山田くんは原作ファンだからこそエドをどう作るべきかわかっていた
──各キャラクターのビジュアルについても質問させてください。映画ナタリーでは、キャラクタービジュアルが解禁になったとき読者から大きな反響がありました(参照:「鋼の錬金術師」本田翼、ディーン、本郷奏多ら演じるキャラ捉えたビジュアル解禁)。外見はどのようにして作り上げていったんですか?
監督としては大きな方向性を示すだけで、細かい指示はほとんどしていないです。というのも、外側から入る役者さんもいれば、内面から入る役者さんもいるわけですから。それぞれアプローチの仕方が違うと思います。それを大事にしたいといつも思っています。
──では役者さんたちが自分自身でアプローチの方法を考えたと。
もちろん衣装などはこちらでデザインします。でもそこからは、主演の山田くんが自分自身でここまで作り込んでいきました。自らが原作をよく知っているファンであるから、自分なりのエドをどう作るべきかをわかっているんですよね。あとラスト役の松雪さんにはびっくりさせられました。原作を全部読んで、アニメも観たうえで撮影に臨んでいらっしゃって。おそらくオファーがあってから、演じるにあたり時間を割いてご準備されたんだと思います。撮影が始まる頃には誰よりも詳しくなっていました。松雪さんほどの女優さんにそこまで努力していただけたのは、とてもうれしかったですね。あ、でも内山くんにだけは、かなり細かく指示を出しました(笑)。
──内山さんはグラトニーを演じてらっしゃいますね。
グラトニーみたいには太ってないですからね。いろんなものを体に着けてもらったり、大変な思いをさせたかと思います。本人もよく言ってるんですけど、白いコンタクトレンズの話があって。目を白くしてもらうためにコンタクトレンズを着ける練習をしてもらったんですが、結果的にCGでなんとかなるという結論になったんです。着けなくて大丈夫ということを伝えたら、「ええええ!?」って(笑)。
──それは本人的には残念ですね(笑)。
あれは申し訳なかったです……。グラトニーが一番人間から遠いと思うんですが、最終的には本人の努力とCGの合わせ技でいいビジュアルを作ることができました。あとは本郷くん演じるエンヴィーの髪の毛ですね。さすがに原作通りは無理だよねっていう話になって。
──腰まで髪の毛がありますからね。
最初は特殊メイクのような髪の毛も用意したんです。でも人間がお芝居する中ではすごく邪魔になってしまって。マンガだとカッコいいんですが、実写になると違和感があるんですよ。似せればいいわけではないことを痛感したというか、大事なのはエンヴィーの雰囲気をいかにして人間の芝居で表現するかということだと。
──キャスティングはどのように行ったのでしょうか?
1人ひとり自分で口説いていきました。人任せにした部分はないです。外側はメイクや衣装で寄せていくことができると思ったので、演者さんとしてイメージが近い人にお願いしました。
市長も全面協力。イタリア現地スタッフがファンだなんて「荒川先生すごい!」
──撮影はイタリアで行ったと伺いました。最近だとマンガ原作の「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」でスペインロケが実施されていましたね。海外ロケが実写化を可能にしている部分もあるんでしょうか。
どうでしょうね(笑)。映画の原作となっているマンガ「ジョジョ」4部の舞台は日本ですけど、「鋼の錬金術師」は完全にヨーロッパですから日本で撮影して世界観を合わせるのが難しかったというか。1つ大きかったのが、作品の中に重要なアイテムとして機関車が登場するんですよ。日本の機関車だとイメージがだいぶ変わってしまうので、それを西洋の機関車で撮りたかったという事情もあります。ヨーロッパで機関車を撮影できる場所を探していたら、イタリアの国鉄が貸してくれることになって、原作のイメージとぴったりだったので「じゃあ行こう」という話になったんです。
──撮影はイタリアのどこで実施したのでしょう。
トスカーナ州のヴォルテッラという場所です。ハリウッド映画でもよく撮影してるところ。最初に映画撮影などの窓口の方と会ったんですが、「FULLMETAL ALCHEMIST」の撮影だと伝えたら、その人が大ファンだったんです。「ちょっと待ってて」と言われて待機していたら、市長を連れて戻って来て(笑)。市長に「ぜひうちで撮影してくれ」とおっしゃっていただけました。
──それだけ原作の「鋼の錬金術師」が人気だということですね。
イタリアの担当者がファンだなんて「荒川先生すごい!」と改めて思いました。なんとなく運命を感じて、ここで撮影しないといけないという気持ちになりましたね。ロケハンしてるとたまにそういうことがあるんですよ。
──撮影は順調に進んだんですか?
