コミックナタリー PowerPush - 映画チャッピー

ゆうきまさみ語る「鉄腕アトム」からR田中一郎まで アンドロイドの原型はピノッキオ

アンドロイドものを突き詰めると、必ずピノッキオに行き着く

──ではマンガ家としてじゃなく、1人のSF映画ファンとして「チャッピー」の感想はいかがでした?

シンプルに楽しかったですよ。そもそも僕、映画を観てる最中はディティールとか分析しながら観れないんです。むしろ何も考えず、全体をふわっと楽しんじゃう(笑)。その意味で「チャッピー」は2時間たっぷり楽しませていただきました。AIをインストールされた主人公が、外見はロボットのままなのにどんどん人間くさく見えてきますよね。その変化がすごくリアルだった。

──モーションキャプチャは「第9地区」に主演したシャールト・コプリーが担当しています。まず最初に彼の演技を撮影し、その動きに合わせてチャッピーのCGを作っているという。

インストールされた直後は、「ロード・オブ・ザ・リング」に出てくるゴラムみたいな感じで、自分の身体をうまく操れないでしょう。でもAIが加速度的に成長し感情が芽生えてくるにつれて、動きがどんどんこなれていく。名演技ですよね。

チャッピーはギャングに強奪され、クールなワルの作法を教え込まれてしまう。

──親代わりになったストリートギャング3人組を真似して、妙に不良っぽい動きになったりして。

そうそう(笑)。でも最後の最後まで、人間の動きには同化できない。どこか機械っぽいぎこちなさも残してるんですよね。そのバランス感が絶妙でした。あたかも目の前で動いてるような、CGすごいですよね。

──ゆうき先生は過去に、アンドロイドを主役にした「究極超人あ~る」を描いていましたよね。マッド・サイエンティストが世界征服のために作ったアンドロイドR田中一郎が、その使命を忘れ学園生活に溶け込んでしまう。ギャングに育てられ警官ロボットの道から外れていく「チャッピー」と近いものを感じますが。

「究極超人あ~る」の主人公・R田中一郎。人間のフリをして高校へと転校してくるが、早々に正体がアンドロイドだとバレてしまう。

まあ正直なところ、「究極超人あ~る」はとにかく連載を始めなきゃなんない状況で捻りだしたアイデアなので。展開に行き詰まったら笑いで誤魔化しちゃえばいいやって開き直ってましたから(笑)。ただ、アンドロイドもののお約束として、主人公が創った人の期待を裏切って走りだす部分は共通している。その意味で「チャッピー」を観ながら本当に連想したのは、実は「鉄腕アトム」であり、もっと言えばその原型である「ピノッキオの冒険」でした。

──はるか源流までイメージがさかのぼったんですね。

あの童話はすごく偉大でして。いわゆるアンドロイドものを突き詰めると、必ずピノッキオに行き着くんですよ。最初は創造主の言うことを聞いていた人形が次第に自我に目覚め、悩みはじめるというのもそうだし。サーカスに売られたり悪い仲間に捕まったりして、世の中の仕組みを覚えていく展開もそう。今回の「チャッピー」で核となるエピソードの多くはすでに「ピノッキオの冒険」に描かれてます。

──たしかに基本構造が似ていますね。そうするとデーヴ・パテルが演じた若き技術者のディオンは、ゼペット爺さんの役どころ?

チャッピーと、AIを創りあげた若き技術者ディオン。チャッピーは自分で考え、経験を積んでいく間に創造主の想像を超えた成長を遂げていく。

はい。あるいは「鉄腕アトム」でいうところの天馬博士。「鉄腕アトム」は手塚さんのピノッキオなんだと思います。僕が描いた「究極超人あ~る」は、そのまたパロディーなんですけどね(笑)。だから今回、「チャッピー」を見せてもらって、僕なんかは「これって超アップデート版の鉄腕アトムなのかな」って感じるところもあったんですよ。

──ニール・ブロムカンプ監督は洋画界の手塚治虫である説、ですね。手塚マンガのお家芸とも言える、強烈なメタモルフォーゼ(変身)願望が映画からも感じられるというか。

「第9地区」でも、主人公は後半どんどん異星人に同化していっちゃいますしね。「チャッピー」にしても、クライマックスに驚くような変容が用意されているので。手塚さんがお元気でこの映画をご覧になったら、なんて言うかなあなんて。考えちゃいますよね(笑)。

──嫉妬されたでしょうか?

