「好きです。日本のカルチャー、マンガとアート」と題したトークイベントが、去る9月6日に京都・堀川新文化ビルヂングの2階・NEUTRALで開催。
タムくん、高妍、しまおまほがお互いの関係を明かす
このトークイベントは、8月30日に刊行された原案・
イベントには高としまおが現場に登場。タムくんことウィスット・ポンニミットはタイのバンコクからリモートでの出演となった。まずは3人がお互いの関係性についてトークを行う。タムくんとは以前から知り合いだったというしまおは、「もう20年ぐらい前ですが、(タムくんが)神戸に住んでいるとき。小田島等さんから『こんな面白いことやってる人がいるよ』ってCD-Rでアニメをもらったのが最初でした」と出会いを振り返り、タムくんの作ったアニメが少年マンガのようで驚いたと話す。タムくんが「変な話だったよね(笑)」と笑うと、しまおも「トイレ行きたい子が我慢する話とかね(笑)」と笑い合う。
一方、タムくんとは初対面となる高は「学生のときからくるりのMVとか、細野(晴臣)さんのグッズとかで拝見していて。大好きなイラストを描かれていて、お会いできるのがうれしいです」と笑顔を浮かべる。そんな高に対し、タムくんは「(今回のトークイベントにあたり)名前を調べてみたら見たことのある絵だと思って。でもマンガも描いているのは知らなかったので、早く読んでみたい」と、興味深そうにしていた。
日本のカルチャーとの出会い、そしてその魅力は?
そしてトークは、今回のイベントのメインテーマに突入。まずは「わたしの好きな日本のカルチャー、マンガ、アート」と銘打ち、タムくんと高に日本のカルチャーとの出会い、好きなマンガ・アートについて語ってもらうコーナーからスタートした。日本のカルチャーとの出会いは「ドラえもん」だったというタムくん。5、6歳の頃に家にマンガが置いてあり、それを読んだのが日本のマンガの初体験だったという。「当時のタイでは日本のマンガは海賊版ばかりで(笑)。すみません。でもその海賊版がなかったら日本のマンガを読んでなかったから」と申し訳なさそうに語るタムくん。「ドラえもん」のほかにも「タッチ」「北斗の拳」「キャプテン翼」「DRAGON BALL」といった作品を読む機会があったそうだ。
当時のタイではストーリーマンガというものがほとんどなく、「ギャグとか4コマはあったけど、ストーリーマンガは日本にしかなかったんじゃない?『スパイダーマン』とかも観てたけど、なんか入ってこなかった」と述べるタムくんは、日本のマンガは別格だったと言う。「アニメはいろいろ観ていて、ミッキーマウスとかピンクパンサーとかは好きだったけど、心に入ってくるポイントが違う。日本のマンガってすごい温かくて優しい」というタムくんの言葉に、しまおも「『ドラえもん』とか『タッチ』は日常の話でもあるし、身近に感じられたのかもしれないね」と感心していた。
1996年生まれで、2000年代に幼少期を迎えた高は、「台湾では『ドラえもん』とか『ちびまる子ちゃん』とかが放送されていて、私も入り口はアニメでした」と自身の日本カルチャーとの出会いを振り返る。「小さいときから絵を描くのが好きだったんですが、私はちょっと変なシブい子供だったので、大好きだったのは手塚治虫の『鉄腕アトム』」と述べると、タムくんもしまおも「シブい!(笑)」と声を上げる。また台湾のカルチャーについては「台湾にもオリジナル作品はあるけど、めちゃくちゃ人気なわけじゃないので、私と同世代は日本の作品をよく見てますね」と、子供の頃から日本のカルチャーに触れる機会が多かったことを明かした。
タムくん「大好きだから真似します、すみません」
続いて、影響を受けた作品やアーティストについて語る「わたしのクリエイトと日本の関係」のコーナーへ。タムくんは「キャプテン翼」や「キン肉マン」「DRAGON BALL」などさまざまな作品を真似していたと語り、「当時、続きが早く読みたすぎて、俺が続きを描いて友達に見せてたの(笑)」という驚きのエピソードを明かすと、客席からも笑いが起きる。その後、大学生の頃にはタイでも手塚治虫の作品が翻訳出版されるようになり、「『ブラック・ジャック』とか高橋葉介さんの『学校怪談』に影響を受けて、俺もマンガを描いてみようって思った」と述べるタムくん。しまおが「(タムくんの女の子は)ピノコの感じあるよね」と指摘すると、「それも真似したね(笑)。大好きだから真似します、すみませんって気持ち」と正直に語った。
