アジアのコンテンツビジネスの祭典「2024 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」が11月5日から8日にかけて台湾・台北にある南港展覧館で開催された。このイベントは、台湾・文化部(※日本の文科省に類似)によって創設された台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)が主催したもの。TAICCAは台湾文化コンテンツの産業化・国際化を進めており、台湾作品やクリエイターを積極的に支援している。TCCFは世界のコンテンツ産業のための展覧会と見本市として、今回5年目を迎えた。
映画ナタリーは、台湾現地にてTCCFを3年連続で取材。進化し続けるTCCFの模様をレポートするとともに、映画「僕と幽霊が家族になった件」のプロデューサーであるジン・パイルン(金百倫)、ドラマ「SHOGUN 将軍」のプロデューサーであり、TCCFに企画プレゼンの指導役として参加した宮川絵里子へのインタビューも掲載する。
取材・文 / 田尻和花
歴代最多・最高を更新したTCCFレポート
「PITCHING」応募数最多、賞金は最高額
台湾は国際的な市場を強く意識し、台湾作品やクリエイターを後押ししている。日本の文科省に類似する文化部によって創設された台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)は、台湾のIP(知的財産)を世界に発信する「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」を2020年から実施。台湾だけでなく多種多様な国からプロジェクトが集まっており、イベントはにぎわう。
TAICCAの会長であるツァイ・ジャジュン(蔡嘉駿)は開幕式で「台湾政府は、今までにないほど積極的にコンテンツ産業の発展に力を入れている」と、各国からの参加者に語りかけた。それを裏付けるように、今回のTCCFでは歴代最高となる総額795万台湾ドルの賞金(日本円でおよそ3740万円)と36の賞を用意。長編映画・ドラマ・アニメなどの企画をプレゼンして国内外の出資者から支援を募ることができる「PITCHING」セクションには、過去最多となる世界50の国と地域から600の企画応募があった。国際共同企画も含めた62作品がプレゼンの場に登場し、思い思いのアピールを繰り広げた。
TAICCAは2023年にCNC(フランス国立映画映像センター)とパートナーシップを締結。ヨーロッパで台湾のオーディオビジュアルおよびアニメーションコンテンツを促進することを目指してきた。TAICCAはテレビシリーズに特化した国際フェス「Séries Mania」の公式パートナーでもあることから、今年のTCCFでは関連講演やワークショップに加え、カンヌ国際映画祭で行われているIP紹介イベント「Shoot the Book!」とのコラボピッチングを初開催。フランスをはじめとするヨーロッパとのつながりは一層深まったようだ。
国際色豊かな「MARKET」&初コラボも実施した「PITCHING」に注目
コンテンツの展示会「MARKET」には、世界各国から参加した101のブースが軒を連ねた。日本からはフジテレビ、テレビ東京、楽天グループなどが参加し、韓国のKOCCA(韓国コンテンツ振興院)は初の出展。世界30の国と地域から300人以上の国際的な専門家、メディア、バイヤーが集まっており、国際的な商談機会はそこかしこに。日本に数多くの台湾BLを届けているテレビ局・三立電視の担当者は、シンガポールやマレーシアなどの東南アジア諸国、アメリカの参加者と交流したそうで、未来に向けてどんなドラマが求められているかを探る絶好の機会になったと話した。
「PITCHING」は、映像化に期待のかかる映画やドラマの企画を紹介する「Project to Screen」と、台湾の小説・マンガなどの映像化を目指す「Story to Screen」の2部門で進行。インターネット上でよく知られるショートアニメ「小雞汁」、人気マンガ家・謝東霖の「殺手的戀愛相談」、2020年に臺灣文學金典獎で受賞を果たした小説「滌這個不正常的人」などもラインナップに入っており、魅力的な台湾IPを見つけたいバイヤーにとってTCCFはまたとない“出会いの場”となる。また国際的な共同製作の機会を探している制作会社にとっても「PITCHING」は宝箱のような存在となるはずだ。
