1994年にディズニー・アニメーションとして誕生した「ライオン・キング」の前日譚にあたる映画「ライオン・キング:ムファサ」が12月20日より全国で公開される。
本作は息子シンバを命懸けで守った父ムファサ王と、ムファサの命を奪ったスカーの若き日の温かく切ない“兄弟の絆”を描く「ライオン・キング」始まりの物語。ムファサを兄弟として家族に迎え入れ、のちにスカーと呼ばれるタカとの絆がつづられる。ムファサにアーロン・ピエール、タカにケルヴィン・ハリソン・Jr.が声を当て、“超実写プレミアム吹替版”には尾上右近、松田元太(Travis Japan)、渡辺謙らが参加した。
映画ナタリーでは、ディズニー・アニメーションを観て育ったという映画ライターのSYOにコラム執筆を依頼。鑑賞前に本作への期待をたっぷりとつづってもらった。さらに大のディズニー好きとして知られる風間俊介、大友花恋の鑑賞コメントも掲載する。
コラム / SYO
映画「ライオン・キング:ムファサ」超実写プレミアム吹替版本予告が公開中
「ライオン・キング」の歴史を変える、大いなる可能性
幼少期からディズニー・アニメーションで育った自分が「ライオン・キング」(1994)に初めて触れたのは、小学校低学年の頃だった。サバンナの大パノラマを初めて目にした際の感動、名曲「サークル・オブ・ライフ」に高鳴る鼓動、ラフィキがシンバに塗る果汁のとろりとした質感まで脳裏に焼き付いている。その中で最も強烈だったのは、ムファサの死とスカーの狂気だった。偉大で無敵に思えた父が、叔父の裏切りによって転落死する──あまりにも衝撃的な展開は子ども心を慄かせ、またムファサ同様に哀れな最期を迎えるスカーをどこか憎み切れない複雑な感情にもなった。いま思えば、勧善懲悪ではない現代のヴィラン像に初めて触れた機会だったかもしれない。
そこから時が経ち、超実写版「ライオン・キング」を経てエピソード・ゼロとなる「ライオン・キング:ムファサ」が制作されると聞いたときは驚いた。しかも、ムファサと後のスカーとなるタカは“義兄弟”で、孤児だったムファサを王子のタカが群れに引き入れたというではないか! 両者の辿る結末を知っているだけに「それは切なすぎるだろうよ……」とがぜん興味を持った。まだ本編を観ていないにもかかわらず、予告編の仲睦まじいムファサ×タカを観るだけでしんみりしてしまったし、タカが水場で溺れるムファサに手を差し伸べて救うシーンが、成長したのちに崖から突き落とすシーンの対極に感じられる“逆伏線”演出にもしびれてしまった。早くも「解釈一致!」と思えるほどの物語の“強み”──約30年前の当時感じたムファサとスカーの余白が、遂に回収されるのか!と心震えたのだ。
予告編や現時点の情報から察するに、本作のテーマは「兄弟の絆」だろう。運命に引き寄せられるように出会い、最初は友人として仲を深め、やがて“兄弟”として強く結ばれていく──。血の繋がりがないぶん、心で繋がっているムファサとタカの関係値が、両者のバックボーン、さらには成長と共に描かれていくわけだ。そこに幾多の冒険や、未だ謎に包まれている“敵”との対決も絡んでくることになるだろうから、相当エモーショナルな物語になるのは確定事項といっていい。兄弟の絆が固く強く、克明に描かれれば描かれるほど、その先に待ち受ける悲壮な結末に対する「なぜそうなってしまったのか」「あのときふたりは何を考えていたのか」という興味は増していくもの。「ライオン・キング:ムファサ」を経て全ての“答え”を知ったとき、「ライオン・キング」でスカーがムファサの手に爪を突き立てるあのショッキングなシーンに対する印象が反転するかもしれない。つまり、本作は「『ライオン・キング』の歴史を変える」大いなる可能性を秘めているのだ……。一刻も早く観たくてたまらない!
