ART-SCHOOLをホリエアツシ、小林祐介、川谷絵音が語る+著名人5名からの愛の言葉

今年結成25周年を迎えたART-SCHOOL初のトリビュートアルバム「Dreams Never End」がリリースされた。

アルバムにはAge Factory、ASIAN KUNG-FU GENERATION、cinema staff、DOPING PANDA、Helsinki Lambda Club、indigo la End、LOSTAGE、MO'SOME TONEBENDER、MONOEYES、PEDRO、People In The Box、syrup16g、The Novembers、ストレイテナー、リーガルリリーの全15組が参加。ともに同じ時代を過ごしてきた戦友やART-SCHOOLの音楽に影響を受けた世代のバンドが、自ら選曲したART-SCHOOLの楽曲を愛情と敬意を込めて再構築している。

音楽ナタリーではトリビュートアルバムに参加したストレイテナーのホリエアツシ(Vo, G, Key)、The Novembersの小林祐介(Vo, G)、indigo la Endの川谷絵音(Vo, G)の鼎談を実施。ART-SCHOOLとの出会いやそれぞれのカバーのポイントについて語り合ってもらった。

鼎談に参加した小林祐介のように、ART-SCHOOLには熱狂的なファンが各界に存在する。特集の後半には数多く存在するART-SCHOOLファンの中から、脚本家の生方美久、小説家の金原ひとみ、ART-SCHOOLから大きな影響を受けているkurayamisaka / せだいの清水正太郎、ART-SCHOOLと同じくGREAT HUNTINGの加茂啓太郎によって発掘された“直系の後輩”Base Ball Bearの小出祐介、長年ART-SCHOOLファンであることを公言している声優 / シンガーソングライターの斉藤壮馬からのコメントを掲載。5人による「ART-SCHOOL楽曲の中でもっとも好きな1曲」とその理由、そして結成25周年を迎えたART-SCHOOLへの愛にあふれるメッセージも「Dreams Never End」のお供として楽しんでほしい。

取材・文 / 中川麻梨花撮影 / 中野敬久

ある種の宗教に近い存在でした

──まずはそれぞれのART-SCHOOLとの出会いを教えてください。

ホリエアツシ(ストレイテナー) 2002年にストレイテナーとART-SCHOOLでスプリットツアーをやったんですけど、その1年ぐらい前から仲よくなって、「一緒に戦っていこう」というノリが生まれたような気がする。もともとART-SCHOOLの曲は好きだったけど、ライブを観るようになって、繊細なだけではなく骨太なロックっぽさを感じてすごくカッコいいなと思っていたんです。僕らも繊細な曲でアグレッシブなライブをやるということにこだわっていたから、そこにシンパシーを感じて。自分から「仲よくなりたい」と思った数少ないバンドですね。それで(木下)理樹に声をかけたら、好きなバンドと嫌いなバンドの話で意気投合して(笑)。

川谷絵音(indigo la End) あははは。

小林祐介(The Novembers) 一番盛り上がる話題ですね(笑)。

ホリエ そうそう(笑)。テナーがインディーズで腐りかけてた頃のことです。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやELLEGARDENと仲よくなる前の話ですね。

左から小林祐介(The Novembers)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、川谷絵音(indigo la End)。

左から小林祐介(The Novembers)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、川谷絵音(indigo la End)。

小林 僕がART-SCHOOLを聴き始めたのは高校生の頃でした。「LOVE/HATE」(2003年11月にリリースされたART-SCHOOLの2ndアルバム)をたまたまタワーレコードの試聴機で聴いたときに、それまで自分が聴いてきた日本のバンドとはちょっと違う感覚があったんです。もともと僕はL'Arc-en-CielやBLANKEY JET CITYのような華やかなロックスターに憧れていたんですけど、ART-SCHOOLの音楽は思春期真っ只中の自分にとって、すごく心地よかった。うれしいとか悲しいとかジャンル分けできない心のモヤモヤだったり、きれいなものに憧れても手が届かないもどかしさだったり、そういう感情にART-SCHOOLが触れてくれたような感覚があって……思わず試聴機の前で涙が流れてしまいました。そこに一緒にいてくれているような気がしたんです。そのときからART-SCHOOLは僕にとって、「みんなに勧めたいんだけど、勧めたくないバンド」という存在になって。「このバンドは俺のものだから!」みたいな。ある種の宗教に近い存在でした(笑)。当時インターネットをあんまり使ったことのないような学生でしたけど、すぐに「この人が木下理樹さんか」と調べて、理樹さんのブログ「狂人日記」も隅から隅まで読み尽くしましたね。