先述の通り、「PITCHING」では優秀なIPを紹介し、映像化の可能性を広げるプログラム「Shoot the Book!」とのコラボプレゼンがこのたび初めて行われた。今回はフランス発の書籍5冊と台湾発の3冊をピックアップ。経験豊かなパートナーとの連携により、ミステリー、スリラー、コメディ、家族ドラマなど多様なジャンルの良質な企画が続々と提案されていった。また「SHOGUN 将軍」のプロデューサー・宮川絵里子が「PITCHING」のメンターとして参加者たちを指導。手厚いバックアップで、クリエイターたちにとって大きな学びの場が提供された。
台湾×日本の協力体制に今後も期待
これまでも台湾と日本はさまざまな作品で協力してきたが、2024年公開作でもその姿勢は変わらない。ホウ・シャオシェン(侯孝賢)がプロデュースを手がけた台湾・日本合作映画「オールド・フォックス 11歳の選択」には門脇麦が出演し、つげ義春のマンガをもとにした映画「雨の中の慾情」では劇中のほとんどのシーンを台湾で撮影するなど、今後も協力体制は広がり続けるだろう。
今回日本が製作に名を連ねた「PITCHING」企画は、台湾との合作も含めて7つ。うち3企画が受賞に至る好成績を残している。今年の企画募集は6月上旬にスタートした。2025年については、TAICCAよりアナウンスされる予定だ。我こそはというクリエイターはぜひ応募を。世界への扉を開くチャンスがすぐそこにあるかもしれない。TCCFは日本のクリエイターが海外の投資者を募るチャンス、また資金提供をしたくなるような作品を見つける機会に満ちている。
気になる「PITCHING」作品3本をピックアップ!
「吸血鬼安啦」
「PITCHING」には台湾ならではの風景を盛り込んだ作品も登場。夜市×ヴァンパイアという要素を掛け合わせたオリジナル企画「吸血鬼安啦」は観客の反応がよかった1本だ。人間とヴァンパイアが平和条約を結んだ世界で、次第にヴァンパイアに夢中になる人間たちと、そんな人々の異変に気付き始める男の姿がコミカルに描かれる。
製作陣は「地元とグローバル文化、現実とファンタジーを融合させました。クラシックなヴァンパイア作品へのオマージュも込めています」とポイントを説明。プレゼンでは、夜の台湾にヴァンパイアが溶け込んでいるようなイメージビジュアルを見せて、観客たちを引き付ける。また“共演者”として豚の血ケーキ、牡蠣オムレツ、タピオカミルクティーといった屋台グルメを紹介するなど、ユニークなアイデアで会場に笑いを起こした。
「臺灣神鬼傳奇:太子與鐵道上的男孩」
有名作家のIP企画も「PITCHING」に参加した。推理小説、歴史小説などで知られる大ベテラン張國立による「臺灣神鬼傳奇:太子與鐵道上的男孩」は、神隠しにあった少年たちが数日後に鉄道の線路上に現れ、「大地震が起こると予言された」と話すことから展開する物語。探偵・児童心理学者・僧侶が手を組み、事件の鍵を握る400年前の出来事に迫っていく。
「サスペンスと超自然的要素を豊富に盛り込み、台湾の地域文化と歴史を合わせた」作品だと説明する企画者たち。すでにラジオドラマ化の権利は売れており、イメージする映画には山崎貴が監督した「DESTINY 鎌倉ものがたり」、台湾ホラー「紅い服の少女」を挙げている。授賞式では3つの賞に輝くなど、期待度は高い。
「Something Great」
高いSDGs達成率を誇る台湾。台湾と日本が共同製作するアニメーション「Something Great」は環境保護の重要性を伝える作品だ。飼い主に捨てられた犬のもとに不思議な老狼が現れ、犬が狼の群れとともに巡礼の旅をする姿が描かれる。
