日本で「美女と野獣」をキャスティングするなら
──実写だからこそ、細かなキャラクター描写がより生きてくるのでしょうか。
例えばベルが読書好きだったり、野獣を愛するようになっていくという設定が、アニメーションではなんとなく理解しきれない部分もあったんです。でも実写版を観たら、そうか、「美女と野獣」は想像力の話なのか!という発見がありました。(ベル役が)エマ・ワトソンだからというのも大きいかもしれないですけど。頭よさそうじゃないですか。あと意識高そう(笑)。
──エマ・ワトソンの持つ聡明さがベルにぴったりでしたね。もし松尾さんが日本で「美女と野獣」を実写化するなら誰を起用しますか?
うーん、ベルは誰だろう。……歌がうまければ、のんちゃんかなあ。
──ドラマ「あまちゃん」で共演した、のんさんですね。
のんちゃんが図書館で目をキラキラさせながら読書している姿って、ちょっと思い浮かぶじゃない?
──確かに! 新しいプリンセス像です。野獣役はいかがでしょう?
これも難しい……照英さんですかねえ。
──なるほど、意外なお名前が……。
照英さんがソロで歌うところ観たいですよね。でも最後に王子の姿に戻ったらまた別の俳優になったり(笑)。
──(笑)。のんさんと照英さん、異色のカップルですね。照英さんは優しさがにじみ出ているところが野獣役に合っていそうです。
照英さん、泣きながら歌うんじゃないかなあ(笑)。
大人計画とディズニーの共通点とは
──ほかに「美女と野獣」で印象に残ったシーンはありましたか?
ガストンの歌唱シーンも最高です。「強いぞ、ガストン」を歌うシーンはDVDで何回も観たい。ディズニー作品って宴会の描き方がうまいんだよね。「塔の上のラプンツェル」で荒くれ者たちが「誰にでも夢はある」を歌う場面もそう。複雑な計算のもと演出されている。手間のかけ方が日本の物作りと全然違うから、観ていて悔しくなりますね。
──松尾さんはこれまで監督した映画の中で、ミュージカル作品ではなくても歌って踊るシーンを入れていましたよね。「恋の門」では忌野清志郎さんが歌い、「クワイエットルームにようこそ」でも内田有紀さん演じる主人公たちが踊っていました。映画におけるミュージカル的なシーンはどのような役割だと考えていますか?
僕は隙間恐怖症なところがあって。人に見せるものとして提示する場合、歌やダンスもパッケージとして入れたいという欲が昔からあるんです。自分は大して踊れないんですけど……。入れないとムズムズしちゃう。もちろん入れなかった作品もあることはあるんですけど、だいたい2時間の尺があったら、どこかに人が踊るなり歌うなりするシーンを入れたい気持ちになります。日本人だから踊るのもかぶくのも好きなんですよ。
──なるほど。
日本の本来の演劇って絶対踊りが入るじゃないですか。逆にストレートプレイは海外から入ってきたものだから、その影響下だけでやりたくはないというか……どこかで日本人としての気持ちがあるんです。でもミュージカル好きっていう外国人の心も持ち合わせているので、いつも闘っています。せめぎ合いがなく、ただ海外のミュージカルを日本に輸入するだけでは、面白くならないと思いますよ。やっぱり日本人がやる意味のあることをやらないといけないなと。……すごく意識高いことを言っています(笑)。
──(笑)。歌や踊りがあると言えど、大人計画とディズニーの世界観は真逆のように思えます。あえて共通点を挙げるとしたら?
ディズニーは夢の世界を見せてくれますが、大人計画もあまり素を見せずにやってきたと思っています。バラエティ番組も必要以上に出ないし。そういう意味で言うと、フィクションの世界を生きているという部分は共通しているんじゃないかなと思いますね。こっちはかなりブラックですけど(笑)。今ちょうど「業音」というひどい芝居を上演しているんです(笑)。人間の業が渦巻くような内容で。役の話ですけど、稽古で人を怒鳴ったり、嫌なことを言って追いつめたりするから、神経が高ぶっちゃって眠れないんですよ。だから最近は夜中にミュージカル映画をちょっと観て、心をファンタジーにしてから寝るっていう習慣になっています。
──心がリアルに寄りすぎてしまうんですね。
サントラを聴いたりもします。「強いぞ、ガストン」を一緒に歌ったりして、気持ちをフワフワさせてから寝る(笑)。
──一緒に歌うこともあるんですね! 逆にテンションが上がりすぎて眠れなくなるのでは?
そういうときは、もうちょっと柔らかい曲を。テーマ曲の「美女と野獣」あたりを選びます。
ミュージカル俳優を集めてカラオケ大会
──「美女と野獣」のMovieNEXには特典映像もたっぷり収録されるのですが、本編も通常の字幕版、吹替版以外にシングアロング版もありまして。歌のシーンになると、カラオケのように歌詞のテロップの色が変わっていくんです。
へー、いいですね! カラオケでも歌いますよ、「ひとりぼっちの晩餐会」とか。でも難しいんだよ。“ミュージカル会”っていう、ミュージカル俳優を集めてやる飲み会があるんですけど、そのメンバーでカラオケにも行ったりするんです。
──ぜいたくな集まりですね!