川谷 それで言ったら僕は小林さんのブログを全部読んでいましたよ(笑)。大学時代にThe Novembersの音楽に出会って、小林さんが理樹さんに抱いていたような感情を、僕は小林さんに抱いていたので。小林さんがART-SCHOOLが好きだという情報を知って、それでART-SCHOOLを聴き始めました。

小林 数珠つなぎみたいな感じだね(笑)。

理樹は音楽をやるためだけに生きてきたような人

川谷 僕はまだART-SCHOOLの皆さんにお会いしたことがなくて。トリビュートのラインナップの中で、indigo la Endだけ浮いてるんですよ。

ホリエ え、会ったことないの? マジで?

小林 意外だ……!

川谷 接点がなかったんですよね。トリビュートのお話が来たときも、参加していいものなのかどうか、めちゃくちゃ迷いました。僕らがインディーズで活動してた頃、理樹さんの主催イベント「KINOSHITA NIGHT」にはきのこ帝国とか、理樹さんに選ばれた若いバンドがたくさん出ていて。僕の中では「KINOSHITA NIGHT」に“出てる側”と“出てない側”があって、indigo la Endは出てない側だった。だから、当時理樹さんに対して「周りのバンドは選ばれてるのに……!」ってちょっとすねてたところもありました(笑)。今回トリビュートに参加するほかのバンドの並びを見て、「僕らがここに参加するのは浮くかな」とも思ったんですけど、ART-SCHOOLの曲は大好きで、うちのメンバーもみんな聴いてきたので、やりたい気持ちが勝って参加させてもらうことにしました。僕はART-SCHOOLもですけど、KAREN(女性シンガーのアチコをボーカリストに迎えて、ART-SCHOOLとdownyのメンバーで結成されたバンド。2008年から2010年まで活動していた)も大好きだったんですよ。大学時代の最後のほうに休日課長と一緒にKARENのコピーバンドもやってました。

ホリエ へえー!

川谷 理樹さんの独特なコーラスがアチコさんのボーカルとマッチしていて、めちゃくちゃいいなと思って。僕はコピーバンドで理樹さん役をやっていたから、当時は理樹さんのコーラスをずっと研究していました。

──小林さんが初めて理樹さんとしっかりお話ししたのは、2007年にKARENとイベントで競演したときだったんですよね?

小林 そうです。UNITであったUK.PROJECTの企画でKARENと一緒になって。「木下理樹だ……!」と思って見ていたら、「あのさ……」って話しかけられたんです。「なんだろう?」とドキドキしてたら、「ギターのストラップ貸して」って言われて(笑)。

ホリエ川谷 あははは。

小林 「もちろん貸します!」って(笑)。その前に「LOST IN THE AIR」(2006年にリリースされたART-SCHOOLのEP)がリリースされたタイミングで理樹さんが僕の地元の宇都宮に来たときに、ファンとして握手してもらったことはあったんですけど、「あのとき助けてもらった亀です」みたいなことをUNITでは伝えられなかったんですよね。のちに「祐介はART-SCHOOLのライブに来るほどファンだったのか……!」って知ってもらいました。

左からホリエアツシ(ストレイテナー)、川谷絵音(indigo la End)、小林祐介(The Novembers)。

左からホリエアツシ(ストレイテナー)、川谷絵音(indigo la End)、小林祐介(The Novembers)。

ホリエ 前に理樹の弾き語りを小林くんがサポートするという不思議なライブがあったよね。小林くんがいないと成立しないライブだった(笑)。

川谷 弾き語りなのに(笑)。

ホリエ 理樹は本当に面白い人。音楽が大好きでCDをめちゃくちゃ持ってると思うんですけど、ケースがないのか、DJをやるときはビニール袋に裸のCDをいっぱい詰め込んで持ってきたり(笑)。