同企画では、実際の木彫りの犬を撮影し、モーションキャプチャでアニメーションを制作。ティザー映像では犬と狼たちが山の中を駆けるさまが映し出され、会場には大きな拍手が起こった。同企画のプロデュース・脚本・監督を担う清水ハン栄治は「実物の人形を使うとやはり魂が入ります。心に引っかかるユニークなルックにしたかったんです」と説明し、「あと2、3年のうちにリリースしたい」と展望を語ってくれた。
大賞にあたる「TAICCA X CNC AWARD」に輝いたのはアニメーション企画「雲影傳説」
本作の舞台は、空から降り注ぐ黒い粒子に人々が悩まされる世界。劇中では、ある兄妹が偶然、粒子を浄化する能力を持つ小さな生き物に出会いスリリングな冒険を繰り広げる。本作は未来に立ち向かう勇気を次世代に与えるため企画されたもので、脚本家で監督のチ・ポーチョウ(紀柏舟)は「創作は自分自身のエベレストを登るようなもの。後悔のないよう、全力で追い求めていきます」と述べた。
映画「僕と幽霊が家族になった件」など話題作を生み出し続ける台湾人プロデューサーのジン・パイルン(金百倫)と、「PITCHING」参加者にプレゼン指導を行った「SHOGUN 将軍」のプロデューサー・宮川絵里子にインタビューを実施。ジン・パイルンが企画で一番大切にしていること、そして宮川が見た「PITCHING」メンバーの姿勢とは。
台湾エンタメの“大胆で挑戦的”な現況
どのジャンルだとしても必ず観客が共感できる物語を
──ジン・パイルンさんは「僕と幽霊が家族になった件」をはじめ人気作をプロデュースしてきました。今回も「PITCHING」作品3本に携わっていますが、そもそもどんな経緯で業界に入ったのでしょうか。特に好きな映像のジャンルはありますか?
10年くらい前にキャリアのうえで大きな転機がありました。当時、私はすでにエンタテインメント関連の仕事をしていましたが、アジア各地域の映画産業がほかのエンタメ産業と比較して顕著な成長を遂げていることに気付きました。ハードウェア技術、ストーリーの題材、興行収入の面においても発展が進んでおり、この分野は非常に魅力的で、無限の可能性を秘めたポテンシャルのある領域だと感じました。そしてこの映画業界に飛び込む決断をしました。
業界に入る前は、純粋に観客として映画を楽しんでいました。好んで観ていた映画のジャンルは、多くの観客の嗜好と似ていて、アクション映画や犯罪映画、ミステリー、そしてコメディなどが主でした。これまで関わってきたプロジェクトの多くも、自分の好みにもとづいて開発されたものです。
──「僕と幽霊が家族になった件」で組んだチェン・ウェイハオ(程偉豪)監督とは、たびたび一緒に作品を作ってきましたね。今回も「PITCHING」のドラマ部門に出した企画「詐欺者(原題)」でタッグを組んでいます。
最初に彼と組んだのは(2021年製作の)「The Soul:繋がれる魂」で、そのときは共同で脚本を書きました。サスペンスや犯罪ものが好きな私にとって、この原作はピッタリのジャンルでした。彼と数多くのディスカッションをする中で、私たち2人は好みがよく似ており、台湾の観客の好みとも近いことに気付いたんです。「The Soul:繋がれる魂」の開発には2、3年掛かりましたがその間もずっと、次は何をやろうか?と話していました。「詐欺者」のコンセプトはその頃にはすでに出ていて、どのようにしたらさらに観客の共感を呼ぶような視点を見つけられるのかを考えていましたね。
「詐欺者」
製作地:台湾
エピソード:各話45分、全10話
ジャンル:人間ドラマ / クライム / 強盗 / 復讐
家族が詐欺被害に遭った落ちこぼれたちが、学校時代の仲間であるHsiao-jiangの指導を受けて詐欺グループに立ち向かう物語。その裏で繰り広げられるHsiao-jiangのひそかな復讐計画も描かれる。製作ステートメントには、監督のチェン・ウェイハオが詐欺グループについての解説記事を読み、また認知症を患った高齢者が詐欺に遭った事件を知ったことが企画開発のきっかけになったと記されている。
──「The Soul:繋がれる魂」はサスペンス、「僕と幽霊が家族になった件」は議題となるようなさまざまなテーマを含んだコメディです。多様なジャンルの作品を作ってきましたが、通底するものはあるのでしょうか?
