映画ナタリー Power Push - 「ロッキー」新章(シリーズ)、始まる 「クリード チャンプを継ぐ男」

今だからこそロッキーが伝える、夢と希望、そして熱き仲間のキズナ

この映画は観なきゃいけないって思ったよ

──板垣先生が好きな「ロッキー」シリーズは?

やっぱり「ロッキー」。映画としての完成度がほかのシリーズと比べて段違いだよ。アカデミー賞も獲ったしね。オレが19歳のときに観た印象的な映画だったんだ。大人になった今日まで追いかけられる。そんな付き合い方ができる。ファンとして幸せだなあ。

「ロッキー」より

──「ロッキー」とともにご自身も人生を歩んできたという……。

自分とロッキーを並べたことはないけど、何者でもなかった自分が高校を卒業して自衛隊に入った。映画の中で無名だったロッキーはアポロ戦へ向けて必死に階段を駆け上がっていた。「ロッキー2」が上映されたのはオレがボクシングを始めて間もない頃。「こんなにクリーンヒットして、立っていられるわけないじゃん」なんて思いながら船橋の映画館で観てたよ。「ロッキー」とともに自分の人生を振り返ることはよくやったね。

「ロッキー4 炎の友情」より

──「ロッキー」で、板垣先生が好きなキャラクターは?

アポロ・クリードと「ロッキー4 炎の友情」でドルフ・ラングレンが演じたイワン・ドラゴは双璧だな。

板垣恵介

──(インタビュー当日の)11月27日は30年前に「ロッキー4 炎の友情」が全米公開された日、つまりアポロ・クリードがリングに散った日でもあるんです。

ええ!? そうかあ……!! 感慨深いねえ。アポロを演じたカール・ウェザースは今や役名の方が有名だろ。「あっ、アポロの人だ!」って。

──こちら11月20日のワールドプレミアに訪れた、最近のウェザースです。

映画ナタリー11月20日付けのニュース記事を見て)おお! アポロ懐かしいなあ。お年を召したんだねえ。もう40年近く前になるけど、「ロッキー」の記事でアポロを観たとき「本物のボクサーか!?」って思ったよ。オレは当時もヘビー級の試合をよく観ていたから、「どこの誰だよ、こんなヤツどこにいたんだ!?」って。日本にあんな役者がいるはずもなく、米国の役者ってこんな体つきをしているのかって驚いたね。この映画は観なきゃいけないって思ったよ。

──そんなアポロを倒したドラゴもお気に入りなんですね?

ラングレンは役者になる前から知ってるんだよ。1979年に開催された全世界空手道選手権大会で、ラングレンが当時の世界王者の中村誠と試合をしているのを観たんだ。中村選手がさんざん手こずるほどの強さだった。

板垣恵介

──ドラゴといえば黒のマウスピースが異様さを引き立てていました。

おどろおどろしかったよなあ。当時、マウスピースは白いもんだと思っていたからね。

──米国 VS. 旧ソ連という構図も当時の情勢を物語っていました。

しょうがないよな! 「ロッキー」シリーズ史上、この上なく荒唐無稽でSFと言ってもいいような内容だったけどオレは十分に楽しんだ。プロレスを観ているような感じだったね。そんな中でアポロの絶命シーンを描くなんて、よくやったなと思うよ。みんながハッピーじゃなく、そういう悲しみもちゃんと見せてくれた。

「ロッキー3.5」をやってもいいんじゃないの!

──先生の作品に影響を与えた「ロッキー」の名シーンはありますか?

「ロッキー」より

「ロッキー3」のラストに、クラバー・ラングとの試合を終えたロッキーとセコンド役だったアポロがボクサーパンツに着替えて、誰もいないリングで試合をするシーンが描かれている。「クリード」の冒頭でアドニスがロッキーに問う。「2人の間には、誰も知らない1戦があったんだろ?」と。

──ストップモーションで終わる「ロッキー3」のエンディングですね。

そう。あのシーンをオレも真似たんだ。アントニオ猪狩(モデルはアントニオ猪木)とマウント斗羽(モデルはジャイアント馬場)が誰もいない東京ドームで試合をするっていうね。

──えっ、元ネタは「ロッキー3」なんですか!?

