海野つなみが語る映画「ダウントン・アビー」|まずは映画を入り口に!シリーズ初心者も夢中になれる劇場版が日本公開 / 描き下ろしイラスト&レビューも

日本版「ダウントン・アビー」を作るなら?

──魅力的なキャラクターが多数登場する「ダウントン・アビー」ですが、もし日本版「ダウントン・アビー」が作られるとしたら、海野さんは誰をキャスティングしますか?

左からミシェル・ドッカリー演じる長女メアリー・クローリー、マギー・スミス演じる先代伯爵夫人バイオレット。

難しいですねー。今回イラストも描いたんですけど、トーマスを描きながら吉沢悠さんを思い出しました。ちょっと顔とか雰囲気が似ていませんか? 長女メアリーは綾瀬はるかちゃんとか。横顔の雰囲気や上品さがメアリーっぽいです。

──バイオレットは誰でしょう? 一番難しいかもしれません。樹木希林さんとか?

そうですね……。あとマツコ・デラックスさんとか! まだ若いですが大竹しのぶさんも合うかもしれません。存在感があって、嫌味もキュートな感じになる人がいいですよね。浅丘ルリ子さんも貴族っぽい雰囲気があって意外とハマるような? なかなか難しいですね!

──無茶ぶりに答えていただきありがとうございます。海野さんは「逃げるは恥だが役に立つ」「デイジー・ラック」が立て続けにドラマ化されましたが、どちらも多様性の時代にふさわしい作品でした。階級社会を背景とした「ダウントン・アビー」も、世間の常識をいかに覆していくかという点で現代に通ずるものがあったと思います。

当初のメアリーは「自分がこの家を背負っている」「結婚相手ですべてが変わる」のような縛りを持っていました。逆に三女シビルは最初から自由奔放で活動的でしたし、次女イーディスも映画で「慈善活動はもう嫌」と嘆いていました。貴族階級の女性が働き出したり、自分の意思で生き方を決めるようになったり、変化の時代を描いた「ダウントン・アビー」は“女性の歴史の物語”という見方もできると思います。

「ダウントン・アビー」

──当時の階級制度だったり、長女であるメアリーが背負う宿命は「逃げるは恥だが役に立つ」に出てきた自分を縛る“呪い”に置き換えられるのでしょうか。「逃げ恥」では呪いから救ってくれるセリフもありましたが……。

自分の家だけではなく、土地の歴史そのものを背負うなんてどれほどの重さなんでしょう? 想像もできないです。あれだけの屋敷を維持するには、ずっと背負っていかなければならないでしょうね。それを呪いと言うのであれば、メアリーの呪いが解けるのはすべてを手放すときなのかもしれません。映画のラストでは、彼女なりに道筋が見えたようでした。彼女を縛るものは“呪い”とも言えますが、自分の捉え方次第で別の言葉に変えられる気がします。

人々の生活を細かく描いた作品

──「ダウントン・アビー」の魅力を存分に語っていただきましたが、ストーリーの面白さだけでなく、当時の生活が垣間見えるという点も貴重で見どころのある作品ですよね。

日本の歴史ドラマで、人々の生活をここまで細かく描いた作品ってあまり多くないと思うんです。皇族の物語はあっても、そこに仕える女官の生活も見たいなと。「後宮」を描いたとき、「弁内侍日記」っていう昔の女官の日記を参考にしたんです。生活のこと以外にも「どこそこの貴族がちょっかい出してきたから、こんな歌を詠んでやったわ」みたいな記録があったり。今で言うOL日記みたいな内容で。きっと教科書に載せたら、古典を身近に感じられますよね。

「ダウントン・アビー」

──そうですね。貴族と使用人の主従関係より、使用人たちの上下関係のほうが共感できたりもしました。

意外と使用人たちのほうが上下関係にうるさくて(笑)。貴族になることはできませんが、使用人同士では立場を取って代われますからね。職場の人間関係みたいで、会社員の人は気持ちがよくわかるかもしれません。

──興味を引かれる要素がたくさんありますね。

「ダウントン・アビー」の面白さってそういうところなんだと思います!

