1937年に公開された「人情紙風船」は、江戸時代の貧乏長屋に暮らす庶民たちの姿を描いた時代劇。 同じ長屋に住む髪結と浪人という2人の男を軸に、軽妙な喜劇とほの暗い悲劇がからみ合う1作だ。わずか28歳で戦病死し、夭折の天才と語り継がれる山中の遺作として知られている。
「日曜邦画劇場」の20周年、1000回記念として放送される本作。山下いわく映画番組に出演するのは今回が初めて。番組には収録の模様を収めた静止画と声で登場し、劇場支配人を務めるアナウンサーの
山下と「人情紙風船」の出会いは、1980年代までさかのぼる。きっかけは、雑誌に連載されていた映画評論家・蓮實重彦によるエッセイだったそう。「日本映画は好きだったんですが、戦前のものを観る機会はほとんどなかった。たまたまレンタルビデオ屋に行ったら置いてあったんです。何気なしに借りて観ました」と振り返り、そのときの印象を「30代で観た映画で最高のインパクト。カルチャーショックだった」と語る。それまで観てきた戦後日本映画の「どこか教訓めいた終わり」に引っかかりを感じていたという山下は「『人情紙風船』にはそういうものが一切ない。『これこそが僕が観たかった映画だ』と。それから数年間、戦前の日本映画に没入していきました。毎晩観てましたね」と回想。その後「人情紙風船」に関しては、自宅での鑑賞はもちろん、名画座などで上映されるたびに足を運んでいるという。
「人情紙風船」の物語は、長屋での首吊り自殺から始まり、浪人と妻の心中で終わる。陰惨な始まりと終わりだが、鑑賞後に残るのは悲劇的な印象だけではない。山下は「人間の肯定とペシミズムのバランスがうまい。善悪や喜怒哀楽だけではない人間の複雑さ。それらの間のニュアンスを見る目が、非常に的確かつ明確だと思います」と語る。また「泣く映画ではないです。もっと深いところで人が生きること死ぬこと、明るさや暗さ、優しさや厳しさ、そういうことを問いかけてくる。自分自身が見つめられる映画」と続けた。
山中の現存する監督作は「人情紙風船」のほか「丹下左膳餘話 百萬両の壷」「河内山宗俊」のみ。戦前の日本映画は現存しているものが少なく、仮に鑑賞できたとしてもフィルムが劣化しているケースが多いのが現状だ。そんな中で山中の3本は、2020年に4Kデジタル修復が行われ、美しい映像としてよみがえった。山下は「本当に素晴らしいです。ほとんどニュープリントに近い状態。(画面の)遠くのものも鮮明に見える。公開当時にご覧になった方々はこんな感じで観ていたのかと。封切り当時の世界が体験できるのはすごい」と話す。また「1人でも多くの方にご覧になっていただいて、戦前の日本の映画文化、発展途上における映画文化がいかに情熱的だったかが伝われば」と推薦した。
そのほか収録では本編と脚本のストーリーの相違点や、山下が端役まで出演者の顔と名前を一致させようとした苦労話、親戚が目撃したという「人情紙風船」封切り時の映画館、映画鑑賞による音楽へのインスピレーションなどに関する話題も。トークの全容はオンエアで確認してほしい。
「人情紙風船(4Kデジタル修復版)」は2Kダウンコンバートにて放送。
人情紙風船(4Kデジタル修復版)
日本映画専門チャンネル 2021年7月4日(日)21:00~
<本編終了後の解説>
山下達郎 / 軽部真一(劇場支配人)
シネ・ヌーヴォ @_cinenouveau_
山下達郎さんの人生の1本(!)『人情紙風船』は
9/17(土)〜23(金)連日10:00からの上映です! https://t.co/1cTHKjodD5