マンガ家・海野つなみ「連続ドラマW フェンス」を鑑賞、野木亜紀子の脚本が伝えるものとは? | WOWOWオンデマンドで視聴できるおすすめ作品も

ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の野木亜紀子がオリジナル脚本を手がけた「連続ドラマW フェンス」が、3月19日よりWOWOWで放送・配信される。

本作は本土復帰50年を迎えた沖縄を舞台に、女性2人がある性的暴行事件の真相を追うさまを描くクライムサスペンス。松岡茉優と宮本エリアナがダブル主演を務めた。

映画ナタリーでは、野木が脚本を担当したドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の原作者であり、WOWOWのオリジナルドラマを初期から観てきたという海野つなみにインタビュー。“WOWOWだからこそ作れた”とうなる「フェンス」の感想に加え、自身も加入している配信サービス・WOWOWオンデマンドのラインナップからおすすめ作品を挙げてもらった。

取材・文(インタビュー) / 西森路代

WOWOWだからこそ作れたと思う

──海野先生は、以前からWOWOWドラマのファンだということですが、最初に関心を持ったのはどの作品だったのでしょうか?

WOWOWの「ドラマW」第1弾の「センセイの鞄」です。「キョンキョン(小泉今日子)と柄本明さんの組み合わせで、こんなドラマをWOWOWが作るんだ!?」と思って興味を持ちました。振り返ってみると、WOWOWでは、女性主人公のドラマをよく観ていますね。

──野木亜紀子さんが脚本を担当された「連続ドラマW フェンス」も女性が主人公です。野木さんとは「逃げるは恥だが役に立つ」のドラマでタッグを組まれていますよね。

野木さんとは、ドラマが終わったあとも、私が東京に行ったときに何人かでごはんを食べたりしていたんです。でもコロナ禍以降は、なかなかできていませんでした。「フェンス」については、ネットニュースで知ってからずっと楽しみで、放送が始まったらまた野木さんに感想を伝えようかなと思っていました。そうしたら、今回のこの取材依頼を受けて、ひと足お先に見せてもらうことになったんです。

「連続ドラマW フェンス」より、左から宮本エリアナ演じる大嶺桜、松岡茉優演じる小松綺絵。

「連続ドラマW フェンス」より、左から宮本エリアナ演じる大嶺桜、松岡茉優演じる小松綺絵。

──実際にご覧になって、どのような感想を持たれましたか?

沖縄の基地周辺が舞台で、外交の暗部のようなところも描く作品なので、WOWOWだからこそ作れたのかなと思いました。同時に、想像していたよりもっと広がりのあるドラマで、主人公を含めて個人的なことも掘り下げていたし、軽やかな部分もありました。最初にこのドラマのニュースを目にしたときに想像したように、ずっしりとした部分ももちろんあったんですが、心に染み入るような作品でもありました。それと、米軍捜査機関が出てくるところもよかったですね。米軍捜査機関に対してもかなり取材をしているのが伝わってきました。

──終盤の米軍の上司の方の行動も印象に残りますよね。野木さんに伺ったんですが、実際にあったエピソードをモチーフにしているそうです。

あそこはよかったですね! 「こんなのドラマの中だけ」とか「実際にはあり得ないよね」と言われそうだなと思っていたけど、それを聞いたら「熱い」気持ちになります。あの場面が実話をモチーフにしているというのはぐっと来ました。ドラマを観た人にも広く知ってほしいと思います。

みくりちゃんもこんなふうになっていたかもしれない……?

──松岡茉優さん演じる小松綺絵(キー)や、宮本エリアナさん演じる大嶺桜など、女性キャラクターが皆さんよかったですね。海野さんは、どのキャラクターに注目されましたか?