字幕版・プレミアム吹替版のどちらで観るか、嬉しい悩みを突き付けるキャストたち
そして忘れてはならないのは、本作がディズニー・ミュージカルであるということ。出演者には、演技力と歌唱力の両方が求められる。実写版「アラジン」「美女と野獣」そして前作「ライオン・キング」然り、歴代のボイスキャストはディズニー本社の厳しいオーディションを勝ち抜いた精鋭ぞろい。ハイレベルな激戦を突破し、このたびムファサ役に抜てきされたのは歌舞伎俳優・尾上右近、そしてタカ役にはTravis Japanの松田元太が選ばれた。さらに、あの名優・渡辺謙がムファサと因縁を持つ敵・キロスに扮する。右近と松田の“兄弟”が魅せる絆、そして歌唱面でのパフォーマンス、さらに渡辺との演技合戦は、大きな“聴きどころ”となることだろう。
また、本国(英語オリジナル版)のボイスキャストはNetflix「レベル・リッジ」が記憶に新しいアーロン・ピエール(ムファサ)、A24作品「WAVES ウェイブス」のケルヴィン・ハリソン・Jr.(タカ)の注目株に加え、日本でも抜群の人気を誇る北欧の至宝、マッツ・ミケルセン(キロス)が降臨。どちらのバージョンで楽しむか、或いは両方を聞き比べするかなど、嬉しい悩みを突き付けてくる。
監督と作曲家の“絆”が生きている
1994年のアニメーション版「ライオン・キング」は、第67回アカデミー賞でハンス・ジマーとエルトン・ジョンが共に作曲賞・歌曲賞を受賞しており、「ライオン・キング:ムファサ」の音楽面も期待したいところ。今回はなんと、いま乗りに乗っている天才作曲家リン=マニュエル・ミランダが参加! ブロードウェイミュージカル「イン・ザ・ハイツ」「ハミルトン」や映画「モアナと伝説の海」で知られる彼は、トニー賞やグラミー賞などを多数受賞している。
「初めて脚本を読んだとき、とても興奮しました。なぜなら、ムファサのことなら何でも知っていると思っていましたから。(でも)何も知らなかったんです」と驚きを語るミランダ。「サークル・オブ・ライフ」「ハクナ・マタタ」といった名曲群で知られる「ライオン・キング」の世界に足を踏み入れるプレッシャーを感じながらも、劇中のセリフから着想を得た新曲「ブラザー/君みたいな兄弟」「聞かせて」ほかを書き下ろした。前者はムファサとタカの絆を象徴するナンバーになっており、予告編でその断片を聴くだけでも語り継がれる名曲になることは疑いようがない。
ミランダが創り上げた楽曲のエモーションを最大限に引き上げるのは、第89回アカデミー賞で作品賞など3冠を達成した「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督。「ムーンライト」「ビール・ストリートの恋人たち」をご覧になった方には自明かと思うが、彼は映像×音楽を融合させた感情演出が抜群だ。とはいえ意外なオファーに「何かの間違いかと思った(笑)」と振り返るジェンキンスは脚本を読むまでは辞退するつもりだったというが、力強く奥深いストーリーとテーマ性に魅了され、参加を決意。共に脚本に魅了されたミランダとジェンキンスは何度も対話を重ね、二人三脚で各シーンを構築したそう。ここにも、ふたりの“絆”が生きているのだ。
タカはなぜヴィランになったのか、その真実を確かめたい
冒頭にちらりと述べたが、物語面においてはやはりタカ(のちのスカー)の幼少期や青年期、彼のパーソナリティ含めた掘り下げが行われるのがうれしいところ。予告編だと純真無垢で勇敢、仲間想いな性格に映る一方、「やがて群れを率いる立場としての振る舞い」を義務付けられているように見えるシーンも収められており、ムファサに“王の資質”が芽生えていくなかで兄弟としての絆と愛、嫉妬のはざまで苦しんでいくのだろうか……と想像が膨らむ。その先には「なぜヴィランになったのか」の決定的な動機/原因/理由が描かれているかもしれず、真実をぜひとも劇場で確かめたいところだ。
本作を「観たい!」と思える理由の一つには、ディズニー実写映画の「ヴィランとして浸透していたが、意外な過去や人間味が明かされることで深みが出た」成功例の数々をいち観客として身をもって体感してきたことも挙げられる。例えば、「眠れる森の美女」の悪役だったマレフィセントは運命に翻弄された悲劇的な人物としての側面にスポットが当たり(「マレフィセント」シリーズ)、「101匹わんちゃん」では冷酷な人物だったクルエラは被害者としての壮絶な幼少期にフォーカスされ、「アラジン」の敵役だったジャファーは貧しい生まれに苦しみ、逆境に抗うために知恵を働かせる人物として主人公アラジンとの鏡構造になっていた。
表面的なヴィランとしての扱いに終始せず、「なぜそこに至ったのか」という“その奥に在るもの”=真実を照らすことで各キャラクターの新たな魅力を開拓してきた輝かしい歴史に遂に加わるのが、タカ/スカーなのだ。なお、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」や「ターミナル」で知られ、「ライオン・キング:ムファサ」の脚本を手掛けたジェフ・ナサンソンは「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」で宿敵バルボッサの温かな人間味を提示し、観客を涙に包んだ人物。そういった布石から見ても、タカ/スカーそしてムファサの“過去編”には期待しかない!
