花とゆめ(白泉社)は1974年の創刊からこれまで、「天使禁猟区」「ピグマリオ」「ぼくの地球を守って」「翼を持つ者」などファンタジーの名作を生み出してきた。現在も「暁のヨナ」「贄姫と獣の王」「それでも世界は美しい」といったファンタジー作品が連載中で、花ゆめを支える人気ジャンルと言える。
花ゆめの創刊45周年を記念した本特集の第7回には、「蒼竜の側用人」を完結させたばかりの千歳四季が登場。アズファレオ王国を統べる王にして竜のユリウスと孤独な少女・ルクルのラブファンタジー「蒼竜の側用人」が、どのようにして生まれたのか。「とにかく一度、どうしてもファンタジーが描きたい」という思いを担当にぶつけたエピソードや、影響を受けたファンタジー作品などたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 増田桃子
「ファンタジーがどうしても描きたい」と担当さんに頼み込んだ
──「蒼竜の側用人」は、千歳さんにとって初のオリジナル連載作でした。ご自身の中でどのような作品になりましたか?
自分が好きだった世界観が詰まった作品になりました。エスニックで竜がいて……小学生の頃から好きだったものがたくさん描けたと思います。
──「蒼竜の側用人」を描いた経緯を教えてください。2015年に花とゆめに掲載された読み切り版が好評を博して連載化に至ったということですが……。
デビューしてしばらくの間、担当さんからは「千歳さんには現代ものが向いていると思う」と言われていて、コンペに出させてもらえるものが現代もののみでした。たぶん、HMC賞とアテナ新人賞をいただいたデビュー作が現代ものだったからだと思います。それに当時は読み切りでファンタジーをまとめきる力もありませんでしたので、ファンタジーはアイデアの段階でほぼ全ボツになっていて。
──そうだったんですね。
いろいろ悩んでいた時期に「コンペに落ちてもいいから、とにかく一度ファンタジーがどうしても描きたい」と担当さんに頼み込んで描いたのが「蒼竜の側用人」の読み切りでした。「どんなファンタジーが描きたいの?」と担当さんに聞かれて「竜が出てくるやつです」と答えたら、「じゃあ竜が出てくるもののアイデアたくさん出して。そこから選ぼう」と言われ、アイデアを6~7案出しました。「蒼竜」はそのアイデアの中の1つだったんです。
──なぜ「竜が出てくる話」が描きたいと思ったのでしょうか?
ちゃんと自分で認識したのは大人になってからですが、爬虫類や恐竜のフォルムが好きという気持ちが根底にあったからだと思います。恐竜展は見かけるたびに行っていて、数年前に行った福井県の恐竜博物館もとても興味深く面白い場所でした。
──あ、Twitterでもおっしゃっていましたね。
2泊3日で石川県~福井県旅行に行って来ました!能登半島、兼六園、金沢21世紀美術館、東尋坊、恐竜博物館ぐるっと回ってきました~北陸楽しかったです pic.twitter.com/tpyZrkD03c
— 千歳四季 (@kucucu) 2017年10月16日
はい(笑)。恐竜とファンタジーの竜はまた別ものですが、「存在するだけでカッコいい」みたいなものを描いてみたい気持ちがあるんだと思います。
──竜のどんなところに魅力を感じますか?
作品によって竜は神様だったり、人間の友人だったり、純粋に動物であったり、在り方がさまざまで、それが魅力だと思います。もっとたくさんの人に竜を描いてもらいたいし、私も竜の出てくる作品が読みたいです。
いのまたむつみ先生、種村有菜先生、夜麻みゆき先生、藤崎竜先生が好き
──「蒼竜の側用人」はファンタジーに位置付けられると思いますが、ファンタジーで影響を受けた作品や作家はいますか?
作品では、ゲームの「クロノ・クロス」「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」、小説だと「ゲド戦記」「指輪物語」「ハリー・ポッター」などが大好きです。絵柄ではいのまたむつみ先生、種村有菜先生、夜麻みゆき先生、藤崎竜先生が好きで、影響を受けていますね。
──ファンタジー作品はキャラクターのビジュアル、服装や装飾などしっかりとした世界観の設定が必要かと思います。参考にされているものはありますか?
民族衣装や現代のファッションをごちゃ混ぜに取り入れてます。民族衣装をそのまま描いてしまうと国が特定されすぎちゃうかなと思うので、袖とか模様など好きだなと思った部分だけ取り入れて描いたりしますね。そういうありえない世界を描けるのがファンタジーの魅力だと思います。
──「蒼竜」はどこか中東を感じさせる世界観です。
トルコやモロッコ、ギリシャの雰囲気や建物が大好きで、「蒼竜」はその辺りの国からイメージをもらって描いていました。なので、旅行雑誌や料理の本などはとても参考にしました。あくまでイメージなので、きちんと文化を知っている人が見たらつぎはぎに感じるとは思いますが……。あと愛知県にある野外民族学博物館のリトルワールドにも写真を撮りに行ったりしました。本当はトルコのトプカプ宮殿やアヤソフィアを実際に見てみたかったです……! 人生のどこかで必ず見に行こうと思います。
──ファンタジーを描いていて、楽しいことはなんでしょうか。
ファンタジーは文化や礼儀や常識まで全部自分で設定できるので「この世界観が好きです」と言ってもらえたときに「読者さんと好きなものを共有できている……!」と感じられて本当にうれしく思うし、「同じものを好きな人がいてくれる!」とテンションが上がります。
──逆に苦労したこと、難しいなと感じることはありますか?
自分で「竜が描きたい!」と言ったものの、1・2巻のあたりはユリウスの立体的なイメージがつかみきれていなくて、顔の角度が少し変わった時にどうなるかがわからず大変でした。参考用に粘土で立体を作ったりしました。
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竜を好きでいてくれる人が、私のほかにもいてくれたのかな
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「蒼竜の側用人」新シリーズ、10月25日発売のザ花とゆめファンタジーより連載スタート
- 千歳四季(チトセシキ)
- 2013年、ザ花とゆめ(白泉社)にて「だからキスして」でデビュー。同年より花とゆめonlineにて「首の姫と首なし騎士」のコミカライズ連載がスタート。2015年に花とゆめ(白泉社)にて「蒼竜の側用人」の読み切りを発表し、好評を博す。同作は2016年より連載化し、2019年に全9巻で完結。ドラマCD化も果たし、水樹奈々、中村悠一らが出演した。
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2019年11月20日更新