劇場未公開作品を日本で先行独占配信するAmazonビデオ ミニシアター。その第3弾作品となるコメディ「バンド・エイド」の配信が、本日11月29日に開始された。映画ナタリーでは、ロックバンド・Base Ball Bearのメンバーであり映画好きとしても知られる小出祐介にインタビューを実施。喧嘩の絶えない夫婦がバンドを組み、危機を乗り越えようとする本作について語ってもらった。また特集の後半では、Amazonビデオ ミニシアターを含む映像配信サービス・Amazonビデオの魅力をイラストで紹介。あわせてチェックしてみよう。
取材・文 / 平野彰 撮影 / 入江達也
ヘアメイク / 高城裕子
イラスト / 松崎りえこ
夫婦の会話だけで物語が成り立っている
──「バンド・エイド」、いかがだったでしょうか。
めっちゃ面白かったです。ミニマルな作りでいかにもインディペンデントっぽい映画ですけど、脚本がすごく緻密にできている。アナとベンという夫婦2人の会話だけで十分物語が成り立っているし、そこに監督の言いたいことが全部詰まっていますよね。
──会話劇としての魅力があると。
口は悪いですけどね(笑)。冒頭から「ファック・ユー」の応酬ですから。下ネタも盛りだくさんだし。日本語字幕だと柔らかいニュアンスになってるけど、実際に話していることはもうちょっとエグいんじゃないかな(笑)。
──ブラックなネタも多いです。
「私はホロコーストの家系だから」みたいなセリフが出てきますしね。すげえこと言ってるな、と。あの最初の言い合いのシーンを観たときは、こういう面白い感じのセリフ回しで見せていく映画なのかなと思ったんですよ。最近だと、「スウィート17モンスター」みたいな。あれを観たときも、悪口のバリエーションがすごいと感じた。
──英語は悪口のバリエーションが豊富ですよね。
「バンド・エイド」はそういう悪口のバリエーションの多い喧嘩を面白おかしく見せつつ、いがみ合っている夫婦だけど実は2人は深いところで通じ合っていて……みたいなお話なのかと思ったら、そうじゃない。むしろ、深いところですれ違っていて、それをお互い見ないように取り繕っている。中盤で、アナたちのバンドが人気を集め出した頃に流れる曲がありますよね。
──「Love is Lying」という曲ですね。
「愛情とは嘘をつくこと」って2人が歌うんですけど、このフレーズがアナとベンのここまでの関係を言い表しているようですよね。それまでの2人にとっての愛情というのは、お互いの見たくない部分とか見せたくない部分を取り繕うことだったんです。でも実際は、アナとベンの関係にはとっくにほころびが生じている。このすれ違いがなんで起きるのかというと、そもそも2人が男性と女性であるから、という。
──なるほど。
これも今年観た別の作品ですけど、浅野忠信さん主演の映画「幼な子われらに生まれ」も通じるところがあって。主人公はバツイチ同士の再婚をした男性で、妊娠した妻とその連れ子姉妹2人と暮らしてる。前妻との間にも娘がいて、その子ともときどき会ってる。毎日がんばって家族との時間を大事にして、良き夫と良き父をやっているつもりだったんだけど、仕事で出向を命じられ、長女は「本当のお父さんに会わせて」と自分を拒絶し始める。それで妻との関係もギクシャクしだして、ちょっとずつ追い詰められていく。実は前妻の新しい家庭にも問題が起きていて、その相談でひさしぶりに彼女と会うんですね。そこで、「あなたは昔から理由は聞くくせに、気持ちは聞かない」「『なんでああしたの?』とか『なんでこうしたの?』とか理由ばっかり聞いて、私がそのときどういう気持ちだったかは何も聞いてくれなかった」と言われるんですけど、それがめちゃくちゃ刺さったんですよ。男って本当にそうだよなぁ、と。その場を乗り越えようとはするけど、じっと女性に寄り添うことがなかなかできないんですよね。で、ベンはこの浅野さんが演じた主人公と同じタイプ。初めてのライブが台なしになってしまったとき、ベンはアナに「失敗から学んでいこう」「失敗してアーティストになれる」と言うけど、やはり根本的なほころびの解決には至っていないんですよね。
アーティストは自分の弱さを見つめ続けなければならない
──初ライブ失敗後のシーンではベンがうまくアナをなだめたなと思いましたが、問題が解決していたわけではなかったんですね。
バンドを組んで音楽をやることが、表面的な解決にはなっていたんですよ。この夫婦には創作コンプレックスというものがあるから、それをバンドで発散させることで、一時的にいい感じになれた。でも2人はアーティストになるということを根本的に勘違いしていたから、失敗してきたと思うんですよ。アーティストというのは、自分の弱さを見つめ続けなければならないと思うんです。コンプレックスや負い目に向き合い続けないといけない。だけど2人とも、それがずっとできていなかった。お互いへの怒りの解消方法としてバンドという方法を見つけたけど、いざ本当にアーティストになろうと思ったとき、やはり同じ壁にぶつかってしまう。
──同性としてベンを擁護したくなったりはしませんでしたか?