それこそ、「レミゼ(レ・ミゼラブル)」に出ていたやつとか、劇団四季の「美女と野獣」でベルを演じていた役者とか。そんな人たちと「朝の風景」を歌うとすごく盛り上がるんですよ! でも俺はそんなに歌えないから、「これはベーコン♪」とか言って、とりあえず合いの手を入れたり。でもそいつらを黙らせておいて、目一杯「強いぞ、ガストン」を歌うことも(笑)。そんな遊びをたまにしています。
──ミュージカル会は、いつもどなたが集合をかけるんですか?
特に誰がっていうことはないんだけど、共通のLINEグループがあって、「そろそろじゃない?」みたいな。そう言えば最近、ミュージカル会の中でおめでたいことがありました。ずっとアンサンブルをやっていた男の子が、劇団四季の「アラジン」でメインキャストの1人に選ばれたっていう話があって。今LINEグループは大騒ぎですよ! アラジンの友達役をやるらしくて。アニメーションだとアラジンの友達は猿なんだけど、ミュージカルではさすがに人間で(笑)。「アラジン」の楽曲もメンケンが手がけているからすごくいいですよね。「業音」では、みんなでアラジンの曲を歌ってから稽古に入ったりもしていました。嫌な気持ちになる芝居をする前に、一瞬でもファンタジックな気持ちになろうって無理やりやらせて(笑)。
──松尾さんにとって、ミュージカルは気持ちのバランスを取る役割もあるのでしょうか。
そうですね。チルアウト、チルアウト……みたいな。
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「強いぞ、ガストン」の撮影だけで4カ月……勝てるわけない!
- 「美女と野獣」(MovieNEX)
- 2017年10月4日(水)発売
ウォルト・ディズニー・ジャパン -
MovieNEX コレクション(期間限定)
[2Blu-ray Disc+2DVD]
8640円
- MovieNEXとは
- Blu-rayとDVD両方のディスクに加え、スマートフォンやパソコンで視聴でき、ディスクに収録されていないコンテンツも楽しめるデジタルコピーのサービスにも対応したパッケージ。
ある城に、若く美しく傲慢な王子が住んでいた。嵐の夜、寒さをしのぐため城へやって来た老婆を冷たくあしらった王子は、老婆に化けていた魔女の呪いで醜い野獣の姿に変えられてしまう。その呪いを解くには、魔法のバラの最後の花びらが落ちる前に王子が誰かを心から愛し、その誰かから愛されなくてはならなかった。長い年月が過ぎ、あるとき町娘のベルが城にたどり着く。村人から変わり者扱いされても自由にたくましく生きてきたベルと触れ合う中で、外見に縛られ心を閉ざしていた野獣は本来の自分を取り戻していく。しかしベルに恋する横暴な男ガストンが、彼女を自分のものにしようと悪巧みを考え……。
- スタッフ
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- 監督:ビル・コンドン
- 作曲:アラン・メンケン
- 作詞:ティム・ライス、ハワード・アシュマン
- キャスト ※()内は吹替版
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- ベル:エマ・ワトソン(昆夏美)
- 野獣:ダン・スティーヴンス(山崎育三郎)
- ポット夫人:エマ・トンプソン(岩崎宏美)
- モーリス:ケヴィン・クライン(村井國夫)
- ガストン:ルーク・エヴァンス(吉原光夫)
- ル・フウ:ジョシュ・ギャッド(藤井隆)
- ルミエール:ユアン・マクレガー(成河)
- コグスワース:イアン・マッケラン(小倉久寛)
- マダム・ド・ガルドローブ:オードラ・マクドナルド(濱田めぐみ)
- プリュメット:ググ・バサ=ロー(島田歌穂)
- チップ:ネイサン・マック(池田優斗)
- カデンツァ:スタンリー・トゥッチ(松澤重雄)
© 2017 Disney
- 特集「美女と野獣」を語る
- コミックナタリー 「いつかティファニーで朝食を」マキヒロチ
- 映画ナタリー 小野賢章
- ステージナタリー 藤田俊太郎
- 音楽ナタリー NONA REEVES 西寺郷太
- 作品解説・キャラクター紹介
- 松尾スズキ(マツオスズキ)
- 1962年12月15日生まれ。福岡県出身。1988年に大人計画を旗揚げし、1997年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞を受賞。2004年に「恋の門」で長編監督デビュー後、2008年には「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞し、2015年には「ジヌよさらば~かむろば村へ~」が公開された。小説「クワイエットルームにようこそ」「老人賭博」で芥川賞にノミネートされるなど作家としても活躍。木曜時代劇「ちかえもん」ほか俳優としての出演作も多く、公開中の「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」にも出演している。2007年に自身が演出したミュージカル「キャバレー」を、2017年に長澤まさみを主演に迎えて再演した。作・演出を手がけ、2002年に初演された舞台の再演「日本総合悲劇協会Vol.6『業音』」が各地で巡演中。10月にはフランス・パリでも上演される。
2017年10月26日更新