映画ナタリー Power Push - 西加奈子が語るNetflix「火花」

丁寧に作られた信じられる世界

又吉直樹(ピース)の芥川賞受賞作を原作にしたNetflixオリジナルドラマ「火花」が、6月3日に世界190カ国で配信開始となった。廣木隆一が総監督を務め、各話の演出を白石和彌、沖田修一、久万真路、毛利安孝という脂の乗った監督たちが担当。林遣都をはじめ、波岡一喜、門脇麦、好井まさお(井下好井)、村田秀亮(とろサーモン)、染谷将太、田口トモロヲ、小林薫らが出演する。

ナタリーでは、出演者や監督、主題歌を担当したアーティストなどさまざまな角度から「火花」を紐解く特集を展開する。今回は、又吉との親交が深い作家の西加奈子にインタビューを実施。オリジナルドラマの話、原作小説への思い、又吉とのエピソード、小説と映像の違いなどについて語ってもらった。

取材・文 / 伊東弘剛 撮影 / 佐藤類

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「火花」はアメリカンニューシネマと重なる部分がある

──映画好きと伺っています。好きな作品は?

アメリカンニューシネマが好きです。全般的になんですが「スケアクロウ」とか、「さらば冬のかもめ」「真夜中のカーボーイ」が特に。監督だとジョン・カサヴェテスが好きですね。

──お気に入りの俳優はいますか?

西加奈子

ジャック・ニコルソンです。顔おもろすぎません?(笑)なんであんなおもろい顔してんやろって、笑い止まらんようになるんです。なんなんやろあの顔。「バットマン」出たじゃないですか、あれとかイジられてますよね。顔おもろいだけで選ばれてると思うんですけど(笑)。

──ティム・バートン版の「バットマン」でジョーカーを演じてますね。

ティム・バートンは天然なんですかね?

──いや、意識してるんじゃないですか(笑)。

めっちゃおもろいですよね。一瞬だけ待ち受け画面にしたんですけど、笑けて止まらへんようになってしまって(笑)。「シャイニング」も笑ってまうんですよ。舞踏会のときの写真とか。なんなんその顔って(笑)。 ジャック・ニコルソン、本当に好きです。ずっと見ていたいです。あとアメリカンニューシネマって、「火花」と重なるとこありますよね。惨めで、アホで、でも美しくて。芸人さんと重なるというか。

又吉さんはちゃんとおかしい

──今「火花」の話が出てきたので、まずは又吉直樹さんの原作小説の感想から伺えますか?

読む前は、又吉さんが本を読みすぎているがゆえに、ウェルメイドな小説ができていたらどうしようという不安がありました。なんというか、よく読める人は書くメソッドができちゃうところがあって。でもそれは読んですぐに吹っ飛びました。やっぱり又吉さんて、ちゃんと頭おかしい(笑)。読者に読んでもらう配慮とか、リーダビリティを優しさとして発露はしているけど、芸術の部分では何も妥協してないものができていて。もともと思っていましたけど、本当にこの人は天才なんだと、拝読してさらに思いました。

──特にラストシーンを絶賛していますね。

ご本人もおっしゃってたかもしれないんですけど、起承転結の結としては現在のラストより前に終わったほうがきれいだと思うんです。でもそれだと、シンプルに素敵な小説になっちゃう。そのあとも書かれていることで怪物になったし、作者が登場人物に責任を持ってる小説だなと。神谷の取り返しのつかなさ、 その悲しさとアホさと面白さ……大げさではなく、昨今の小説で一番美しいラストやなと思いました。

──又吉さんとはプライベートでも交友があるそうですが。

そうですね、小説の相談に乗ってもらったりとか、友人というと失礼ですけど交流があります。その中で私がモヤモヤしててわからない気持ちに、ものすごく鮮やかに名前を付けてくださったり、あと言葉にしたくないと思っていることは察して黙っててくださるんです。本当に言葉を大切にされている方ですし、あと発想が素晴らしくて、「どこでそんなん思い付くの」ってことをよくおっしゃってますね(笑)。