いえ、まったく。「馬鹿だなー」と思って観てました(笑)。この映画はフェミニズム的な角度が強いとは思うんですけど、ベンにしても、ドライバーのアルバイトをするアナが乗せる客の男たちにしても、あまりにも男性優位的ですよね。夫婦ものだから男女間の問題を扱ってはいるんだけど、女性はまずこういう生きものでこういう考え方をしているんだよということを世の男性たちに言ってやりたい、と監督は思っているのかもしれないですね。
根本的に男性と女性は違う生きもの
──脚本を手がけ監督を務め、アナを演じたゾーイ・リスター=ジョーンズの意向により、本作のスタッフはほぼ女性なんだそうです。
そうなんですね。自分がフェミニストだとは思わないけど、うちのバンドにも関根(史織)という女性がいるし、今サポートメンバーとして一緒にツアーを回ってるギタリストの弓木(英梨乃)さんも女性。うちのチーフマネージャーも女性。あと、アイドルネッサンスのプロデュースをやっていることもあるし、番組や連載も合わせたら、けっこう女性との仕事が多いんですよ。そこですごく実感するのは、話せば話すほど、こんなにも男性と女性は思考回路が違うし、物事を感受するアンテナの種類が違うんだなぁということ。そんな今日この頃だったこともあって、この映画はすごくためになりました。
──この映画から夫婦や男女のカップルが学べるものがあるとしたら、なんでしょう。
根本的に男性と女性は違う生きものだと認識することが、いかに難しいかということですかね。アナとベンの家でずっと水漏れが起きていますけど、これは、直しても直しても穴が開いてしまう男女の関係のよう。タイトルには、バンド活動で夫婦関係をエイド(補強)するという意味もかかってるんですけど、それは中盤までのテーマ。もう1つの意味は、ぜひ本編を最後まで観て感じてください。
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女性は共感、男性は勉強できる映画
- Amazonビデオ ミニシアター「バンド・エイド」
- 2017年11月29日(水)~12月26日(火)配信
- スタッフ
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監督・脚本・製作:ゾーイ・リスター=ジョーンズ
- キャスト
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アナ:ゾーイ・リスター=ジョーンズ
ベン:アダム・パリー
デイヴ:フレッド・アーミセン - あらすじ
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ドライバーのアルバイトで家計を支える妻アナと、グラフィックデザイナーではあるもののほとんど働きもしない夫ベン。日々いさかいの絶えない2人はひょんなことからベースとギターを手にし、たまったフラストレーションを曲にして吐き出すことにする。口喧嘩で相手への不満をぶつけ合うばかりだった夫婦の関係は徐々に好転。変わり者の隣人デイヴをドラマーとして迎え入れたアナとベンは、初めてのライブに挑戦することになるのだが……。
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- 小出祐介(コイデユウスケ)
- 1984年12月9日生まれ、東京都出身。2001年にロックバンド・Base Ball Bearを結成し、高校在学中から東京都内のライブハウスを中心に活動を始める。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たし、2010年1月には初の東京・日本武道館単独公演を成功に収めた。作詞・作曲家としても活動し、アイドルネッサンス、アップアップガールズ(仮)、東京女子流、チームしゃちほこ、南波志帆、山下智久、KinKi Kidsら多数のアーティストに楽曲を提供している。2017年4月には、Base Ball Bearとしてアルバム「光源」をリリース。12月30日には「rockin'on presents COUNTDOWN JAPAN 17/18」に出演する。映画好きとしても知られ、ミュージシャン仲間とともに映画を観るWeb連載も持つ。
2017年12月27日更新