お笑いナタリー Power Push - Netflixオリジナルドラマ「火花」

又吉直樹「火花」映像化 笑いとは。人生とは。もがきながら懸命に生きた若手漫才師の10年を描く

廣木隆一総監督インタビュー

又吉さんの文章には去りゆく者たちへの優しさがあふれている

──本作の総監督を引き受けた理由を聞かせてください。

第2話より、井の頭公園を歩く神谷と徳永。

原作を読んで、「いずれ映画になるんだろうな」と思っていたんです。又吉さんの書いた漫才の世界観に興味を持ちましたし、独特の文学性があると感じ、そこに惹かれました。そう思っている作品の映像化に携われるなんて本当にうれしいことですから。断る理由はないという感じで即決でした。

──演出について、それぞれの監督とはどうやって認識を共有したのでしょうか。

又吉さんが原作で作り出した世界観を大切にしたい、という思いが軸にありました。ただ認識に関しては、それぞれの監督が原作を読んで抱いた「火花」のイメージを映像に滲ませてもらえれば……というぼんやりとした感じで。本格始動する前に一度、吉祥寺の街でみんなで酒を飲みながら話して、その場で決めたこともあったと思うんですが、なにしろ飲んでいたので内容は忘れました(笑)。でもとにかくみんなこの原作が好きで、吉祥寺の街と芸人の世界の舞台裏に惹かれていたので、僕から「こういうふうに撮ってほしい」と要望を出す必要はありませんでした。又吉さんの紡ぎ出したストーリーに沿った形で各監督の色を出してほしいというのが、僕から4人の監督への唯一のお願いでしたね。

第9話より、社長に解散を報告するスパークス。

──原作を読んで特に印象的だったシーンは?

ドラマでは9話にあたる、スパークスが解散を決意するくだりです。さまざまな事情や理由で映画の世界で生きていくことをあきらめた仲間たちのことを思い出しました。又吉さんの文章には去りゆく者たちへの優しさがあふれていて、とても素敵だなと感じていました。

第4話より、いつもの公園でネタ合わせする徳永と山下。

──芸人が本職の好井さん、村田さんの芝居はどのようにご覧になりましたか。

2人はすごく自然に山下と大林になってくれました。実際に笑いの世界に生きている人たちですから、芸人として「こういうときはこうする」という話は、遣都と波岡もそれぞれの相方に聞いて、助けられていたと思います。

もがいている人間の姿は無様ではあるけれどどこか美しい

第3話より、山下の彼女・百合枝、山下、徳永(左から)。

──脚本作りで苦労した点は?

山下の私生活など、原作に書かれていない部分をどこまで入れるか入れないか、ということは脚本チームと一緒に詰めていきました。最終的には創作シーンはほとんど入っていないんですが、そのバランスを見極めるのが一番難しかったところです。また漫才シーンに関しては、ピースの構成作家さんにネタを書いていただいています。スパークスが徐々に成長するよう、初級、中級、上級と書きわけていただき、この完成度に支えられている部分が大きいです。漫才で飽きられちゃうとドラマ的に負けだなと思っていたのですが、スパークスもあほんだらも本当によく練習してくれていました。リアルに、見応えのあるシーンになっていると思います。

──スパークスやあほんだらというコンビが実在してもおかしくないようなパフォーマンスでした。

第9話より、最後の舞台に立つスパークス。

俳優陣の熱や必死さがすごくよく伝わってきました。特にスパークスのラストの漫才は本当に気持ちが入っていて「絶対に泣けない」と言っていた好井も舞台に出てきたら気持ちが高ぶって早めに泣いていましたしね。僕らは一発目の生の感じをちゃんと残したいと思っていたので、準備もかなり入念にやったんです。そして本番を迎えると、何がすごいかって、カメラを向けられていない俳優やスタッフのほとんどが泣いていたということ。編集をやっているときも、こみ上げてきて大変でしたよ(笑)。遣都も好井も本当によくやってくれました。ぜひこのシーンは期待してもらいたいです。

──本作を通じて、監督ご自身が芸人という職業に思うところはありましたか?

第5話より、お笑いライブ「渋谷オールスター祭」に出演する芸人たち。

舞台に立つということはやっぱりすごいことです。一発勝負の怖さがある。映画の場合は「はい、もう1回行こう」となんとかなる部分もありますから。ただ、根本的なところは芸人も俳優もミュージシャンも、僕みたいな監督も同じなのではないかとも思っていて。何をやったら売れるかなんて正解は誰もわからないですし、「売れたら売れたで……」というようなこともある。その中で身を削って生きている人たちの“青春”というものには僕はすごく興味があるし、だからこそこの物語に感じ入るんでしょう。もがいている人間の姿は無様ではあるけれどどこか美しい。きっとどの世界でも、それは同じことなんだと思います。

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Netflixオリジナルドラマ「火花」

Netflixオリジナルドラマ「火花」

第153回芥川賞を受賞したピース又吉の中編小説「火花」を全10話でドラマ化。漫才の世界に身を投じた若者たちが現実と夢の狭間で苦しみながらも、自分らしく生きる様を描く。

スタッフ

総監督:廣木隆一
監督:廣木隆一(1話、9話、10話) / 毛利安孝(2話) / 白石和彌(3話、4話) / 沖田修一(5話、6話) / 久万真路(7話、8話)
原作:又吉直樹「火花」(文藝春秋刊)
主題歌:OKAMOTO'S「BROTHER」
挿入歌:SPICY CHOCOLATE「二人で feat. 西内まりや&YU-A」

キャスト

林遣都 / 波岡一喜 / 門脇麦 / 好井まさお(井下好井) / 村田秀亮(とろサーモン) / 菜 葉 菜 / 山本彩(NMB48)/ 渡辺大知(黒猫チェルシー) / 高橋メアリージュン / 渡辺哲 / 忍成修吾 / 徳井優 / 温水洋一 / 嶋田久作 / 大久保たもつ(ザ☆忍者) / 橋本稜(スクールゾーン) / 俵山峻(スクールゾーン) / 西村真二(ラフレクラン) / きょん(ラフレクラン) / 染谷将太 / 田口トモロヲ / 小林薫

Netflixとは

世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190カ国以上で8100万人を超える会員を抱え、オリジナルシリーズを含めたドラマや映画、ドキュメンタリーを数多く配信している。

「火花」

又吉直樹「火花」
2015年3月11日発売
文藝春秋
1296円

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廣木隆一(ヒロキリュウイチ)

1954年1月1日生まれ、福島県出身。1982年、ピンク映画「性虐!女を暴く」でデビューし、数多くの作品で監督を務める。2003年、「ヴァイブレータ」で第25回ヨコハマ映画祭で監督賞をはじめ5部門、その他40以上の国際映画祭で数々の賞を受賞した。近年の主な監督作品に、「余命1ヶ月の花嫁」(2009年)、「雷桜」(2010年)、「軽蔑」(2011年)、「きいろいゾウ」(2013年)、「100回泣くこと」(2013年)、「さよなら歌舞伎町」(2015年)、「娚の一生」(2015年)、「ストロボ・エッジ」(2015年)、「オオカミ少女と黒王子」(2016年)など。今後の公開作品に「夏美のホタル」(2016年)、「PとJK」(2017年)がある。


2016年6月20日更新