第77回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した「The Seed of the Sacred Fig(英題)」が、ギャガ配給のもと2025年2月14日に公開されるとわかった。
本作は、一丁の銃をめぐって家族の知らない顔が炙り出されていくサスペンススリラー。国家公務に従事する一家の主・イマンは夢にまで見た予審判事に昇進するが、業務は反政府デモ逮捕者に不当な刑罰を課すための国家の下働きだった。報復の危険が付きまとうため、イマンには護身用の銃が支給されるが、ある日家庭内でその銃が消えてしまう。当初はイマンの不始末かと思われたが、疑いの目は妻のナジメ、姉のレズワン、妹のサナに向けられていく。第97回アカデミー賞国際長編映画賞のドイツ代表にも選出されており、キャストには
監督は「ぶれない男」「悪は存在せず」の
治安部隊との衝突の様子など、実際の映像も取り入れながら本作を作り上げたラスロフ。しかしカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出されると、イラン政府は彼に有罪判決を言い渡し、出国を禁止した。そして本作の上映見送りを求めて圧力をかけるも、ラスロフは数名のスタッフとともにイランを脱出し、28日間かけてカンヌへとたどり着いた。彼がその後に発表した声明文を以下に掲載している。
モハマド・ラスロフによる声明文(2024年5月12日)
長く込み入った旅路を経て、数日前にヨーロッパにたどり着きました。
1カ月ほど前、弁護士から控訴裁判所で禁錮8年の刑が確定し、すぐにも執行されるだろうと知らされました。新しい映画のことが知られれば、刑期がさらに長くなるのは間違いありません。考える時間はあまりありませんでした。収監されるか、イランを脱出するか選ばなくてはなりません。私は重い気持ちで国外脱出を選びました。私は2017年9月、イラン・イスラム共和国にパスポートを没収されています。ですから、秘密裡にイランを出なくてはなりませんでした。
もちろん、国を出ることを余儀なくされた、私に対する不当な判決には強く抗議します。しかしながら、イスラム共和国の司法制度はあまりにも過酷でおかしな判決を下すことが多いため、そこで刑期に不服を申し立てるのが得策だとは思えません。イスラム共和国は抗議者や公民権活動家の命を狙い、死刑を執行しています。信じ難いことですが、私がこれを書いている今も、若いラッパーのトゥーマジ・サレヒが死刑囚として収監されています。弾圧の範囲と激しさは残忍の域に達しており、非道な政府の犯罪が毎日報じられています。イスラム共和国の犯罪装置は、絶え間なく組織的に人権を踏みにじり続けているのです。
イスラム共和国の諜報機関が私の映画製作について情報を得る前に、なんとかイランを脱出することができた俳優も多数います。けれども、今もイランには俳優や映画のエージェントがたくさん残っていて、諜報機関から圧力がかかっています。長い取り調べを受けたり、家族が呼び出されて脅されたりした人もいます。この映画に出演したことで、彼らは起訴され、出国を禁じられました。カメラマンの事務所は強制捜査に遭い、機材はすべて押収されました。音響技師がカナダへ出国することも妨害されました。諜報機関は映画クルーの取り調べの際、私にカンヌ国際映画祭からの撤退を促すよう要求しました。クルーに対し、映画のストーリーを認識しないまま私に操られてプロジェクトに参加させられた、と丸め込もうとしていたのです。
製作中、私と仲間や友人らは大変な制約を受けました。それでもなお私は、イスラム共和国政府の検閲による介入を受けない、より現実に近いストーリーを目指しました。表現の自由の制限や抑圧は、たとえそれが創造性を刺激するものであったとしても正当化されるべきではありません。しかし道がなければ、作らなければなりません。
世界の映画コミュニティは、そのような映画の製作者への有効な支援を保証すべきです。言論の自由を守るため、はっきり大きな声を上げるべきです。検閲を支持するのではなく、臆さずに立ち向かう人々は、国際映画団体の支援によってその行動の重要性を再確認します。個人的な経験から言えば、そうした支援が彼らの極めて重要な仕事を続ける上で、貴重な助けとなるのです。
この映画は、多くの人の助けを借りて製作したものです。私の思いは、彼らとともにあります。彼らの安全、安寧が心配です。
映画ナタリー @eiga_natalie
一丁の銃をめぐり、家族の知らない顔が…カンヌで審査員特別賞を獲得したスリラー公開(監督の声明文あり)
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