高が一番影響を受けたのは、大学生のときに初めて触れた月刊ガロ(青林堂)だ。「つげ義春さんとか丸尾末広さんの作品が大好き」という高だが、丸尾の作品を知るきっかけになったのは古屋兎丸の「ライチ☆光クラブ」で、そこから遡ってガロの存在を知ったと語る。その後も浅野いにお、押見修造といった作家を知り、サブカルチャーの世界にどんどんハマっていった高。「マンガだけじゃなく映画とか小説とか音楽とか、さまざまな分野にハマって。特にマンガは物語と絵が同時に存在するメディアなので、すごく知りたくて言葉も勉強し始めました」と語るガオに、しまおが「好奇心がすごい」と驚いていると、高は「オタクだから(笑)」と微笑んでいた。
高妍「競争の激しい日本でデビューするのに意味がある」
そんな2人に対して、しまおから「マンガを日本で発表しようと思った理由は?」という質問が飛ぶ。すると高からは「台湾でがんばってるマンガ家もいるんですけど、私にとっては本当にマンガを描きたいなら競争の激しい日本でデビューするのに意味があると思う」というストイックな回答が。しかし台湾では出版社が原稿料を出せないという実情もあるようで、「日本でデビューしたら毎月の連載で原稿料がもらえるし、単行本を出せば印税もある。そのほうがマンガ家という職業として長く続けられると思います」と台湾でマンガを描く難しさも明かした。タムくんは日本人の評論家に誘われ、アジアのマンガセミナーに参加したことがきっかけだったと話す。セミナーで自分の作品を見せた際、日本人が作品をよく理解してくれたことに驚いたというタムくんは、「むしろ日本人のほうが細かいところとか、変な冗談とかもわかってくれる。読者のレベルが高いなと思ってうれしかった」と当時を振り返った。
さらに母国語ではない言語で作品を発表する難しさについて語る場面も。高は母国語でセリフを書き、翻訳家に日本語に翻訳してもらったセリフを再度修正し、それをもとにネームを作ったうえで担当編集に見せて打ち合わせをするという手順を踏んでいるそう。しまおは「じゃあ締切がすごく早いですよね?」と驚くと、高も「すごく大変ですよ」と苦笑い。さらに台湾の言葉を日本語では簡単に訳せないこともあり、微妙なニュアンスを調整するのにかなり工夫しているのだと言う。また「最近ビックリしたのが、日本語には『I miss you』がないんです。仕方ないので『寂しくなるよ』とか『会いたいよ』って訳すんですけど、なんか違うなって」と言語によるニュアンスの違いには毎回悩んでいる様子だ。
一方、タムくんは最初から日本語で考えていると言い、「簡単な日本語にしちゃうんです。あと時間がないときはサイレントマンガ(笑)」と述べ笑いを誘う。しまおが「タイ語でしゃべったり考える自分と、日本語でしゃべったり考える自分は別なの?」と問いかけると、「タイ人でもあって日本人でもあるみたいな部分がある」と返すタムくん。「タイ語でしゃべっててもときどき日本語が先に出てくることもある。『やっべー』とか言っちゃう(笑)。『I miss you』が日本語にないみたいに、日本語にしかないのもあるよね」と話すと、しまおも納得している様子だった。
日本の未来が輝いてくれればそれでいい
そしてトークの最後のテーマは「日本のポップカルチャー、その特徴、そして未来」。今後やってみたいことについて、高は「やっぱり今はもっとマンガを描き続けていきたい」と率直な気持ちを語る。さらに「もし自分のやり方で道を拓いていけるなら、ほかの台湾の才能豊かな若者たちも活躍できるんじゃないかなと思うので。でもとりあえずは作品を描き続けていきたい」と意欲を見せる。タムくんは「日本はほかにない魅力がある。聞いてわからない言葉でも元気になる。イマジネーションがある、愛がある、クリエイティビティがある。夢があって、変なことにもチャレンジできるのが日本のいいところ」と、日本のよさを熱く語る。さらに「世界がどんなに変わっても日本はすごいってわかってほしい。ファッションとか音楽とかマンガとか、人の優しさとか。めっちゃ優しいよ日本人。だから日本の未来が輝いてくれればそれでいい。そうすれば俺も元気になる。もっといいものを描きたくなる」と続けた。
観客からの質疑応答に答える時間も用意され、トークテーマを超えた話題でも盛り上がったイベントも終わりの時間に。「あと5時間ぐらい話をしたいですけど(笑)」と残念そうなしまおは、最後に「タムくんの作品の秘密も改めて知った気もするし、高さんの作品の秘密も知れたんじゃないかな」と語りイベントを締めくくった。なおこの日のトークのダイジェストを、9月9日放送の「アフター6ジャンクション2」の冒頭にオンエア。さらにその週には全編が番組のPodcastで公開される。
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関連人物
新保信長/南信長 @nobunagashinbo
高妍さん、絵にそっくり! https://t.co/astiw7wxGp