レイトショー「幸福な装置 -田中晴菜監督特集上映-」より、
5月18日から東京の池袋シネマ・ロサにて1週間限定で行われる本特集は、国内外の映画祭で評価を受ける田中の作品を取り上げるもの。オスカー・ワイルドの短編小説「幸福な王子」から着想を得て制作された最新作「幸福な装置」が劇場初公開されるほか、「
2020年のコロナ禍で作り始めた「幸福な装置」について、田中は「役者さん同士の接触を極力減らして撮った映画であり、役柄も『小石』、『つばめ』、『棺桶』と人ではなく、時代設定は明確に指定していませんが、未来を描いています。そういった部分が過去作との一番の相違点ではありますが、第1作の『いきうつし』も当初朗読を想定して制作を開始した経緯もあり、彼ら無機物に心が宿るのかを問うている点においては共通点があると思います」と説明する。
映画のテーマをどのように見つけているかという質問には、「いわゆる書きたいもの、撮りたいもののストックは常にあって、調べ物が好きなので、もともと興味のあるものについてはすでに資料を集めていたりする分書きやすいということはあります。『いきうつし』の生人形については小学生の頃に知って、当時観に行けなかった熊本の展覧会の図録を古本屋で探し続けて20年越しに手に入れたり……何かに惹かれるとき、その背景が気になるので、そこから掘り下げて広がっていくことが多いです」と回答した。またキャスティングに関して「初めての出会いはオーディションだったり映画祭だったりするのですが、映画や舞台の出演作を観て、普段その俳優さんがやらない役や、この方にこんな役を私なら差し上げたいと思って当て書きをすることもあります。『甘露』についてはキャスティングありきの企画・脚本ですし、『ぬけがら』の田中一平さんや、『幸福な装置』の岡慶悟さんについても脚本執筆時点から想定して書いています」と述べる。
このたび、映画評論家で大阪アジアン映画祭のプログラミングディレクターである暉峻創三らのコメントも到着。暉峻は「舞台となっている空間に人をどう配置し、どう動かし、どう光を射しこませるか。そしてそこに、役者の声をどんな風に響かせていくのか。映画の基本中の基本と言えるこうした方面の設計に、田中晴菜は天性の素質を持っている」とつづった。そのほかコメント詳細は以下の通り。
「幸福な装置 -田中晴菜監督特集上映-」
2024年5月18日(土)~24日(金)東京都 池袋シネマ・ロサ
<上映作品>
「いきうつし」
「ぬけがら」
「Shall we love you?」
「甘露」
「幸福な装置」
暉峻創三(映画評論家 / 大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター)コメント
舞台となっている空間に人をどう配置し、どう動かし、どう光を射しこませるか。そしてそこに、役者の声をどんな風に響かせていくのか。映画の基本中の基本と言えるこうした方面の設計に、田中晴菜は天性の素質を持っている。
5作品どれを見ても、派手な動きはない。古典的なドラマ性に頼る度合いもますます薄まっているように見える。それでも一貫して緊張感を失わずに物語を語りきれるのが、田中流のマジックなのだ。
貝嶋たかし(比治山大学名誉教授 / 元日本ワイルド協会理事)コメント
「幸福の装置」を観て最初に幸福とは何かという問いが胸に突きつけられたような気がした。もし、幸福が快楽を意味するのなら、それは肉体と感情なしには存在しない。主人公のAIのわたしは感情を排して神の似姿として登場する。そこにつばめが通りかかり、心の輪郭が生じ始め、愛を知ることになる。この物語はオスカー・ワイルドの童話「幸福な王子」と深く関わっているように感じた。場所や時間、それから情景などは全く異なるものの、幸福とは何かという問題が共通して問われているのだ。
幸福とは一見自己完結的な感情と思われがちだが、実はそれだけではない。真の幸福とは他者との愛を介して初めて得られるものなのだ。つばめとのコミュニケーションを通じて知った他者への愛から得られる幸福こそ最も得難いわたしの幸福である。そんなメッセージを「幸福な王子」とのパラレルワールドである「幸福の装置」から受信した。
おおとも ひさし @tekuriha
映画監督・田中晴菜が新作「幸福な装置」語るインタビュー、過去作との共通点を説明 - https://t.co/rtghg3Di10