映画ナタリー Power Push - 西加奈子が語るNetflix「火花」
丁寧に作られた信じられる世界
削る映画と足すドラマ
──小林薫さん演じる喫茶店のマスターなど原作にはほとんど登場しない人物、渡辺大知さんや渡辺哲さんが演じるアパートの住民など、ドラマオリジナルの登場人物はいかがでした?
全然違和感なかったですね。ドラマって長くなるじゃないですか。映画って削るけどドラマって足すんやろな、どうするんやろと思っていたので。渡辺(大知)さん演じるストリートミュージシャンのサクラのエピソードとか「なんかありそうやなー」って。
──サクラに対する徳永の反応も徳永らしいと思わせるものでしたね。その中でもお気に入りの人物は?
そうですね……小林薫さん演じる喫茶店のマスターですね。こんな素敵なマスターいたらそら行くでって、そら通うでって(笑)。
──男の僕でも通いたくなります(笑)。娘さんとのエピソードも、短いのに奥行きがあっていいですよね。
そういうところが監督とか脚本の方の手腕というか、すごいところですよね。
──本作は、5人の監督が各話をそれぞれ演出しています。
でも一貫した雰囲気がしっかりとありましたね。
──心に残った回は?
印象的なシーンと被ってしまうんですけど、いとし・こいしさんの回(4話)ですね。回想シーンで、いとこいさんを見て、笑わすのってカッコいいって思ってる男の子(少年時代の徳永)の顔がいいし、徳永が怒って立とうとしたら財布のチェーンがベンチに引っかかるシーンも、おもろくて大好きです。
──チェーンのシーンの間は絶妙でしたね。
うん。あと、好井さんがベンチでつば吐いているシーンとかも、「こんなやつおんなあ」って、なんかたまらんかったです。
廣木さんは役者をめちゃくちゃ信じてる
──西さんの小説「きいろいゾウ」は、「火花」の総監督・廣木隆一さんの手で実写映画化されています。当時は自分の作品が映画化されると聞いてどう思いましたか?
めちゃくちゃうれしかったです。映画大好きなので、映画にしたいと思ってくださっただけでもうれしいです。ただ映画化する場合、本当に好きにしてほしいなって思います。
──好きにする?
小説家はみんなそうだと思うんですけど、映画化目指して書いている人なんていないと思うんです。小説を書いてるときは小説のことしか考えてない。だから映画化するときは、映画にしかできないことをやってほしい、原作のことなんて無視してくれていいから。すごい接写で撮るとかもそうですし、それって小説ではできなくて、言葉を重ねても存在していることの生々しさには勝てないから。そういうのをどんどんやってほしいし、そうしてもらえるのがうれしい。
──「きいろいゾウ」のときは特になんのオーダーもしなかったんですか?
まったくなかったですね。
──ちなみに廣木さんとお会いしたことは?
ありますあります。大好きです。1回飲んだぐらいなんですけど。あっ、2回かな。
──そのときはどんな話を?
廣木さんってシャイなのであまりご自身のこと話されないんですよ。そのあとに、宮﨑あおいさんと話したんですが、(「きいろいゾウ」の中に)あおいさんと向井理さんがトラック乗ってるシーンがあって、あおいさんが拗ねちゃうっていう場面なんですけど、そこがすごい長かったんです。それがうれしくて。
──なるほど。
「きいろいゾウ」って、(上映時間が)すごい長なっちゃったんですよ。映画って短いほうがお客さん入りやすいと思うんですけど、そんな中で長くしてくれたことがうれしくって。そのことをあおいさんに話したら、「あのシーンは本当になんにも言われなかったんです。信じて待っててくださったんです」っておっしゃってて。だから廣木さんて信頼できる方なんだなと思いました。
──廣木さんの監督された1話も長回しのシーンが多いですが、同じようなことを感じられましたか?
そうですね。あとやっぱり(廣木が担当した)最終話。あの神谷のシーン、すっごい長くて好きでした。
世界配信のうらやましさ、小説のもどかしさ
──「火花」は世界190カ国に配信されているのですが、作家として海外を意識されることはありますか?
あります! めっちゃくちゃ翻訳されたいので、個人的にめっちゃ動いてます。恥を捨てて、大きな声で翻訳してくれって叫んでます(笑)。だからこのドラマがめちゃくちゃうらやましいです。小説って翻訳されないかぎり読んでもらえなくて、めっちゃもどかしいです。だから絵を描いてます。
──そうなんですね。
映像って言葉わかんなくても伝わる部分も多いじゃないですか。好井さんが出てるだけで笑う人とかもいると思うんです。セリフわからんくても。でも漫才ってどう受け取られるんだろ? 向こうのコメディとかと全然違うじゃないですか。どんな訳され方するんやろって、興味あります。「なんでやねん!」とか、日本語でも「なんでやねん」しかないじゃないですか。どうすんねんやろと思います。
──翻訳はチャド・マレーンさんです。すごく大変だったそうですよ。
そうなんですね! どう翻訳されているかすごい知りたいです。それで英語の勉強したい(笑)。
世界を豊かにする2人
──最後に見どころを教えていただけますか?
ユーザーの方と同じ立場なので私みたいなもんが偉そうなことは言えませんが……推薦のコメントにも書いたんですが「こういう人たちがいるということを本気で信じられるドラマ」です。信じて観てもらえたらいいなと思います。漫才のシーンもよくて、私は1回も我に返ることがなかったし、やっぱりお二人(林と波岡)はすごかった。アホな2人だけど、こういう人たちが世界を豊かにしていることを改めて思い出させてくれました。
- Netflixオリジナルドラマ「火花」
第153回芥川賞を受賞したピース又吉の中編小説「火花」を全10話でドラマ化。漫才の世界に身を投じた若者たちが現実と夢の狭間で苦しみながらも、自分らしく生きる様を描く。
スタッフ
総監督:廣木隆一
監督:廣木隆一(1話、9話、10話) / 毛利安孝(2話) / 白石和彌(3話、4話) / 沖田修一(5話、6話) / 久万真路(7話、8話)
原作:又吉直樹「火花」(文藝春秋刊)
主題歌:OKAMOTO'S「BROTHER」
挿入歌:SPICY CHOCOLATE「二人で feat. 西内まりや&YU-A」
キャスト
林遣都 / 波岡一喜 / 門脇麦 / 好井まさお(井下好井) / 村田秀亮(とろサーモン) / 菜 葉 菜 / 山本彩(NMB48)/ 渡辺大知(黒猫チェルシー) / 高橋メアリージュン / 渡辺哲 / 忍成修吾 / 徳井優 / 温水洋一 / 嶋田久作 / 大久保たもつ(ザ☆忍者) / 橋本稜(スクールゾーン) / 俵山峻(スクールゾーン) / 西村真二(ラフレクラン) / きょん(ラフレクラン) / 染谷将太 / 田口トモロヲ / 小林薫
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Netflixとは
世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190カ国以上で8100万人を超える会員を抱え、オリジナルシリーズを含めたドラマや映画、ドキュメンタリーを数多く配信している。
西加奈子(ニシカナコ)
1977年、イラン・テヘラン出身。エジプト・カイロ、大阪府育ち。2004年「あおい」で小説家デビュー。その後、「さくら」「炎上する君」「ふる」などを上梓する。2007年「通天閣」で第24回織田作之助賞、2013年「ふくわらい」で第1回河合隼雄物語賞、2015年「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞。2012年「きいろいゾウ」が実写映画化された。
2016年6月20日更新