「バキ完全版」第24巻より

そうだよ。あのシーンは鳥肌立つぐらいカッコよかった。観客もゴングもないリングで、2人が会話をしながら円を描くようにゆっくりと動いて。その直後に双方が“ガッ”とパンチを繰り出したところで映画は終わる。ストップモーションで引きで描く手法は、オレのマンガでよく使っているよ。「クリード」では、ロッキーが「あのときはアポロが勝った」ってアドニスに語るんだよ。オレもアポロのパンチに体重が乗っていたように思う。そんなことを想像して楽しんだもんだよ。

──アポロに聞くとロッキーが勝ったと言いそうですね。

謎を残したままだねえ。「ロッキー3.5」をやってもいいんじゃないの! あの謎のスパーリングを描くとかさ(笑)。

オレもそうやって生きてきたんだよ

──板垣先生はご自身の人生で危機に直面したとき、どう乗り越えてきましたか?

ボールを床につきながら「シーズン1からロッキーがやってるやつだ。いいね、つきながら帰ろうかな」と板垣恵介。

ロッキーは確かにいろんな危機を克服してきたかもしれない。でもオレはその前に、ロッキーはわがままを通してきたやつだと思ってる。エイドリアンやミッキーがいくら止めても、自分の意志を貫いてきた。危機はその結果出てきたものであってね。

──なるほど。

オレもそうやって生きてきたんだよ。マンガ家を志すなんて誰も望まない。家族であってもね。それでもなおオレ自身、わがままを通してきた。通してきたからには危機を乗り越える美しさもクソもない。失敗したら死活問題だからね。だから、やり遂げるしかなかったんだ。振り返って「オレって素晴らしい」なんてことは、1人のときにつつましくするもんよ(笑)。

ファイティングポーズをとる板垣恵介。

──では最後に「ロッキー」ファンとシリーズを知らない世代へ向けてメッセージをお願いします。

シリーズを観てきたファンならば「クリード」を観るのは責務だよ。観なければよかったなんて思うことはないはず。「ロッキー」を知らない世代の人たちがどう感じるのかは興味があるなあ。でも最後には手に汗握り、応援する、それは大丈夫。「ほんとに素晴らしい映画です!」、スタローンに会ったら、敬語でそう直接伝えたいね。

「クリード チャンプを継ぐ男」2015年12月23日より全国公開

「クリード チャンプを継ぐ男」

元世界ヘビー級王者アポロ・クリードを父に持つアドニス。他界した父のことを何も知らないアドニスだが、たぎる情熱を抑えきれずプロボクサーとして生きることを決意する。義母メアリーの反対を押し切り、父のライバルだったロッキーを捜しに単身フィラデルフィアへ向かう。突如現れた若者の純粋なまなざしと、親友の面影を見たロッキーは、持てる技術のすべてを託し、ともに頂点への道を歩み始める。しかし世界王者とのタイトルマッチ直前、死にいたる病を宣告されるロッキー……。絶対的に不利な状況で、2人は奇跡を起こすことができるのか!?

スタッフ

監督・脚本:ライアン・クーグラー
脚本:アーロン・コビントン
製作:アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ、チャールズ・ウィンクラー、ウィリアム・チャートフ、デイビッド・ウィンクラー、ケビン・キング=テンプルトン、シルヴェスター・スタローン
製作総指揮:ニコラス・スターン

キャスト

ロッキー・バルボア:シルヴェスター・スタローン
アドニス・ジョンソン:マイケル・B・ジョーダン
ビアンカ:テッサ・トンプソン
メアリー・アン・クリード:フィリシア・ラシャド
“プリティ”・リッキー・コンラン:アンソニー・ベリュー

「クリード チャンプを継ぐ男」

板垣恵介(イタガキケイスケ)

1957年4月4日、北海道出身。高校を卒業後地元で就職するが、後に退職し20歳で陸上自衛隊に入隊。習志野第1空挺団に約5年間所属し、アマチュアボクシングで国体にも出場した。その後身体を壊して自衛隊を除隊し、さまざまな職を経験しながらマンガ家を志す。30歳のとき、マンガ原作者・小池一夫の主催する劇画村塾に入塾。ここで頭角を現し、「メイキャッパー」でデビュー。1991年に連載スタートした「グラップラー刃牙」は、「バキ」「範馬刃牙」とシリーズを重ねることで、格闘マンガの新たな地平を切り拓いた名作となった。他の代表作として、「餓狼伝」(原作:夢枕獏)、「バキ外伝 疵面」(作画:山内雪奈生)、「謝男 シャーマン」などがある。

「刃牙道(8)」

板垣恵介「刃牙道(8)」
2015年10月8日発売
463円 / 秋田書店

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2015年12月16日更新