松岡さんはじめ皆さんそれぞれ魅力的なんですが、ガッキー(新垣結衣)演じる精神科の先生が出てきて、彼女の存在に救われました。観ている方も一緒に何か話を聞いてもらっている気持ちになるし。「逃げ恥」でガッキーが演じたみくりちゃんも、もともと心理学をやっていて、その方向で仕事をしたかったけれど、結局違う方向に行くという話だったから。「フェンス」の役柄は、もしかしたら、みくりちゃんもこんなふうになっていたかもしれない……という気持ちで観たりもしました。ほかの女性キャラクターも、それぞれの立場でお互いに助け合う感じがすごくよかったです。それとは別で、ドラマの冒頭から、キャバクラで働くキーは「女が楽して稼げる」という偏見をぶつけられますよね。うわーと思いながら観ているうちに自分の中にある偏見にも気付かされる、偏見にまつわる物語でもありました。

「連続ドラマW フェンス」より、新垣結衣演じる城間薫。

「連続ドラマW フェンス」より、新垣結衣演じる城間薫。

──男性キャラクターに関してはいかがですか?

特に青木崇高さん演じる警察官の終盤のシーンがすごく印象に残りました。誠実さや人に対しての礼儀正しさみたいなものがにじみ出ていて。ひと昔前の警察官だと、相手に対して高圧的だったり暴力的なことも多かったと思うんですけど、相手に敬意を持ちながら対峙するところに、自身の仕事と相手の仕事に対するプライドが感じられました。青木さんは「ちりとてちん」もよかったし、「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!」でも存在感があったしチャーミングでしたね。俳優の方々、皆さん重いところは重く、明るいところは明るく演じられていたのがよかったです。

「連続ドラマW フェンス」より、青木崇高演じる伊佐兼史(左)。

「連続ドラマW フェンス」より、青木崇高演じる伊佐兼史(左)。

バディものという点では「MIU404」と対の作品

──海野さんは「逃げ恥」以降も野木さんの作品をたくさん観てこられたと思うんですが、今回の「フェンス」を観て、何か思い出す作品はありましたか?

「MIU404」ですね。こちらは男性同士のバディでしたが、「フェンス」は女性同士のバディで、ある意味「MIU404」と対になっているように感じました。人間ドラマと同時に社会の見え方を提示してくれるような作品として、近いものを感じました。WOWOWのドラマって、地上波のドラマより話数が少ないので、映画とドラマの中間のようなところがあると思うんです。映画よりも長い分丁寧で、地上波ドラマよりぎゅっと凝縮されていて。「フェンス」のテーマにもちょうどいいと思いました。

──ほかのWOWOWの作品にもそういうところは感じますか?

「センセイの鞄」は連続ドラマではなく単発だったので映画に近い感じはありました。連続もので映画っぽいのは、高畑充希さん主演の「連続ドラマW いりびと-異邦人-」かな。京都が舞台で、映像がきれいでそれだけでも惹かれたんですが、現代ものなのに横溝正史のような世界もあって。それと、松重豊さんが演じる日本画家の役柄がめちゃめちゃ怖いんですよ。松重さんが怖い役っていうだけでもう吸引力がありますよね。ドラマ自体も面白いんですけど、女性が女性を救うという展開にもぐっときました。

「連続ドラマW いりびと-異邦人-」場面写真

「連続ドラマW いりびと-異邦人-」場面写真

連続ドラマW-30「グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ」場面写真 ©︎「グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ」製作委員会

連続ドラマW-30「グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ」場面写真 ©︎「グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ」製作委員会

──いつもWOWOWドラマはどのようにチェックしているんですか?

加入すると送られてくるWOWOWの小冊子(プログラムガイド)をチェックしています。昨今しんどいことが多いので(笑)、「殺意の道程(みちのり)」なんかは息抜きに観られそうだなと興味を持ちました。女性がメインのドラマがあると、どんな話だろうと惹かれますし、「グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ」は、こういう個人的なエッセイからドラマができるんだと驚きました(※本作はBL研究家・金田淳子のエッセイ「『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ」が原案)。会議で「この原作をドラマにしたいんです」とプレゼンして、「やりましょう」って言えるのがすごい(笑)。実際にすごく面白かったし、松本穂香さんをキャスティングしたところがうまいなって。あのしゃべり方とかもすごくチャーミングで、現実とファンタジーの混ざり具合も面白くて、コメディかと思って観始めたら、最後はドラマとしてよくまとまっていたし。

2023年3月31日更新