どうなんでしょうねえ。それは僕にはわからない(笑)。

動き始めたら誰も責任が取れないのが、AIというもの

「機動警察パトレイバー」より、警察が活用するロボット(レイバー)「イングラム」の初登場シーン。耳の形など、デザインにはチャッピーとの類似点が見られる。

──ゆうきさんご自身が関わった作品でいうと「機動警察パトレイバー」との関連性はいかがですか? 実際、ブロムカンプ監督は日本のマンガやアニメの影響を公言していますが。

正直、「パトレイバー」を思い出す瞬間はほとんどなかったなぁ。造形的にはたしかにイングラム(「パトレイバー」に登場する警察用の人形ロボット)の影響を感じさせなくもないけれど……。あの作品はそもそも、「戦争に使わないロボット」という発想から始まってるんですね。当時「機動戦士ガンダム」の登場によって、ロボットといえば兵器一辺倒になってしまってたので。それを1回リセットして。重機なり作業機械としてリアルに描いてみようと。

──フォルムは人型だけど、あくまで人間が操縦する“車輌”なんですね。そう考えると、自ら考え成長するチャッピーより、劇中に登場する重武装ロボット「ムース」の方が、よりイングラムの存在に近い。

だと思います。これは「パトレイバー」を考えた際に無理やりつけた理屈なんだけど、要するにイングラムを動かすっていうのは、乗ってる人間がすべての責任を取るってことなんですよ。もし仮にロボットが銃を抜いて発砲したら、それは操縦者が発砲したことになるわけです。だから「パトレイバー」には人工知能的な要素は入ってこないし、もし登場したとしても悪役ですよね。だって動きはじめたら誰も責任が取れないのが、AIというものの本質なんだから。

人が操縦する重武装ロボット「ムース」とチャッピーの戦闘シーン。

──自ら感じ、考え、成長するチャッピーとイングラムは正反対の存在だと。

そういうことですね。問題は現実におけるAI研究が急速に進化していて、映画「チャッピー」に描かれた世界が絵空事に思えなくなってきていることでしょうね。作り手はその辺の世相もうまく採り入れてるなあと。

映画「チャッピー」 / 2015年5月23日公開
映画「チャッピー」

2010年に「第9地区」、2013年には「エリジウム」と、近未来の世界を独自の視点で表現し続けるニール・ブロムカンプ監督。サイエンス・フィクション映画の鬼才としてその地位を確立した彼が解釈する「AI」とは──。シャールト・コプリー、デーヴ・パテル、シガニー・ウィーバー、そしてヒュー・ジャックマンを迎え、ニール監督としての原点的野心作が誕生した。

ボクは…2016年…犯罪多発都市南アフリカ ヨハネスブルグで生まれた。ボクの寿命は…5日間。加速度的に成長する「AI」。ただ「生きる」ことを目的とし、チャッピーは人知を超えた行動に移るが……我々は衝撃の結末を目撃する。

映画ナタリーPowerPush「チャッピー」特集
ゆうきまさみ「白暮のクロニクル(5)」 / 2015年4月30日発売 / 596円 / 小学館
「白暮のクロニクル(5)」

不老不死の謎めく種族「オキナガ」。全国に10万人ほど存在し、厚生労働省の管理下にある。88歳にして少年のような風貌のオキナガ・雪村魁と、オキナガを管轄する厚労省“夜間衛生管理課”の新米公務員・伏木あかり。迷コンビを描くゆうきまさみの極上ミステリー第5集。

ゆうきまさみ
ゆうきまさみ

1957年12月19日北海道生まれ。1980年、月刊OUT(みのり書房)に掲載された「ざ・ライバル」にてデビュー。同誌でのマンガ連載、挿絵カットなどを経て、 1984年、週刊少年サンデー増刊号(小学館)に掲載された「きまぐれサイキック」で少年誌へと進出。以後、1988年に「究極超人あ~る」で第19回星雲賞マンガ部門受賞、1990年に「機動警察パトレイバー」で第36回小学館漫画賞受賞、1994年には「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」と立て続けにヒット作を輩出する。また1985年から月刊ニュータイプ(角川書店)にて連載中であるイラストエッセイ「ゆうきまさみのはてしない物語」などで、ストーリー作品とは違う側面も見せている。2012年には、1980年代より執筆が続けられていたシリーズ「鉄腕バーディー」を完結させた。現在は週刊ビッグコミックスピリッツにて「白暮のクロニクル」、月刊!スピリッツ(ともに小学館)でシリーズ作品「でぃす×こみ」を連載中。