映画ナタリー Power Push - 西加奈子が語るNetflix「火花」
丁寧に作られた信じられる世界
林さんが又吉さんに見えた
──漫才自体はどうでした?
すごく面白かったです! 林さんが本当にどんどん又吉さんに見えてきたというか、林さんの目がすごい。その目が自分の言ったアホなことを本気で信じてるヤバいやつって感じに見えて。好井さんがそれに本気で戸惑ってたりして、めっちゃおもろかったです(笑)。又吉さんとほかの芸人さんの関係にも重なって見えました。
──漫才の中で一番好きなものを教えてもらえますか。
ベタですけど最後(10話)のは泣いちゃいましたね。好井さんが序盤で泣いてて、もうたまらんかったです。
──取材が始まる前に「好井さん、村田(秀亮)さんが出演されると聞いて大丈夫と思った」とおっしゃってましたが。
大丈夫という言い方はすごく偉そうですが……お二人の名前を聞いて絶対面白いやろなと思いました。
──もともとお二人のことは知っていたんですね。
はい、存じ上げてました。数えるほどですけどお会いしたこともあって。会った瞬間に面白い人っているじゃないですか? 又吉さんにも思ったんですけど「この人絶対おもろいわ」って空気がすごいんですよ、お二人。実際めちゃくちゃ面白いし聡明な方たちで。そのお二人を選ばれたっていう時点で、めっちゃ面白いやろうなと。
みんな生きてるんやってワクワクする
──特に印象に残ったシーンは?
いっぱいあるんですけど、回想シーンは全部泣いちゃいました。お姉ちゃんのピアノとか、いとし・こいし(夢路いとし・喜味こいし)さんの映像流れるところとか、もうダメでしたね。あとは楽屋のシーンですかね。ただ村田さんが「お疲れっす」と挨拶しているだけなんですけど、そういうシーンにグッときましたね。生きてるんやなって、ドラマじゃなくてこういう人たちがおるんやなと信じさせてくれました。
──大部屋で、複数の若手芸人が肩を寄せ合うようにネタ合わせをしている風景にリアリティを感じたと。
若手の芸人さんたちが楽屋でネタ合わせしているところをカメラがすり抜けていくシーンがあるじゃないですか。それって小説では書けないんです。誰かのネタ合わせ書いて、誰かのネタ合わせ書いて……って形でレイヤーとして一気に見せることができないので。
──なるほど。
映像って一気に見せられるじゃないですか。そういうのがすごいワクワクしますね。みんな生きてるんやと思わせてくれるというか。
──楽屋のシーン以外で映像の力を感じた場面はありますか。
やっぱり役者さんですよね。役者さんのすごさを思い知らされるというか。生身でこれやられたら言葉が負けるって思う瞬間が何度もありましたね。波岡さんもどんどんどんどん神谷になっていくし。特に波岡さんを映したラストは、シーンとしても長いですし……もうアホやなーって(笑)。
──役者の生々しさを特に感じたシーンは?
漫才かな。あとは徳永と神谷が2人でただただ歩いているシーンも。それと何より役者さんの顔ですよね。徳永が神谷を見てる顔とか、もう林さんにしかできないじゃないですか。役者さんってすごいなと改めて感じました。
──林さんと、波岡さんの演技はどうでしたか?
私、不勉強で申し訳ないのですが、お二人がほかで演技されているところを拝見したことがなくて。これからお二人のことを徳永と神谷としてしか見れないんじゃないかと不安です。
丁寧で信じられる世界
──西さんは、自身の作品の中で食事シーンを大切にしていると伺っています。徳永と神谷、門脇麦さん演じる神谷の恋人・真樹との3人での食事シーンはいかがでした?
すごい素敵でした。3人はいつもお鍋を食べてますが、若手芸人の方ってきっとよく鍋食べますよね。安いし。そこの丁寧さもすごく感じました。(パンフレットの写真を指さして)こういう居酒屋とかもすごくリアル。
──鍋は安くて満腹になりますもんね。
でもそれは観終わってから思ったんです。観てるときはなんの違和感もなく、びっちり観れて。だけどびっちり観れたってことは、全然引っかかるとこなかったんやって。すごくこの世界を信じれたんやって思って、そこは素晴らしいなと。偉そうですけど思いました。
── 確かに。徳永のアパートの雰囲気もすごくリアルでしたね。
そうそう。事務所とかもああいう小さな事務所ありそう。
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- Netflixオリジナルドラマ「火花」
第153回芥川賞を受賞したピース又吉の中編小説「火花」を全10話でドラマ化。漫才の世界に身を投じた若者たちが現実と夢の狭間で苦しみながらも、自分らしく生きる様を描く。
スタッフ
総監督:廣木隆一
監督:廣木隆一(1話、9話、10話) / 毛利安孝(2話) / 白石和彌(3話、4話) / 沖田修一(5話、6話) / 久万真路(7話、8話)
原作:又吉直樹「火花」(文藝春秋刊)
主題歌:OKAMOTO'S「BROTHER」
挿入歌:SPICY CHOCOLATE「二人で feat. 西内まりや&YU-A」
キャスト
林遣都 / 波岡一喜 / 門脇麦 / 好井まさお(井下好井) / 村田秀亮(とろサーモン) / 菜 葉 菜 / 山本彩(NMB48)/ 渡辺大知(黒猫チェルシー) / 高橋メアリージュン / 渡辺哲 / 忍成修吾 / 徳井優 / 温水洋一 / 嶋田久作 / 大久保たもつ(ザ☆忍者) / 橋本稜(スクールゾーン) / 俵山峻(スクールゾーン) / 西村真二(ラフレクラン) / きょん(ラフレクラン) / 染谷将太 / 田口トモロヲ / 小林薫
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Netflixとは
世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190カ国以上で8100万人を超える会員を抱え、オリジナルシリーズを含めたドラマや映画、ドキュメンタリーを数多く配信している。
西加奈子(ニシカナコ)
1977年、イラン・テヘラン出身。エジプト・カイロ、大阪府育ち。2004年「あおい」で小説家デビュー。その後、「さくら」「炎上する君」「ふる」などを上梓する。2007年「通天閣」で第24回織田作之助賞、2013年「ふくわらい」で第1回河合隼雄物語賞、2015年「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞。2012年「きいろいゾウ」が実写映画化された。
2016年6月20日更新