──西さんは、2015年に開催されたイベント「『火花』の秘話(ひばな)」の中で、又吉さんのことを「人間を乗りこなせていない感じ」と評していましたが、今のお話を聞くと人間ができているようにも……。

でもそれって人間ができることじゃないですよね、逆に。私もそうなんですけど、人間ってなんでも経験値で判断するところがあるから。でも又吉さんは、どこでそれ思い付いたのってことを言ってきて、どの経験でそれを言ったのと聞くとわかってらっしゃらないんですよね(笑)。だからその妖怪っぽい感じとか、自分の強大なパワーをコントロールできていない感じがすごいなと。仲良くはさせていただいているんですけど、お会いするときに唯一緊張する方です。

林さんと好井さんのネタ合わせは、事実じゃないけど真実

──そんな又吉さんの小説を原作に、お笑いコンビ・スパークスでボケを担当する徳永を林遣都さん、徳永に自身の自伝の執筆を命令する、あほんだらのボケ担当・神谷を波岡一喜さんが演じた今回のドラマはいかがでしたか。

めちゃくちゃ愛されて撮影された作品やなと思いました。スタッフからも出演者からも、もちろん監督からも。愛にあふれた感じが画面から伝わってきて、すごく幸せな作品で、観ていても幸せになりました。

「火花」より。

──その印象はどこから?

芸人さんへの尊敬がすごくあるなと思いました。わざとカッコよく描いているわけでもないし、アホなことするって、どんなにカッコいいかということをすごく真摯に取り上げようとされているなと。漫才のシーンが長いのもそうですし、映画じゃなくてドラマやからできたことかもしれないですけど、ちゃんと長いというか。

──なるほど。

スパークスの林さんと好井(まさお)さんがネタ合わせをするシーンとかもすごい長いじゃないですか。2人の関係は、事実じゃないですけど真実だと思う。ちゃんと長いから私はそれがすごくいいなと。

視聴はこちらから

Netflixオリジナルドラマ「火花」

Netflixオリジナルドラマ「火花」

第153回芥川賞を受賞したピース又吉の中編小説「火花」を全10話でドラマ化。漫才の世界に身を投じた若者たちが現実と夢の狭間で苦しみながらも、自分らしく生きる様を描く。

スタッフ

総監督:廣木隆一
監督:廣木隆一(1話、9話、10話) / 毛利安孝(2話) / 白石和彌(3話、4話) / 沖田修一(5話、6話) / 久万真路(7話、8話)
原作:又吉直樹「火花」(文藝春秋刊)
主題歌:OKAMOTO'S「BROTHER」
挿入歌:SPICY CHOCOLATE「二人で feat. 西内まりや&YU-A」

キャスト

林遣都 / 波岡一喜 / 門脇麦 / 好井まさお(井下好井) / 村田秀亮(とろサーモン) / 菜 葉 菜 / 山本彩(NMB48)/ 渡辺大知(黒猫チェルシー) / 高橋メアリージュン / 渡辺哲 / 忍成修吾 / 徳井優 / 温水洋一 / 嶋田久作 / 大久保たもつ(ザ☆忍者) / 橋本稜(スクールゾーン) / 俵山峻(スクールゾーン) / 西村真二(ラフレクラン) / きょん(ラフレクラン) / 染谷将太 / 田口トモロヲ / 小林薫

Netflixとは

世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190カ国以上で8100万人を超える会員を抱え、オリジナルシリーズを含めたドラマや映画、ドキュメンタリーを数多く配信している。

「火花」

又吉直樹「火花」
2015年3月11日発売
文藝春秋
1296円

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西加奈子(ニシカナコ)

1977年、イラン・テヘラン出身。エジプト・カイロ、大阪府育ち。2004年「あおい」で小説家デビュー。その後、「さくら」「炎上する君」「ふる」などを上梓する。2007年「通天閣」で第24回織田作之助賞、2013年「ふくわらい」で第1回河合隼雄物語賞、2015年「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞。2012年「きいろいゾウ」が実写映画化された。

「まく子」通常盤

西加奈子「まく子」
2016年2月25日発売
福音館書店
1620円

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