風間俊介
「ライオン・キング」はタイトルの通り、ライオンでプライドランドの王であるムファサの息子シンバが、困難や自分が何者であるかの葛藤を乗り越え、命の尊さ、調和を重んじる王になっていく物語でした。シンバの父ムファサがどのように王に、ライオンキングになったかを描く今作「ライオン・キング:ムファサ」。観る前は、「過去」がテーマの作品と信じて疑わなかったのですが、そこには「未来」が描かれていました。いや、正確には「過去」が今に繋がっている事を知り、「今」が未来を創っていく事が描かれていた。そして、それもまた「サークル・オブ・ライフ」なのだと。「ライオン・キング」において大切な精神「サークル・オブ・ライフ」は、食物連鎖など生き物が生きる上で、命を分けて貰い、それを繋げていく事を意味すると思いますが、それに加え、自分の親や祖先が繋いでくれた命の輪の中にいる事を今作を観終わった後に感じました。
プロフィール
風間俊介(カザマシュンスケ)
1983年6月17日生まれ、東京都出身。ドラマ「それでも、生きてゆく」「純と愛」「西郷どん」「麒麟がくる」「カムカムエヴリバディ」「silent」「初恋、ざらり」、映画「コクリコ坂から」「映画 鈴木先生」「猫なんかよんでもこない。」「鳩の撃退法」「先生の白い嘘」など多数の作品に出演している。舞台にも数多く参加しており、主演する「こまつ座 第153回公演『フロイス -その死、書き残さず-』」が2025年3月より上演される。また2025年1月5日スタートの大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」には江戸の地本問屋のリーダー的存在・鶴屋喜右衛門役、1月放送予定のABEMAオリジナルドラマ「警視庁麻薬取締課 MOGURA」には警察署の管轄エリアの市長・安堂誠役で出演。さらにMEGUMIとダブル主演を務めるドラマ「それでも俺は、妻としたい」が、テレビ大阪・BSテレ東で1月11日にスタートする。
大友花恋
「ライオン・キング」は、幼い頃からアニメーションも実写映画も繰り返し視聴してきた大好きな作品です。
圧倒的な存在感と威厳を持ったムファサに対して、私自身も「これが真の王の姿なのだ」と尊敬してきました。
今回は、そんなムファサのこれまでのお話。期待は、象の耳くらい大きく膨らんでいました。
映画が始まってものの数秒。まず、美しい自然と豊かな躍動感を持った動物たちの姿に圧倒されます。ようやく目が感動に追いつく頃には、映像や音楽、ストーリーに引き込まれ、あっという間に作品を見終えていました。
ムファサやタカたちの、これまでの歴史をリアルで美しい映像で知ることができて、鳥肌。
シンバやナラ、ラフィキ、ティモン、プンバァ、キアラなど、お馴染みの仲間たちの現在の様子が毛並み一本一本で表現された豊かな表情で伝わってきて、鳥肌。
さらに、アニメなどで描かれてきた「ライオン・キング」に繋がるシーンやアイテム、言葉たちが、随所にちりばめられており、鳥肌。
「ライオン・キング」の世界に没入し、途中から私もほとんど鳥になったようでした。
映像、ストーリー、カメラワーク、音楽…語り尽くせないほどの魅力が詰まったこの作品を見て、「ライオン・キング」がより一層深まり、好きになりました。
スクリーンいっぱいに広がる動物たちの王国で巻き起こる感動を、ぜひ皆さんにも味わってほしいです!
プロフィール
大友花恋(オオトモカレン)
1999年10月9日生まれ、群馬県出身。
雑誌「MORE」専属モデル。
ABEMA「今日、好きになりました。」レギュラー見届け人。
他にも映画やドラマ、バラエティなど、活躍は多岐にわたる。