市長がすごく撮影しやすい環境を作ってくれて。例えば工事してる建物があって「ここは使えないよね?」と聞くと、「撮影までには工事を終わらせておくよ」って。人通りが多い道路を3日間封鎖してくれたこともありました。市長をはじめとするヴォルテッラの方々に全面的に協力していただけなかったら、こんな撮影はできなかったです。本当に感謝しています。
年代を問わないエンタテインメント作品に仕上がった
──去年、撮影している最中にも取材をさせていただいたのですが、そのときは山田さんの表情を崩すことに注力しているとおっしゃっていましたね。
はははは。山田くんが端正な顔立ちをしているので、表情を崩すことで彼のいろんな面を見てもらいたいという意味です。人気アイドルグループの一員でもあるわけですから、どう撮ってもカッコよくなって難しかったんですけどね。普通は「この人をどうカッコよく撮ろう」と考えると思うんですが、今回は「山田くんをどうカッコ悪く撮ろう」と意識して。
──山田さんと最初に会ったときの印象はいかがでしたか?
これまで出演している作品を観ていて役者としての山田涼介は知っていたんですが、実際本人がどんな人なのかは撮影が始まるまでわからないですよね。演技力が高いことはわかっていたんですけど。女子力の高い人かもしれないな、とかいろいろと想像していたんですが、会ってみたらすごく男っぽい人で。性格がもうエドに近いんですよ。
──山田さんも、監督が自分の外見だけでなく中身を見てくれたとおっしゃっていました(参照:「鋼の錬金術師」山田涼介 / 本田翼 / ディーン・フジオカ インタビュー | 主要キャスト3人が語った本音と自信)。イタリアでは車の中で語り合ったみたいですね。
はい、語り合いましたね(笑)。仕事モードで話すことはたくさんあったのですが、打ち解けて話したのはそれが初めてだったかもしれないです。山田くんが、心を開いてくれたと感じることができた頃で。ここでは言えないようなことも話した記憶があります(笑)。
──そうなんですね(笑)。ちなみに山田さんの演技でしびれたシーンはありますか?
エドって原作の中では涙を見せないんですが、映画の中では喜怒哀楽を激しく表現するために時には涙が必要だと思っていて。そんなシーンの撮影でも、山田くんはNGを出すことがなかった。一番印象的だったのは、山田くんの視線の先にアルがいるように見えてきたという。彼の視線の先にあとでアルのCGをはめればいい、というレベルにまで達していました。
──山田さんの演技に助けられた部分もあったということですね。それでは最後に、映画の見どころを教えてください。
兄弟の絆を描いた感動的なストーリーと、ハリウッド並みのCGを駆使したアクションが融合した、年代を問わないエンタテインメント作品に仕上がりました。IMAX版もありますが、邦画では珍しくIMAX映えする映画になっています。ぜひ、劇場の大きなスクリーンで楽しんでください。
- 「鋼の錬金術師」
- 2017年12月1日(金)全国公開
- あらすじ
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幼い頃に最愛の母親を亡くした兄エドと弟アル。彼らは母親を生き返らせるため、錬金術における最大の禁忌(タブー)・人体錬成に挑んだ。しかし錬成は失敗に終わり、エドは左脚を、アルは身体のすべてを代価として失ってしまう。瀕死のエドはとっさに再錬成を行い、自分の右腕と引き換えにアルの魂を鎧に定着させることに成功した。それから数年後、鋼鉄の義肢を装着し国家錬金術師となったエドは、奪われたすべてを取り戻すためにアルと旅を続けている。
- スタッフ
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- 監督:曽利文彦
- 原作:荒川弘「鋼の錬金術師」(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
- キャスト
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- エド:山田涼介
- ウィンリィ:本田翼
- マスタング:ディーン・フジオカ
- ホークアイ:蓮佛美沙子
- エンヴィー:本郷奏多
- マルコー:國村隼
- コーネロ:石丸謙二郎
- グレイシア・ヒューズ:原田夏希
- グラトニー:内山信二
- ロス:夏菜
- タッカー:大泉洋(特別出演)
- マース・ヒューズ:佐藤隆太
- ハクロ:小日向文世
- ラスト:松雪泰子
原作第1話の試し読みはこちらから
©2017 荒川弘/SQUARE ENIX ©2017映画「鋼の錬金術師」製作委員会
映画「鋼の錬金術師」公開記念
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プレゼント
映画オリジナル・クラッチバック 10名様
期間
11/27(月)~12/11(月)
- 曽利文彦(ソリフミヒコ)
- 1964年5月17日生まれ、大阪府出身。USC(南カリフォルニア大学)映画学科在学中、1997年公開作「タイタニック」にCGアニメーターとして参加する。2002年に松本大洋のマンガを実写映画化した「ピンポン」で監督デビュー。その他の監督作品に、「座頭市」の主人公を女性に置き換えた「ICHI」、山下智久と伊勢谷友介の共演作「あしたのジョー」などがある。