LaLa45周年特集 第9回「君は春に目を醒ます」縞あさと|年の差恋愛×人工冬眠、転校生×魔女…現代ものに“少し不思議”を加えるストーリーテリング

LaLa(白泉社)創刊45周年を記念し、コミックナタリーでは5月から45年の振り返り企画、作家インタビュー、全連載作レビュー、識者による座談会とさまざまな特集を展開してきた。最終回となる今回は、「君は春に目を醒ます」の縞あさとが登場。2017年から連載されスマッシュヒットを飛ばす同作、そして初連載作「魔女くんと私」で、現代の日常ものに“少し不思議”な要素を入れて物語を作り上げている縞に、創作の秘訣を聞いた。

取材・文 / 小田真琴

Introduction「君は春に目を醒ます」

7歳年上の“憧れのお兄ちゃん”が治療で人工冬眠することに

高校2年生の千遥は、小学4年生の絃にとって憧れのお兄ちゃん。絃をいじめてくる同い年の弥太郎とは違い、優しくて大人な千遥を絃はとても慕っていた。

「君は春に目を醒ます」第1話より。

ある日、千遥が恋人とキスをしているのを見てしまい、激しく動揺する絃。「その子とは一昨日別れた」「別に好きだったわけじゃない」と微笑み、恋人との別れになんらダメージを受けてなさそうな千遥のことを絃は理解できない。しかし、千遥のキスシーンを見たことによって「私が大きくなったら 私のこと 好きになってくれないかなあ…」とただの憧れとは異なる感情が芽生え、「早く追いつきたい」と願う。

そして、千遥の病気が発覚。現状では治せない珍しい病で、このままでは1年持たないという。2~3年後にできるはずの特効薬にかけ、千遥は人工冬眠(コールドスリープ)を選択する。人工冬眠に入る前、会いにきてくれた千遥に何も言えなかった絃。絃はそんな弱い自分に別れを告げ、ちょっかいをかけてくる弥太郎にも立ち向かう。

「君は春に目を醒ます」第1話より。

彼は7年後に目を覚ました。私は同い年になっていた

結局、特効薬が完成したのは7年後。絃は、眠っていて歳を取らない千遥と同じ高校2年生になった。病気の心配がなくなったことから人工冬眠を解かれ目が覚めた千遥は、意識が混濁しているにもかかわらず自分を慕ってくれた小さな絃を探しに、病室を抜け出す。千遥がどれほど自分を心配し、気にかけていたかを知り、万感の思いで千遥に抱きつく絃。年が離れた兄妹のような関係から、人工冬眠によって同い年となった2人の新しい関係が始まっていく。

「君は春に目を醒ます」第1話より。

“妹扱い”と、ずっと隣にいた同級生の元いじめっこ

「君は春に目を醒ます」第4話より。

千遥は目覚めてから1カ月後に高校に復学。絃、そして7年の月日を経て友情を築くまでになった弥太郎も同じ学校に通っていた。千遥の昔の同級生がクラスの担任だったり、元カノに子供がいたりと、ひとり取り残される感覚について「典型的なコールドスリーパーあるある」とさみしく笑う千遥を、絃は「私と一緒に大人になろう!」と励ます。「絃がいてくれてよかった」と語る千遥を見て絃の恋心は育っていくが、千遥は絃のことをいまだに小さい女の子、妹みたいに思っているようで……。

千遥が人工冬眠をしている間、弥太郎は絃への報われない思いにもがいていた。好きだからいじめてしまった過去の自分を悔い、千遥の目覚めを待ち続ける絃を“気兼ねなく話せる友達”として見てきた弥太郎。切ない思いは、千遥が同級生になったことで急速に揺れ動く。

“妹扱い”してくる千遥の距離感の近さに戸惑う絃、ライバルが目覚めた弥太郎、そして絃を大切に思う千遥。3人の思いが交錯し、物語は盛り上がっていく。

「君は春に目を醒ます」第4話より。

縞あさとインタビュー

「少し不思議」な少女マンガ「君は春に目を醒ます」

──とてもかわいらしい少女マンガ感あふれる画風でいらっしゃいますよね。

そう言っていただけてうれしいです! 「君は春に目を醒ます」は自分なりに学園ものの王道をやりたくて始めたので……。今の連載ではそういう画風が合ってると思うのでそこを目指して描いてますが、今後違うタイプの作品を描くことになったら、ものによっては今ほど少女マンガらしさにこだわらなくてもいいかなとも思ってます。もっといろんなジャンルのマンガを描けるようになりたいです。

縞あさとの初単行本「魔女くんと私」と、2020年に刊行された読み切り集「幼なじみの魔女について」。表題作の「魔女くんと私」と「幼なじみの魔女について」は、同じ世界で繰り広げられる“男の魔女”についての物語だ。

──王道感がありながらも、「魔女くんと私」では“転校生もの”に“魔女”、「君は春に目を醒ます」では“年の差恋愛もの”に“人工冬眠”。日常に“少し不思議”な要素を付け足して作品としてアウトプットする、縞先生の独特な発想の源はいったいどこにあるのでしょう?

「君は春に目を醒ます」では、年が離れた人を好きになった場合、「同い年ならもっと近づけるのに」みたいなことを考える瞬間があるんじゃないかと思い、それを可能にするにはどうすればいいかを考えました。そこに昔からあるSF設定の人工冬眠がうまくはまってくれました。日常の中の本来なら叶わない願望を、特殊要素を付け足して叶えている感じです。

──そうすると作品の成り立ちとしては、人工冬眠という設定が先にあって、キャラクターをあとからはめ込んでいった感じでしょうか?

そうですね。だいたいいつも設定や世界観から作り始めることが多いと思います。

──SF作品はよくお読みになるのでしょうか?

特別よく見るわけではないのですが、好きですね。サブスクで映画をいろいろ見れるようになって、SFもけっこう見ましたが、よくコールドスリープネタに遭遇します(笑)。マンガだと萩尾望都先生の「11人いる!」や竹宮惠子先生の「地球へ…」が大好きです。最近は「藤子・F・不二雄SF短編集」を少しずつ読んでいます。

「君は春に目を醒ます」より。

──“少し不思議”な設定を加えることの創作上のメリットとはなんでしょう?

エンタメ作品ではキャラ主体で話を作れるのが理想的かなとは思いますが、私はそのあたりが得意ではありません。読み切りではそれでもよかったかもしれないけど、長い連載を目指すとなると弱いので、何かしら特色が必要になるんですよね。それが今は“少し不思議”要素なのかなと。話を動かす大きな取っ掛かりにもなります。強いキャラを立てることはまだまだ課題だと思ってることのひとつです。

──日常に“少し不思議”要素を加えることで、独特の雰囲気も生まれますよね。

現代ものに不思議要素が、特殊ではなく皆が知っているものとして、当然のように転がってる雰囲気が好きなのだと思います。