鬼才、初来日!その映画哲学とは

本能的に女性キャラへ自分を投影していた(アスター)

──お二人は女性を主人公に据えることが多いですが、それはなぜでしょう?

 僕はたぶん自分が女性的だからだと思うんです。どちらかというと女性っぽいところがあるので、男性の主人公に自分の心を乗せていくよりも、女性を主人公にしたほうが乗せやすい。それで女性を主人公にすることが多い。いろんな人に「よく女性の気持ちがわかりますね」と言われるんですけど、そうじゃなくて、実は自分の気持ちを表現しているだけなんですよね。

アスター それはまったく同感です。僕はなんでもじっくりと話し合いたくて、適当にごまかしたりできないタイプだし、涙もろくてすぐに泣いてしまう。それ故か、女性とのほうが気が合うんです。「ミッドサマー」は、僕自身が恋人と破局を迎えている最中に作った映画ですけど、そのときに自分の思いを男性キャラクターに落とし込もうという考えはこれっぽっちも思い浮かびませんでしたから。本能的に女性のキャラクターへ自分を投影していたんです。

 僕と考え方が同じなんですね。「ミッドサマー」の主人公のダニーも、トイレに行ってこっそりと泣いたりしますけど、「もしかして監督自身もすぐに泣いちゃうからこういう描き方なのかな?」と、僕は観たときに思いました。

「ミッドサマー」

アスター それがですね、僕はダニーなんか比じゃないくらいよく泣くんです。しかも、彼女は相手の気持ちを考えて人目を忍んで泣いていますけど、僕はそんなことお構いなしに、人前でもガンガン泣いてしまうんですよ(笑)。

──印象的なヒロインを生み出しているお二人の、キャスティングの決め手を教えてください。

アスター 実際にその人と会って、話をしているときに自分の頭の中で何度も映画を再生してみるんです。もし、すべてのシーンでその人をイメージすることができたら、その人に決めます。大概、男性女性関係なく、どの役者でも「このシーンはイメージできないな」と思うシーンがいくつかあるんですけど、「ミッドサマー」のフローレンス・ピューも、「ヘレディタリー」のトニ・コレットも、すべてのシーンで2人をイメージすることができたんです。

 僕の場合はいろんなケースがあるので、これというのは言えないんですけど、今アリ監督がおっしゃったのはすごく正当でいい感じですね。僕はむしろ本人と会ったあとに、その人に合わせて脚本を変えてしまったりすることもあるので。でも、そういうすべてのシーンにピタッとハマる人に会ってみたいですね。

許されるならいつまでも作り続けたい(アスター)

──映画を1本撮るのは長い工程ですが、お二人は映画作りのどこにもっとも興奮や楽しさを覚えますか?

アリ・アスター

アスター 脚本を書いているときに、「このアイデアは大正解で、完成作品に必ず残るだろう」と感じたときです。それから、難しい画や、役者がいいパフォーマンスをしたときにそれをイメージ通りカメラに収められたときも興奮しますね。なぜなら、僕はいつも欲しい画を撮るためにいろんな準備をするんですけど、その準備だけでものすごいストレスに押しつぶされそうになるタイプなので(笑)。それから、自分が誇らしく思っているシークエンスを観客と一緒に観る瞬間も楽しいですね。お客さんと一緒に映画1本すべてを観るのは苦手なんです。自分が気に入っていないシーンをまた観直すのは、正直しんどかったりしますから。でも、お気に入りのシークエンスだと気持ちよく観られますからね。

 実は僕は昨日1本作品を終えたばかりなんです。ダビングも全部終えたんですけど、やっぱり終わったときが一番楽しかったですね(笑)。「おお、ダビングも終わった!」という感じで。そのあとに飲むビールが一番おいしいな。

アスター まずは映画の完成おめでとうございます! でも今、僕は監督の言葉を聞いて感心しています。と言うのも、僕にとって映画を完成させるというのは最悪の瞬間だから。プロデューサーなどに「もうこれで終わり」と言われると、これ以上作品に手を加えられなくなると思って落ち込むんです。いつでももう少しよくなるんじゃないかと思っているので、許されるならいつまでも作り続けたいタイプなんです。

いつかみんなで飲みに行きましょう(園)

──ちなみに園監督が終えられた作品は、ニコラス・ケイジ主演の「Prisoners of the Ghostland(原題)」でしょうか?

 いえ、それじゃないんです。それは明日から編集作業に入ります。

アスター ニコラス・ケイジとも仕事をされたんですか? さすがです。

──そのニコラス・ケイジですが、アスター監督の才能を絶賛していて、いつか一緒に仕事をしたいとさまざまなところでラブコールを送っていますよね。

アスター 僕もそのうわさを人づてに聞いて、すごく光栄に思っているんです。昔から大ファンなんですけど、とんでもない冒険心あふれる役者ですよね。どんな作品であれ100%でぶつかっていくというのが僕のニコラス・ケイジの印象ですが、実際はどうでしたか?

 とても素晴らしく、謙虚な人でしたよ。日本の役者が大勢いた現場だったんですけど、その中の新人よりもずっと謙虚で、監督にすべてを捧げる人でした。僕はシナリオにない、その場で思い付くシーンとかもあるんですけど、それに柔軟に対応してくれて、すごく面白かったです。

アスター やはりそうなんですね。僕も一度ニコラスと話してみたいと思い、会う機会を探っていたんですけど、なかなかスケジュールが合わなくて。ひょっとしたら園監督の作品で忙しかったのかもしれないですね。それにしても、園監督とニコラス・ケイジの作品だなんて、今からわくわくしますね。楽しそうだな。

 いつかみんなで飲みに行きましょう!

アスター それは最高ですね。絶対に覚えておきます!(笑)

左から園子温、アリ・アスター。

2020年2月20日更新