小林川谷 あははは。

ホリエ がさつというレベルじゃない(笑)。でも、できないことが多いのが、あのアーティスト性につながるんだろうなと思う。理樹は本当に音楽をやるためだけに生きてきたような人ですね。

理樹さんみたいな歌はほかにない

──お三方から見て、ART-SCHOOLというバンドの魅力やすごさはどういったところにあると思いますか?

川谷 僕は理樹さんの歌だと思います。理樹さんみたいな歌はほかにない。絶妙な音程なんですよね。上がるところも下がるところも、ちょっと違う方向にいく。それが木下節なんだと思います。カバーしてみてわかったんですけど、あの歌い方は理樹さんにしかできない。

小林 今回indigo la Endがカバーしてる「スカーレット」は特にそうだよね。

川谷 普通に真似しようとすると、ただ音がズレてる人になるんですよ。理樹さんが歌うからカッコよくなる。ヘタウマとかそういうことじゃなくて、本当に理樹さんだけのものなんですよね。あの音程が胸にくるんですよ。

ホリエ ちょっと音が下がるよね。

川谷 そうそう。絶妙にフォールするんです。

ホリエ やっぱりカバーすると、最初は寄せようとしちゃうよね。ストレイテナーは何回も4人で繰り返し演奏してアレンジを作っていくんですけど、途中でOJ(大山純 / G)に「俺の歌い方、理樹に寄ってきてるよね?」って聞いたら、「うん」って言ってた(笑)。

川谷 (笑)。寄せようとすると、おかしくなっちゃうんですよね。

小林 いい意味でクセの塊ですから。

ホリエ でも、The Novembers初期の祐介の声はすごく似てるなと思ってた。

小林 今聴くと本当にその通りなんですけど、何がヤバいかって、当時まったく意識してなかったんです。ART-SCHOOLが原風景すぎて、理樹さんのような歌い方が染み付いちゃってることにも気付けてなかった。「ART-SCHOOLみたいになりたい」とはもちろん思ってたんですけど。

ART-SCHOOL

ART-SCHOOL

ホリエ メロディとかも、やっぱり影響を受けてた?

小林 もう絶対的に影響を受けていました。UK.PROJECTからCDを出す前に、ほかのレコードメーカーの関係者の人にも「ART-SCHOOLの影響を受けすぎてるから、そうじゃない曲も作ってみて」とか言われたんですけど、「この曲はそんなに影響は出してないけどな?」と思っていて。今聴くとまんまアートなんですけど、当時は気付けていなかったんですよね。

ホリエ でも、どこかのタイミングでそれを脱したというか、ART-SCHOOLっぽさを感じなくなったアルバムがあって、それがめっちゃカッコよかったよ。

小林 ありがとうございます。理樹さんは……syrup16gの五十嵐(隆)さんもそうなんですけど、本当に替えがきかない人たちで。あのパーソナリティ、人生観、死生観、哲学があって、自分の歌や言葉が自ずと出てくるんですよ。例えば「木下理樹っぽいことを書いてよ」と言われると、何も書けなくなる気がする。理樹さんや五十嵐さんみたいになろうとするミュージシャンは僕らの世代に多かったけど、二番煎じになっちゃってみんなダメだった。今振り返ると、僕らはそこから自然と脱することができてから、ようやく自分の音楽を始められた自負があります。ART-SCHOOLはこのシーンにおいてゴッドファーザー的な存在ですね。

川谷 真似しようと思ってもART-SCHOOLにはなれないですよ。ある意味、コピーしづらいんじゃないですかね。

ホリエ とはいえ、トリビュートアルバムを聴いたら全曲めちゃくちゃよかった。「ART-SCHOOLになれない」というと確かにそうなんだけど、それぞれのバンドの音の個性が出てる。すごいアルバムだと思いますよ。