あのキャラに似すぎて設定が変わった?ポノック新作「ちいさな英雄」制作現場レポ

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「メアリと魔女の花」で知られるスタジオポノックの新作アニメーション「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」。コミックナタリーでは制作現場の様子をレポートする。

「カニーニとカニーノ」新場面写真

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「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」ビジュアル

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本作はプロデューサーの西村義明が「ポノックとして初めて」と語る、3本の短編で1作品を形作るオムニバス。米林宏昌が監督を務めるカニの兄弟の冒険ファンタジー「カニーニとカニーノ」、卵アレルギーを持つ少年と母親、2人の絆を題材にした百瀬義行による人間ドラマ「サムライエッグ」、山下明彦が目には見えない男の孤独な闘いを描く「透明人間」で構成される。

米林宏昌

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「カニーニとカニーノ」の背景。

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東京・武蔵野市にあるスタジオポノックでは、アフレコ直前ということもあり、数多くのスタッフが作業に没頭していた。デスクで絵コンテをチェックしていた米林は、取材陣に気付いて手を止め「すみません、だらしない格好で」とひげの伸びた頬をさすりながら苦笑する。背景美術スタッフのデスク横の壁には、カニーニたちが暮らす川がさまざまな表情を見せる背景画が貼られていた。

「カニーニとカニーノ」新場面写真

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「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」の作業風景。

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水中が主な舞台となることから、幻想的な世界観を演出するために、手描き背景とCGを融合して作られる「カニーニとカニーノ」。西村は「麻呂さん(米林の愛称)の強みである美しい手描きアニメーションと、優れたCGクリエイターの技術を組み合わせることで、今まで観たことのない美しく迫力ある世界ができあがると思う」と期待を寄せた。また西村は、同作の主人公に当初カエルを提案したことを明かし「麻呂さんがカエルを擬人化したら『崖の上のポニョ』のポニョになって(笑)。本人も『うまくいかないんですよ……』と言うので、カニに(なりました)」と述懐する。カニに決定した理由としては「サワガニの生態に麻呂さんが興味を引かれたのが理由ですが、もしかしたら麻呂さんがかに座だからかもしれませんね」と苦笑した。

「サムライエッグ」新場面写真

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百瀬義行(右、提供:スタジオポノック)

百瀬義行(右、提供:スタジオポノック)[拡大]

長年高畑勲の右腕を務めてきた百瀬の監督作「サムライエッグ」は、西村と百瀬が出会った実在の親子をモデルに制作された人間ドラマ。作画スタッフがたてる鉛筆の音や、動きの確認ために作画用紙をめくる音が響く現場には、主人公・シュンと母親ら登場人物の設定をまとめたイメージボードが置かれていた。色鉛筆の淡い着彩や、太くくっきりとした線で描かれたキャラクターは、企画段階で古田足日と田畑精一による絵本「おしいれのぼうけん」なども参考にしたという。西村は「実話にもとづいて制作する場合、きわめて写実的に描くというアプローチもありますが、それでは実写をつくるのと変わりない。絵本的な風合いで表現したとしたら、実写でやるよりも生々しさが出る可能性がある」と語る。

「サムライエッグ」の登場人物設定をまとめたボード。

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「サムライエッグ」新場面写真

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アレルギー症状に苛まれながらも力強く生きる少年とその母親に感銘を受け、彼らの姿をアニメーションで伝えたいと考えた西村と百瀬。しかし、アレルギーという繊細な話題を扱うことに、難色を示す映画関係者もいたという。西村が「実話をベースにしているとはいえ医療分野を扱うことにもなる。アレルギーの権威に医療監修を受けてますが、我々作り手が伝えたいのは、かわいそうな少年の姿ではないんです」と断言する。「卵アレルギーと聞くと小さな症状だと思う方もいるし、(重篤な症状となりうる)アナフィラキシーを知る人は少ない。その状況の中で彼と母親は支えあって真っ向から生きている。彼の中にある生命の力強さや、百瀬さんと僕が感じた『この親子は尊敬に値する』という感情は、今の大人たちも勇気づけてくれるものだと思ったんです」と述べた。

山下明彦(提供:スタジオポノック)

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「透明人間」の登場人物設定をまとめたボード。

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3本の短編の中で、最も早く完成したという「透明人間」は、山下にとって初となるオリジナル短編映画。周囲の人間はもちろん、自動ドアやATMにも認識されない透明人間の存在を表すために、雨粒や体にまとわりつく木の葉が演出として用いられた。西村は「山下さんは人間を動かすのが天才的にうまい。だからこそ、目に見えない透明人間をどう表現するのかが見たかった」と述懐する。同作のイメージボードには、主人公が持ち歩く消火器の設定や、服装の描き方などについて細かいメモが残されていた。

「透明人間」新場面写真

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西村は、同作の打ち合わせの際に山下と交わした会話を思い返す。「『山下さん、最近見た誰かの顔覚えてますか?』という話をしました。コンビニの店員だったり通行人だったり、周囲に人がたくさんいるのに、知らない誰かに思いを馳せることも、関わることもないまま1日が過ぎていく」と語り、「生きているのに、見られていない。誰も自分が見えていないんじゃないかという不安は誰しも経験があるし、(山下)監督にもあった。透明人間の物語は現代の孤独と不安と再生の隠喩になっている」と分析する。「表面的に観ても楽しめる作品に仕上がっていますが、何度も観ていると哲学的な疑問がわいてくる作品です。3本の中では一番前衛的ですね」と述べた。

「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」の作業風景。

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3人の監督がそれぞれの伝えたいテーマや問題意識を胸に、1本の映画を形作る本作。西村は「今回の制作を通じて、自分たちが今後作っていく長編アニメーション映画のために進化していくことは大前提。作り手とお客さんが『まだこんな表現、こんな作品があるのか』と驚きを共有できる企画になっているんじゃないでしょうか」と自信をのぞかせた。

「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」は、8月24日より全国でロードショー。

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「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」

2018年8月24日(金)全国公開

「カニーニとカニーノ」

監督:米林宏昌
出演:木村文乃、鈴木梨央
音楽:村松崇継

「サムライエッグ」

監督:百瀬義行
出演:尾野真千子、篠原湊大、坂口健太郎
音楽:島田昌典

「透明人間」

監督:山下明彦
出演:オダギリジョー、田中泯
音楽:中田ヤスタカ

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(c)2018 STUDIO PONOC

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水沢ながる @mizunagaru

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