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海野つなみ(ウミノツナミ)
海野つなみ
8月9日生まれ、兵庫県出身。1989年、第8回なかよし新人まんが賞入選の「お月様にお願い」でデビュー。主な作品に「Kissの事情」「デイジー・ラック」「回転銀河」「小煌女」などがある。“契約結婚”をテーマに描いた「逃げるは恥だが役に立つ」は第39回講談社漫画賞(少女部門)を受賞。2016年に星野源と新垣結衣をキャストに迎えてテレビドラマ化され、社会現象を巻き起こすヒット作となった。

Review

映画を観れば確実にハマる!ダウントニアン急増の予感

文 / よしひろまさみち

全世界を魅了する貴族&使用人の群像劇「ダウントン・アビー」。日本では、コアな海外ドラマファンはもちろん、NHKでの放映を観たお茶の間も巻き込んで人気を獲得したことで知られるシリーズだ。その魅力はなんと言っても、現代人の常識も徐々に入り込んで来ている適度に古い設定の時代劇&コスプレ&階級劇。いわゆる時代ものにもいろいろあるが、数百年単位で古い舞台設定だと、よほどの歴史劇好きでない限り、いまひとつ感情移入しにくいのが正直なところ。その点、本シリーズは20世紀初頭のイギリスが舞台だけに、現代の文明社会での常識が芽生え始めた時代を背景にしており、物語の節々で共感できるポイントが。

「ダウントン・アビー」

またこの時代は、貴族と一般庶民の社会が完全に別だった階級社会が崩れ始めた頃。本シリーズで描かれる貴族と使用人の関係性も中世時代劇の深くて長い溝とはまったく異なり、貴族であるクローリー家と使用人たちの間には深いながらも短いボーダーがある。この絶妙な距離感が生む濃厚な人間関係が、これだけ多くの登場人物を有する群像劇でも混乱せずに、どのキャラクターも立ったストーリーにできた要因の1つだろう。しかも、現実離れしたゴージャスなコスプレ劇。テレビシリーズは5年間、6シーズン、全52エピソードという大河ドラマとなったが、人気が失速するどころか、どんどんとファン=ダウントニアンを増やしていった。その理由は、これらの要因プラス、絶対悪皆無で基本的には善人ばかりのキャラクターがそろった、ピースフルで濃厚な人間ドラマだったからと言える。

すでにダウントニアンになってしまった人々にとっては待望の映画化となった今回の映画版。乗り遅れてしまった人でも、この映画版から入って大丈夫、と太鼓判を押したい。いやむしろ、これまで知らなかった人が、この映画を鑑賞すれば、確実にテレビシリーズを全エピソード観たくなるよう、見事に作られているのだ。

「ダウントン・アビー」

本作はテレビシリーズの2年後が舞台。ダウントン・アビーに英国王夫妻の訪問が決まり、クローリー家と使用人たちが、ロイヤルファミリーを迎えるための準備で大わらわになる、というのが大筋。このシンプルすぎるストーリーには理由がある。それは、テレビシリーズを観ていなかった人にもわかるよう、キャラクターの解説がさりげなく入っているから。だからと言ってしつこくない、あっさりすぎるほどあっさりした解説だ。

登場人物が全員主役、というテレビシリーズだけに、説明をしようとすればいくらでもふくらませることはできるが、本作ではストーリーに即したキャラの動きだけで紹介を済ませるというスマートさで描き出す。例えば、嫉妬深い執事のトーマスと大らかな元執事カーソンの関係は、テレビシリーズを観ていなくても、気まずい空気、とひと目で分かる。それぞれのレギュラー陣が持っている性格などを、ちょっとした空気感で表現してしまった本作の脚本と役者のアンサンブルには感服だ。

本作をきっかけに、ダウントニアンがまた急増する予感。テレビシリーズからのファンは、クローリー家の人々のように寛容な心で、新しいダウントニアンを迎え入れてほしい。

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