私たちは、どのジャンルで物語を作るにしても必ず観客が共感できる内容であるべきだと思っています。観客が「自分や家族、友人に起きたことのように感じる」と思えることが非常に重要なんです。これが、私たちが物語を選ぶときにもっとも大切にしている条件です。どんなプロジェクトに取り組む場合でも、私たちのチームは物語の創作を最初から自分たちで行うことにこだわります。つまり、最初にジャンルを決めることはありません。物語の内容を詰めていくと、アクション、コメディ、ヒューマンドラマなど、どのジャンルが最適かが見えてくるんです。
──なるほど。「僕と幽霊が家族になった件」では冥婚や同性婚など、台湾に関係が深いトピックを取り上げています。台湾以外に日本、イタリアなどでも上映されていましたが、観客からどんな反応がありましたか?
この作品には同性婚以外にも、環境問題、家族との関係、職場での性差別などさまざまな要素が含まれています。面白かったのは、上映される場所によって観客が関心を持つポイントや、問題への感度が異なったことですね。性別に関して進歩的な意識を持つ国々では、アジアの映画がこうした問題に触れていることに特別感動したようです。また、ほかの国では同性婚のテーマはあまり関心を持たれず、家族間の絆や主人公たちの感情のやり取りに共感が集まりました。この作品はいろんな側面から評価されましたが、さまざまな国や文化の中で、映画で伝えたかったメッセージが受け入れられたことを誇りに思っています。
台湾・文化部やTAICCAの支援+魅力的な俳優で作品作りも大胆に
──クリエイターとして台湾エンタテインメントの現状、強みをどう捉えていますか?
台湾・文化部の支援がここ数年で増え、エンタテインメント業界はより競争力を持った多様なコンテンツを生み出そうとしています。5、6年前はTCCFのような場はなかったので、どんなに準備が整った素晴らしいストーリーがあったとしても、海外のクリエイター、メディア、プラットフォームと交流する機会は持てませんでした。文化部やTAICCAの支援によって私たちクリエイターはもっと大胆に挑戦できるようになりましたし、グローバル市場を見据えたコンテンツ製作に取り組むようになっています。
さらに台湾の俳優たちは非常に素晴らしい演技で、国際的にも高く評価されています。シュー・グァンハン(許光漢)さんの演技はよく話題になりますが、彼だけでなくたくさんの俳優が海外作品に出演し、さらに広い市場で認められるようになっています。文化部やTAICCAの支援があり、魅力的で質の高い俳優たちがそろい、クリエイターたちがより大胆に作品作りを進められているという状況ですね。
──シュー・グァンハンさんは「僕と幽霊が家族になった件」にも出演されていましたね。彼の魅力をもう少し聞かせてください。
皆さんが彼を見たときにまず感じることは、「とてもイケメンだ」ということだと思います。これは否定できません(笑)。多くの人が彼の外見に引き付けられると思いますが、彼の真の魅力は演技にあります。役柄に対する入り込み方が非常に深く、説得力があるんです。だから観客は物語に没頭することができる。少年っぽく熱血な人物、ロマンティックなキャラクター、非常に冷徹な役など、どんな役も完璧にこなせる点が彼の大きな魅力だと思います。
──ちなみに日本の監督で気になっている方はいますか?
「カメラを止めるな!」の上田慎一郎さんがすごく好きです。SNSもフォローしていて、新作「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」が公開されることを知りました。これも「詐欺者」と同じく詐欺の物語ですよね。彼の作品は共感ができますし、まるですでに彼と知り合っているような感覚を抱いています。「カメラを止めるな!」はチェン・ウェイハオ監督と一緒に映画館で観たんですが、物語の語り口が斬新かつクリエイティブで響きました。
──最後に、今後TCCFに参加しようと思っているクリエイターに向けてメッセージをいただけますか?
固定観念にとらわれず、物語を持ってきてください。台湾のコンテンツは多様で大胆になりました。ジャンルを問わず、限界を破ってみてください。
プロフィール
ジン・バイルン(金百倫)
映像プロデューサー。2020年にマリーゴールド・ピクチャーズを設立し、2021年に初めて映画「The Soul:繋がれる魂」で脚本を執筆した。プロデュース作には映画「君が最後の初恋」「僕と幽霊が家族になった件」、ドラマ「池塘怪談(原題)」「正港署」がある。「僕と幽霊が家族になった件」は第96回アカデミー賞国際長編映画賞部門の台湾代表に選ばれた。
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宮川絵里子が感じた「PITCHING」参加者たちの前向きな雰囲気